◎ 耳馴染むは君の声
年越し前にと、俺とリボーンは集まった。
二人で何をするかといえば、いちゃいちゃするわけでもなくパソコンをテーブルに置き、生放送をすることだった。
「はーい、みんなお酒持ったー?」
「飲めないやつはジュースだぞ」
ぷしゅ、と二人で酎ハイの缶を開ける。
画面から流れるコップ持った、とか準備万端、のコメントに合わせて年越しと同時に乾杯と声を上げた。
俺はリボーンと缶を合わせて飲み始め画面越しとはいえ、みんなで年を越せたことはうれしく思える。
「はぁ、おいしい」
「ツナのはカシオレだな。俺はグレープだ」
俺の代わりにリボーンが解説して、適当に時間つぶしでゲームで対戦してみたり、なかなか楽しめたと思う。
けれど、思いのほか俺は酒に弱かったようだ。
途中何が起こったのか記憶になくて、リボーンが慌てて生放送を切っていたのを見たとたん、俺は暖かい電気絨毯の上で眠っていた。
寒さに目覚めると、リボーンのベッドの上だった。
俺は上半身を起こし周りを確認する。
「いつの間に寝たんだろ…っていうか、なんで寝ちゃったんだろ」
予想していたことが起こってないないことに若干の後悔をしながら俺は欠伸をした。
そういえば、昨日初詣で行こうといっていた。
外を見れば静かで、たくさんの人が昨日のうちに参拝を済ませたんだろうと予想した。
「ねぇ、リボーン起きてよ」
「ん…なんだ?」
「初詣で行こう」
「…昨日は勝手に寝やがって」
「あ、は…いたいいひゃい」
だんだん頭が起きてきたのか、突然手を伸ばしてきたかと思えば俺の頬を痛いぐらいにつねりあげられた。
声を上げるが、リボーンは聞いてくれない。
というか、本当に痛くて、腕を掴めばようやく離してもらえた。
「痛かった…」
「ったく、のんきに寝やがって」
「なに、俺昨日なんかした?」
「覚えてないのか」
「…ハイ、まったく」
あきれたリボーンの声に心配になり、不安げに見つめるとリボーンが俺の頭を引き寄せてきていきなり耳元に唇が触れて、びっくりするがそれに言葉が続いた。
「お前、昨日俺の恋人宣言したんだ」
「…はぁ!?」
「よっぱらって覚えてないなら都合がいいな。ちなみにタイムシフトも消してきた。あれは黒歴史だ」
「…ご、ごめん」
昨日のあれにはリボーンのファンもいて、もしかしたら変な噂が立ってるかもしれない。
そう思ったら身体が震えて、俺は身震いした。
「ツナ?」
「リボーンが悪く言われたらどうしよう。リボーン」
「そんな顔をするな、ほらもっとこっちにこい」
思わず泣きそうになってしまえば引き寄せられて、抱きしめられる。
ぽんぽんと慰めるように背中を撫でてもらうと自然と呼吸も落ち着いた。
「大丈夫だ、みんなからすぐに切った方がいいといわれて、切って。ツイッターでもフォローしてくれてたようだからな。出回ったとしても、単に噂だといわれてすぐに冷めるだろ」
「うん…」
「心配しなくていい、もし何かあったとしても俺はちゃんと守る」
「そこまでは…」
「それに、昨日のそれで喜んでたのは俺だけじゃなくてリスナーもだからいいんじゃないか?」
「は?」
「お前のところのリスナーはそういうやつらが多いだろう」
リボーンはくすくすと笑いながら俺が落ち着いたのがわかったのか身体を起こして、服を着替えはじめる。
「初詣で、いくんだろ?」
「うん」
振り返ってにっこりと笑うリボーンに俺も頷いて俺もベッドから出る。
俺は昨日のままの服装で、リボーンからマフラーを借りた。
「寒くないようにしろよ、冷えるからな」
「ん…リボーン、お母さんみたいだ」
「…こんなことをするやつが、母親か?」
俺が面白がっていえばちゅっとかわいらしいキスをした。
驚いて、俺はぶんぶんと首を振る。
こんなことをしていいのは、恋人だけだ。
といっても、お母さん、なんて冗談で言ったつもりだったのに。
「大丈夫だよ、リボーンはちゃんと俺の恋人だから」
「当然だ」
満足げに頷くのを見れば、やっぱりそういってほしかったんだと俺はつい笑ってしまった。
「じゃ、行こうか」
リボーンが準備できたのを見て、玄関に向かう。
靴を履いて外に出ると、寒さに身を縮ませる。
一歩外に出ただけなのにもう戻りたくなるが、リボーンは行く気だ。
いや、行く気だったんだけど…ほら、俺といえば結局オタクに毛が生えたようなものだから…。
「なにのろのろしてんだ?」
「ん、うん」
先を歩くリボーンに遅れないようにと後を追った。
寒さが身に染みるが、二人で初詣でに行こうと約束していたので仕方ない。
それに、俺が誘ったんだしな…。
ただこんなに冷えてるとは思ってなかったんだ。
「帰ったらうどんでも作るか」
「お雑煮じゃないの?」
「もちがねぇ」
「なら仕方ないか」
もちがないなら仕方ない、と俺は笑ってリボーンの隣を歩く。
やはり元旦というだけあって、神社に近づくにつれ人が増えていく。きょろきょろと周りを見れば、迷子になるぞと手を引かれた。
境内から列ができてて、年末のあのイベントを彷彿とさせてしまう。
さすがにもう行こうとは思わないが、ツイッターなどでその噂はよくきくからだ。
あれに比べれば、かわいいものなのだろうが俺にとってはこの人ごみですら少し気が引けてしまう。
「う…」
「どうした?」
「いや、実はですね…人ごみがあまり得意じゃなくて…」
イベントごとならまだいいのだが、こういういろんな人が自分本位で動く人たちを前にすると少し気が引けてしまうのだ。
俺には元旦の初詣でというものは少しばかり早かったようだ。
「ここまで来たんだ、行くぞ」
「え、えー」
「ここで怖気づいてどうする」
リボーンは半ば強引に俺の手を掴むと列の最後尾に並んだ。
回りがすぐに人で覆われて俺たちはちょうど列の真ん中に入れられてしまった。
四方からいろんな声が聞こえてくる状況に少し戸惑うが、隣にリボーンがいるんだと思うとそんな気分も少し和らいだ気さえする。
「少しずつ進むだろ、話してれば境内まですぐだぞ」
「でも、周りが気になって…」
「なら、気にならないようにするか?」
詰め寄るように顔を近づけてきたリボーンにあわてて顔を逸らせる。
「そ、それはいいからっ」
「冗談だ」
くすくすと笑いながら言われて俺はとたんに恥ずかしくなった。
それで余計な緊張が和らいだのか、リボーンの話を耳に入れることができるようになっていた。
話した内容といえば、他愛ない話ばかりで今後の活動方針やら俺の曲の進み具合など聞かれたことに答えるばかりだったが…。
あっという間に先頭にたどり着き、二人で賽銭を入れ手を合わせた。
目を閉じ、思い浮かべるのはリボーンのことだ。
これからも一緒にいれるのだろうか…こうしてリボーンと一緒に来年、再来年とここにくることがでるか。
一緒がいい。
こうして、何かのめぐりあわせのように会うことができた。
今度は、離れないようにその手を掴んでいたい。
顔を上げるとリボーンと目があった。
「おみくじ、しようよ」
「ああ、そうだな」
どうしようもない俺の傍に居てくれるのなら、俺は俺のできる全力でリボーンの隣にいることにしよう。
今度は俺からリボーンの手を取り、引いた。
END