パロ | ナノ

 続く再厄



仕事をしていると、唐突にDMがパソコンに送られてきた。
しかも社外からだ。
なんだウイルスか、と少し怪しみながら見てみるとタイトルにツナに近づくなとあからさまな文字が…。
それはつい先日まかり間違っておさわりしてしまったあいつの名前だと気付き、そういう遊びの類ではないと判断した。
開いて見れば、どこから送られてきたのかわからなくなっておりご丁寧に『ツナと別れないと殺す』なんて物騒な文字が連なっていた。

「いつから付き合ってるんだ、俺は」

それはこっちがききたい、と返信したくてもできない相手に向かって一人ごちた。
ツナとの関係はあれ以来ない。
俺はそういう人間ではないし、ツナだってただ遊び歩いていただけだ。
ふいに助けたことでそこからこんなあてつけがましいメールを送られる謂れはない。
が、あの男にはそういう風に見えたのだろう。
厄介なことになったな、と忙しさに付け加えた面倒くささに俺は欠伸をかみしめた。



けれど、なんでか俺の会社まで突き止められている事態に黙っていることはできない。
いつあの男がこの会社に乗り込んでくるかもしれないのだ。ツナに接触を試みた方が先決なのかもしれない。
というか、あいつが原因なのだからあいつに全部の責任を取ってもらう、当然だろ。

「っていうか、どこにいるんだ?」

朝になれば、ツナは仕事だといってホテルを出て行ってしまった。
もうこれっきりの関係だと思っていたせいか詳しくきかなかった自分を殴りたい。
どこにいるかはわからなかったので、この前会ったところに行くことにした。
幸い今日はあの時より少し早い時間だ。

「あれぇ?リボーン」
「…ツナ」

探そうと思っていた矢先現れた、どこかへらへらした男に俺は長いため息を吐いた。

「ノンケの人がこんなところに居たら、そういうの好きな人に狙われるよ?」
「もう関係なくなった、俺はお前を探してたんだからな」
「は?俺?」

きょとんとかわいい仕草で首をかしげるツナにあきれて、腕を引き近くの喫茶店へと入った。
そこはもう夜の雰囲気で人もまばら。
話をするにはちょうどいい環境だ。

「いきなりなに?」
「これをみろ」

俺はパソコンのメールを転送してきたものをツナの目の前にずいっと出してやった。
ツナはそれを見て、ゲッと顔が引きつり俺の機嫌を窺うように上目づかいで見てきた。

「お騒がせ…してます」
「まったくだ、俺は関係ないだろ。なんでこんなことになってんだ」
「さぁ…俺だって、あの人がこんなにも執着してくる人だったなんて…リボーン、あのさ…あの時このかばん持ってた?」

心当たりがないと視線を動かしていたが、ふっと椅子に置いてある鞄へと視線が向けられた。
会社から支給されたもので、会社に行くときはこれを持っていかなければならないのだといってやればハッと気づく。

「これ、エンブレム入ってる」
「身バレしてたか…」
「普通だったらここまで気づかないよ。ただ、あの人サラリーマンだったからこういうのはよく見てたんじゃない?」

やられた、とつぶやくツナは何だか申し訳なさそうに溜息を吐いている。

「ここまで巻き込むつもりなかったんだ、ごめん」
「サラリーマンって、そいつと関係長かったのか?」
「いや、一回寝たぐらい?それで恋人面ってバカだよねぇ」

注文を取りにきたウェイトレスに珈琲を二つ頼んで、同時にため息を吐く。
というか、一回寝たぐらいなのにそこまでわかるもんなのか?

「よく見てるんだな」
「ん、ああ…人間観察っていうの?好きだから」
「ふぅん」
「どうしようか…俺はあいつの連絡先なんて捨てちゃったし、頼りはこのメールぐらいだ」
「このメールだって、返信したら使われてなかったから何か特殊な方法使って送ってきてる可能性が高いぞ」
「うぇ、無駄にそういう知識だけはつけてるのか」

ますます面倒くさいと頭を抱えるツナに、少し同情してしまう。
今現在で言えば、俺への被害しかないがツナにとってはそれが一番許せないことのように思えた。
遊び歩いているようで、しっかりしているんだなと感心してしまった。
いや、感心するところじゃない。

「じゃあ、出てくるまで待ってる?」
「は?」
「あいつ、俺が待ちしてるの知ってるから。俺が立ってたら、また声かけてくるかも」

ツナの言葉に俺は思わず聞き返していた。
そんな危険なことができるのか。

「もしかしたら、殴られるかもしれないだろ」
「でも、こうしないとリボーンに危害がいく。いくら俺がちゃらんぽらんの後ろがゆるゆるな奴だって言っても罪悪感はあるよ、巻き込んじゃったし」
「…なら、俺も行く」
「いいけど、見えるところにいないでよ?」

わかったと頷いて、届いた珈琲を飲み下した。
そうと決まれば早速だ、とツナも準備を整える。

「ふぁ…」
「寝てないのか?」
「いや…うーん、まぁ…仕事しすぎたからかな」
「そんな時にでも遊ぶんだな」
「セックスホリックなかもしれないなぁ」

欠伸をしたツナをよく見れば、隈ができている。
睡眠不足でも遊ぶのが大事なのだろうか。
今の奴らの気がしれない。
それにセックスがそんなに楽しいものだとも思えない。

「俺には関係ないことだがな」
「うん、これが終わったら晴れて俺たちの関係はなかったことにするから」



面倒なことになった。
俺が思ったことはそれの一つに尽きる。
一回きりの関係のつもりが、こんな関係ない人間も巻き込んでしまうとは。
ここまで手こずらせてくれるなら、一回しっかりと話し合わなければならない。
いつもの場所に立ち、来るのを待つ。
リボーンのところにメールを送ったということは、俺のことなんて調べはついているのだろう。
務めている場所はわからなくても、俺がどこで待ち、どの頻度でここに現れるのか。

「やぁ、ツナ。また会えてうれしいよ」
「…よくそんな気軽に声かけられたね」

案の定、ここに立って五分もしないうちに声をかけられた。
リボーンは近くで見ているといったからすぐにわかるだろう。
俺は笑って男を挑発する。

「前付き合ってるって言った男に付きまとってるんだって?ノンケを食う趣味があったんだ?」
「ツナが俺と付き合ってくれるなら、これ以上何もしないよ」
「俺は付き合う気はない、あの男も俺と付き合ってるわけないよあの日初めて会ったんだから。口裏合わせただけ、一人の男と一緒になるつもりはない。俺は、遊んでいたいからね」
「俺と付き合えば、ずっと満足させてやるよ。なんだってやる、縛られたいのがいいなら縛るし、優しくされたいならどれだけでも甘くする。俺はこんなにも気持ち良くなれる相手に出会ったのは初めてなんだ」
「そー、それはそれは幸せな頭デスネ。どんな条件付けられてもダメなものはダメ、俺はその日に出会った運命的な相手に一日限りの関係が一番好きなことだから。そもそも、相手を束縛するような男こっちから願い下げだね」

もう関わらないで、と腕を突っ張ったらそのまま掴まれた。

「だったら、もう君の感情なんていらない」
「ったく、これだから嫌なんだって」

そのまま引かれるのを踏ん張って耐え、逃げようともがく。
けれど、力は確実にこちらが劣っていて思わず口が悪くなる。
やりたくはなかったけれど、これ以上付きまとわれるのは勘弁願いたい。
それに、迷惑料も取らなくてはならないし。

「そっちがその気なら、ちょっとぐらいいいよ、ねっ」
「ぐっ…〜〜〜〜っ」

俺は遠慮なく男の股間を蹴りあげてうずくまって俺の足もとに転げる男の胸ポケットから名刺を取り上げた。

「えっとぉ、へぇ銀行員さん。立派な役職デスコト、このことばらしたらどうなるかな、笹山サン?」

にっこりと笑って男を見下ろす。
視界の端に映ったリボーンには出てくるなと視線だけで言うと、名刺をしっかりとポケットにおさめた。

「この、やろうっ」
「おっと、いいのかなぁ…言うよ?」
「…チッ、最低な奴だな」
「そう、最低な奴なの。だから、もう付きまとわないでね、うるさいよ」

掴んで来ようとした男を避けてなおも言い募れば、力を失くしたように舌打ちした。
俺は笑ったまま、これ以上近づくなと釘を刺してその場を離れることにした。
たぶんこれで大丈夫だ、何かあれば人生がめちゃくちゃになる選択肢など、誰も選びたくないだろう。
ああ、もう眠い…。

「限界かな」

男から離れたところで少し人目につかない場所にいると眠気が来る。
けれど、これでは眠れない。
今日は寝ようと思ってひっかけに来たのに散々だ。

「おい」
「なぁに?これ以上俺といるところ見られたら、言い訳もできないんだけど?」

律儀に俺を追いかけてきたのだろうリボーンに笑って、これ以上かかわるなというのに隣に立った。

「お前は男運が悪いのか?」
「別にそんなつもりはないけど…」
「そんなにやりたいなら、もっと安全な相手にしろ」
「そんなの、初めての人間にはわからないよ」

だからこそ、相手をできるだけ観察して安全かどうかを判断することをしてきた。
それでも、こういうことは少なからず起こってしまう。

「だったら、俺にしとけ」
「いやいや、男なんて無理でしょ?ノンケの人には務まらないから、そういうのはいい」
「なら、試してみればいいんだろ」
「は?」
「とりあえず、今日。このままどうだ?」

リボーンのとんでもない誘いに、俺は戸惑った。
確かに、あの時俺はリボーンとセックスしなくても眠ることができてしまったのだ。
あんなことは初めてで、少しもったいないと思っていたところだったのだから。
でも、そうはいってもだ…普通に女の子を好きになれるリボーンをこちら側に引っ張り込んでもいいのかどうか…。

「だめだって、ためしでもなんでも」
「ツナ」
「だめなものはダメなの」

これ以上は無理だと自分に言い聞かせて、俺はリボーンの傍を離れた。
今日は寝れそうにないようだ。




続く







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