最小限の光源の部屋で行われるのは銃の掃除だった。
ライフル銃を持ち出したのは久しぶりだなと一つ一つの部品を元に戻しながらため息を吐く。
ヒットマンなのだから普通のことだといっても俺自身は近距離で始末することが多かったからだ。
使っていなかったからどうかと思ったが、結構大丈夫そうだ。
弾も補充してスコープを装着する。

「もう秒読み段階か」

俺は一人呟いて、そのつぶやきは誰にも聞かれることはなかったがある決心を持って俺はここにいた。
アサトファミリー、先日ボンゴレに喧嘩を売った。
俺がそそのかしたのではなく、むしろ俺は巻き込まれた方である。
俺は表向きはボンゴレを解雇されたヒットマンなので、それに目をつけてくる奴らもいる。
その手の話は断ってきたのだが、今回まんまとはめられた。
報酬がいいと思ったら、俺を釣るための罠だったわけだ。
俺がここにいるということは、ボンゴレに知られるわけにはいかないのでアサトファミリー自体が爆弾を抱えているわけだが、爆発する前に喧嘩を売ったのだ。
もちろん、山本を撃ったのは俺だ。
身内だからと手加減はしていない、避けたのはあいつの力だ。

「山本も強くなったな…俺がいなかったら、こんなファミリーゴミ同然だ」

ボンゴレがどれだけ大きなファミリーか、わからないわけじゃない。
だから、俺を雇ってまでしたのだ。
粛々とボンゴレに媚を売って生きていればいいのに、最近は血の気が多くて困る。
それも、今ボンゴレをたたくチャンスだと思っている奴らが多いことに起因する。
世代交代の噂はよくきくようになった、ツナが決意を固めたのだろう。
俺は外からそれを見守るつもりでいたが、こんな形での一騎打ちが実現するとは。
そして、それに俺はわくわくしているのだ。
こんなことでもないかぎり、俺とツナが敵になることはないだろう。
今やらなければ、一生来ないかもしれない。
こうなってしまった以上、楽しむのもありかと思った。

「ツナ、お前はどうだ?俺がいなくなって、どれぐらい強くなった?どんだけ、また俺を驚かせてくれるんだ?」

あいつの成長はいつも著しかった。
いろんなことに追われているが、予想は裏切らないだろう。
そう信じている、でなければ俺が殺してやる。
弱いやつはボンゴレにいらない、俺がこんな世界に引きずり込んだ。
俺が、恨まれるべきだ。
なら、俺自身がすべてを決めるべきだ。

「すまねぇな、ツナ。俺はマジだぞ」

すべてをはめ終えた銃は黒光りして、俺の心を映しているようだ。
じっくり拝見させてもらうか、と騒がしくなってきた屋敷に俺は重い腰を上げた。




山本が撃たれてから、一週間と経たずに敵陣に乗り込む態勢を整えた。

「骸、雲雀さんは俺と一緒に前線、隼人と凪は後ろからついてきてくれ」
「君も前線?」
「雲雀さんが何を言っても俺は行きますよ」
「…頑固なところは誰に似たんだい」

からかう声に苦笑で返して、用意した銃をホルダーに収めた。
いざとなればリングで片を付けることも考えている。
これはいわば宣戦布告だ。
舐められては困る、見せしめのために俺たちは全力で立ち向かわなくてはならないのだ。
緊張はしていない、けれどとても嫌な予感がするのだ。
だから今回は俺も前に出る。
もし、骸と雲雀さんに何かがあってはいけないから。
二人はどちらもほかのファミリーからも有力視されるほどの実力を持っている。
ここで箔をつけて、ほかのファミリーへの牽制もする。

「利用できることは、最大限させてもらわないと…」
「さすがですね。期待しますよ、ボス」
「お前に言われると嫌味にしか聞こえないんだけど」
「十代目、車の準備できましたっ」

車を用意した隼人が迎えに来て、俺たちは乗り込んだ。
準備は万全だ、恐れることは何もない。
九代目からはくれぐれも気を付けるようにといわれ、託すように手を握られた。
もうすべてを背負わされるのだろう。
望まれるように俺は動くしかない。

「あ、隼人。次十代目って言ったらお仕置きね」
「っ…は、はい」

車に乗り込む直前、俺はそんな軽口をいいながら肩をたたいた。
隼人は顔を真っ赤にして戸惑っていてそれがなんとも新鮮だなと気づいて、今度からこれでからかってやろうと考える。
大丈夫だ、今度がある。
未来を生きる、その重大さを俺はひしひしとその身に感じていた。

「ほかのみんなを残したのはどうしてだい?」
「だって、こっちに攻め込まれたら困りますし…それに、何かあった時には応援要請を…」
「だったら、車でいて控えていた方が…」
「離れたところにいてくれないと、俺が安心できないんです」

骸と雲雀さんに挟まれるように座っているために両方からの質問攻めにあう。
確かな保障は、ボンゴレにある。
もし…もしを考えることなどあってはいけないけれど、でも、最悪の場合はちゃんと保険をかけておきたかった。

「ごめんな、凪…こんなところに連れ出しちゃって」
「大丈夫、私はちゃんとみんなのサポート…します、から」

助手席に座る凪に声をかけると少し緊張で震えていた。
女の子には、と思っていたがこの事態に有効なのは骸と凪の力だった。
フランがいてくれたが、フランは気まぐれだし…喧嘩を売られたのは俺の方だからヴァリアーを引き合いに出してはいけないと思ったからだ。

「後ろは俺にお任せくださいっ」
「うん、頼んだよ」
「君は、少し落ち着こうか。つくまで時間はあるから」

はりきる隼人に声をかけたが、乗り出していた身体を引かれて、俺は雲雀さんを見る。
そうして、ぎゅっと手を握られてばれていたかと苦笑した。

「はしゃぐ子供じゃないんだから」
「はい、わかりました」

誤魔化すように声をかけていたのは、自分に言い聞かせるようにだっていつ気づいたんだろう。

「前線をきるからには、僕たちから離れないでくださいよ。君に単独行動されるのは気が気じゃないんですから」
「はぁい」

釘をさすように言われてしまえば、もう何もいえない。
二人は怖くないのだろうか。
こんなことを真っ向から聞けば、当然だというだろうけど、ぴりぴりと張りつめていく空気がそれを否定する。
二人は人一倍汚れ仕事を買ってきていたけれど、不安はどうしても拭い去れなかった。
言い知れぬそれは、すぐにどうしてなのかがわかってしまったんだ。




「つきました」
「厳戒態勢だ」
「まぁ、僕たちに喧嘩売って隙だらけってほうがおかしいよ」

屋敷の死角から俺たちは車を降りた。
無線を耳に着けて、何かがあれば隼人やほかのみんなと連携できる。
みんながつけたのを確認すると、俺は銃を取り出した。
天を仰いで深呼吸、骸、雲雀さんへと視線を向けて頷いたのを確認したのち、俺たちは走り出した。

「計画通りに」
「わかってますよ」

門の正面には案の定見張りがいたが、俺たちはサングラスをかけ骸の閃光弾で目をくらませる。
ひるんでいる隙に雲雀さんが撃ち込んだ。
比較的スムーズに入り込むことができたが、そこは敵の巣窟途端に騒ぎに発展しわらわらと人が出てくる。
一瞬の躊躇いは破滅を呼ぶ。
俺は習った通りに引き金を引いていた。
骸と雲雀さんは手分けして向かいくる敵を倒していく。
けれど、手ごたえはやっぱりない。
これなら、牽制だけで済むかもしれないと思ったところだった。
だが、それは唐突にやってきた。

「っ…」

一瞬感じた殺気に俺はあわててその場から飛びのいていた。
そして、今俺がいたところには一発の弾丸が撃ち込まれていた。

「今の、よく避けたな…ツナ」

今一番聞きたくない、声を聴いてしまった。
俺は恐る恐る顔をあげるとそこには銃を携えたリボーンが立っていたのだ。

「…ああ、一番会いたくなかったよ」

この事態を予想しなかったわけじゃない。
けれど、どこかでリボーンは俺に甘いと思い込んでいたんだ。
こんな風に、相対するなど…絶対にありえない…と。
でも、敵なら情けなんてかけない。
どうしてリボーンがそこにいるのか、どうして今のか、聞きたいことは山ほどあるが…それは、リボーンがいなくなって俺も同じ場所に行ってからになってしまうのかもしれないな。

「みんな、敵にはリボーンがついてる。油断するな」

イヤホンから緊張が伝わってきた。
けれど、それ以上は何もない。
わかってるよ、俺はちゃんとやれる。

「本気で、やる」
「ほう、たくましくなったじゃねぇか。その腕、見せてみろよ」

憎らしいくらいの煽り文句が、哀しい。
それでも…それでも、俺は。

どんなに手が震えようと、後悔してはいけない。








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