惚れさせて。
「はぁ…毎日毎日、事後処理書類整理、いい加減肩こる」
俺は独り言をつぶやきながら廊下を歩いていた。
この頃座りっ放しの為気分転換にと抜け出してきたのだ。
そのまましけ込もうと言うあくどい考えも持っているが…。
俺は小さく鼻歌を歌いながらいつもの場所へと足を向けた。
「……あ」
「おや…」
窓を開けてテラスへと出れば、そこには先客がいた。骸だ。
それに構わず隣へと座るとあることが頭に思い浮かぶ。
『骸、こんなところで何してるの?』
『僕は日向ぼっこですよ。君はサボりですか?怒られますよ?』
『ここって、結構見つからないんだ』
自分は会話したことの内容。
なのに、骸と話していたのは明らかに自分だった。
この感覚を最近頻繁に覚えている。
「どうかしましたか…?」
「あのなぁ、ライバルってなんだよ」
俺の様子に不思議に思った骸が顔を覗き込んでくるが、そんな涼しい顔してよく恥ずかしげもなく俺の近くにいれるな、と呆れたようにため息をついた。
『骸はなんか…リボーンと距離とってるだろ?なんで?』
リボーンを忘れた俺が骸に問いかけた一言。
それに、骸はこう返していたのだ。
『なんで…と聞かれましても…いわば、ライバルの様なものですから』
ライバル…そんなものじゃない。
それは骸が一方的に思っていたことだ。
俺はあのリボーンの記憶を飛ばしていた間のことを思い出し始めている。
どうしてなのかとシャマルに聞いたら、頭が混乱状態から立ち直ったから記憶を整理し始めているんだと話していた。
たしかに、晴れてリボーンと想いが通じ合った俺は平和だ。
仕事に追われているとはいえ、あのときの様な心が寒くなるようなことはない。
だが、思い出すたびに俺は恥ずかしくもなっている。
「ああ、あの時のことですか。いや、そうやって思わせておけば僕にも何かおこぼれがあるかと…」
「あるわけないだろ。まったく「てめぇは…何してんだ?」
呆れ交じりに言おうとしたことを遮るように地の底から呻くような低い声をだして俺の首根っこを掴む人物を背中に感じれば一気に顔から血の気が引いていく。
「あ…あー、トイレに行こうとしてたら…」
「何年ここに居ると思ってんだ。今ごろそんな言いわけ通用するバカは獄寺だけだ…行くぞ」
「はぁい」
「くふふ、幸せそうでなによりですよ」
おさぼりはあっけなく見つかって猫のように連れて行こうと言うところで骸が嫌み交じりに呟いて見せたから、俺は一瞬目を迷わせた後リボーンのネクタイを引っ張って口付けた。
「もう骸はライバルじゃないよ」
「…知っていますよ」
「ったく、行くって言ってんだろうが」
「なに?照れた?見せつけてもいいだろ?」
俺はこれで骸を振ったつもりだった。
これで、骸が他へと目を向ければいい。
そして、俺にもそれを見せつけてよ。
リボーンの連れていかれながら不意打ちだったためか微かに頬を赤くさせているリボーンを見るとからかいながらも愛しいなぁと横顔を見つめてしまう。
「いい加減自分で歩け、仕事しろ」
「ちょっと気分転換しただけだって、そんなに怒らないでよ」
「俺だって疲れてんだ」
「知ってるよ、ありがとう。いつも俺のフォローするの疲れるだろ?徹夜してるみたいだし、今日は早め上がってもいいよ?」
疲れを垣間見せるリボーンが心配で頬を撫でると俺は床に下ろされる。
俺の言葉に返事しないのを不思議の思ってリボーンの視線が一つのところに釘付けなのを見れば俺も振り返って視線の先をみる。
そして、俺は目を見開いた。
確かに記憶している顔、でもその記憶は俺の記憶じゃない。
いや、俺の記憶にもちゃんと残っている。
「はじめまして、ボンゴレデーチモ」
「………」
「おい、ツナどうした?」
「この人…誰…?」
俺はこの人を知っていた。
俺が記憶をなくしたときと取り戻した時にリボーンと一緒に居た人。
美人で、リボーンの隣にいたらすぐに恋人同士に見えるのだろう。
愛人、だと思った。
だから、この人の話題はださないでずっと目をそむけていた。
「ケイだ」
「リボーン、違うって…もしかしたら誤解してしまっているのかも…」
「は?…バカか。こいつは男だ、勘違いするなよ?」
「…へっ!?」
と思ったが、思わぬ一言に思考がしばし停止した。
男…男って、あれだよな。アレがついてて胸がなくて……。
「ええぇえぇ!?」
「うるせぇ」
「いたっ」
「まぁまぁ」
大声をあげてしまえばすぐに手とうが頭を直撃した。
なんで、どうして…こんなに綺麗なのに…。
「俺はスパイやってます。個人営業ね、リボーンから頼まれごととかするからよく連絡とかとりあってる。デーチモが思ってるようなやましいことは一切ないのでご安心を。それに、これは自己防衛。顔が知られるのは何かと不便だから」
「お前のは趣味もあるだろう」
「え?そんなことないよー?」
とぼけたように言いながらケイと呼ばれた人は俺の頭をくしゃくしゃと撫でて来た。
慰めてくれているのだろうか。
いや、俺なんにも言ってないんだけどな…。
「おい、触るな」
「こわぁい…嫉妬なんて、大人げないよ。ほら、これ調査資料。金はいつものとこによろしく。番犬に噛まれる前に俺は帰るよ。じゃあね、デーチモ」
触るなと言われて手を離すが、資料をリボーンの顔に押し付けている間に俺の頬へとチュッとあいさつ代わりのキスをして素早く離れると手を振って去っていった。
まさに、嵐の様な人だと思った。
「ツナ、無防備になるな」
「そもそも、リボーンが誤解早く解いてくれればよかったんだ。俺は何も分からなくて不安だったのに…」
記憶を失くしている間も、取り戻したあとも。
結局リボーンが俺のなかで一番だった。
いつでも、忘れていようと覚えていようと…俺の心を奪っていった。
これが運命だと言われたら素直に頷けるほどに。
「何にもきいてこなかったじゃねぇか…まぁ、俺も楽しんでたけどな」
「なっ……」
楽しんでいたと言われて怒りがこみ上げてくるが、結局何も言わないお前が悪い、などと言いかえされるのは目に見えてわかっているので何も言わない。
八つ当たり交じりにふんっと鼻を鳴らして廊下を歩きだせばリボーンはそのあとをついてくる。
「今日は、俺は早く部屋に戻るからな」
「わかってるよ。忙しくさせちゃってるし」
「バカツナ、お前もこいっていってんだ」
「え?」
「ヤキモチ妬いてたんだろうが」
それの機嫌とらなくてどうするんだよ。
そう耳元で囁かれて一気に赤くなるのを知って耳を手で覆う。
俺は一瞬にして腰砕けになりそうになって足を止めればリボーンは楽しそうに抜かして先に執務室へと戻っていってしまった。
「くそ…仕返しされた」
まるで子供のようだと思うけれど、それでもいいんだと知る。
リボーンを知らないときの俺はいつもこんな感じだった。
それに注がれる、リボーンの視線をとても優しいと感じていたのだ。
自分を偽らなくてもいい。
そっちがすきだと、言われているようで…それは思い出せてよかったと思う。
もし、また忘れることがあっても…きっと、また恋に落ちる。
どうしようもない俺を何度でも惚れさせて…。
END
For 羽月様
あの最初に謝らせてください。
アンケレスのときに名前間違えてしまってすみませんでした。
お詫びになるかもわかりませんが、リクエストしてもらったものです。
甘々なのかちょっと疑問が残りますが…。
気に入らなかったら書きなおさせてもらいますので、遠慮なくどうぞ。
リクエストありがとうございました。