与えられる飴はいつも甘くて



俺は廊下を走っている。
全力疾走で駆け抜け、後ろを追ってくる爆風と共に飛ばされながらも目的地である執務室のドアに逃げ込んだ。
はぁはぁと息を乱している俺のことはどうでもよさげに、ストップウォッチが止まった。

「五分か…体力は衰えてないみてぇだな、ツナ」
「あのとてつもない形相で雲雀さんに追いかけられたら誰だってそうなるよなっ!?」
「お前は昔から逃げ脚だけは早いからな、今回も利用させてもらったんだぞ」
「…そういえば、雲雀さんは?」
「ああ、執務室に入るまでに捕まえられなかったら今回は逃がしてくれって言ってあるからな」
「今回は!?」

何度も突っ込んでいるといちいちうるせぇ、とハリセンで頭を叩かれた。
暴力的なのは相変わらずだ、頭をさすって外から何も聞こえなくなったのを俺はそっとドアから顔を出して確認する。
さっきの爆撃はどういうことだったんだろうか。
廊下は埃が舞っている位で壁には傷ついていない。

「なにやったんだ、リボーン」
「火薬の調整ぐらいできなくてどうする」
「そこまでしたの!?」
「当然だろ」

ふふんと鼻を鳴らすリボーンは俺と同じぐらいの身長だ。
呪が解けてからというもの、少しずつ成長していて普通の人間よりも早いせいか、あっという間に俺の身長に到達している。
もとに戻るのもそんなに時間はかからないだろうと本人は言っているが、俺は結構この同じ目線にリボーンがいることが気に入っている。
なんだか、兄弟になったみたいだ。
同級生とは少し違う、ずっと傍にいたからかいまではそんな気分になるのだ。
だが、俺達は兄弟というよりもっとピンクな絆で結ばれている。恋人なのだ。

「もー、お前の思いつきにはこりごりだ」
「そういうな。ほら、こっちにこい」

ふてくされて二人きりの執務室で距離をとってソファに座ろうとしたのに、リボーンが自分の足をぽんぽんと叩いて呼び寄せてくる。
なんだそれは、膝枕の合図か。
恥ずかしくて少しためらうが、早くしろと急かされて俺は結局リボーンの隣に移動した。

「此処に頭をよこせ」
「あ、の…それは世にいう膝枕ってやつデスカ?」
「他に何がある、早くしろ」

ぐずぐずしていたら、いきなり服を引っ張られて無理やりリボーンの足に頭を置かされた。
いきなりスーツがアップになって、俺は慌てて仰向けになってリボーンを下から眺めた。
この景色、なんだか新鮮かも。
リボーンは、なんだかわからないが俺の頭を撫でている。
暇なのかな…。

「楽しい?」
「お前は楽しいのか?」
「いや、楽しくはないけど…珍しい、かな」

ふふっと笑えば、リボーンが俺を見てきた。
視線が絡んで、でもこの体勢からのキスは大変だとわかっているから顔を近づけることはしないが、リボーンの手が俺の頬を撫でて、唇をそっと撫でてくる。
キスしたい?口だけで問いかけると、ふっとリボーンが笑った。
時々見せる大人な顔を見せつけられて、俺は少し焦ってしまう。
心臓が落ちつかない、どきどきと騒ぐ胸に深呼吸を繰り返していると唇の縁を少し引っ張ってきた。
開けろと言われているようで、俺は少し口を開くと指が差し込まれる。
一気に入れるのではなく第一関節までをそっと入れてきた。
舐めろってことなのかな…。
無言の行動にわからないながらも舌を指に押し付けると、リボーンも俺の舌に押し付けてきた。
すりすりと撫でて、舌の感触を楽しんでいるように見える。
俺もリボーンの指先の指紋をなぞって、塩の味がする指先を堪能する。
そうして、指が抜けていったかと思えばその指をリボーンは見せつけるように舐めた。
その遠回しな、接触を思わせる行動に一気に赤くなって顔を逸らす。

「ん?どうかしたか、ツナ」
「なん、でも…ない」

もう子供じゃないんだと時々訴えかけるような行動をするようになったリボーン。
わかってはいるけれど、小さい時から見てきてしまっている俺からすればそんなことをされても微笑ましいなと思ってしまう始末。
それなりに、恋人っぽいことはしているけれど最後まではまだしていない。
リボーンの中でなにか決まりがあるらしく、そういう雰囲気になっても抱くまでは至らないのだ。
まぁ、でも…俺だってそれなりに待っているわけで…。
目の前でそんなものを見せつけられてしまうと、少し心揺さぶられてしまうのだ。

「ほう、煽ったのに靡かないなんていい度胸じゃねぇか」
「ちょっ…ま、まってまって」

にやりと笑って顔を近づけてくるリボーンに俺は慌ててリボーンの口に手を当てる。
真っ赤になっていたのだろうくしゃくしゃと頭を掻き混ぜられて、なんだと瞬けば俺の手をとったリボーンは指先に口づける。

「何されると思ったんだ?言ってみろ」
「へ、そう返してくんのー!?」

意外な切り返しに、俺はどうにもできなくなり逃げようと起き上がれば腕を掴まれる。
なんだと振り返ると、そこには少しばかり余裕のない顔をしたリボーンがいた。
大人な一面を見せたりそうでなかったり、振りまわされっぱなしだとため息をつくが絆されているのもわかっている。
もどかしい思いを抱えているのは、わかっている。
俺だってそうだ。

「ツナ、キスさせろ」
「…したければ、すれば…いいじゃん」

いつも、そう…いつもリボーンは一方的に俺にキスをしてたのに。
俺もそれに慣れてしまっていて、自分からすることなくリボーンからのキスをもらえていた。
のに、どうして今日に限ってそうやって言ってくるのだろうか。
恥ずかしくなるのを耐えて返すと、リボーンは俺の腕を掴んだまま引き寄せてきた。
引かれるままに唇が触れあって、息をするタイミングを逃した。
一度触れあった唇は離されて、また触れた。
一度では飽き足らず、何度も擦り合わされてそのうち舌が唇を舐めた。

「ぅ…」
「あけろ…」

催促されてしまえば、それ以上にはなにもできず薄く開くとそこから舌が入りこんできた。
舌を触れ合わせたら舐められて、ビクッと震える。
逃げようとした身体を腰に回ってきた腕が引き寄せてきて深く噛みあわせてくる。

「ふ…っ…ん、ん」

完璧に呼吸のタイミングを逃したまま、苦しくなってきて俺はとうとうリボーンの胸を押し返した。

「ちょ、っと…まって」
「鼻で息しろ」
「だってぇ…息あたるのとか、恥ずかしいじゃん」
「がっついてんのぐらい、わかったほうがやりやすいだろうが」

何を、とはとても聞けなかった。
このまま頷いたらそのままベッドに連れ込まれてしまいそうな真剣さが、リボーンにはあった。

「ツナ…」

頬を撫でて、またキスをされた。
今度はちゃんと呼吸するタイミングを作ってくれて、優しいキスだった。
何だろう今日のリボーンは、甘い気がする。
俺って、今甘やかされているのか…?
けれど、甘やかされる意味がない…。
ここ最近のことを振り返るように記憶をたどると、さっきみたいなリボーンの過酷な扱きが続いていたのを思い出す。
これも、中学高校の時と比べれば少なくなった方で今はボスの仕事があるから時々にしか催されないがそれなりに疲れもたまる。
それを見越してのこれだとしたなら、納得するというもの。

「リボーン、もっと…甘えていい?」
「好きにしろ」

甘やかしてもらえるのならそれに越したことはない。
了承を得た俺は、そのままリボーンに抱きついた。
少しの恥ずかしさぐらい目を瞑る。
そっと抱き返される感触が、気持ちいい。
耳の裏がくすぐったくて、肩のあたりに顔をすり寄せると額に口づけられた。
なんとなく、そんな天然タラシなところがイタリア人だよな、と思いながらリボーンの体温に浸っているといきなりドアが開いた。

「十代目ぇっ!!…と、お邪魔しましたっ!!」
「ってぇ、ツナぁ」
「ご、ごめんっ」

隼人が入ってきて俺は驚いてリボーンを思いっきり押してしまった。
慌てて立ちあがった俺とソファで体勢を崩しているリボーンに何を思ったのか、入ってくるなり早々出ていってしまった。
あっという間のことで、リボーンは恨みがましく俺を見てきたがびっくりしてしまったのだ仕方がないじゃないか。
俺の腕を取り、詰め寄るリボーンに顔が近い、とさっきまでのことを思い出してしまい必死に視線を逸らしているが、そのまま引かれて執務室を出る。

「どこにいくんだよ?」
「あ?邪魔が入らねぇとこ」

いらっとした空気で言われた言葉に、それは恥ずかしがるべきなのか震えあがるべきなのか反応に困った。
だって、リボーンの耳も少し赤いとか…知りたくなかった。
恥ずかしかったのは俺だけじゃないと知れて、安堵するがこれから起こることに、やっぱり恥ずかしがるべきだろうかと、再び悩む羽目になるのだった。
鞭ばかりかと思えばそうではなく、たまの飴に俺はメロメロだったりするわけで。
要は、骨抜きといってもいいのかもしれない。



END

あみさまへ
ツナを溺愛するリボーンで書かせてもらいました。溺愛って、これじゃただの初々しいカップルだよと思いましたが、そっと流してやってくれると助かります。
ただ、糖分だけは大量に注いだ気がします(笑)
パロ三つに絞らせちゃってすみません、全部と言ってもらえてうれしいです。
ヤンデレ白蘭はやっぱりハマっちゃいますよね。ですが、その真ん中にはリボツナに居てほしいです。
あみさまの十年後が私の小説のリボツナだというのにも嬉しくなっちゃいます。
拙いものばかりですが、そうやって好きでいてくれる人がたまに読んでもらえるぐらいで丁度いいですよ。

この度は、リクエスト有難うございましたっ。
少しでも気にいってもらえたら幸いです。






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