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 君に完敗


俺がノンケとやらないのは、どうせすぐに飽きて女に乗り換えるんだろうと思っているから。
現に、そんなことは何度かあった。
というか、一度俺とやったことがある男が彼女を連れて歩いていたのだ。
一度だけだったから別に取り合うこともなく、すれ違う程度で気が済んだのだがやっぱりそういうものなのかと思ってしまうじゃないか。

「俺は、男じゃないとだめなのになぁ」

自分の性癖を真剣に考えたことはないが、今女性を抱けるかと聞かれたらたぶん首を振ることしかできないだろう。
俺は、甘やかされて大事にされる優しさを知ってしまった。
一夜限りという制限された中でもちゃんと愛してくれることを知ってしまった。

「おい」
「なぁに?俺は相手待ちしてるんだけど?」

あれから、リボーンは俺がここに立つたびにかいがいしく通ってくる。
あの男といい勝負だということにいつになったら気づくんだろう。

「なんでダメなんだよ」
「俺は一度したら二度目はないんだって」

同じ男と二度は寝ない、これが俺の唯一のルール。
同じ男と何度もなんて、それは恋人がすることだ。それに、俺は俺が寝られるように環境を作ってくれる都合のいい男を探しているのだ。
それに、こうしてリボーンが俺のところに来るから俺はあれから寝られずにいる。
いい加減限界で、そろそろ倒れそうだ。
倒れたらそれはそれで寝られるんだけど、睡眠をとっているわけじゃないからすっきりしないのだ。

「一度も何も、俺はお前を抱いてないだろ」
「……そう、だけど」
「それに、お前顔色悪いじゃねぇか。やらなくてもいいから今日はどっか入って休め」

そんなの休めたらこんなところにいない、リボーンの言葉に逆らうことができなくなって立ち尽くしていると腕をとられて引かれる。

「なんで俺に構うんだよ」
「心配だからだろうが、巻き込まれたけど…気分悪そうなのを放っておけるほど冷酷にできてねぇからな」

意味わからない…結局リボーンに連れてこられたのは、近くのラブホで適当に部屋を選んで入ると、俺をベッドに座らせた。

「寝ろ、隈すごいぞ」
「じゃあさ、寝かしつけてよ」
「は?」
「触ってくれるだけでいいから、して」

まだ寝れないんだと服を脱ぐ。
抱いてもらったら一気に眠れるのだろうが、もうこの際だ。
何でもいいから一回イかせてもらってその疲れに乗じて寝る。

「ちょっとだけでいいから…だしたら、寝れるから」
「…わかった、ベッドに入れ」

きっとリボーンにはどうしようもないやつだと思われてるんだろうなと思ったけど、理由も話してやれる気にはなれず言われるままに、俺はベッドの中に入り、リボーンは隣に添い寝するように寄り添った。
そうして、下肢へと手を伸ばしてくる。
中に入っているから局部は見られずに済んで、これでよかったんだとなんだか安心した。

「ぁ…」
「なめるか?」
「ううん、ふつーに…してくれる、だけでい」

特別なことは何もしなくていいと首を振った。
目を閉じて、指の動きに集中する。
リボーンは自分がするときのようにしているようで、最初は遠慮がちだったけど俺が感じているのがわかってからはその動きを大胆に俺よりも大きい手で包み込んで扱きあげてくる。

「ふあぁっ、んんっ…やぁ、もっと先も…して」
「…こう、か?」
「ん、ぐりぐりって…つよく、あぁっ…」

自然と俺の足が浮き上がって、リボーンの手に合わせるように腰を動かしていた。
リボーンの手が気持ちよくて俺の口からはひっきりなしに声が出て、大して我慢もなく俺はリボーンの手のひらに白濁を吐き出していた。

「はぁ、はぁ…ごめ」
「別に、気持ち良かったらいいだろ?」
「ん、ねても…いい?」
「ああ、俺が適当に拭いておいてやるから寝れそうなら寝とけ」

頭を撫でられて額にちゅっとキスをされた気がした。
けれど、俺はそこまで起きていれなくて重くなる瞼にここで寝なければ機会を逃すと、その睡魔を受け入れた。
ゆっくりと意識が遠のいていく中、リボーンはかいがいしく俺の面倒を見ていてくれたのだと思う。
最後までしなくても寝れる、リボーンの傍はなんでこんなにも心地いいのだろうか。




自然と浮上した意識に俺は目を開いた。
今日は仕事が休みで、目覚ましをかけていなかった。
俺はあわてて時計を確認するが、かろうじてチェックアウトの時間にはなっておらず一安心し隣を見たら、リボーンが寝ていた。

「は?…はぁ!?」

俺は休みだが、この男は違うだろう。
そんな予定すらも俺は知らないわけだが、とりあえずリボーンの身体を揺さぶる。

「…なんだ?」
「仕事は?」
「休みだ、今日は祝日だぞ」
「…あ、そう…ならよかった」

少し眠そうな声で答えたリボーンに仕事じゃないならいいや、と興味を失くしてしっかりと睡眠不足が解消されていることに気づいた。
昨日寝たことですっかり良くなったようだ。
時間としては、十時間ほど寝ていたことになる。十分だなと嬉しくなって、俺は冷蔵庫から水を取り出すと一気に飲み干した。

「おはよう」
「すっきりした顔してんな?」
「うん、よく眠れたから」

リボーンはまだ眠そうにしていて、だらしないなぁと掛け布団をはぎ取った。

「もう時間だから起きて、近くで朝食食べて行こう」
「元気だな」
「うん、おかげさまで」

やらなくても寝れる。
それは一つの嬉しい選択肢ではないだろうか、行きついた結論に俺は決意を固める。
確かに、俺とリボーンは一夜限りというか何もしていない。
だから、俺のルールは適用されないのだ。

「ねぇ、まだ有効なら考えてほしいんだけど」
「……なんだ?」
「リボーンに恋人ができるまでなら、この関係続けてもいいよ?」
「なんだ、それは」
「リボーンモテそうだし、後腐れない方がいいだろ?」
「なら、こっちだって条件を付ける。お前に恋人ができたら離れてやる」

今の生活を続けていれば、俺に恋人なんてできないことはわかるだろうにそんな条件付けていいのだろうか。

「本当にそれでいいの?俺のどこがいいの?」
「お前から話を持ちかけてきてそれを言うのか」
「だって、なんか話がうますぎる…」

きっとこの関係は俺がリボーンを利用する形になってしまう。
しかも、一番大事な情報は隠したままで…。

「まぁ、お前が碌でもない人間に引っかかってんのをみてるよりはましだからな」
「…あのなぁ、これでもあんな面倒なのに引っかかったのは今回が初めてなんだからな。でも、うん…そういうことなら、よろしく?」
「ああ、じゃあ連絡先な」

本当にどうでもよさそうな答えだが、リボーンから名刺の裏にアドレスと電話番号を書いてもらった。
急いで自分のケータイに入力し、こちらからメールと電話番号を送りつけた。

「あの、ね…よかったらでいいんだけど、セックスするより昨日みたいにしてくれたら…嬉しい」
「なんだ、出すだけでいいのか?」
「入れてもらうのも好きだけど、無理させられないし…リボーンがいいときに、して」

本当は寝れるのなら、疲れない方がいいというただのわがままだ。
けれど、リボーンはそれでいいといってくれた。
どうせ男の身体なんて、抱けるわけがないと思っていたのもあるけれど、俺はリボーンの優しさに甘えていたんだ。
ここまで優しくしてくれようとした人はいなくて、どこまで甘やかしてくれるのかと試した部分もある。

「お前の好きにすればいい、ほしくなったらするけどな」
「…う、うん」

欲しくなったら、といわれて一瞬どきりとした。
自分の欲望より他人の方を優先する男でもそんな風に想う時があるのか…と。
けれど、ふと視界に入ってきた時計を見て俺は飛び上がる。

「チェックアウトの時間っ」
「は?」
「はやく出ないと延長料金とられるっ」
「急かすな」
「急かすよっ」

眠そうに仕度を始めるリボーンをあーだこーだいってようやく出た時にはぎりぎりだった。
こんなんで大丈夫なんだろうか…先が思いやられる。

「俺は仕事だからいくぞ」
「さっきないっていったじゃん」
「普通の奴らはな、俺はちょっとやることがある。飯は適当に食う」
「わかった、じゃあね」

情緒も何もない別れ際。
もしかしなくても、俺はまた碌でもない男に引っかかってしまったのではないのだろうかと後悔したのは一瞬。
寝れたのですっきりした頭を振ってみて、体調が戻っているのを確信した。
これから眠りたいときに眠れそうで、俺は知らず笑顔を浮かべていた。

「それにしても、恋人かぁ…くすぐったいな」

自分にはありえない関係だと笑って、少しでもいいから大切にしたいなと思った。



続く





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