パロ | ナノ

 華酔

夜になると色々な部屋から甘やかな嬌声が上がる。
物のように扱われる人もいれば殊更優しく何もかも忘れてしまうぐらい甘く抱かれる人もいる。
ここは、そう言う所だ。
ある日は顔で選ばれある日は部屋に籠もってお茶を引く。
俺がここに売られてから十年は経つだろう。
綺麗な着物を身に纏い、客を虜にした方が勝ち。
そんな世界に俺はいる。

格子の中から眺める世界は少し歪で金持ちが男娼娼館へと吸い込まれていく。
娼婦と違い男娼は明らかに遊び道具でしかなく、性欲処理の対象だ。

「よ、キョーヤいるか?」
「ディーノ様、すみません恭弥は今見あたらなくて。すぐに探して参りますので奥の部屋で待っていてください」
「そうか、いや…わかるから大丈夫だ。蝋燭三本な」
「わかりました、ごゆっくりどうぞ」

ディーノと呼ばれた人はマフィアのボスでここの一番の売れっ妓、雲雀恭弥の客である。
(そういえばヒバリさん、中庭の方に出て行った気がしたような…)
雲雀のことを同僚の自分たちより把握している人だから心配ないだろうとディーノの後ろ姿を見送った。

「むくろくーん、お迎えにきたよ」
「誰も頼んでませんよ」
「えー、今日はチョコレートプレ…「それ以上ここで言ったら公然猥褻で訴えますよ」
「あ、酷い…蝋燭今日は五本で」
「ごゆっくりどうぞ」

今来たのは白蘭さんと言った気がする。よく知らないが相当お金持ちらしいと噂になるほどこの頃ずっと六道骸を相手にきている。
ちなみに、蝋燭は部屋にいる基準だ。一本二十分ほどで部屋に入って灯すのだ。
(今日は誰もこない、か)
本当を言うと客をとって寝るだなんて誰しも嫌なことだ。だけどここに来た以上、売られた以上こうして少しでもはやくここからでるためにお金を稼がなければならない。
そうはいっても、自分はこの廓では人気でもないため客が来ないことはしばしばあった。
客入りの時間も過ぎれば売れ残りは部屋に戻ることになる。
俺はトボトボと中庭に面している廊下をあるいていた。
するとカサカサと小さな音がして庭木へと視線を向けるが何もない。

「…なんか、あるのか?ネコでも入ったかな」

こんな所に忍び込める筈がないと中庭に降りて下駄をはいて恐る恐る近寄り庭木を覗き込んだ。

「ぅわっ…」
「しっ、騒ぐな」

そのとたん袖を引かれてそこにいた人間の胸へと倒れ込んでしまった。
(なんで人が!?誰か呼ばないとっ)
口を開けようとするが口を手で塞がれて、密着する胸へスーツ越しに硬い物が当てられた。

「殺されたくなかったら、俺をお前の客だと騙して部屋に連れていけ」
「っ…」

相手の言葉にこの感触が拳銃なんだとわかって慌て頷く。
とにかくそのときはすごく怖かったのだ。
こういうのを不幸中の幸いと言うのだろうか。
自分の部屋につくまで誰にも会わずに来れてしまった。
襖を閉めると男にようやく解放された。

「…なんなんだよ、俺はなにもしてないのに」
「悪いな、こっちは追われてる身なんだ。しばらく匿え」

男が俺を殺すとか言ったのは逃げているからだったからだと気がつけば思わず呆れたようにため息をついてしまった。
(とにかく、殺されなくてよかった)
まだ男の懐には拳銃が入っているだろうが、開放されたことにより緊張が抜けてしまっていた。

「匿うのはいいけど、ここ娼館なんだけど」
「俺が脅してるのに金取る気か、いい度胸してるじゃねぇか」
「そういうわけじゃない…」

男の冷やかした言い方にムッとした。
こっちは外で気ままに暮らすことも出来ないというのに、すごく腹がたった。

「すまん、言い過ぎた。こういうところにくるのは滅多にねぇからな。どうすればいいんだ?」
「買ってくれるの?それなら、蝋燭を買ってきて」

反省したらしい男が謝るのを聞けばこっちのペースに合わせてくれているのがわかってついからかってしまう。
普通、忍び込んだ人間が玄関に行って蝋燭を買えるわけがないのだ。

「…蝋燭って、これか?」
「何で持ってるの?」
「さっきの庭に落ちてたぞ」

懐から出てきた蝋燭に首を傾げて男に聞けばしれっと蝋燭を投げてきた。
まぁ、とにかくこれでこの男は二十分ここに入れる理由ができたわけだ。
俺はさっそくその蝋燭を灯台にさして灯した。

「というか、拳銃入ってるのによくこれも入ったよな」
「は?拳銃なんて持ってねぇぞ?」
「え!?だってさっきオレに突きつけただろ?」

自分から不意に漏れた一言に焦ったが首を振る男に嘘だと言い寄ってスーツに手を当てればその感触は見当たらない。
どうしてだと顔を見るとしてやったりな笑みを浮かべている。

「もしかして、あれがお前に当たってたんじゃねぇのか?」
「当たってたんじゃなくて当ててたんだろ?騙すなんて…」
「俺は拳銃だなんて一言も言ってねぇ」

あの感触が蝋燭だとわかれば安堵で体の力が抜けて男から手を離し、睨みつけるが笑ったままだ。

「暇だな、なんか暇つぶしはねぇのか?」
「暇つぶしったって見ての通り布団しかないけど?」

ひとしきり笑ったあとに辺りを見回して言われた言葉に自嘲気味に言うとくしゃりと頭を撫でられた。

「金払ってないからな、お前がシてって言うならシてやるが…どうしたい?」
「誰がそんなこと言うんだよ。生憎、俺は誰でも腰振るような人間じゃない」

伺ってきた男を侮辱したつもりなのに笑ったまま何か考えるようなそぶりを見せた後、近くに居る俺を引き寄せて抱き上げると徐に布団へと下ろされてこの男も所詮性欲だけの男かと、少し落胆するが容赦なく俺の帯を解いて脱がせられる。

「ちょ、なんだよ。やっぱりシたいんじゃないか」
「ヤるかバカ。たまには、お前が気持ちよくなってみるのもいいんじゃねぇか?」
「は?どういう…ひやっ…んんっ」

少し抵抗を見せるが、押さえ込まれていきなり何の兆しも見せていない自身を口に含まれて思わず声を出してしまい慌てて口を手で塞ぐ。
男の愛撫は容赦がなく、ぴちゃぴちゃとワザと煽るような水音を立ててしゃぶっている。
(あぁっ、もう…無理っ)
一方的に快楽を与えられたことがほとんどないため責められればすぐに感じきってしまい知らず知らずに腰が揺れてしまう。

「やだっ…イっちゃう…あぁ、んっ…ねぇっ…なっ、まえ」
「リボーンだ、呼びながらイけ」
「はぁっ…リボッ…リボーンッ…イく、イくっ…ああーっ…んっ…っ」

名前を呼ぼうとして名前を知らないということに気付いて男の髪に指を通して言うと男は咥えながら名前を言うとそれすらも刺激に変わり一層強く吸われてビクッと体が痙攣して口の中に吐き出してしまった。
リボーンは俺の出したものを飲み干しあまつさえ尿道を穿り出すような刺激に残滓まで飲まれて一気に体の力が抜ける。
ここまでの倦怠感を前戯だけで覚えたことはなく、リボーンは相当手馴れていることが分かる。

「ふっ…ごめん…まずかっただろ?」
「いや、飲めない程じゃなかったからな」

口を拭いながら顔を上げたリボーンと目が合わせられずに言うと、クシャリとまた頭を撫でられた。
リボーンの手は暖かくて自然と瞼が重くなってくる。
それでも仕事は仕事、蝋燭を確認するともう残り少なく火が小さくなり消えかけていた。

「そろそろ時間だな。匿ってくれて感謝するぞ。俺は勝手に帰るからお前は寝ろ、あと最後にお前の名前を教えろ」
「んっ、綱吉…大丈夫、俺が送っていかないと…出れないだろ?」

フェラだけで腰が立たなくなってしまっていることに戸惑いながらも立ち上がると着物の帯を直して蝋燭の火を消す。

「そうなのか?なら、頼む」
「慣れてるのに、こういうとこきたことないんだな」
「ああ、俺の好みってのは早々いねぇからな」

中から嬌声が聞こえる部屋の横を通って玄関に向かいながらリボーンの言葉に呆れた。
そう思う反面これだけ顔がいいのだから、当然なんだろうなと感じる。
(でも、今日だけのこと明日からはまた同じ生活を繰り返すんだ)
客でもない人間がここに忍び込むことなんて本当はありえないこと、次はないだろうと歩きながら思う。
玄関につくと下駄を履いてリボーンを大門へと送る。

「今日は会えてよかった。また俺を選んでね…なんて、客にいう常套文句だけどな」
「言うじゃねぇか。まぁ、気が向いたらきてやるよ、ツナ」

リボーンを無言で送り出してしまうのは少し躊躇われて皮肉混じりに言うと生意気だ、と着物の襟を掴まれたかと思うと引き寄せられ噛み付くような口付けをされた。
周りには自分たちと同じく見送る人たちもいてそれは当然のごとく女性もいる。

「ちょっと、こんなとこでしないでよ。普通のとこのお客さんもいるんだからな」
「俺の勝手だろ、じゃあな」
「……うん」

突き放すように肩に手を置いて離すと少し機嫌を損ねたように眉間に皺を寄せるとぶっきらぼうに言って大門の外へと歩いていった。
その後姿を眺めながら、胸の片隅が痛くなるのを感じていた。

心を奪われたとしても、その人を思うわけにはいかない色子にはそう思っていい資格がない。
運よく想いが伝わったとしても、毎晩のように何度も他の男に開いた体などじきに飽きられてしまうだろう。
俺には、リボーンを想う資格なんてありはしないんだ。



END





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