「動いた…」
「ったく、俺たちはみてるしかできないのかよっ」
屋敷の外、銃撃戦が中から聞こえてきて俺は手が出せない状況に歯噛みした。
近くにいれるのならと思ったが、こんなことなら待っていた方がよかったかもしれない。
こんなに近くで大変な目にあっているボスに一切の手も出せないなんて…。
クロームの奴は能力で中の様子を見ているらしかった。
けれど、状況的にリボーンさんが来て逆転はあり得る話だ。
こっちは少数最大戦力できている。もし、骸や雲雀…むしろボスである綱吉さんまでやられたとなるとこっちは終わりだ。
「ああー、俺は中に行く後は頼んだぞ」
「え…っ」
『いいよ、こっちも粗方終わった僕は草食動物の方を見る』
『僕も行きます』
「はぁっ、なっんでお前らが先に行くんだよっ」
『『邪魔者は引っ込んでろ』』
耳に聞こえた応答の声に俺はますます握る銃に力を込めた。
俺だってやりゃぁできるんだよ。
でも、俺は入り口で立ち止まり後ろを振り返った。
「怖くねぇなら、こい」
クロームは少し迷って、俺の方まで走ってきた。
手には三叉槍をもったまま。
綱吉さんはクロームには銃を持たせたくないからと、後方支援の立場につけさせていた。
でも、こいつなら進んでも問題ないだろう。
いざとなれば俺が最後まで面倒見ればいい、俺らだけがここに取り残されて指咥えて待ってるのもつまらない。
二人で中へと駆け込むが、もう入口から屍累々と言った様子だ。
かき分けて進むことごとにまだ息のある奴らが動き出す。
けれど、起き上がれない程度には致命傷を負わせているらしい。
「ったく、腹立つぐらい何もすることがねぇ」
イライラとした気分を振り払うようにして奥へと進む。
『凪、俺の居場所わかる?』
「ボス…わかるよ」
『じゃあ、俺の周りに幻覚作って、骸も』
『わかりました』
インカムから聞こえてくる声に俺は周りを見渡す。どこにいるかもわからないのに、クロームにはわかるらしい。
俺だってあの人の右腕になれるように頑張ってきたんだ。
それなのに、あんなやつらに先を越されてたまるかよ。
弾丸が容赦なく飛んでくる、甘く見ていたわけではない。
ただ、こうも正直に敵として現れるなんて思わなかった。
壁の向こうにリボーンの気配を感じながら銃創を装填する。
直後に何かを感じて急いでその場を離れれば、跳弾した銃弾が今俺のいた場所に命中していた。
「…マジかよ」
冗談ではない。
こんなにも明らかな力の差、見せつけられれば足もすくむ。
けれど、進まなくては。俺は選んだ。
まっすぐに突き進む決断をした。
そうしてゆがむ空間、骸と凪が作り出した空間に支配されたこと知る。
ここからは、一発勝負だ。
これを失敗したらあとはない。
リボーンに身体で教え込まれた時も思ったが、強い。
ただその一言に尽きる。
どうしてこんなに強い相手を真っ向から挑めるというのだろうか。
骸も雲雀さんでも無理だろう。
いや、雲雀さんは嬉々として飛び込んでいきそうだがそんなことをしては痛い目を見る。
だから、誰にも合わせてはいけない。
その前に俺が、何とかしなくては…。
後ろに骸の気配を感じた、もう追いついてきたのかと視線を向ければ小さくうなずく。
準備はできた。
「おい、それでおしまいか?今度は俺から行くぞ?」
「一方的にやっといてよくいう、よっ!!」
リボーンの声に俺は勢いよく飛び出した。
とたん弾丸が俺の足元を的確に狙ってくる。
それを走りながら避け、こちらからも打ち込む。
幻覚の作用で銃弾は飛び散るようにリボーンに降り注いだ。
「っ…」
それに驚いているうちに俺がリボーンの横を通り抜けるために全速力で駆け抜けた。
が、もう片方から出てきたリボルバーが俺の額に押し付けられ、こちらも反射的にリボーンののど元に銃口を押し付けた。
「やるようになったじゃねぇか」
「おかげさまで」
「感動の再会だな」
「泣いてる暇はないけどね」
指に力を入れればいつでも殺せる態勢。
なのに、こちらが優勢だと思えないのはやっぱりリボーンだからだ。
反対側の手に握られているライフルが俺を狙えば終わり。
けれど、それであきらめはしない。
俺は足払いをしようと床すれすれに足を滑らせ、リボーンはそれを綺麗に避けた。
その隙に背後から狙った骸の弾丸がリボーンの肩を貫く。
銃口が離れたと同時に俺はリボーンから離れて、その場から逃げだした。
リボーンのいた廊下の奥、守護者のように守っていたのは当然このファミリーのボスに他ならない。
後ろからは銃撃戦の音が聞こえてくる。
早く、はやく…。
焦ってもつれそうになる足を動かし、重厚な扉の前に立つと俺は迷いなくその扉を開けた。
「見つけたぞ」
「チッ、撃てっ。ボンゴレの新しいボスだか何だか知らねぇが、ここであったことを後悔するんだな」
部下を連れて逃げようとしているのを見て、俺は急いで銃を向けた。
撃ってきた相手には、撃ち返し倒れたのを確認して改めてボスに銃口を向ける。
「後悔するのはそっちだ」
「リボーンはどうした、情でも出たか」
「…いや、俺にとっても今は敵だ。真剣にやりあってきた」
この男の物言いにはイライラとさせられる。
リボーンのことをまるで信じていない。
自分がやとったくせに、こんなやつにリボーンなんか任せられるわけがない。
あんなに強いリボーンが俺なんかに道を譲るわけがない。
リボーンをダメにしているのは、ほかでもない目の前のこの男だ。
「敵である以上、容赦はしない。甘いのはお前の方だ」
「ヒッ、ち、畜生っ」
懐に手を入れて銃を取り出す前に、俺は引き金を引いた。
額を打ち抜き、息絶えた男はその場に崩れ落ちた、
「おわっ、た」
『綱吉、大丈夫かい?』
『こちらも向かいます』
「大丈夫、もう終わった」
動くことのない身体を見て、俺は深呼吸をしてその場を後にした。
ボスがいなくなればあとは何もしなくていい。
俺はリボーンに会うためにさっきの場所へと引き返した。
「ボスが倒されたようですよ」
「みたいだな」
一発の銃声が響き渡って、あたりが静まり返った。
僕と相対していたアルコバレーノはそれを聞くや否や銃を片付けている。
「どこにいくんですか」
「雇い主がいなくなれば、俺はフリーのヒットマンだ」
どこもねぇよ、とこちらを見ないままにいって歩き出すその身体を僕は引き留めなかった。
綱吉君が必要だと判断すれば僕もなにかしら引き留めることをしていたかもしれないが、今の彼はアルコバレーノを求めてはいない。
たとえ、それが強がりだとしても。
「そうやって、いつまで逃げるつもりですか」
「それはツナにいえ、俺は逃げも隠れもしてねぇぞ」
それならどうして、こちらに向かってくる足音が聞こえるのに逃げるのか。
結局それ以上は何も聞くことなく、アルコバレーノは屋敷を出て行った。
途中で獄寺隼人と雲雀恭弥にあったかはわからないが、戻ってきた綱吉君がひどく傷ついた顔を見てしまえば何もかもどうでもよくなった。
「お疲れ様です」
「…あ、ああ…リボーンは?」
「雇い主がいなくなったので出て行きましたよ」
「はぁ、相変わらず…だなぁ」
「これで、君は正式なボスだ。見せしめにはなったでしょう」
「そうかな、それならいいな。無駄な犠牲はない方がいい」
綱吉君の返事はどこかふわふわと浮いていて、駆けつけた雲雀恭弥に心配されそのあとそっと獄寺隼人に引き渡された。
今は、僕たちがどうこうできる局面ではないのだ。所詮、僕たちはたとえるなら機関銃だから。
傷ついた彼を癒せるのは、僕たちでは無理だ。
もろもろの片づけを終えて戻れば、みんなが祝福しつつ出迎えてくれて、一瞬俺は気おくれしてしまう。
「初仕事、お疲れ様。綱吉くん」
「ありがとうございます、九代目」
「君はよくやった。さっそくだけど、パーティーの準備をしなくてはいけないね。もちろん、それが終わったら近々正式な引継ぎを行う」
「引継ぎ…?」
「君に、全てを託すよ」
頼んだからね、と頭を撫でられれば俺はようやく目標を達成できた嬉しさに頷いた。
その日の夜には、さっそく屋敷内でのパーティーが開かれてたくさんの人がワインを飲みかわし、騒いでいた。
そんななか、俺はそっと隼人をテラスへと呼び出していた。
「綱吉さん、どうかしましたか?」
「たくさんの人を殺したけど、今日ほど苦しいって思ったこと、なかったよ」
「綱吉さん…」
「リボーンがあんなに近くにいた、怪我を負わせた。目的を遂行するためとはいえ…手にかけてしまうんじゃないかって、一瞬怖くなった」
「リボーンさんは、ぴんぴんしてましたよ」
「わかってるよ、けど…そんな自分が怖かったんだ」
きっと、これからもっと残酷なことでもしていかなくてはならないのだろう。
自分が目指すところに立つということは、そういう意味も含まれている。
「この手で、いつか…」
「あなたはよくやってくれました、俺はすごく誇らしいです」
「うん…俺甘えてばかりだな」
「いえ、もっと頼ってください。俺はこうして話を聞くぐらいしかできませんが、一番近くにいますから」
ちゃんと傍に立っている、そういわれて嬉しくなる。
リボーンがいなくても、さみしくはない。
それは、離れていた時間が教えてくれた。
俺はもう、一人でだって大丈夫だ、みんながいてくれる。
支えてくれる、人がいる。
でも、それと同じぐらいにリボーンがいないことを自覚してしまう。
哀しいほど、愛しい。
「俺、ボスになったら一つわがまま言ってもいい?」
「もちろん、なんでもいってくださいっす」
「うん…」
心の中でそっと隼人に謝った。
悲しみは何よりも代えがたくて、俺の心に大きな穴をあけて早くふさいでくれと訴えてくる。