パロ | ナノ

 華惚

夜の闇に紛れることなく活気あふれる街、吉原。
大きな大門を目印に、今日も一夜限りを求めて客が集う。
沢山ある遊郭の中の一つであるこの男娼娼館も例外ではない。

「はぁ…今日も誰も来ない…」

俺は次々と買われていく同胞を見て小さく呟いた。
顔は普通、毛色も少し違うが目立って良いわけでもない、手練手管に長けているわけでもない…なにもかも普通な俺に連日のように客がつくことはまずない。
だが、この頃は不況のせいか客足自体が遠のいていき俺を買ってくれる人もいなくなっていった。

「もうすぐ、紋日が来る」

紋日と言うのは、必ず客を取らなければいけない日のことだ。
客をとれなければ店に自分でお金を払わなくてはいけなくなる。
それなのに、俺には誰もいなかった。
他の皆は紋日に合わせて一番親しい客に手紙を送る。
それもできない。
こんな檻の様な場所に捕らわれて、最初はそれでもいいと思っていた。
いつものように客を取り、身体を開いて悦くする。
それが普通だったのに…。
一年前、ある男によってそんな当然なことが嫌になった。
お金も払わず俺のところに来て、しかも自分が気持ち良くなるのではなく俺だけを一方的に満たすとそのわずかな時間のみで男は帰ってしまった。
それっきり、俺の心を奪っておきながら一年経とうとしている。

「別に会えるとも思ってないけど…」

あんな綺麗な顔をしていたのだ。
こんなところに来る前に女性が放っておかないだろう。
忘れようと、自分に言い聞かせるがそれが成功したことがない。
今日何度目ともつかないため息をつく。
人通りの少なくなった通りを眺めながら、今日はもう部屋に戻ろうかと足を立てかけるが、ふらりと入ってきた人物に目を奪われる。

「まだあいてるか?」
「はい、リストはこのように…」
「いや、綱吉に会いたい」
「へっ…!?」

受付に話しかけ、リストを見せようとするのを止めれば俺の名前が出て変な声がでた。
背中しか見えないが、お金持なのだろう身なりは整っていてここには場違いという感じの風貌だった。

「綱吉なら、まだ居ますよ。蝋燭は?」
「ああ、ここは蝋燭だったな…じゃあ、朝まで」
「では、これを…綱吉、部屋に」
「はいっ……お前っ」

朝までと言われて目を瞬かせた。
俺に対して朝までの人なんかいなかったから、なんだか嬉しい。
こんな日は久々だから、今日は満足してもらおう…と考えて、その男を向かい合った時だ。
忘れもしない、あの時の男…リボーンだ。
俺は驚きのあまりリボーンを指さして声をあげてしまった。
とたん、お客様を指さすんじゃないと受付からおしかりを受けるが俺はそんな場合じゃなかった。

「何のことだ?…早く部屋に案内してくれ」
「…はい…わかりました」

が、リボーンは俺が慌てても冷静に知らないふりをして先を促してくる。
そういえば、あのときは不法侵入だったと思いだせばすぐにリボーンを自分の部屋へと案内した。
部屋に着けば、先程渡された蝋燭に火を灯す。

「で、今日は普通に俺を買ってくれたんだ」
「ああ、仕事がひと段落したからな。お前に会いたくなった」

会いたくなった…なんて本当だろうか。
疑いの眼差しを向けるが、なんだかリボーンを疑いたくなかった。
いや、嘘でも信じたくなったと言った方があっている。

「じゃあ、今からヤる?」
「馬鹿、ムードもなにもねぇじゃねぇか…」
「女じゃないからそんなのいらない…ヤりたいだけだろ?」

さっそく脱ぎ始めようとすればリボーンがやんわりと止めてくる。
そんな雰囲気まで煩いのは女だけだと笑うとリボーンを見つめる。
そしたら、なんかさっきとは違った空気を纏っていた。

「同情なんか、しないでよ。働いてるんだから…」
「なら、今日は仕事すんな…俺の前では、仕事なんかするな」
「っ…そんな、客なのに無理に決まってるだろ」

怒ったように言って俺を布団に押し倒してくる。
結局はそのままヤるんじゃないかと呆れながらも仕事は仕事だと首を振った。

「どうすれば、お前は俺を見るんだ」
「見てるじゃないか…」

リボーンの言わんとしていることが、ようやくわかってきた。
けれど、そんな気持ちには応えられないんだ。
ここでは俺は道具でしかなくて、客に抱かれるのが仕事。
そこに特別な感情なんて、ある方が煩わしい。
誰かに惚れこんでしまえば、他の客に抱かれることに自我が芽生える。
金を稼がなければいけないのにそんな我儘通用しない。
この気持ちをわかってくれとは言わない…どうか、好きだなんて言わないで…。

「……鈍感」
「よく言われる」

それ以上リボーンは口を開くことはしなかった。
切り替えろと、纏っていた着物を肌蹴させられる。
緋襦袢の上から突起を抓られてビクッと身体を震わせる。
くりくりと指を擦るように転がされて漏れそうになる喘ぎを掌を唇にあてがうことで押し殺す。

「声、出せ」
「んっ…はっ、あっ…やっ…」

それを見たリボーンは口から手を離させてしまい、それでも休まず与えられる刺激に唇から淫らな声が漏れ始める。
俺はこの自分の声が嫌だった。
男なのに、女みたいな声だし…何より、昔声が煩いと言われたのだ。
それからというもの俺は自分の声が嫌で嫌で仕方なかった。
他の客は自分の性欲処理の為だから俺が声を出さないでいても何も言わなかった。
なのに、リボーンは無理やり声を出すように仕向けてくる。
嫌なのに、少し触られただけで感じるからだが憎い。

「ひっ…やっ、なめないでっ…ああっ、あっ、ふっぅ…」
「気持ち良くしてやってんだろうが、気持ちいいなら声で示せ」

そんなのやってられるかと思うも、リボーンが胸に吸いついて突起を甘噛みしてくるし俺の両手をまとめて頭上で掴んでいるのに、器用に自身までいじられるため自然と声が出てしまう。
止めたくても止まらないと好きに喘がされていると秘部に指先が潜り込んできた。
いつの間に付けたのかわからない潤滑剤を塗りつけられてますます喘ぎが大きくなる。

「あっ…やだぁっ…あぅっ」
「気持ち悪いのか?」

声を塞ぎたくて嫌といったのだが、勘違いしたらしく指の刺激を緩やかにしてしまう。
気持ち良かった刺激を和らげられて慌てて首を振る。

「ちがっ…おねがっ、して…もっとぉ…あうんっ、はぁっ…ああっ、やあぁっ…」
「なら、なにが嫌なんだ?」

もっとと誘えばじらされることなく中を激しくかき回されて腰を振って身悶える。
なんで、こんなに気持ちいんだろう。
今までにないくらい上手な指先に翻弄されつつ問いかけには素直に答えてしまう。

「こえ、やだっていった」
「声が出るのが嫌なのか?」
「んっ……ああっ、やめっ、そこっ…イっちゃっ、んんっ…あっ」

リボーンの質問に頷くも前立腺を指が掠めて、感じすぎるから腰を逃がそうとして揺らす。

「逃げるな、お前の声は嫌いじゃない…もっと、聞かせろ…ツナ…」
「っ…なら、リボーンも…聞かせて…?」

俺は腕の拘束が緩くなっているのに気付くとそれから逃れてリボーンを押し倒した。
少し恥ずかしかったが俺は覚悟を決めるとリボーンの顔を跨いでリボーンの服に手をかけた。
ベルトをカチャカチャと響かせた後脱がせて下着の下から出て来たもうすでに硬くなっているものを見つめるとうっとりと舌を這わせた。

「つなっ…」
「ね、俺のフェラ気持ちいいから…感じて」

戸惑った声をだすリボーンを振り向いて言うなり根元の茂みから先端へと舐めあげる。
それだけでびくびくと自身が震えて嬉しくなる。
裏筋からも忘れずレロレロと唾液を混ぜて舐めれば先端をチュッと吸う。
次第に先端から先走りが溢れだし独特の苦みが俺の口の中を支配しはじめる。
それすら俺は感じて、リボーンの目の前で腰をゆらゆらと揺らしながら自身を舐めたり甘噛みしたり、手で扱いたりを繰り返していた。

「ツナ…舐めながら感じるのか?」
「あっ…んっ…触って、して…そこ、舐めて…ああぁっ、やっ…気持ちい…はあんっ」

俺が強請るまましてくれるリボーンに俺は酔い痴れていった。
もうリボーンに触られるところ全てに感じて、中に舌を入れられた時にはキュッと締め付けてしまった。
いつのまにか、俺がリードを取っていたのにリボーンに翻弄され、俺は自分の身体を支えていられずリボーン自身が頬にペチペチと当たるのも構わず喘がされた。

「ツナ…入れてもいいか?」
「ふっ…は、入れて…これ、欲しいよ」

ねっとりと唾液が滴るほどに慣らされたそこは舌より指よりもっと太いものを欲していた。
目の前にある、この硬く熱をもったこれが欲しいと…。
自分からこんなにも奔放にふるまえるなんて知らなかった俺は驚きながらも身体を起こしてリボーンに抱きついた。
そして、尻に当たる熱いものに秘部を擦りつける。

「淫乱…」
「だって、リボーンのきもちい…これぇ、ちょうだい…はやく」

蔑みの言葉を浴びせられるも見つめるリボーンは嫌悪のかけらも見られない。
だから、俺は好きに求められる。
想うのは無理だけど…身体だけは明け渡せるから。
強請るままに腰を掴まれてゆっくりとリボーンのものが中に埋まってくる。
ズルズルと圧迫してくるモノは苦しかったが、すごく満たされる。

「動くぞ…」
「ひっ…ああっ…くっ、はぁああっ…やっやっ、ああっ…も、だめっ…だめだめ、イくぅ」

ひとたび動きだされれば感じたこともない愉悦を感じてリボーンにしがみついたままグズグズに溶ける感覚を知った。
そのままのぼりつめた俺はそのあと遅れて俺の中に放たれるのを感じながら意識を飛ばしてしまった。



「……ん…」

目を開けると、リボーンの顔が見えた。
一瞬よくわからなくて、しばらく見つめあって全部を思い出せばふいっと視線を逸らす。
あんなに乱れたのは、久しぶりかもしれない…。

「起きたか?」
「見ればわかるだろ」
「なら、そろそろ行くとするか」
「あ、時間…」

恥ずかしくて目を合わせずにそっけなく言うも、それならいいと頭を撫でられた。
立ちあがるリボーンを見て上半身を起こし、蝋燭が消えそうになっているのを見て外を見る。
もう、陽が昇り始めていた。
これで、リボーンとの時間が終わってしまうのかと思えば顔に出ていたのだろうリボーンは苦笑を浮かべていた。

「そんな寂しそうな顔するな…また、来てやる。」
「本当!?」
「ああ、そのうちお前を…いや、なんでもねぇ…送ってくれるんだろ?」
「なんだよ、途中で言いかけるな。気になるだろ」

何かを言いかけたリボーンはそのまま何も言うことなく俺は心地よい腰の気だるさを感じながら大門までリボーンの隣を歩いた。
俺は、いつかここから出られる日が来るのだろうか…。
いや、出る日がくるんだ…いつになるかはわからないけど…。
その時は、リボーンが隣に居たらいいと漠然と思う。

「ツナ、いつかお前を出してやるぞ…この檻から」
「は?…ふっ」
「じゃあな」
「っ…だから、ここでキスするなって言ってるだろ」

小さく呟かれたリボーンの言葉に耳を疑って問いかけようとした唇を塞がれる。
一年前と同じと頭の片隅で感じて、すぐに離れるとリボーンは一人大門の外へと帰っていった。
でも、俺は暫くそこを動けなかった。
リボーンの言葉が頭を離れない。
会って二回目…身体を繋げたのは一回しかないのに…。
そこまでされるようなことはなにもしていない。
それなのに、期待してしまう俺がいる。
昨日心までは明け渡せないと思ったはずなのに…。

「ばかだなぁ…」

自分からいばらの道を選ぶなんて…。
自嘲的な笑みを浮かべながら俺は着物を翻し店へと戻っていく。

攫うなら、早くしてと思いながら俺はまたいつもの日常を繰り返すのだった。




END

For未柑様へ






「#学園」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -