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 それはすべてを覆す


クリスマスまで一週間を切っていた。
刻一刻と近づく時間、けれど俺はこのままでいれるのならそれ以上は何も望まないでいようと決めていた。
日々少しずつ宿題を進めていた日のこと、就寝間際になりだしたケータイに俺はフラップを開いて誰だと確認する。

「獄寺くん…?」

かけてきた珍しい人に首をかしげながら通話ボタンを押した。

「もしもし」
『あ、夜分にすみません。明日、時間があったらデートしませんか』
「…デート?」
『いや、そんな深く考えず、ただの買い物だって思ってくださいっ。帰りはちゃんと送りますから』

突然だな、と考えるが明日はなにも用事をいれてなかった。
どうしようか少し迷って、クリスマスプレゼントを選ぼうと思っていたことを思いだす。
獄寺くんなら何かリボーンの好きなものを知っていそうだ。

「…わかった。いいよ」
『よっしゃ、じゃあ明日一時に公園の噴水前のベンチで』
「うん」
『あっ、一つきいてもいいですか?』
「なに?」
『もし…いや、なんでもないです。すみません』
「え、あ…うん」

それじゃあおやすみなさいませ、と元気よく切れた電話に俺は不思議に思いながらも睡魔に負けて深く考えず明日に備えることにしたのだった。




次の日、俺は時間に追われるようにして仕度をしていた。
少しよく寝すぎてしまったのだ。

「いってきますっ」
「夕食はどうするの?」
「夜までには帰るよ」

声をかけてきた母さんに一言返すと俺は家を出た。
寒くなってきた外気に身を震わせながら待ち合わせ場所へと急いだ。
時間ぎりぎりについて、獄寺くんを待たせているとばかり思っていたが、そこには誰もいなかった。

「あれ…まだ、きてない…?」

待ち合わせには遅れたことがない獄寺くんのことだから、少し心配であたりを見回した。
でも、みあたらなくて少し待ってみようとベンチに座る。
回りは冬だというのに遊ぶ子供がいて、この寒さによく駆け回れるなとなかばあきれつつその光景を眺めた。
待ち続けて、十分が経とうとした時だ。後ろから聞こえた声に俺は持ち上げかけた腰を沈めた。

「で、何の用だ?」
「十代目のことについて、なんですけど…」

聞こえた声はまぎれもなく、リボーンと獄寺くんのものだ。
なんで俺のことについて話しているのか、と俺は自然と耳をすましてしまう。
ちなみに、二人がいるのは垣根を挟んで後ろの道路に面したベンチの方だ。
こちらからだと声は聞こえるが、姿は見えない。
たぶん向こうからも同じことだろう。
っていうか、獄寺くんは今俺のこと十代目って言った。
リボーンはそれで通じてるし、どういうことなんだろう。
俺は少し嫌な予感を覚えつつ、二人の話に耳を傾けた。

「その話をここにしにきたのか?」
「大学じゃこんな話できませんよ」
「ったく…早くいえ」
「もうばらしちゃったらどうなんですか」
「くどいぞ、俺は決めたら実行する」

リボーンが面倒くさそうにつぶやいた。
きっとこの話になるのは何度目かのことなんだろう。
そして、そのたびにリボーンはこのことを知られないようにしていたのだ。
それはつまり…。

「覚えてるのに忘れたふりなんて、人が悪すぎますよ」
「俺は別に楽しんてやってるわけじゃねぇ」
「俺には楽しんでるようにしか見えません」

十代目がかわいそうだとおもわないんですか、という獄寺くんの追及は俺の頭に入ってくることはなかった。
リボーンは、最初から忘れてもいなけば俺と初対面でもなかった…。
その事実を知った俺は正直どうしたらいいかわからなくなっていた。
だって、忘れたふりとか…そんなの…。
まるでこのまま忘れて別の恋人を作りたいようにしか聞こえない。
だめだ、これ以上は聞きたくない。
どうして、獄寺くんがこのシチュエーションを用意したのかわからないがとてもじゃないけどこれ以上は聞いていられなかった。
どうしてそんなみじめな話を聞かなくてはいけないのか。
こんなことなら、ずっと隠しておいてくれた方がよかったよ…。
もしかして、これこそが獄寺くんが用意したシナリオなのかもしれない。
リボーンをあきらめさせて、そして俺が獄寺くんを好きになる…そんなの、ありえないのに。
俺にとって、0か10しかないのだ。
リボーンが俺のことをそういう目で見られないというのなら、俺は今後一切誰とも付き合うことなく一生を終えるのだろう。
それでいい、それ以外の選択肢はいらない。

「っ…」

俺は嗚咽を漏らしそうになって自分の口を手のひらでふさいだ。
子供の身体はコントロールが難しい。
これぐらいの感情の突起は抑えられたのに、たやすく涙が流れる。
視界が揺れて、身体もふわふわと揺れて心許ない。

「なんだ、この計画を降りるのか?」
「俺だって十代目が好きなんです、あんなに苛められて悲しんでる十代目を見ているのは辛すぎて、俺には耐えられませんっ」
「なら勝手にしろ、ただしツナには言うなよ。まだ知られちゃならないんだからな」

何が知られてはまずいのか。
俺が後ろで聞いてるにもかかわらず話が進んでいく。
俺が必死にリボーンの気を引こうとしていたのも、俺が元の俺だって知っててその反応を楽しんでいたんだ。
どうしてそこまでされなくちゃならないんだろう。
俺は、好きでまたあえてうれしかったのに、リボーンはそうじゃなかった…?
俺がした選択肢は、やっぱり間違いだった…?
俺は独りよがりだったんだろうか…。

「このこと、ばらしたら十代目がどんな風に想うのかもわからないんすか?」
「わかるさ、こんなこと知ったらたぶん幻滅するだろうな。でも…」
「おにーちゃん、どうして泣いてるの?」
「っ…」

リボーンの言葉の続きを聞こうとしたら、目の前に男の子が立っていて俺の顔をじっと見つめていた。
俺はあわててなんでもない、と言葉にしようとしたが男の子は仲間に呼ばれて戻っていった。
安心したのもつかの間、後ろから声が聞こえてこないのに俺は怖くなってゆっくりと振り返る。

「ツナ…」
「…リボーン、俺…騙されてたんだ」
「そうじゃ…」
「初対面も、飴も、勉強も…今ならわかるよ」

初対面の時、どうして幼く見える俺を戸惑いなく中学生だと当てたのか、飴も俺との過去を知っていたから、勉強も同じことを繰り返している…リボーンの発言に疑問を抱くところはすべてそれでつながるのだ。
悲しいことに…。

「おい、獄寺どういうことだ!?」
「もういいよっ、俺は付きまとわないし…リボーンを好きなのもやめる。もう、かかわりもないことだし…ありがとう、それだけ言わせて」

俺は言いたいことを全部言い終えるなり、立ち上がった。
さっきは立ち上がることもできなかった足は、信じられないほど軽く走り出している。
思えば逃げてばかりだなと自嘲気味に笑って、立ち止まった時には誰も来ていなかった。
当然だ、だってリボーンは俺を突き放したかったんだから。

「あーもー、ばかみたいだ」

いや、馬鹿なんだろう。
俺は生まれ変わってもずっと好きだったなんて夢物語がまかり通ると思ってしまったんだから。
その日は友達の家に泊まることになったと言い訳をして家に帰らなかった。
帰れなかった。
真っ赤に腫れた頬を隠すようにして誰もいなくなった後同じベンチに座る。
こんな夜更けに未成年が、と補導でもなんでもされればいいと思ってたのに、結局夜が明けてもそれはなかった。
ただ、リボーンがいたその場所に座って、涙を流し…次の日には案の定風邪をひいてしまった。
幸いもう冬休みで、外に出なくてもよくなった俺はクリスマスもこれで終わってくれるという安堵を胸に抱いていた。



続く







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