さーくる いん せんたー
のどかな日差しが差し込む執務室。
ちょっと暑い気がするが、ここは室内の冷房でカバーだ。
俺は頬杖をついて本来サインをするのに使われるペンは鼻と口の間で揺れている。
「あー、キスしたい…口寂しい」
「綱吉君、そんなにしたいなら僕とどうですか?」
「う…なっ、骸っ」
独り言を呟いたのに返事があって驚く。
今のは完璧に集中力散漫していた。いつもは気づけるのに…。
ニコニコと笑みを張り付けながら目の前まで歩いてきた骸に迷惑そうな視線を向ける。
「そんな目で見ないでくださいよ。気づかない君が悪い」
「わかってるよ、自分にもイラついてるんだ」
で、どうです?と顔を近づけてくる骸の前に分厚くまとめた書類を出してガードした。
「欲求不満ですか、満足させてもらってないんですか?」
「お前には関係ないだろ?」
全く楽しそうな顔して嫌なことをいう。
いや、十分満足しているけど…所謂、気分だ。
今、無性にキスしたい。
「リボーンは?」
「今、外で山本武とやり合っているのを見ましたよ」
「やり合ってるじゃなくて、それ稽古してるんじゃないの?」
「さぁ?僕にはとても楽しそうに見えましたが」
骸はやっぱり心底楽しそうに話をする。
一回締めあげたいな。
「リボーン呼んできて」
「嫌ですよ、ここに僕と二人。付け加えて、アルコバレーノはまだくる気配がない。と、いうことは?」
「なにもない、と」
「いや、あってくださいよ。この距離、この雰囲気」
確かに顔は近い気がするが、心の距離は果てしなく遠い。
綺麗な顔だが、間違いが起きるなんてことはない。
俺にはリボーンがいるし、骸にキスしようなんて気にはならない。
「わかっているんですか?僕は無理やりにでも君を押し倒すことができるんですよ。」
「わかってるのか、俺はお前に噛み付くことができる。急所をさらけ出す、なんて馬鹿がすることだろ?」
書類を盾にしたまま言い合いはつづいて、つまらなくなってくればため息をつく。
ついでに少し眠くなってきた。
しょせん、骸は俺に近づかない。必要以上近くに来ないからだ。
「その余裕、どこから来るのか…僕が教えて差し上げましょうか?」
「なんだよ、別に骸は本気じゃないのわかってるし」
「そう、そこです。僕が本気じゃない、それはどこから確信しているんですか?僕は本気で君が好きなんです。だからこそ、君を守りたい」
秘密を教えるというように骸は口元に人差し指を立てて笑みを浮かべた。
一体なにを言うつもりか、と見つめるとふっと視線が和らぎ優しくなる。
「たとえば、の話をしましょう」
言いながら骸は俺の周りに円を描くように歩いた。
「ここが、君の許容範囲。普通の人間は、近づけば近づくほど許されていく」
「どういう意味だよ?」
「ほら、付き合う前はぎこちなかった二人が仲が良くなるにつれて深い仲になっていく。これが普通です。ですが、君は少し違う」
骸の言うことがよくわからず、不思議そうに見上げると少し離れた位置から骸は俺の肩に手を置く。
「僕の場合はここまで、獄寺隼人は……ここらへん」
そのまま話しながら散歩ほど離れて示して見せる。
なんでこんなことになったのか、少し骸の話が嫌になってくる。
なんだか、深層心理を探られているようで落ち着かない。
「一見、僕と獄寺隼人では獄寺隼人の方が近いように見えます。ですが、本当は逆。君は変わっていて遠ければ遠いほど仲が良い。ああ、身体の関係はなしの方向で、ですよ?太陽と同じように、近づけば近づいただけやけどをする」
「何が言いたいんだよ」
「つまり、君にそっけなくされればされるほど…文句を言われたり、愚痴を言われたりするほど、その人は君に許されている」
骸は俺に向かって歩きながらあたっているでしょう?と首を傾げた。
言われてみれば、そうなのかもしれない。
俺は知らず知らずに壁を作っていたことになる。
「でも、俺は皆平等にしてるつもりだけど」
「君はそうでも、我々は違うんですよ。僕たちは君が好き、だから君が望むように行動してしまう。君がここと決めたらそこの位置から動かない。僕の場合は君の周りをうろちょろしていいようなので…こうやって、強行突破もできるんっ」
ことの流れに任せていると、意外にも近づいてきていた骸が俺の背中から手を回して顎をくっと持ち上げられ、キスの距離まで顔が近づいているのを見ればとっさに目を閉じる。
すると、いきなり耳元で風を裂く音が響いたと思ったら背後の防弾ガラスに弾がめり込んでいた。
「アルコバレーノ、僕は綱吉君と話し中だったんですがね」
「生憎、俺もツナに用事があるんだ。変な予感を覚えて来て見れば案の定だ。お前は浮気して仕置きされてぇのか?」
とっさに離れた骸が冷や汗を流しながらリボーンを睨んでいる。
ほんと、こいつらはいつになったら仲良くなるんだか…。
「仕置きされるぐらいだったら、嫌ってほどの快楽攻めが良いな」
「馬鹿だろ、んなの仕置きにならねぇ」
「貴方達は、少し周りを憚ってもらえませんか?」
「関係ないよ、リボーンがきてくれたから」
さっきまでのうつうつとした気分が一気に晴れて、俺はリボーンの首に腕を回して抱きつく。
すると、リボーンは嫌がるそぶりも見せずに腰を抱かれた。
「ホント、見せつけるのは止めてくださいよ。ついでに、ちゃんと鍵は締めてくださいね?」
「当たり前だろ?」
前、執務室でやらかしたとき鍵を閉めずにいたしていたら見られたのだ。
あれ以来俺はちゃんと鍵をかけることにしている。
何かあれば声をかけてくるはずだし、扉一枚隔てただけじゃ苦もない。
骸は迷惑そうに言うなり砂のように溶けていなくなった。
気配がしなくなって本当にここからいなくなったことが分かれば鍵を締めに行く。
そして、リボーンを見上げて唇を舐めて口を開いた。
「キス…して」
「ったく、誘い方下手なんだよ」
「んんっ……んっ、ふ……ぅっ」
精いっぱいの誘い文句なのに一言で片づけられてしまうと無理やり噛みつくように口づけられた。
そのとき丁度俺の腹辺りにリボーンの熱いそれが当たって下手とか言ったくせに欲情していることを知る。
「こんなに、なって…言えるのかよ」
「俺は下手なお前に欲情するからな」
「………」
とても言葉にならなかった。
なんだ、それ。
これじゃあ、上手くなろうとか思わないじゃんか。いいのかよ。
「リボーンって、結構変態だったんだ」
「今ごろ気づいたのか?」
「っ……〜〜〜〜っ、なんだよ、リボーンは俺馬鹿だなっ」
「ああ、そうだな綱吉馬鹿だ。今頃…」
気づいたのか…そう言いかけた唇を俺は自分の唇で塞いだ。
なんでこんなに甘いんだ。
なんでこんなに、俺が許されてるんだ。
「浮気したら仕置きじゃなかったのか?」
「あれはまだ浮気に入らない。浮気したかったのか?なら、悪いことしたな」
「違うっ、助けてくれてありがとう。油断してた」
「いや、アイツ俺が来るのわかっててやってたぞ」
………はっ!?
「気配消してなかったからな」
「っアイツ!!」
「お前が、骸に甘いから俺に悪戯したくなったんだろ?どこまで許容されてるのか知りたくて」
「ここの距離はリボーンだけだよ。お前以外、いらない。リボーンだけいてくれればいい、リボーン以外なんて嫌だ」
骸に試されていたことには腹が立つけど、リボーンがここに居てくれるだけでそれだけなのに他のことなんてどうでもよくなる。
俺の狭い腕の中に入れるのは、一人だけ。
骸は、近づけば近づくほどやけどすると言ったけど…少し違う。
俺はこの腕の中のたったひとりの人を愛することしか眼中にないんだ。
「ねぇ、もういっかい…きすして」
END
For らいく様
ツナがリボーンにキスをねだる、完成しました。
なんか途中からよくわからない話しが入っちゃってますが、ようはツナは真ん中の人を愛することで他を見る余裕なんかないんだ、という話です。近づけば近づくほどそれを思い知らされるからやけどする、と骸は形容していたんです。
わかりにくかったらすみません。なんだか、とても好きな方向へ走った小説になってしまいました。
裏はどちらでもと言われたので、余韻に浸ってもらいたくて手前で止めました。
書いていて楽しかったです。リクエスト有難うございました。