◎ 幸せ愛歌
起きたら、愛しい人の寝顔が…なんて、そんな情緒も飛んでくほどの笑顔が俺の寝顔を眺めていた。
「な、なに?」
「わかんねぇのか?」
「ひっ…!?もしかして」
ゆらりと揺れた身体。
中を刺激するそれに、俺は信じられないと後ろを向けば予想した通りの光景が広がっていた。
「なんで、なに?」
「さすがに一回で満足できるほど枯れちゃいねぇぞ」
「だからって、入れたままにすん、なぁっ」
寝落ちる前は向き合っていたから俺の身体から一回リボーンが抜かれたのだ。
横から抱かれるようにして後ろから挿入されていた。
もちろん、秘部にはたっぷりとローションで滑りをよくされていて、あまりに多いから股がどろどろで気持ち悪い。
「で、不眠症になった理由を教えろよ」
「ンッ…こんな、状況で!?」
「ああ、俺がすっきりしないからな」
人の寝てる間にいろいろしておいてすっきりしないというのはどういうことだろうか。
こっちだって、すっきりしない。
いや、性欲的にはすっきりしているが感覚的にだ。
「ほら、気持ちいいのは好きなんだろ?」
「ぁ…すきだけど」
ゆっくりと抜き差ししながら、耳元で甘く囁き耳たぶを甘噛む。
そんなにされたら昨日の熱が呼び起こされてしまう。
ダメだとわかってるのに、リボーンの手を拒むことはできなくて後ろから抱きしめるようにされていると全部どうでもよくなっていく。
「で、なんで眠れなくなってるんだ?」
「ふぁ、まだそれ?」
「口を割らせるためにしてるんだ、おとなしく言え」
ゆらゆらと甘やかす声につい、噤んでいた口が開きそうになる。
本当に、口を割ってしまいそうだ…。
いったら、笑われるかもしれない…。
それがこわくて、今まで誰にも話せずにいた。
あまりにも間抜けすぎて、でも、本当に怖い思いをしていたんだ。
けれど、リボーンは動きを止めることはせず抱きしめていた手は俺の胸を優しくなでる。
「つな…」
「…わら、わない?」
「なんで笑う必要がある?」
「間抜けな、はなしだから…ばかだって、きっと思う…っ、ひぁ!?や、なにぃ?」
「俺はどこまでも信用されてねぇみたいだな。ちゃんと言うまで、こうだぞ?」
苛立った様子でリボーンは一度強く突き上げ、いきなりのはっきりした刺激に胸を反らせば乳首をくりくりと指で強くなでまわされ、どろどろの自身をぎゅっと握られた。
「やっ、それ、やぁっ…ぁあっ」
「いうのか?言わねぇのか?」
俺を苛めながらそそのかす声に耐えきれず、いうから、と切れ切れに返事をした。
言いたくないけど、これ以上中途半端に煽られるのは勘弁してほしい。
「前の職場で…無理やり飲まされた挙句、正体なくした俺をレイプした女のせいっ」
「は?」
「朝起きたら身体ぐちゃぐちゃの、どろどろで気持ち悪くて、けどあの女はあんたが誘ったんだっていって、でもそれは絶対ないからウソだろって、もう人が信じられなくなって、寝れなくなった」
「なんで、絶対嘘なんだ?」
「だって、俺…男の人にしか勃たないんだよ?女の身体みて興奮するなんて無理な話だもん」
けれど、俺がしないとできないことも確かにあった。
どうやって俺はあの女を善がらせていたのか、結局思い出せないままだからわからないけど、俺の意思でないことは確かなんだ。
そう思ったら怖くなって、身体に震えがくる。
目を閉じるたびに、女の笑い声が聞こえてくるようで、最初の頃は目を閉じるのすら怖かったのだ。
「いまでは、大分ましになったんだよ。っていうか、寝たいって欲求が来るぐらいには回復してるんだと、思う」
「で、この状況が生まれたわけか」
「そう…寝れなくても、寝たいから。安心させてくれるところだと寝れるのわかったのに…これだもん」
リボーンでしか寝れなくなってしまっては、それこそ捨てられたらトラウマどころじゃない。
「どうしてくれるんだよ…」
「安心しろ、捨てるわけないからな」
潜めた声でそっと言われてしまえば、リボーンを振り返った。
ちゅっと濡れた音を立ててキスをされ、切なくなって手を伸ばした。
頭を引き寄せてもっととねだれば、求めただけキスをされて中のものが再び動き出す。
「んぁ、ちょ…まだ」
「お前が締め付けるのが悪い」
いつ締め付けてていたというのか、わけがわからないまま首を振ってキスから逃げるとシーツを掴み中にいるリボーンを抜こうとベッドをずりあがろうとしたらそのまま四つん這いの体勢に持ち込まれ、腰を引き上げられてますます奥にリボーンをいれてしまう結果となった。
「や、おく、きてて…だめ、しちゃだめ」
「つな、イったら寝るなんて普通はしねぇだろ」
「だって、しかたないだろ。気持ちいいセックスすると眠くなるんだからっ」
「今日はたくさん寝たからな、もう寝ることなんてねぇだろ?」
ぐりぐりと最奥をかき回されて、頭の中がびりびりとした。
シーツを握ったままの手もカタカタと震えて、断続的に中にいるリボーンを締め付けているのを嫌でも教えてくる。
「いや、いやぁ、だめ…ひぃ、もう…でる、でるっ」
「好きなだけイっていいぞ?俺は何も怖いことなんてしないからな」
最奥を突き上げながら、いけしゃあしゃあとそんなことを言ってくる。
なにが怖いことはしない、だ。
今まさにしているではないか、こんなに俺をかき回して、蹂躙して、俺の全部を抱えようとしている。
こんなに甘やかされて、俺がどうにかなってしまいそうで…すごく怖い。
「〜〜〜〜っ、なっ…もう、うごかな…やっやっ、ふぇ、あぁっ…ぁん、やぁん」
「ほらな、きもちいいだろ?」
イってもなお止まることのない律動に全身で感じて、泣きが入るのにリボーンは俺の涙をぬぐって乱れたと息を耳へ吹き込んでくるのだ。
俺は、泣くほど乱れるのに、それが嬉しくて、シーツを握る手をリボーンの手が包み込むように握ってきて、思わず開くと指の股に指を入れて握られた。
そのまま縫い付けるようにされて、自身を押し込んでくる。
もう無理だと泣いて、それなのにリボーンの出したものとローションでリボーンは好き勝手動いた。
「よすぎて、やっ…もう、やだ…ゆるして、ゆうひて」
「俺は昨日からお預け食らってんだ、もう少しだけ付き合え」
握っていた手を解くと顎を掴まれて、無理やりリボーンの方を向かされた。
舌を出せとあまく命令されて、呼吸することで精いっぱいな俺の口にリボーンの舌がはいってきて絡ませる。
全部ひどい仕打ちだと思うのに、どこまでもこの快楽は果てないようで俺の自身も相当なことになっていた。
「シーツも使い物にならねぇな」
「だれの、せい」
「俺のせいだ」
どうせホテルなのだから気にならないのに、そんなことを意識させるリボーンはやっぱり意地が悪いのだと思う。
こんな男に惚れてしまって、俺の人生はきっと散々な目に会わされるのだろう。
でも、どんなことよりも幸せになれる自信も…確かにある。
「ね、もう…もぉ、いかせて…なかに、だして」
「もう限界か?」
いい加減腹の中がぐちゃぐちゃで、明日が怖いと泣けば一度抜かれて身体を仰向けにされ、足を抱えてすぐに挿入する。
顔を覗き込まれて首をかしげるリボーンにこくこくと頷くと、足を持ってろといわれて素直に従うと今まで以上に激しく動かれて、ちかちかとハーレーションが起こる。
「なか、なかに…っ」
「出してやる、安心しろ」
これ以上はしないでくれと言いたかったのに、リボーンに囁かれてしまうと強請るように中が喜んだ。
絡みついて、搾り取るように吸い上げるタイミングで、リボーンは放ってきて、俺もそれに合わせるように白濁を吐き出していた。
「しぬ…」
「あれぐらいでへばるな」
あのあと風呂に入れてあれこれ処理してくれ、すっかり盛り上がって勝手に風呂で入れて、また掻きだすという途方もないループにはまりそうになりながらベッドに戻ってきたときには、恨み言しか言えなかった。
身体は動かないし、何もかも振り切れた状態で自分ではどうしようもなかった。
「隈、すっかり消えたな」
「そう?」
「毎日は無理だろうが、俺も努力してやる。それに、病院にも付き合う」
「え…?」
「そんな生活、早く抜け出したいだろ?精神的なものなら、いざ治してみると時間もかからないかもしれない」
お前が難しく考えているだけで、案外簡単に治るものかもしれないぞ、とリボーンは笑ってくしゃりと俺の頭を撫でた。
俺は、リボーンをじっと見つめていたが、ようやく脳が意味を理解したとき涙があふれた。
「なんで泣くんだ?」
「そんなこと言ってくれたの、リボーンだけだったから」
「俺だけじゃねぇと困るぞ、俺はツナを愛してるからな」
さらりと恥ずかしい言葉を口にするリボーンに恥ずかしいやつだと、泣きぬれた目で軽く睨むとちゅっとキスを落としてくる。
「俺が治っても、一緒にいてくれる?」
俺の一言を聞いた後、無言で頬をつねりあげた。
悲鳴を上げそうなぐらいの力で、いたいいたいと繰り返せば、ようやく解放された。
「お前、それもう一度言ってみろ。今度は殴りつけるからな」
「なっ…」
「俺がお前の傍に居るのは、不眠症を治すためだけじゃねぇ。いずれは、寝るためにするんじゃなく、愛し合うためにするんだ」
「…うん」
「ごめんなさいしろ」
「ごめんなさい」
どうしようもないやつだなと笑って、リボーンは気長に行こうと抱きしめてきた。
本当はリボーンはまだ今日仕事があって、それなのにさっき電話をしていたのを聞いてしまった。
忙しいはずなのに、あとでどうなっても知らないぞと心中で呟く。
それを言葉にしないのは、結局俺もこの腕の中が心地よく、こんな日だからこそもう少しこうしていたいと思っているから。
「本当に意気地なしだな」
「リボーンがいるから、やってもいいかなって思うんだからな」
「はいはい、それでいい」
節操なしで意気地なしって、結構ひどいんじゃないのだろうかと自分で考えて見て見ぬふりをした。
そんなことだって、リボーンは受け入れてくれたのだ。
俺が気にしたところで、また怒られるのだからせめてリボーンの前でだけは考えないようにしよう。
これからのことを考えると、まだ少し不安があったりするけれど、甘く甘やかすその腕にもう少しだけ寄り掛からせてもらおうと笑みを深めたのだった。
END