パロ | ナノ

 男の主張

一夜限りの恋、だとかきれいな言葉を使ってるけど結局やりたいだけだ。
発散するためなら金を払ってでもさせてくれる人間にたかる。
口では潔癖な言葉を使いながら、下の口はゆるゆるだったり。
そんな夜の街を俺は今日も歩いていた。

「ふぁ…」

欠伸しながら、マフラーに顔を埋める。
仕事を終えたこの少しのだるさが身体に悪い。
早く一汗かいて眠ってしまいたい。

「今日で三日目か…さすがに寝ないと仕事に影響出始める」

不眠の日にちを数えてげんなりする。
こんな体質になってしまったのにも理由はあるが、医者にもうまく付き合っていくしないね、なんて言われてしまえばどうすることもできないわけで。
本格的に治すとなると通院しなければならず、毎月のように金をとられるのはこの安月給で一人暮らしの身には堪える。
なので、こうするほかなかったというのも正しい。
それに、こうすれば寝れるってわかっちゃったからなぁ…。
寝れるのなら問題ない、寝れないから困っていたのだから。

「君、そっちの人?」
「…うん、そう。お誘い?」
「一緒にご飯どう?」
「うーんと、寝たいからホテルがいいな」
「おーけー、じゃあ近く行こうか」

いつもの場所で立っていると慣れたような男に声をかけられる。
かかった、と笑いながら順序良く運んでくれようとするのをそういうのは要らないと首を振った。
とりあえず、早く寝たい。
ご飯はさっき食べてきたし。
腕を出され、俺はそれを掴んだ。
気さくな人だなと感じて、優しくされるより今日は少し激しくしてほしいなと感じつつ、男が向かうまま近場のホテルへと入った。
男もその気だったようで、入ってすぐにシャワーを浴び抱かれた。
俺の求めたような激しさはなかったものの、絶倫でいつまでも攻めたてられたのはとても気持ちがよかったし体力の限界もすぐに来た。
終わった後身体を清めてくれ、とても真摯に俺を扱ってくれて満足した。

「身体の相性よかったと思わない?」
「んー、そうかも。すごく気持ちよかった」
「ツナがいいなら、今度もいいかな?」
「ヒロシさんは忙しいんじゃないの?」

ベッドでのピロートークも一種のサービスだ。
お金をもらうのだからそれなりの誠意を見せようという俺なりの心づかい。

「どうして?」
「だって、スーツよれよれ。あんなの何日かそのまま、か、一日中歩き回って電車に揺られて皺くちゃになったか、のどっちかだ」

どっちにしても忙しい人なんだろ、と見やれば正解だと笑う。

「こっちにはたまに来る程度何だけど、これ連絡先、呼んでくれたらすぐに来るよ」
「本当?うれしいな…ふぁ」
「眠いの?」
「ん、俺気持ちいいセックスした後だと眠くなるんだ」

ふふっと笑いながら枕に顔を埋める。
別に気持ち良くなんかなくたって、疲れたら眠くなるのだがそこは言葉を綺麗にした方が相手も喜ぶというものだ。
優しい掌に頭を撫でられて、本格的に思考が鈍くなっていく。

「俺は、朝でなくちゃならないからお金はテーブルに置いていくよ」
「ん…わか、った」

それっきり俺の思考は途切れる。


男は隣で眠ったのか、どうしたかはわからなかったがスマホのアラームで俺は目が覚めた。
出勤時間に遅れないようにといつもこの時間にセットしてあるものだ。
よく眠った後の鈍い身体を起こしつつあたりを見回せば一人きりの部屋だった。
寝る前の記憶を頼りにテーブルを見れば連絡先とお金が置いてあった。
俺はお金だけを手に取り、メモはゴミ箱へと破り捨てる。個人情報を保護してあげただけ感謝してほしいものである。

「よく寝た。さて、仕事仕事」

大きく伸びをして、時間まで余裕があるのを見ればシャワーを浴びてしまう。
すっきりとした身体は軽く、またこれで数日は元気に働ける。
俺はホテルを出ると俺の仕事先であるレストランへ向かった。
俺は未成年に見えることもあるが、れっきとした社会人である。
とあるレストランにて、料理もウエイターもする万能人間。
務めた当初はおいしいパスタでも作れたらいいなという軽い気持ちだったのに、周りがアルバイトばかりだったせいもあるが俺が一番の古参になってしまい、人がいないときなんかにはホールに出される。
小さなレストランというものはそういうものだ。
けれど、これはこれでやりがいがあるのでやめられない。
そうして、朝九時から夜の九時までみっちりと働いた後家に帰るのだ。
家に帰ってもご飯を作り寝れない夜を過ごすだけなのだが…。
不眠というのは本当に、目を閉じても寝れない。
起きようと思えば一日寝ないでも平気なのだ、けれど身体に疲れは蓄積される。
だるくなって熱を持ち、寝れないまま一週間過ごしてしまった時は次、目を閉じたら死んでしまうんじゃないかとさえ思った。
その時は、強制的に睡眠薬で眠らされたのだが…。
俺が目覚めた時病院の天井が見えたのは本当に肝が冷えたのだ。
それ以来は、自分の身体をコントロールすることに心掛けた。とりあえず、眠れないときは身体を横たえて目を閉じるだけでもすると少しいい。
それで三日はやり過ごせる、三日経ったら街に繰り出して眠らせてくれる人間を漁るのだ。
その周期を繰り返してもう一年になるだろうか、いい加減このやりかたも飽きてきて、でもさっき言ったように金はない。
離れられないループを繰り返している。



イタリア支店から日本支店へと移動させられてきたのはいいが、この空気は俺に合わないと降りたって五分後に思った。
そして、派遣先での人事にいろいろ口を出していたら本当に合わないと体中から拒否を示し始めた。
俺はこちらの会社の成長を促すために派遣されてきたリボーンだ。
ジャッポーネの空気は合う奴と合わないやつがいると同僚から言われていた通り覚悟していたが、俺にはどうにも合わないようだ。
待遇は思っていた以上にいい、おもてなしだがなんだかの心ですごく心地いい思いをしているが本音を口にしないのはどうなのだろうか。
ゆるゆるな企業戦略から口を出していたら一ヶ月なんてあっという間な気がした。

「ったく、どれもこれも中途半端なことしかしやがらねぇ。もっと強気で攻めてこそだろうが」

会社から支給された鞄を手に、すっかり遅くなった繁華街を歩いていた時のこと。
ここら界隈はそういう人間が多いと聞いたが、まさか自分がこんなところに出くわすとは思いもよらなかった。

「付き合ってくれるって言っただろ?」
「言ってないよ、俺は寝てただけだって。寝言に責任なんて持てないってばっ」
「俺以外と寝ようなんて、浮気だろっ」
「俺は付き合った覚えもないし、俺が勝手にやってることだからっ」

もう離せ、といって青年は中年男の手を振り払おうとしている。
騒ぎの中心だというのに、周りの人間はわれ関せずと通り過ぎるばかりだ。
このままにしておけば、何かがエスカレートしてしまいそうで俺は思わず駆け寄っていた。

「おい」
「あっ、見つかっちゃった…」
「へ?」
「あ?」

俺が声をかけたことで、青年が俺を見て、とっさに口にした言葉に俺は戸惑った。
見つかるも何も俺はお前と面識なんて一切ない。
中年男も俺に注目して、なんだという目を向けてくる。

「ごめんなさい、俺…お前がいないの、寂しくて…浮気じゃないから」
「は!?」
「おまえ、何なんだよ!?」

いきなり始まった一人演技に俺はついていけず視線を外そうとするも、青年は中年男の手を振り払い俺の腕に手を絡ませてきて、耳元で話し合わせてと囁いてきた。
つまりなんだ、俺は巻き込まれたわけだ。
とんだ、芝居上手だとあきれつつも仕方がないのでその話に合わせることにした。

「浮気だろうが」
「だって、何日も帰ってこないお前のせいでもあるっ…俺は、ずっと待ってるのに」
「チッ…埒が明かねぇ、今日は何されても文句言うなよ。それとお前、もうこいつに近づくんじゃねぇ、ぶっころすぞ」

一睨みして男がひるんだのを見ると、俺はそいつを連れて路地へと入る。
が、途中から無理やりつれて行かれホテルの中までいれられた。
一室を借りて、ドアが閉まった瞬間に青年ははぁーと大きなため息とともに靴を脱いで上がるとソファでくつろぎ始める。

「ありがとう、俺はツナ。なんか変なのに絡まれちゃって、本当に助かりました。あなたは?」
「俺はリボーンだ、いきなり巻き込むな。それと俺にそっちの趣味はない」
「あれ?そうだったんだ、ごめんね。いいよ、俺が出すしリボーンも疲れてるだろシャワーでも浴びてくつろいでよ。一緒のベッド嫌なら俺こっちで寝るし」
「疲れてるってなんでわかった?」
「だって、ネクタイ緩めてるし、髪も少し乱れてる、この時間に歩いてるってことは残業してからのお帰り、でしょ?」
「よくみてるんだな」
「人間観察、好きなんだよね」

ツナと名乗った男はふぁと欠伸をして、ソファで眠る態勢だ。
ここで出て行ってあの男が睨みをきかせていることを心配しているのか、だとしたら俺もここにいた方がいいのだろう。
成り行きとはいえ、恋人で、しかもお仕置きプレイを公言してしまったのだから…。
仕方なく、俺はシャワーを浴びて、ソファで寝るといったツナを同じベッドにつれこんだ。

「こういうのって嫌悪してるんじゃないの?」
「別に、寝るだけなら問題ねぇだろ。それとも一発やってからじゃねぇと寝れないとか子供みたいなこと言うのか?」
「……そういったら、してくれるの?」
「しねぇ、我慢しろ」
「案外、けちだね」
「…抜くぐらいなら、してやる」

男の身体に欲情するということはない。
俺は生まれてこのかた女しか恋人にしたことはなく、こういう文化があることは知っているが自分とはかけ離れたものだと思っていたのだから。
けれど、それでないと寝れないといわれれば仕方ない。
巻き込まれついでに、一回ぐらいいいかという物珍しさも相まって、そのまま男のナニを握るということまですることになってしまった。
ツナはおずおずと俺に自分のものを握らせてきた。

「もう勃ってんな」
「ん…我慢できなかったから、自分にするみたいにして…何もしなくていいから、俺がイくまで動かしてて」
「わかった」

なんでこんなことに、と冷めた気持を抱きつつ俺が手を動かすたび気持ちよさそうにするツナは目を閉じてその感覚を追っているようだった。

「あっああっ、りぼーん…ふぅ、もっと…つよく」
「こう、か?」
「あん、じょうず…それ、そのまま…ぐりぐりって、んぁあっ、イく…いっちゃう」

ツナは自ら腰を振って、ぽつりぽつりと指示する言葉通りに動かしてやると乱れ、甘い吐息を漏らし、近くにあったティッシュを急いでとるとびくびくと身体を震わせてイったようだ。
そのまま、俺の手を外してきれいに自分の白濁を拭きとっている。

「ごめ、きたないから…洗ってきて」
「これでいいのか?」
「うん、ねれそう」
「なら、このまま寝ちまえ。俺ももう眠い」
「…変な人、ふつうそっこう手を洗ってるとこ…なのに」
「うるせぇ、眠いんだ」

拭いたんだから別にいいだろ、といえば、俺の言葉なんか聞いていないようで、本人は何の返事もなくくーくーと気持ちよさそうな寝息が聞こえてきた。
疲れていたのかと俺は何の疑問も感じることなくやってきた睡魔に身をゆだねるように目を閉じていた。
このことが大きな事件の発端になるなんて、この時の俺は思いもしなかったのだ。



続く







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