そのままでいい

がしゃがしゃと煩い、酒に酔い誰彼構わず密着して踊る。
気が合えばその場でお持ち帰りができると言う、少々危ないバーで俺は壁に背中を預けシャンパンを煽った。

「やぁ、レディ?僕と踊りませんか?」
「いえ、私待っている人がいるの」

声をかけてきたのはなかなか顔のいい男。
これで五度目になる。
俺がここに入って約一時間、ここで裏取引が行われると忍び込んでみたがなにもない。
その代わりに、寄ってくる男は数知れず。
それもこれも、この恰好が悪いのだ。
スカートはしゃがめば中が見えそうな位短いほどで、背中は腰の辺りまで開いているようなワンピースを着せられてなんとか胸の辺りまでのウィッグで隠すことしかできない。
胸も控えめな谷間が見せられるぐらいに露出が激しい。
こんな恰好は嫌だと言ったのに、バーだし暗いのだからそれぐらいで男と気づく奴はいないと断言されてリボーンに着ろと着せられた。
しかも良い感じに酔っているから男の声だと気づかれない。

「こんなこと、したいんじゃないのになぁ…」
『おい、しっかり立ってろ。見えるぞ』
「うっさいっ」

耳にリボーンの声が聞こえてきて悪態ついた。
髪に隠して連絡が取れるようにイヤフォンをいれている。
趣味でもない服を着せられて、しかもそれをリボーンに監視されている。
しかもしかも、その監視してるやつは綺麗な美女と踊ってるのだ。
むしろ、俺と踊れよ…。
とは言えない…。
一緒にいれば見破られる可能性は否定できない。
ホント、ヤな仕事。

「ねぇ、君…ここじゃあまり見ない顔だ…一人?」
「え…あ……そう、一人…あなたは…?」

そう思っていた矢先、目的の人物が現れた。
写真を見せられて記憶させられた男が目の前にいたのだ。
男はすでに酒を煽っているのかほんのり顔を赤くしていた。
俺は頷いて、笑顔を向ける。
完璧に視線が胸元に向かっているのを見て、そっと身を引いた。
ばれるって、怖いって…リボーン…。
リボーンに目配せしようと踊っていた当たりを見ればそこにはいなかった。
あいつ、どこにいきやがったっ!?
監視してたくせに、なんでいないんだよ。
俺は慌てるが顔にはださずにシャンパンを近くのテーブルに置いた。

「俺も一人なんだ、一緒に踊らないかい?」
「私、踊りは得意ではなくて…それに、少し酔ってしまって…」
「なら、奥の部屋で休もうか…いいものを用意しているんだ」

踊りなんてものは教えられていないため、丁重にお断りしたら近くのドアを指さしていった。
きっとあの奥で取引は行われるんだ…。
リボーンがいない今、危険だとわかっていたのにさっきのことが俺の頭に蘇ればそんなの関係なくなった。

「…ちょうど少し休みたかったの…」
「よかった、じゃあ行こうか」

ドアを開けて細い道を歩き出した男に少し凭れかかって見あげれば下心丸見えの顔をする。
気持ち悪い、そう思うのに仕事だと割り切ればなんとか耐えられた。
このまま中に行って現物を出してくればこいつを捕まえることができる。
リボーンが一緒なら強行突破を考えていたが、俺だけの場合こうしろと言われていた。
念のために首の後ろに髪に隠して折り畳み式のナイフを仕込んである。
この服では銃までは隠せなかったのだ。
それに、銃撃に自信のない俺なら色仕掛けで相手の懐に入り刺すぐらいできるとリボーンが用意した。
今の様子ならそれも可能だと判断したのだ。
だが、俺の中にある恐怖は拭いされない、一人でやるのは嫌ではなかったが、別の部屋に行きもっと明るい場所だったらと考えたら、これが知られてしまう確率が高い。
俺に何かあったらリボーンのせいだ、リボーンがあんな美人と踊ってるから。

「可愛い顔してるよね、ここには初めて?」
「は、はい…恥ずかしいけど…この前、振られてしまって…むしゃくしゃしてたの」
「こんな可愛い子を振るなんて、どんな男なんだい?」

俺の必死で考えたセリフに笑いながら応えてくれる。
案外女性の扱いはうまいんだなと感心した矢先、俺の背中から尻にかけて厭らしく撫でられる。
ひぃっと飛び上がりそうになるのを押し込めて耐えた。
なんでこんなことになってるの!?
なんだかこれではヤられる方が先なのかもしれないと怖い考えが俺の頭をよぎる。
…あり得る。
いやいや、そもそも男だからそんなことあってはならない。

「えー…と、顔はかっこよかったけど…嫉妬ばかりでそれなのに女を作っていってしまったの…自分の都合しか考えない人だったわ」
「それは、かわいそうに…俺でよかったら…慰めてあげれるよ…?」
「……でも…今日会ったばかりの人に…そんなこと」

やっぱりそうなるのかよっ、と悪態をつきたかったが何とか抑えて恥じらいを含めた瞳を逸らした。
可愛いい仕草も実はリボーンが伝授したものだ。
好きでやってるわけがない、本当ならサブいぼものだ。

「大丈夫、そんな男より…優しくするよ」
「……ほんとうに…?」

こんなこと言われたらころっといってしまいそうだ。
あんな現場を見せられたのだ、秘かにリボーンと重ねてこういう男の方が断然もてるのになぁと傲慢な男に呆れたため息をはく。
ここに来て、仕事なのに女と踊るとか…ないだろっ。

「ああ、本当に…俺に身を委ねてみる…?」
「…はい」

熱に浮かされたような顔で頷けば近くの部屋に招き入れられた。
そこは幸いにもあわい光が照らすだけで隠し通せそうだ。

「じゃあ、こっちに」
「………」

あからさまにベッドに誘われて俺は一瞬ひるむ。
まだ、何も出てきてない…これ以上は、危険だ。
もう少し、待つか…周りを見るが、簡素なつくりになっていて隠そうと思えばいろんな場所に隠せそうなものだ。
だからこそ、見当がつかない。
どうすればいい…?

「君さ、俺を待ってただろ?」
「え?」
「実は、俺のこと知ってるとか?」
「な、なにを…」
「いいよ、わかってるから…これだろ?身体よりこっちを求めてくる奴もけっこういるんだ」

考え事をしていればいきなり勘違いをしてくれた男は目的のものをポケットから取り出した。
こいつ、自分でもってたのかよ。
だったらこんなことする必要なかったじゃんと呆れた気分になった。
俺は仕方なくため息を吐いて、首の後ろに手を回した。

「それって、例の…」
「そう、これがここで売ってるやつ…これだろ、君の目当ては」
「よくわかってるのね」
「顔見ればわかるよ…俺を見た時、嬉しかっただろ?」
「全部知られちゃってるなぁ」

会話をしながら俺はベッドに近づいた。
手に仕込んだナイフを持って男を押し倒す。
上に乗り上げて首筋にナイフの刃を突きつけた。

「なっ…!?」
「でも、俺がここでお前を探してたってことはバレてなかったみたいだけど」
「男っ!?」
「俺って、素質あると思わない?…リボーンのばかぁ!!」

頭に青筋を作りながらいえば谷間に仕込んだマイクに向かって大声で叫んだ。
すると、ドアが開いてリボーンが部屋に入ってきた。

「耳が死ぬかと思ったぞ」
「女と遊んでたくせに」
「違う、情報収集だ」

もっともそうなことを言いながら俺が組み敷いている男の顔をじっと見る。
そして、手をとれば手錠をかける。

「これで、仕事は終わりだ」
「離せっ、こんなの卑怯だっ」
「卑怯も何もねぇだろ、こっちのシマで、んなもんやってるほうがルール違反なんだからな」
「何どさくさにまぎれて尻触ってんだよっ」

男が暴れるのにリボーンの手はしっかりと俺の尻を撫でてきて、手の甲を抓ってやる。
痛かったのか慌てて離れて行ったが、俺はまだ怒ってるんだとリボーンにナイフをつきつける。

「情報収集って、なーにしてたのかなぁ?」
「全部言ってほしいのか?」
「ああ、洗いざらい全部」

とりあえず、隼人に連絡し、男を回収にくるまではここにいないといけないため、話しをつけようではないか。
にっこりと笑って言えば、怖い女だと笑われた。

「そっちが着せたんじゃんっ」
「俺が脱がせたいからに決まってんだろ」
「そんなに着せたいなら仕事じゃなくて普通の時にすればいーじゃん」
「きてくれるのか」
「…そりゃ、リボーンがお願いするなら…」

そもそもなんでこんな話しをしているのかとか、疑問にしか思えなくなってくるがいつの間にか誘導されていつでも着てもいいという話しになってしまっている。
おかしいと思うのに、上手く乗せられてしまった。
そうして、隼人が入ってくればリボーンにナイフを突きつけてる場面で、なんでそうなってるんですかぁっと驚いたため慌てて引っ込めた。

「リボーンのせいだから、あとよろしくね」
「おい、これ着とけ」

部屋を出て行こうとしたらリボーンに上着を肩に掛けられた。
なんでだと目で問えばあまり肌を晒すなと怒られる。
いやいや、着せたのお前だし。
という言葉は飲みこんで、甘く絆されると仕方なく黒い上着を羽織ったままバーに戻った。
そのまま外に出て大きく伸びをする。
一時間も立ちっ放しはさすがに足が疲れた。
車に乗り込んで、待つ。
こんなののどこがいいのだろうか…もしかして、リボーンはやっぱり女の方がいいとかいうことなのだろうか…。
それを、無言で俺に女装させることで訴えてきているのだろうか…。
だとしたら、俺はどうすればいいのだろう…。
考え出したらいろんなことが頭に浮かんでそれを止めることもできない。
だって、好きな人の望む姿になりたいというのは…やっぱりあるのだ。

「ああ…どうしよう…」
「なにが、どうしようだ?」
「うわっ…」
「なんだ、あの男は別の車に厳重に拘束して乗せたぞ」
「いや…そう…よかった」

俺が悩んでいたらいきなりリボーンが入ってきて驚くと煩いと隣に乗り込んできた。
一緒に帰らなくちゃならないのかと隼人が運転してくれるかと思ったのに、リボーンがハンドルを握ったので少し意外だった。

「なんだ、俺が運転しちゃ悪ぃか」
「いや、そうじゃないけど…」
「で、なにがどうしようなんだ」
「そこ聞くんだ」
「気になるんだから、言え」

走り出す車の中で、逃げられず俺は仕方なく口を開いた。

「リボーンは女の人の方がいいのかなって…」
「なんでそう思う?」
「だって、時々こんな恰好させたがるし…胸だって、本格的なのつけさせるし…今日女と踊ってるの…楽しそうだったし」
「まぁ、女はいいぞ。柔らかい身体だし胸もある、男にとってなんでも武器なるもんをもってる」
「……」

リボーンの言葉を聞いて絶望的な想いを味わった。
そんなに女が良いのかといいたくなる。
だた、リボーンはけどな、と繋げた。

「俺が好きなのは、お前だ…これは変わらないもんだ。それで、お前が男だって言うならそれでもいいと思ってる」
「なんで、女が良いんだろ?」
「お前が男ならそれでいい、俺が惚れたのは馬鹿でドジで間抜けでそれでも目が離せないお前なんだからな」
「…ばか、悪口ばっかじゃん」

それなのに、どうしてかリボーンに心配ないと言われているようで頭を撫でてくる優しい手につい、男でもいいのかと納得してしまった。

「それに、お前は唯一男で惚れられてんだから…少しは自信もったらどうだ?」
「それは慰めにならない」

女が良いくせにとじろりと睨むけれど、リボーンは微笑んだままでそれでも良いかという気にさせられる。
こんなのは甘やかしてしまう原因だと思うのに…本当に、俺のことを熟知してる。
卑怯な男に振りまわされながら、今日も夜が更けていく…。





END
なーちゃんへ
リクエストありがとうございますっ。
いつもいつも本当にうれしいです。
多分一番期待されていただろうリクが書けなくて本当にすみません。
こ、これでご勘弁をっ。
気に入らないところがあれば手直しさせてもらいますのでお気軽にどうぞ。

これからもよろしくお願いしますね。





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