◎ 華冠
今日も今日とて平和な診療所は銃撃を受けた患者が駆け込みでやってきていた。
いつも俺はリボーンに出てくるなといわれているのだが、手当てのためにかすり傷の患者の相手をしている。
それぐらい、忙しくなっていたのだ。
朝からどこかの組で争いでもあったのかと予測しながら消毒液を塗り、包帯を巻いて行く。
「っ…」
「すみません、痛みますか?」
「大丈夫だ、これぐらい…あいつらに比べれば」
「今日は何があったんですか」
「対立してる組のもんが押し入ってきてな、数人は死んじまったさ」
けれど、これぐらいで済んでよかった、と安堵している顔を見れば偉い立場の人なんだろうなと予想がついた。
俺は話を聞きながら終わり他へと視線を巡らす。
「ツナ、そっちが終わったらこっちにこい」
「はいっ」
リボーンに呼ばれて、その人にではと声をかけ診察室の中へと入った。
他の人もいるのになんでこっちに呼ばれたのかと首を傾げながら覗き込むとそこにはディーノ様がいた。
「ディーノさ…ディーノさん」
「ツナ、かっこ悪いとこみせちまったな」
「かっこつけてる場合かこのばか。ツナ、こいつの手当てしてろ、俺は他の方にいく」
いつもの調子で様をつけて呼んでしまいそうになり慌てて言い直す。
リボーンはぽんっと俺の頭を撫でるなり診察室から出ていってしまった。
ディーノさんの状態を見れば切っていたらしく、綺麗に縫合されていた。
俺は消毒液を塗って、いつもの手順で処置をする。
「ディーノさんのところだったんですね」
「ああ、恭弥は勿論無事だ。心配すんなよ」
「このことは…知ってるんですか?」
「いや、あいつだけは信頼できるところに預かってもらってるからな。知らないはずだ」
雲雀さんは今年ディーノさんに身請けされている。ようやくと言った感じで、身請けした当初はリボーンのところに電話が来ていたほどだ。
そうして、その熱はまだ抜けていないらしい。
こんな災難に見舞われても守られている…けど、それは雲雀さんが知らなくてもいいことなのかな…?
俺だったら、リボーンが知らないところで怪我してるとか信じられない位なのに。
「なんだ、納得してないような顔してるな」
「…雲雀さんはそうやって蚊帳の外にするんですか?」
「ん?」
なんとなく、わかった気がする。
雲雀さんがディーノさんに愛情を向けながらも身請けされなかった理由。
思えば、前からディーノさんはこうだった。
俺が雲雀さんの禿としてついていたときも、いつものように来ていたディーノさんがぱったりと来なくなった時があった。
そうして、一カ月ほどたってふらりと来始めたのだ。
あのときは他の人のところに浮気でも言っていたのかとか、雲雀さん一筋じゃなかったのかとか思うところはあったのだが、それはきっとこれなのだ。
俺が雲雀さんにディーノさんが来なくなった理由を聞いても、ふらふらしてるんじゃないとさらっと答えた雲雀さんはいつも俺をみることはなかった。
雲雀さんはわかっていたのかもしれない。
そして、今回も…薄々は気づいているんじゃないのだろうか。
「雲雀さんはディーノさんのことを想っているのに、一方通行だ」
「どういうことだ、ツナ」
「俺が同じ立場だったら、何で放って置くんだって言います。俺だって、一緒にいるのにって…俺は、んむっ」
「もう良いよ、綱吉」
「きょうやっ!?」
俺は突然後ろから口をふさがれて驚いて後ろを見れば、ディーノさんの声が診療所内へと響いた。
そこには、まぎれもない雲雀さんが立っていたのだ。
スーツ姿の雲雀さんは苦しいとばかりにネクタイをひっぱって着崩していた。
「どうして…?」
「僕が、この人の居場所がわからないわけないだろ。それに、ずいぶんな怪我をしたみたいだね、跳ね馬」
「う…ロマーリオはどうした」
「ボス、ここにいるぜ」
もう一人ディーノさんの部下だと思われる人が診察室に顔を出し、そこにはひっかき傷をついていた。
すごく暴れたあとみたいな姿にディーノさんはため息をついた。
「何で大人しくしていなかった?」
「綱吉の言った通りだよ。あなたがこのままそのくせ治さなかったら、僕はここに住み着くよ」
「えっ!?」
「こら、何嬉しそうな声出してんだツナ」
外が片付いたのだろう、リボーンが入ってきて俺の頭を軽く小突いた。
嬉しそうな声なんてだしてない、でも雲雀さんをみれて嬉しいと思ったのは本当だ。
あのときから、何も変わっていない。
まぁ、仕掛けからスーツに服が変わった程度だ。
「…今はまだ、ごたごたしてっからな…それもいいかもしれねぇ」
「ディーノ歯ぁくいしばれ」
「ぐっ…」
「あ」
リボーンが目の前で指を鳴らして構えたところで、それよりさきに雲雀さんからグーパンチが繰り出された。
ですよね、リボーンがしなくてもあなたはしてしまいますよね。
ホントに相変わらずだと感じつつ、雲雀さんは冷たい目でディーノさんを見下ろしていた。
「その小さな脳みそ、まだわからないっていうなら何度でも殴ってあげるよ」
「もう殴った後で言うなよ…俺これでもけが人なんだぞ?」
「しらないよ、僕が守れるか不安で大切に籠に入れているようなら僕はその籠を壊してでてくるまでだ」
「…そうだよな、お前はそういう奴だった」
雲雀さんはむすっとした顔で言うなり、ディーノさんの言葉を聞けば、ん、と両腕を開いて見せた。
そうして、ディーノさんが雲雀さんを確かめるように抱きしめたのだ。
俺はそっと腕を引かれてロマーリオと呼ばれた人とリボーンと診察室をでる。
「リボーンさんすまねぇな」
「別に、かまやしねぇ。しばらくは、他の奴等も見ないといけないからな」
ツナ、と呼ばれて俺はリボーンの傍にいく。
俺は何となく、もっとくっつきたくて腕を掴んだ。
「なんだ、触発されたか?」
「違うよ…でも、リボーンは俺をおいていかないよな?」
「置いて行くわけないだろ。俺は、大切なもんは傍に置いておかないと落ちつかねぇんだ」
ディーノみたいなことはできねぇなと笑ってリボーンが言うなり、掠めるようにキスをしてきて驚いて顔をあげれば、リボーンはみんながいるところとは逆の台所へと向かってしまう。
俺はついて行く形で後を追うと壁に押し付けられるようにして唇を奪われた。
「んんっ…ふっ…」
「離すかよ」
「リボーン…」
「お前はもう、俺のものだ。俺と一生を共にすることをあの時決めた」
リボーンの言葉に胸が震えた。
一生って、言った…。
そりゃ、身請けして途中で放り出されたら色々と困るけれど、今日まで愛していると囁いてくれることはあっても未来を…そうやって、言ってもらえたのはこれが初めてだ。
何気ない、いつもとかわらないような日々の繰り返し。
けれど、確かに俺達は時を刻んでいて思うところがあって…そうして、たまにこうして言葉にしてもらって少しずつ確認しながら未来へと歩いて行くんだ。
「俺も、もうリボーンといない未来なんて…想像できない」
「しなくていいだろ。そんなばかなこと考えやがったら、仕置きだ」
最近めっきりそっちはしてなかったからそれもいいかもな、と考えてしまうほど、俺は満たされているらしい。
リボーンの言葉に笑って、口先では勘弁してと言いながらリボーンの暖かさに甘える。
「で、いつまでそうしてるつもりだ?」
「ディーノ、お前良いところで邪魔してんじゃねぇぞ」
「おー、怖…でも、一つ相談だ」
「ヒバリはここに置いてやれないぞ」
「そこをなんとかしてくれよ」
リボーンは横から顔を出したディーノさんに鬱陶しそうな顔を向けながら俺を向こうに行ってろ、と自室へと促した。
でも、俺は少し心配だ。
いくら危険だからって、ああまで言った雲雀さんを無視するなんて…。
「大丈夫だ、安心して待ってろ」
「……ん」
俺がなかなか引かないのをみてリボーンは少し強い口調で言うなり俺の肩を掴んで自室のある方へと身体を向けさせられてしまった。
けれど、俺が口を挟んでもまた感情的になってしまうだろうし仕方ないかと小さくため息をついて部屋に戻る。
俺の後ろからはヒバリの気持ちわかってるのか、とかそれはわかってる、とか言い争う声が聞こえて、俺は少し悲しくてため息を吐く。
そうして、部屋のドアに手をかけた。
「ふぅん、そこが綱吉の部屋」
「そうです…って、なんでここにいるんですかっ」
「歩いてたら来てたよ。あっちはうるさいから部屋にいれてくれるかい?」
肩を鳴らしながら少し疲れた表情の雲雀さんにダメですとは言えず、どうぞと促した。
そうして、上着を脱いで座布団に正座する。
ぴしっと伸びた背中はやっぱりあのときと一緒で俺は懐かしさを覚えて笑みを浮かべる。
「何を笑っているんだい?」
「なんか、懐かしいなって」
「そうだね、和室だからか僕も懐かしいよ」
今の部屋は洋室なんだとつまらなそうにテーブルに肘をついた。
俺はお茶をいれてだしながら、他愛ない雲雀さんの話しに耳を傾けていた。
そして、言葉の端々にディーノさんの悪愚痴をいれながら暴れ足りないと呟くのだ。
「籠の鳥は性に合わないよ」
「雲雀さんはそうだと思います」
「だから、あの人に技を教えてっていったらダメだって言われたよ。まったく、過保護も行きすぎるとうざいな」
「でも、楽しそうですね」
「…うん、楽しいよ。不覚だけどね」
雲雀さんの話を聞いていればそれはただ囚われているだけじゃないのがわかる。
ディーノさんは大切にしたいだけなのに、雲雀さんはこういう性格だから少し持て余してしまっているのだろう。
そういうすれ違いは最初だけだ、時間が経てばお互いにわかってくるもので俺達もそういう時期が少なからずあったから。
雲雀さんはお茶を一口飲みながら、小さく呟いてあの時より優しい笑顔を見せてくれた。
「あっ、恭弥こんなところにいたのか」
「人の部屋に勝手に入ってこないでくれる、このヘタレ馬」
「ヘタレっ!?ったく、浮気してんな。帰るぞ」
浮気じゃないよ、とぶすっと膨れる雲雀さんをディーノさんは連れていく。
俺は見送りに出ようと立ち上がればリボーンの姿もあった。
「うまくいった?」
「ああ、二人だけの平穏は守れたぞ」
「ふっ…何それ」
誇らしげに言う、リボーンに笑ってしまいながら玄関までくればディーノさんの仲間も一緒にお礼を言って出ていった。
「じゃあね、綱吉」
「はい、また…雲雀さん」
繋がりが切れない限りは会うことはできる、と含めて言葉にすれば雲雀さんはフッと笑って車に乗り込んでいったのだ。
今日は朝から大変だったとリボーンを見たら、腰を抱き寄せられてよろけて胸に身体を寄せる。
「で、ヒバリとなに話してたか…しっかり聞かせてもらおうか」
「ちょっ、なにそれ…なんで嫉妬してんの!?」
一気に変わったテンションに俺は慌てた、これはまずいと思うのにリボーンは聞き入れてくれず、でも結局は俺もそれを望んでしまっているのだ。
それが、俺達の幸せである限り。
END
菜緒様へ
遊廓パロの続きというかその後を書かせてもらいました。
ノリで雲雀さんとディーノさんが出てきてしまったのは御愛嬌と言うことで。
お祝いありがとうございますっ、菜緒さまからのリクエストとても嬉しかったです。
これからも、よろしくお願いしますね。
素敵なリクエスト有難うございましたっ。