パロ | ナノ

 化学反応式を証明せよ

「今日の奴だ、しっかりやれよ」
「…なんかセリフだけ聞くとヤクザだよ」
「あ?」
「なんでもないです」

今日も今日とて勉強は相変わらず、けれどなんでか勉強をするということに慣れつつある。
前は、毎日教科書ひらくだけで眠くなったのに今はそんなことないし…。
渡された自家製のプリントに目を通して書きはじめる。
最初に比べれば、わかる問題が多くなってきた。空欄がなくなった。目に見える変化に嬉しくなると同時にまだまだ頑張れそうかもしれないと自信までわいてきた。
二学期も中盤に差し掛かって、中間テストが近付いている。
皆は焦るのに、俺は妙に安心していた。分からなければ聞けば教えてくれる。知らなければ調べ方を教えてくれる。リボーンは先生のようでもお兄さんのようでもあった。

「なんか最近機嫌良いな」
「え?」
「ここにきたときは、お前なんか知らないって顔してたくせに」

問題に答えている途中、リボーンがそんな風に話しを振ってきて俺は思いかえしてそんなこともあったかと思う。
今でもリボーンのことは思い出せないままだ。
小さいころといっても、本当に小さいころの話だったのだろう。
それにあまり印象に残ってないという事はそういうことなんだ。
俺はその考えに行き当たってから深く知ろうとは思わなくなった、どうせ三、四か月の付き合いなのだ。
適当に流してそれでおしまい、という感じならば問題ないと思っていたのだ。

「勉強分かるようになってきたのは素直にうれしいし…」
「そうか、なら次はもう少し問題数増やすか」
「いや、そこまでしなくていいよ」
「遠慮するな、とびっきりの奴作ってくるからな」

にやりと笑うリボーンに俺の笑顔が引きつる。
それをわかってやっているので、何も言えなくなる。
それに、俺だけが楽しいんじゃないとも、思っている。
リボーンだって明らかに笑うことも多くなったし、会話も増えてきた気がする。
俺とリボーンが仲良かったというのもあながち間違ってないのかもしれない。
それを思うと、どうして忘れてしまうぐらい今まで俺に会うこともしなかったのか、気になるけれど、いざそんな質問を投げかけてみようとして口を噤んだ。

「でも、リボーンが作ってくれるならできる気がする」
「そんなこと言っていいのか?また凡ミスしてるぞ、ダメツナ」
「えっ、どこ!?」

楽しそうにリボーンが示してきて、俺はあわててそこを直す。
未だにドジをすることもあるけれど、勉強は分かってきてると思うんだ。
そうして、リボーンは二時間俺を勉強に集中させた後夕食を食べて帰る。
日常になりつつある期間限定の日常。少し名残惜しいと思うのには目を背けて、けれど、そんな日々を大切にしたいと思っていた。



「ただいまーって、今日はリボーンきてない日だった」

思わず全速力で帰ってきてしまい、玄関先に靴がないことを確認して今日は授業の日でないことを思い出した。
自分にあきれつつ、気合入れて帰った自分を恥ずかしく思いながら靴を脱ぐと母さんがひょこっと居間から顔を出してきた。

「ツナ、ちょっと」
「なに?」
「アルバム整理してたら出てきたの、これよ」

母さんが手に持っていたのは写真で、なにがこれなんだとその写真を覗き込むと小さいころの俺と、他に二人の男の子に囲まれてピースしている写真だった。
なんだこれは、と首を傾げたけどそれは当たり前だ。俺はたぶん幼稚園ぐらいのときのものでほかの二人は年上だったのだろう俺とは体の大きさが違った。

「こっちが、リボーンくんよ」
「えっ!?あー、そういわれてみれば」

指で示された男の子はリボーンの面影であるもみあげがくるんとしている。
もう一人の子は同じく近所の子で、引っ越してしまったらしい。

「ツナが幼稚園の時はよく遊んでもらってたのよ?」
「さすがにそんな前のこと覚えてないよ」

子供が自我を持つ前のことなどうろ覚えでしかないのだから、俺の記憶があいまいなのもうなずけた。
けれど、仲が良かったならもう少しいろいろと覚えてそうなのにな…とかすかな疑問が湧いて出る。
こんなにすっかり忘れることがあるのだろうか…まぁ、それほど記憶に薄い印象だったという事なのだろうが…よく遊んでもらったのに変だなぁと俺はその写真を眺めながら思った。

「ほかにも見つけたら見せるわね」
「でも、思い出せないからいいよ」
「どれか一つぐらいは記憶に残ってるかもしれないじゃない」

リボーンと記憶を共有できないのは少し残念だと思うけれど、俺はこのままでも満足してる。
これ以上やみくもに手を出したら、何かを壊してしまいそうで。
けれど、その何かを俺は分からなくて。
だから、わからないままそうっとしておいたほうがいいと思うんだ。
何か背中に冷たいものを感じながら、俺は足早に自分の部屋に入ると今日の宿題を取り出す。
日常に染みつつあるこれも二学期が終わったらなくなるのかな、なんて考えて日課になってしまえばそれも違うんだろうなと思う。
でも、リボーンがいないのは寂しいんだろうな、とふと湧いた感情に驚きながら本心だと思う。

「俺はリボーンとどんな関係になりたいのかな…昔の事、思い出したらそれもわかるのかな…」

そんなことを考えたところで、と思うのに思考は止まらなくて勉強を終えた後も少し悩んでしまった。


続く






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