イタリアに来て、二年目のクリスマス。去年はなんだかんだと忙しかったせいか、今年は盛大にやりたかったらしく昼からパーティが開かれていた。
伝統料理が振る舞われ、最初は美味しい美味しいと食べていたが流石に三時を過ぎたあたりから腹が限界を訴えた。
それなのに、みんなはたくさん話したらり食べたり…胃袋どうなってるんだ?

「ツナ、大丈夫か?」
「山本…ちょっと、もう限界かも」
「俺もだ、みんなすげぇな」
「うん…」

なんだかんだ骸も獄寺くんも慣れたもので、もしかしたらイタリアではいつもこうなのかなと思う。
調べてないからよくわからないけれど。
でも、ひさしぶりに会う人もいて懐かしかった。
なによりザンザスがおとなしく食事してるのが意外過ぎたのだ。

「おい、もうたべねぇのかぁ?」
「スクアーロ、こんなにとめどなく食事が運ばれてくるなんて思わなかったんだよ」
「そうだぜ、こっちじゃこんなもんなのか?」
「いつも通りだぞ?まぁ、あっちじゃ普通にケーキ食うだけだったけどなぁ、こっちじゃ向こうで言う正月みてぇなもんだから、今日はなにもかもほっぽりなげてみんなで集まるんだ」

スクアーロの言葉に俺と山本はほぉと頷いた。
正月といわれて納得する。
遠い親戚まで呼んで、こんなに盛大にやるクリスマスは初めてでもちろん、俺の仕事も今日と明日は免除だ。

「普通なら夜には終わりだが、ボンゴレは夜になると同盟ファミリー参加のパーティになるからなぁ。お前のお披露目もそれからだろうよ」
「えっ!?俺そんなの聞いてないよ!?」
「いったら逃げるからだろ」

スクアーロにあきれたように言われて、視線をさまよわせた。
そんなこと知っていたら、俺はそっと姿を消していただろう。
そういうところが、九代目の抜け目ないところだと思うのだ。
俺ははぁとため息を吐いてあきらめた。

「変だと思ったんだよ、去年はあまりなにもなかったし…」
「あいつのことだから、お前の警戒を解いてからだと思ったんだろうな」
「警戒って…」
「まぁ、みんなくるからな。覚悟しとけよ」

スクアーロは笑いながら歩いて行ってしまった。
俺は山本と目を合わせて、そっと離れようとしたら腕を掴まれた。

「逃がしてくれたないんだね…」
「それをきいたら、逃げすわけねぇだろ」

すまん、と笑われて俺はことさらあきらめたのだった。




「おや、逃げなかったんだね」
「九代目までそういうんですか」
「ははは、これに着替えてきなさい。そろそろほかの人たちも来る」
「はい」

テーブルに並ぶ料理がなくなってきて、雪が降り始めたころ一度みんなは自分の部屋に戻ったようだ。
九代目は俺にスーツを渡してきて、夜もたのむね、と一言言って自室へと戻って行った。
俺は少し憂鬱になりながらも自分の部屋に戻る。
腰を悪くしたといっても、今日はじっとしていられなかったのか九代目はずっと立っていた。
いろんな人と顔を合わせるのが好きなようだからそれでもいいんじゃないかと思う。
けれど、こういうときばかりは帰ってくるかと思ったリボーンはいない。
やっと会えるかと思ったのにこんなときまで仕事なのだろうか。

「いや、あんなこと言ったんだ…会ってくれないかもしれない」

俺とリボーンは先月別れた。
それも俺が一方的に押し付けたといっても過言ではない。
いま、会ったとしてもまともに顔を合わせることができるわけでもない。
それでも、リボーンを探してしまうのはどこかにある自分の甘えだ。
リボーンなら俺と別れたとしても会いに来てくれる。
顔ぐらいみせにきてくれる、そういう甘えが俺を期待させる。
リボーンはそんなことしないって、俺はよく知っているのに…。
九代目に渡されたスーツに腕を通して、鏡を見つめた。
少し前よりもずいぶん違うのだろうか、いつみても変わらない顔で、どこか甘さの抜けない男だと思っている。
ネクタイを締めて、気を引き締めると時計を確認し広間に集まってくれと言われていた時間だと部屋を出た。

「っと、骸」
「逃げないようにと」
「逃げないよ」

今日の九代目はいつになく厳重なほどだ。
俺はため息を吐きながら広間へと向かえば真ん中にあった大きなツリーに明かりがともり、次々と呼ばれたファミリーのボスたちが集まってきていた。
俺は少し引け目を感じて後退さると骸の腕が俺の腕をとらえていた。

「誰も組めって言ってないんだけど?」
「組まないと逃げてたでしょう?ほら、行きますよ。僕だって嫌なんですから」
「だったら一緒に逃げよう」
「そんな甘い誘い文句言われても聞けませんね」

こういう時ぐらいは傾いてくれてもいいのにっ。
俺は半ば引きずられるようにして九代目の元へと向かわされた。

「似合っているね、骸ごくろう。下がっていい」
「はい」

九代目の隣に立たされて、骸は一礼すると下がっていった。
それから俺は九代目に連れまわされるようにしていろんな人と顔を合わせた。
一人一人、顔を教えてもらって、次々とパーティに人が来るから少しばかり人酔いもした。
あれだけ食べたのに、また食べたくなれば適当に料理を手に取ってゆっくりとみんなと顔を合わせていた。
終わるころには俺はぐったりと立っていられないぐらいに疲れ果てた。

「うーん、もう終わりかな」
「そう…ですか」
「お疲れ様。もう好きにしていい。それに、今日はプレゼントも用意しているんだ」
「プレゼント…?」

九代目から言われた意外な言葉に俺は顔を上げる。
周りを見渡して手招きし、こちらに歩いてきたのはディーノさんだった。

「よぉツナ、疲れ果ててんなぁ」
「いろいろ連れまわしてしまったからね。それより、彼を連れてきてくれたか?」
「ああもちろん、引きずってくんもの大変だったんだぜ」

二人で何やら話していて、何のことだと首を傾げればディーノさんに腕を掴まれた。

「なん…」
「今日はとことん振り回されとけ」
「ちょっ、それは納得できませんーっ」

ディーノさんのあんまりな一言に俺は声を上げるが許されず、広間をでてしまった。
なんでだ、とあたりを見回しても誰もいない。
みんなは広間の中で楽しんでいて、こちらに来る人などそう早々いないからだ。

「どこに、いくんですか」
「部屋」
「誰の?」
「ツナの部屋だ。今日は誰も邪魔しにこねぇからな」
「……あの、俺」

ディーノさんの言葉に、部屋に誰かが来ていることは想像できた。
そして、それがここまできても見ていないあいつだということも…予測できた。
俺は足を止めてディーノさんに切り出す。

「リボーンとは…」
「別れたんだろ」
「知ってるなら」
「今日ぐらいいいんじゃないのか?そうやって、無理やり背伸びしようとするのは見ていて痛々しいし少し肩の力を抜け、な?」
「でも、リボーンはそれで納得するんでしょうか」
「でなけりゃ、ここにいないだろ」

ディーノさんの言葉に俺は息を呑んだ。
リボーンが俺が思っていることを全部わかってるわけじゃないことはわかってる。
きっとディーノさんにうまいこと乗せられてきてしまったんだ。
でも、いる。
俺の気持ちの変化を悟ったのかディーノさんは俺の手を引いてまた歩き出した。
俺の部屋まで来ると、足を止める。

「今日だけだ、今日だけ元の関係に戻れる」
「そういうのは、卑怯です」
「でも、九代目も言ってたからな。ここで、俺がツナを部屋に送り届けられないと困る」
「なんでそういう」
「いいから、入れよ」

なにも怖いことなんかないぞと、言われてそれでも手は動かない。
何も怖がっているのはそのことだけじゃない。

「ツナ」
「無理で…」
「いつまで待たせる気だ、バカツナ」
「えっ」

ドアノブに手をかけようとしたまま固まっていたらいきなりドアが開いて、俺の腕が有無を言わさず掴まれ引きずり込まれると思った瞬間、しっかりした胸に受け止められていた。

「そうしてくれりゃ、話が早かったんだ」
「ったく、もうあっちにいけ」
「へいへい」
「あ、ちょ、でぃーのさっ」
「あきらめろ、ツナ」

ディーノさんの捨て台詞とともに、ドアが閉められてしまった。
俺はリボーンの腕の中から出ようともがくも、抱きしめられてそれもできない。
久しぶりのリボーンの腕の中だと思うと嬉しくて、思わず抱きしめ返した。
自分から突き放してどういうことだといわれるのかもしれないと思ったけれど、そんななじる言葉は降ってこなくて、代わりにその言葉をふさぐようにキスをされていた。

「ん、ふ…」

口の中までも舐めるような技巧に俺の腰は抜けそうになり、必死で足に力を込めた。
言葉もなく奪われそうだ。
いいや、このまま奪ってほしい。
何もかも、こんな自分のことも全部…そう思ってしまって、それは違うと首を振った。
俺は何とか手に力を入れてリボーンの胸を押した。

「なんだ?」
「それは、こっちのセリフ」
「振った男の顔もみたくないか?」
「っ…」

リボーンの言葉が胸に突き刺さって苦しさに顔を歪めれば小さく笑われた。

「からかいすぎた」
「もっ、そういうの…っ」

からかわれたのだとわかれば安堵した途端気が抜けて、泣きそうになる。
リボーンはそんな俺の頭を引き寄せて胸に押し付けられた。
甘えてもいいと言われているような仕草に溢れそうになる涙をこらえた。

「せっかく俺がプレゼントとしてここに呼び出されたんだ。受け取れ」
「…プレゼントの態度じゃない」
「俺を食べろよ、ツナ」

からかわれた腹いせに意地になって言うと、耳に唇を押し付けて熱っぽく囁かれ、条件反射のように身体が反応する。

「身体は正直だな?」
「う、うるさい。お前に、そんなこと言われて冷静でいれるわけないだろ」
「それは、光栄だな」

語尾を柔らかく、俺の身体を撫でてきて突っ張った腕の力が抜けかける。
だめだ、ここで許したら。
何のためにリボーンと距離をとったのかわからなくなる。

「だ、だめだって…ば」
「ツナ…」
「だって、俺…お前の隣にいる資格ない…だから」
「今は、忘れろ。全部忘れて、全部許せ」

腕をとられて、なお引き寄せられた。
再び密着する身体。
別れてからまだ数ヶ月しか経っていないのに触れられれば、触ってほしかったとばかりに反応する。
どうしてこうも俺の身体はこらえ性がないんだ。
そもそもリボーンが俺をこんなふうにしたのだから、俺ばかりが悪いわけじゃない。
そう思って目の前の男を始めて見返した。
少ししか離れていないから外見的にはなにもかわらない。
それなのに瞳の奥に寂しさを見つけてしまったら、突き放すことはもうできなかった。

「なんで、俺を甘やかすんだよ、またつけあがるだろ」
「今日だけは許してやる」
「今日だけ今日だけって、俺がどんなに悲しいかわかってるのか!?」
「そっくりそのまま言葉を返してやるぞ」

リボーンに言われたら何も言えず唇を噛んだ。
その唇を優しくなぞって、そっとキスをされる。
キスを拒めない時点で俺の心はほだされてしまっているのだろう。
だって、本気で嫌いになって別れを切り出したわけじゃないから。

「…じゃあ、今日だけ」
「いいこだ」

ほめるように頭を撫でられたあと腕を引かれて、寝室に連れて行かれた。
ベッドに入ってスーツを脱がされる。

「誰が与えた?」
「九代目が…」
「あいつの趣味っぽいな」

チッと舌打ちしてネクタイを解いたリボーンに何か変なのかと聞いたら、俺が選んだものだけきてればいいなんて理不尽かつ身勝手なことを言われて嫌なはずなのに、嬉しかった。

「俺が自分で選んだとは思わないんだ?」
「お前の趣味じゃない」
「あ、そ…っ」

俺の趣味も知り尽くしているのかと思ったが、それ以上は言うことができず喘ぎが漏れそうになってあわてて唇をかみしめる。
俺ばかりが脱がされていて、リボーンも脱いでとスーツを引けば脱ぎ始める。
久しぶりに見る身体に、切なさがこみ上げてきた。
手放せないのはわかってたのに。
服を脱いで、覆いかぶさってきたリボーンに手を伸ばした。
当然のように握りしめられて、じん、としびれる。

「思ったんだけど、リボーンて俺にはどこまでも甘いよな」
「今頃気づいたのか」
「うん、今頃…気づいた」

恋に盲目になっていた部分もあるのだろう。
リボーンがずっと気にしていたことを俺はようやく気付けた気がしたんだ。
優しく抱きしめられて、笑みを浮かべる。

「遅すぎだ」
「うん、ごめん」

初めての恋だったんだ。
いろんなことがあった、でもここでは終われない。
俺にはまだやることがあるから、そしてそれができたときには…。
そんな苦しい日々の中の安らぎだというのなら、俺はそれを甘受するべきなのだろうか。

「力を抜け」
「リボーンが緊張解して」
「子供みたいなこと言ってんな」
「へへ、甘えたいんだ」

すりっと素肌になった肩口に頬を擦りよせるとかみつくようにキスをされた。
少し乱暴だけど舌が忍び込んできてめいいっぱい舌を吸われてしまえば前触れられた感触を身体が思い出す。
リボーンの手が俺の身体を撫で、俺は背中に手を回した。

「ん…は…」
「もうたってきたな」
「リボーンが教えたから…」

胸の突起をつままれて、身体を反らせる。
もっと触ってと意思表示すると遠慮なく触られた。
こねられて少し痛くされて、だんだんと硬くなる。
しっかりと形ができると舐められて、俺は思わず膝を立てた。
他のところに刺激がほしくてこらえ性のない身体はゆるゆると揺れ始め、それを見たリボーンは小さく吹き出した。
それが、突起に吹きかかり思わず身をすくませる。

「な、なんだよ」
「そんなに触ってほしいか?」
「……ん」

緊張をほぐしてほしかったのに、俺の身体はさっきのキスから静まっていたはずなのにすっかり臨戦態勢だった。
リボーンはからかうように言ってきたけど、それを笑うことができずコクリと頷いた。
ちゅっと軽いキスが降ってきて、それと同時に自身をにぎられる。
やんわりと握りしめられ、感触を楽しんだ後ゆっくり扱いてくる。
いつものそれより慎重で、俺の反応を見るような触り方に俺は少し不安になる。
もしかしたら、リボーンは怖いのかもしれない。
俺の憶測でしかないけれど、俺が別れを切り出したことが。
今は終わらない確証があるけれど、いつかそうなることを予測してしまったのかもしれない。
そう思ったら、感じるどころじゃなくなってしまって俺はリボーンを引き寄せて自分からキスを仕掛けた。

「ん、ツナ…」
「い、から…ちょうだい」
「どっちをだ?」
「両方、リボーンでいっぱいにしてほしい」

そんなすぐに入れられるわけがない。
ブランクだってあるのだ。
でも、すぐにほしかった。つながって確かめたかった。

「無理だ」
「だって、あっ…だっ、て」

即却下したくせにリボーンは俺の中に指を入れてきた。
自分の唾液で濡らしただけのおざなりな対処だったけど、中でかき回しているうちに自分の中が緩くなっていくのを知る。
開かされ慣れている身体はすぐにその気持ちいいものを欲しがる。
指で突き上げられるたびに、ほしいほしいとうわごとを呟く。
時々怖いぐらいの顔をしながら、リボーンは我慢して指二本を入れれるようになったころ、指が抜けて行った。

「ローションどこだ?なきゃいれねぇぞ」
「ふ、ん…そこ」

中がひくひくと息づきリボーンのベッドについている腕を握りしめながらベッドの引き出しを指さした。
そこには、新しいままのローションが入っている。
古いものは捨てられても、新しいのはいつでもつかえるようにととっておいたのだ。
それが、俺の中の未練だと知りながら。リボーンは慣れた手つきで片手でそれを開けると自分自身と俺の秘部へたっぷり垂らした。
小さいボトルだったため半分ほどがすぐになくなり、ふたを閉めて適当に放られた後、ひたりと自身の先端があてがわれる。
はいるぞ、と言葉なく見つめられて目を閉じ、小さくうなずくと同時に熱いものが入り込んでくる。
さすがに少し慣らしただけでやすやすと入る身体じゃない。
ゆっくりと前後に動かしながら少しずつ進んでくるが、俺も苦しく俺が苦しがるってことは中も苦しいのだろうリボーンの顔も歪んでいる。
俺は手を伸ばして、そっと頬に触れた。
苦しくても、この苦しさがリボーンのいる証だと思うとそれだけで身体の奥から満たされていく気さえした。

「ご、めん…」
「なにに、謝ってるんだ」
「…きもちよく、させてあげられなくて」
「気持ちいいぞ?」

本音は、胸の内にしまった。
これは、口にしてはいけないものだ。
リボーンは俺のことを気遣いながら奥へと進んでくる。
ようやくすべてを入れ終えた時には、長いため息を吐いてそのあとどちらからともなくキスをした。

「う、ごい、て」
「苦しくねぇか?」
「ん、うごいてくれたら」

自然に身体になじむ。
前まではそうだったんだから、リボーンの手を取って握って指先に口づけた。
すると、ゆっくりと動きだし全体をこするようにぎりぎりまで抜いてはゆっくりと押し込む。
何度か繰り返すと、慣れていつもの場所がうずきだす。
自分から腰を振って、気持ちいい場所をさらけだすとリボーンは笑ってそこを惜しげもなく擦りあげてきた。

「ひぁ、あぁっ…そ、そこ」
「お前は、ここがいいんだろ?」
「ん…ふ、いい…きもち、い…い、く、いく」
「ああ、いけ」

リボーンの問いかけに頷いて、もっとと押し付けるとだんだん突き上げる速度が上がっていく。
呼吸が苦しくなって中がリボーンを締め付ける。
それに合わせるようにリボーンも息を乱して二人で駆け上がるようにして上り詰めていた。
中へと吐き出されて、こすり付けるようにゆるゆると動かれた。
ぐしゅっと水音が聞こえて中からあふれる感触がした。
それだけなのに嬉しくて、切なくなる。
縋るようにたくましい腕を掴むと、またキスをされた。
ゆっくりと混濁していく意識、このままはだめだと思うのに最近酷使し続けていた身体は睡眠を求めた。




眠ったツナの身体を拭いて、これで朝まで眠ってくれるかと俺はになりを整えた。
一夜限りのつもりだ。
ディーノにも、九代目にもそうくぎを刺されている。
もともと、こんな風になってしまって俺から会いに来るのには気が引けていた。
けれど、ディーノからツナがどんどん元気をなくしているからといわれてしまえばうなずかざるおえなくて、しっかりとやることはやってしまったわけだが…。
最後だと思えばなおさら手放すことは難しく、求められるまま悦がらせた。
でも、離れる時までツナに見送られたくはなかった。
だから、多少無理やりにでも激しく抱き意識を落とさせようとしたがそんな必要もなくツナは気持ちよさそうに眠っている。
疲れていたというのはあながち間違っていないようだ。

「あんま、無理すんな」

くしゃりと頭を撫でてそっと囁くとベッドから立ち上がった。
離れようとすればスーツの裾を引かれて、振り返るとツナが起きてしまっていた。

「もう、いくのか?」
「ああ、お前はもう少し寝てろ」
「はなれて、いかないで」
「またすぐに会えるだろ」

切ない声で呼び止めるが、それは寝ぼけているからだとわかった。
普段ならそんなことは、口が裂けてもツナは言えないだろう。
俺は最後に触れるだけのキスをして額を合わせ見つめた。

「それとも、もう俺のことは、要らないか?」

ぽつりとこぼれたのは本音で、ツナはそれを聞いた途端涙をあふれさせた。
ふるふると首を振って、握りしめる手が震える。
俺はそっとその手をスーツから離させた。

「お前が望めば手に入る。それをわかってるだろ」
「ん…」
「それまでの辛抱だろ?」
「…んっ」
「よし、いい子だ」

ツナの考えそうなことだ。
頷いたのを確認して、子供のように頭を撫でてあやすとそっと外に出てしまった腕を布団の中へと戻した。
安心したのか再び寝てしまったのを確認して俺はそっと部屋を出た。
ドアを閉じた後で、俺はまた闇に呑まれるようにして屋敷を出るのだ。

「要らない…なんてよく言えたもんだな」

ツナは当然のように返したが、内心では自分が一番落ち着いていなかった。
捨てられていないという確証がほしかったのだ。
必要としているのは、ツナなんかじゃなく自分の方だと自嘲気味に笑って一夜限りの逢瀬は終わった…。




END




BLコンテスト・グランプリ作品
「見えない臓器の名前は」
- ナノ -