今日はミルフィオーレファミリーに来ていた。
風邪をひいた日、再び起きるとリボーンはもういなくてとても悲しい思いをした。
けれど、俺がするべきことはほかにあると思った。
リボーンなら、すぐに会える。
俺がしないといけないことは、まだあるのだ。
「やぁ、綱吉くん」
「ん」
「こんにちは、正一くんにスパナ」
目的の場所につけば、ドアを開けたとたん振り返った二人に俺は笑顔になる。
二人も研究者としてボンゴレからオファーを受けていた。
今は設備の整っているミルフィオーレにいるが、ゆくゆくは近くに研究所をつくるつもりらしい。
持たされた資料を渡して、スパナは俺に飴を差し出してきた。
「ありがとう」
「今日はこれで終わりか?」
「白蘭のところに行く用事が残ってるんだ」
「…大変だね、あの人を探せるのは今のところ一人しかいないよ」
俺はここに来てからというもの、伝達係を任せられていた。
ミルフィオーレ自体新しいファミリーであるため、いろいろやることが山積みでそこに俺が口をはさむことはまだできなさそうだった。
なので、こうして一日いろんな場所に行きいろんなことを知りつつ、のんびりとした穏やかな日々を過ごしていたのだ。
ヴァリアーにいるよりは、すごくいい環境だと思う。
ただ、そこのボスの右腕ともあろう白蘭のさぼり癖がひどく目立つが…。
「今日こそは見つけ出すよ」
「頑張るね、ここにいる間はいろんなことを任されると思うけど頑張って」
「うん、また」
「まただ、ボンゴレ」
手を振ってくる正一くんとスパナに手を振りかえして部屋を出る。
そして、息を吸って吐いて、よしとこぶしを握り締めた。
「白蘭、今日こそ見つけてやる」
最近はもっぱら、白蘭捜索だった。
俺は廊下を走りだした。
いくら探しても見つからない、屋根も部屋も、中庭も。
下手に広いから、逃げられていたら追いつけっこない。
これを探せる人はただ一人、骸だけだ。
探せるというか、骸はいるだけで白蘭が来るという白蘭ホイホイだから。
そんな骸は、毎日のように協力してくれるはずもなく…というか、骸は白蘭につかまりたくないのでそんなことは俺が頼んでも首を縦に振ってくれない。
「はぁ、世知辛い世の中だ」
いくら走れど見つからない白い影。
そのうちユニの背中が見えてくる。
隣には珍しく誰もいない。
「ユニー」
「綱吉さん、今日もですか?」
「うん、今日もなんだ」
俺の事情をよく知っている彼女はすっかり成長している。
呪いが解けてからの彼女はすくすくと育ち、背はそれほど大きくならなかったがとてもかわいらしい御嬢さんだ。
γが目をかけて離したくなくなるのがよくわかる。
「そんなユニは一人?」
「はい、一人の時もあるのですよ?」
「そっかそっか、いつも隣で目を光らせてる人がいるから、つい」
苦笑を浮かべれば、ユニはくすくすと笑っている。
「γは少し頑張りすぎているので、お休みです」
「ユニも、疲れたらちゃんと休むんだぞ?」
「はい」
使命感の強いところはγ譲りでもあるみたいで、ユニも無理をするから時々顔色を見たりする。
ここにきてからというもの、なんだか無理をし過ぎないようにみてやることが多いような気さえしてくる。
「ユニなら、白蘭の居場所とか…わかったりしない?」
「わかりますよ。でも、私は自らそこにいったりしないんですが…」
「ユニは、白蘭を甘やかしすぎだ。あいつもしっかり働かせてやってくれよ」
「はい…」
少しさみしそうに笑うユニは、白蘭に苦手意識があるようだった。
操られていたことが関係しているのだろうが、今では白蘭が ユニを好いている節もあるから複雑なのだろう。
白蘭を懐柔したといっても本能的なところでの苦手意識までは克服できなかったのだ。
それは、人間である限り仕方のないことで…きっと、白蘭はそこもきにしているのだろうと思う。
「で、どこに?」
「えっと…」
ユニが説明してくれた場所はやっぱり俺が一度見た場所だった。
まぁ、白蘭は移動しているらしいけれど…。
ユニから聞き出した場所に来ると俺は勢いよくドアを開けた。
そこは白蘭の部屋で、クローゼットがある寝室だった。
「まさか、この中だなんて」
誰も思わないよな、とクローゼットを開けた
中は少し広くて、奥に入ると電気のスイッチがあった。
なんでこんなところにとつければ、服の奥が開けていて、亜空間のようだとあきれつつ中へと進んだ。
「あれ?綱吉クン」
「ユニに内緒でこんな物作りやがって」
「見つかるとは思わなかったな」
「ユニが教えてくれた」
ユニは内緒にされるつもりらしいけど、こんなことをしているとγに怒られるぞとちゃんと注意してやる。
「僕の部屋だもん、僕の好きにしてもいいでしょ?」
「…いや、改築したらダメだろ」
「エー、知らなかったよ」
その白々しい返事は知っててやってるだろ。
俺はツッコむのも面倒になってため息を吐くと、とりあえず肩をポンと叩く。
「なに?」
「捕まえた」
「…うん、捕まっちゃった」
さすがだね、綱吉クンはと笑われてまったく反省していないようだ。
俺が言っても仕方ないかと、言伝と渡すものを手渡した。
「あーあ、仕事だ」
「やれよ」
「いいけど、仕事は誰しもやりたくないものだよねぇ」
「やることはしっかりやってくれ。ユニが大変だろ」
「あの子はなんでもわかってるもの、甘えれるところまで甘えるよ」
いけしゃあしゃあといいながらもしっかりと渡された仕事はやるつもりなのか、資料をチェックしている。
元からしぶらずやればいいのにな、と思うがそれが白蘭だ。
面倒くさいファミリーなのに、ユニはそこで精一杯をやろうとしている。
ヴァリアーは仕事熱心だけどもどこかやりすぎて、ザンザスの独裁政治。
どこもいい、けれどどこも癖だらけだ。
これを俺はまとめないといけないのかと思うだけで気が重い。
「綱吉クン、綱吉クン」
「ん?」
「ちゃんと決めれたみたいで、僕は一安心だよ」
「お前に言われたくない」
「失礼だなぁ」
どっちがだ、と口に出して言ってやればいつもの顔で笑った。
「僕はね、骸くんや雲雀くん以上に君のことを心配してたんだよ」
「…なにそれ」
「君はいろんな意味で、不安定で未熟だから」
「覚悟すらできないって?」
「うん、侮ってたみたい」
白蘭のとんでもない一言には、一発殴っておいた。
逃げなかったあたり、俺に殴られるのは予想していたようだ。
確かに、言われなくても自分自身そうだと思う。
なにか理由をつけないと決めれなくて、こんな俺がボスなんかになれるかなんて今でも思っているのだから。
「結果はどうであれ、ここまでこれたんだから僕は君を全力でバックアップするよ」
「白蘭がじゃなくて、ユニがだろ?」
「そうそうユニちゃんが」
先が思いやられると苦笑して、けれどこのファミリーはこれだからうまく回るんだろうなと少しの安心も覚える。
「ユニと仲よくな」
「もちろん、これからちゃんと距離を縮めるつもり」
今は無理だけど、というあたりちゃんとわかっているようだ。
このファミリーあとは時間が何とかしてくれる。そう思った。
それからしばらくミルフィオーレにいたが、戻ってこいと通達された時には一ヶ月近くをそこで過ごしていた。
疲れたけれど、心地よい疲れ具合で、次にお呼びがかかったところに直接向かわされた。
「えーと、次は…キャバッローネファミリー、ディーノさんのところか」
迎えに来てくれた車に乗り込み、行き先を確認してまだボンゴレには戻れそうにないなと座席にもたれて小さくため息を吐いた。
顔見知りのところに行かされるのはいいけれど、だんだんと足が遠のいている気がする。
もう顔すら合わせることはできていない。
「リボーン…まだ、会えないな」
いつになるだろうか。
次は、ちゃんと会話できたらいい。
通じ合っているはずなのに、どうしてこんなにもすれ違い、遠のいているのだろう。
近くにいる努力をしているはずなのに…。
けれど、この選択が間違っているとは思わない。
必ず、またリボーンの隣に立ってみせる。
もう少し、もう少しだ。
自分に言い聞かせるようにして、リボーンに最後触れていた手をそっと握りしめた。