たまには茶目っ気たっぷりに
今日はあいにくの雨、外からは雨脚の強い音が聞こえてきて外に出る用事もないのに、今日は中に居ないといけないのかと落胆して見せる。
行動を制限されるのはあまり好きじゃない、それは昔から沁みついた癖なのか。
いろんな修業と理由をつけながらも身体を鍛えてくれた元家庭教師のおかげか…。
「あ、嫌な記憶思い出した…」
慌ててなかったことにしたくて首を振る。
リボーンは呪が解けてから少しずつ成長して、けれど俺達の成長素ビー度と一緒じゃないのが若干憎たらしい。
いまでは、すっかり俺を追い抜かして、俺があの時あった男そのままの姿をしていた。
それに気づいたのも去年の今頃、丁度一年前だ。
妙にスーツが似合ってきたなと思って、どこかで見たことがあると思いだした。
それが、あの時助けてくれた人だと思い当たるのに一週間を要していた。
大体、毎日見ている姿でそれがその時の人だと重なるわけがない。
実際俺はそれぐらい時間かかったし…なんでか、他の皆は今頃かって顔をしていたけれど…。
わかってたなら教えてくれてもいいと思うんだ、コロネロとかコロネロとか…。
あいつには笑われた記憶しかない。腹抱えて笑われたのなんか十年経って久しぶりだって。
「そう言えば、あの時はリボーンも皆もふざけたりなんだかんだ毎日楽しかったな」
懐かしい思い出に浸りつつ、あのときはリボーンも女装しては楽しんでたっけと、懐かしく思い自分の部屋のドアを開けた時。
俺は目の前の光景を見てぴたりと動きを止めた。
さっきまで俺の頭の中に出てきた男はかっこよく、キメていれば見知らぬ美女や子供まで振り返るだろうという外面の良さが売りなところ。
が、それはあくまで外面であって俺の目の前に居る男はそれとはとてもじゃないがかけ離れ過ぎていて、若干頭を抱えたくなる。
「何してるんデスカ、先生」
「あ?女装」
「いやいやいやいや、歳考えろよっ」
「俺はぴっちぴちの十一歳だぞ」
「ごめん、外見がんがえろよっ」
目の前で女物の服にお着換え中のリボーン様。
年齢は十一歳だって、外見がそうはいかない。お前どうみたって二十後半の顔してるだろ。
とにかく、その妙に似合う女装は止めろと着替えようとしている手を止めた。
「なにすんだ、ツナ」
「止めてください、本当に本気で…自分の顔鏡にうつしてからそういう行動に移ってくださいっ」
「ツナ、いつもの口調はどうした」
「口調迷子にでもなるさっ」
俺は自棄のように叫んで服をとり上げる。が、すぐさまその長い腕に俺の身体は囲われてしまった。
何をするんだと、上の位置にある顔を見あげれば目があう。
意外と近かったその顔に一瞬怯んだ隙に掠めるようにキスをされた。
「ちょ、なに…すんの」
「そんなに俺に裸でいさせるってことは…そういうことだろ?」
ニヤリと笑ってそんなことをいう。
下半身が女装の男にそんなこと言われても威厳もへったくれもない。
俺は顔面に掌を押しつけるとグイッと押し返した。
「ツーナー」
「こっちみんな」
心臓に悪いという以前に、その格好が受け付けない。
いつもより低い声が俺を責めるが関係ない。
「俺の趣味でもあるんだぞ」
「止めてくれ」
変態趣味を露呈しないでほしい、嘘でもそこは黙っていてほしかったと頭を抱えたくなりながらどうしようかと迷っていると掌にひやりと冷たい感触がして慌てて離せば、リボーンが舐めたと思わしき痕跡を見つけた。
「舐めたな」
「美味しそうなもんが近くにあれば舐めるだろ」
「変態」
「そんな変態を好きなのは、だれだ?」
変態で女装趣味ってどういうことだ。
どうして俺はこんな男を好きになってしまったのか、そこが一番知りたい。
確かに、こんなところもあるけれどかっこいいのだ。
外見的にも、性格的にも文句はない…いや、文句は山ほどあるのだが…。
「よく考えてみろ、ツナ」
「俺の心を読むな」
「完璧な男には裏がある、俺の場合裏切るでも残念な男でもない、ただの変態女装趣味の男だ」
「十分残念だ」
まったくどうしてそんななのだろうか。
今さらどうこう言っても仕方ないことだろは思うが…せめて、女装は幼少期にぜひとも卒業しておいてほしかったものだ。
とりあえず、腰に回ってきたリボーンの腕をはたき落した。
「つれないな」
「そんな男につられてたまるか」
「まぁ、いい…服は俺のところに戻ってきたからな」
ふんっと鼻を鳴らすが、俺の手から布の感触がいつの間にかなくなっていて、リボーンはとり上げた服をひらひらと振って見せた。
「それ、きて…なにするんだよ?」
「知りたいか?」
「知りたくないけど」
「そうか、知りたいか」
「いや、知りたくないって前提でお願いします」
仕方ないな、と勝手に話しを進めているリボーン。
もうどうにでもなれ、だ。
そうして、俺がせっかくとり上げた服を着ると寝室へと入っていってしまった。
そこは俺の部屋だと呼びとめたかったが、鶴の恩返しを知ってるか?と言われてしまえば、下手に見ようとすると殺されてしまうかもしれない。
待つこと数十分、もともと疲れていた俺はソファに座っていたためにうとうととしてきていて、もう少しで寝ようとした時だった。
ようやく俺の寝室が開け放たれて、顔を上げるとそこには完璧に女になったリボーンがいた。
ちなみに、身長以外だ。
「わぁ、大きな女の人」
「ばかにしてんのか?」
「スミマセン」
軽く掌が俺の頭を鷲掴んできたので死を予想し、急いで謝った。
離れていった手は、やっぱり男のものでリボーンを見るとモデルの女性だ。
これは、趣味とかそんなもので終わらせてはいけないと思うんだけど…それで良い気もする。
第一こんなに背の高い女はいないのだから。
「楽しいのか?」
「まぁ、な…悪くない。どうだ、手慣れているだろ?」
「そうだね、どうしてそこまで顔を変えることができるのか俺には不思議で仕方ないよ」
「化粧はビアンキ直伝だぞ」
「ああ、どうりで」
綺麗なはずだ。
そう思ってまじまじ見るとつい、その女装に寛容になってしまいそうになって慌てて首を振る。
「だから、違うって…なんでそんな恰好してるんだよ」
「これも仕事の一環だぞ」
女装しなければならないことというのはどういうことだとリボーンを見つめるとちゅっと額にキスをされた。
「なにすっ」
「そこに丁度よく額があったからだぞ」
「それは、俺の身長が低いことを言ってるのか」
「そんなこと言ってねぇぞ」
自意識過剰だなと笑われて、ムッとする。
それを宥めるように頭を撫でた後、男だと入りにくいところがあるからなと説明してくれた。
でも、キスをする必要性はなかったと思う。
「で、今からリボーンは潜入調査なのか?」
「いや、新しい服が手に入ったから着てみたかっただけだぞ」
もう何も言うまいと心に誓ったからか、その返事に俺はへーそうですか、という単純な言葉が口を突いて出ていた。
ほんと、なんなのこいつ。
「俺のために化粧までしてくれたんだ?」
「そうだぞ、勉強になっただろ?」
「あー、うん…まあ」
もうどうにでもなれという気分だ。
リボーンの言葉を適当に流していると、不意に顎を掴まれて上を向かされる。
なんだとその手を振り払おうとしたら口付けられていた。
いつもとは違う、化粧の匂いに少しばかり抵抗を覚えて、胸を押し返すとそれも女物の服だから違和感を覚えて力を抜けば、仕方なくリボーンが離れていった。
「嫌だったか?」
「嫌に決まってるだろ。それ、脱げよ…でないと、抱かれてもやらないからな」
「それは困るな」
しょうがない、ツナの我儘に従ってやるか、なんてそんなことを言いながら服を脱ぎに寝室へと入っていった。
多分化粧もとってきてくれるのだろう。
俺は気が抜けたようにソファに再び突っ伏すと唇に違和感を感じて手で拭った。
紅く残るそれは口紅で、アイツの趣味に歯一生付き合うことはできないんだろうなと、絶望的な気分になったのだ。
「ツナ、次の服だけどな…」
「だから、止めろってばっ」
いつの間にか、慣れてしまいそうな自分に空寒さを覚えて俺は声を張り上げたのだった。
END
ゆきさまへ
いつもありがとうございます。
残念な先生、ということで書いてみましたが見事に滑った感満載ですみません。
私、ちょっとギャグは苦手でして…リボーンの性格が本当に迷子になってしまい、最終的にはツナもよくわからなくなってきて、気に入らなかったら書き直させてもらいますので、本気で。
リクエスト有難うございましたっ。