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 賭けをしましょう


リボーンを見つけて浮かれかけた俺だが、結局リボーンから逃げてきてしまって、しかも数少ないチャンスだったため大学に行ける機会を失くしていた。
初めてリボーンを見つけてから二週間が経過していた。
半分あきらめかけていた俺にやってきた一筋の光。
中学から大学まで歩いて三十分もかからない場所にあるというのに、こんなにも遠いと感じてしまうなんて…。

「どうやったら会いにいけるのかな」

父さんのお弁当は本当に偶然だ。
そして、リボーンがあそこにいたのもそれまた偶然。
年齢もいる場所すらも、近いのに遠い。
他に何かないかと考えてみるが一向に思い浮かぶことがない。
俺は二週間ただこうして、教室の窓から大学の建物を眺めて想いを馳せるほかなかった。
いろんな偶然が重なって会うことができた、そしてその偶然が、その週の土曜日また起こったのだ。

「これ、父さんの?」

椅子に立て掛けておかれていた封筒。
宛名もないそれは、きっと中には何かの資料が入っている。
手に持って母さんに聞いてみれば、見おぼえないわねぇと首をかしげた。

「朝持ってた気がするし、私のではないからきっと父さんのね、ツナ」
「わかった…言ってくればいいんだろ」

仕方ないといった風につぶやく、母さんはお願いねと嬉しそうだ。
俺もうれしかった、こんなところにチャンスが転がっているなんて。
俺ははしゃぎたくなる気持ちを落ち着けて服を着替えると大学へと向かった。
今日もリボーンがいるとは限らないけれど、探せば見つかる気がした。
なにかで、俺とリボーンは引き寄せられている。
そう思わざるおえないほど、期待通りに事は運んでいた。




この前と同じようにして校内へと入り込む。
最初に父さんのほうの用事を済ませてからだ。
部屋に入るとパソコンから顔を上げた父さんが振り返る。

「すまないな、忘れてばかりで」
「ううん、お疲れ様」
「これがなくて困ってたところだったんだ。ありがとう、ツナ」

俺は笑顔で父さんと他愛ない話をして、ひとしきり話をすると少し中を歩いていいかと聞いた。
どこかで見つかって、もし何かあったら父さんに迷惑がかかるから。

「ああ、たぶん生徒もそんなにいないだろうから。でも、あまり派手に出歩くなよ?」
「わかった、そっとね」

そうだ、と頷いたのを見てから俺はそっと部屋を後にした。
どうやら土曜日に出てきている生徒は限られた人たちだけのようだ。
俺も大学へはいったけれど、やっぱり学校ごとに少し違うらしい。
きょろきょろとあたりを見回しながら校内を歩く。
自分の身体が小さいから何もかも広く大きく見えて新鮮だ。
それがだんだんとなくなっていくのかと考えたら少し憂鬱なのだが、今はそれよりリボーンを探す方が先だ。
廊下という廊下を、散策を理由に歩き回った。
生徒も少なく俺に気づくが話しかけられることはなかった。

「リボーン、いないみたいだ」

一通り見て回ったがとうとうはち会うことはなかった。
どうしたものかと迷っていると、上から声が聞こえてきて顔を上げた。
ちょうど上が吹き抜けになっていて廊下をあるく生徒が見える場所だったのだ。
そこに、リボーンはいた。
俺ははじかれたように近くの階段に走っていた。
今度は逃げない、今度こそは、リボーンに確かめてみないと。
はやる気持ちを抑えてリボーンがはいっていった購買のその奥、食堂につながっているそこにリボーンはいた。

「リボーン…ほんものだ」

今は一人なようで、誰かを待っているらしく珈琲を飲みながらケータイを見ていた。
俺はそこに近づいて行って、テーブルに手をかける。

「あ、の…」
「あ?お前、部外者か?」

けれど、リボーンから発せられた言葉は俺の予想を裏切った。
確かに偶然にしては出来過ぎていたかもしれない、俺とリボーンはまた惹かれあっているなんて…そんなこと。
でも、リボーンは俺の顔を見ても何も思わなかった、その事実を突きつけられた瞬間だった。
俺は、それ以上何も言えずこくりと頷く。

「まよって…しまって」
「どうみても中学生か?なんでこんなとこにいるんだ」
「父さんが、助教授していて…」
「ったく、迷子かよ」

面倒くさいと呟くリボーンの言葉が俺の胸に冷たく突き刺さる。
もちろん、冷たくされたからではない。
リボーンが、その記憶から俺の存在を消してしまっていた事実に、だ。

「少し待ってろ、今人待ってんだ。そいつがきたら、そこに連れてってやる」
「ありがとうございます」

リボーンは何やらメールのやり取りをして、その次にかかってきた電話で一言二言話した。そうして待っていると、目的の人物がやってきたのか、リボーンは珈琲を飲み干して視線を向けた先、俺も目を向けたらそこにはこれまたよく知った人物が。

「じゅっ……リボーンさん、この子は?」
「…なんか迷子だと。お前案内してやれ」
「えっと、はい…わかりました」
「俺はここにいるから、早くしろよ」

われ関せずと興味を失くされたことに傷つかなかったのには、目の前に現れた人物にある。
俺はその人に背中を押されるようにして食堂を出ていた、廊下まで来て周りを確認したのち俺と視線を合わせるために少しひざを折る。
少しだけ、いらっとした。

「十代目っ」
「うるさいよ、獄寺くん」

案の定な反応に俺は安堵とともにあきれた。
じゅっと言いかけたのは、やっぱり十代目っていおうとしちゃってたんだと忘れられていないことにうれしくなってしまった。

「十代目は記憶、あるんスね」
「ってことは、リボーンはないんだ」
「はい、俺があった時もあんな感じで…っていっても、視界にもいれてもらってなかったんですが…」

少なからずショックは受けていたらしく、少し歩きながら話しましょうと言われて頷いた。
獄寺くんは俺とリボーンの関係を知る数少ない人間だ。
他には、雲雀さんや骸あたりが知っていた気がする。
まぁ、ほかの人も雰囲気でわかっていて口を挟まずにいてくれたこともあるだろうが…。

「あの人の傍に居れば十代目は必ず現れると思っていたんですよ」
「うん」
「でも、このことをいち早く伝えなければ…と」
「…うん。獄寺くんは、俺のこと嫌いにならないの?」
「なんでっすか?」
「だって、みんなをおいて死んだボスだよ。普通、恨んだりするだろ」

俺がそういえば獄寺くんは頬を掻いて少しだけ、恨みましたと白状してくれた。
リボーンも雰囲気はまったくかわらず、獄寺くんも同様だった。
あの頃より落ち着いているとはいえ、シルバー系のアクセサリーには気を遣っているみたいだ。

「でも、もう生まれ変わってしまいましたから。まぁ、一番危なかったのは骸でした」
「あいつは、どうなった?」
「荒れに荒れて、結局消息が分からなくなってしまってあのあとはわかりませんでしたが、生まれ変わってあいつもこの大学に居ます」
「えっ!?」
「俺と目があったとたんものすごい勢いで来た道を帰るほど避けるのをみれば、あいつにも記憶はあると思います。ただ、もう関わり合いにはなりたくないみたいですけど」
「だろうな…骸らしい」

苦笑すれば、仲間はそれぐらいだと教えてくれた。
世界は広い、ここに四人も集まっていること自体稀だろう。

「それにしても、十代目が中学生ですか…そういえば、俺と初めて会った時とかわらないですね」
「…なんでここで時差が生まれたのか俺が一番知りたいよ」

生まれ変わりとは予測できないことだと骸も言っていた気がする。
それよりなによりリボーンのことだ。
覚えてないとなると、俺との約束は果たされないのだろう。

「十代目」
「綱吉って呼んでよ。もうボスじゃない」
「ツナさん、リボーンさんのことはあきらめるんですか」

獄寺くんから言われた直球な言葉に、俺は唇を噛んだ。

「あきらめられるわけ、ないだろ」
「じゃあ…」
「でも、俺にはどうすることもできない。リボーンに記憶がないってことは、さっき会ったあれが初対面。いくらリボーンが男も女もいけたとしたって中学生なんて相手にしないだろ」

こうなってしまえば、どうしても無理だ。
そう思えば思うほどやるせなくて、涙がにじむ。

「だったら、俺がもらってもいいですか」
「…へ?ご、獄寺くんリボーンが好きだったの?」
「いや、そっちじゃなくて…こっちの、つもりなんデスが」

そっと手を取られて、俺は驚きに目を見開いた。
獄寺くんは優しい顔で、俺を見つめていて戸惑う。
それは、言われなくてもわかった。
でも、俺はリボーン以外見てこなかった。リボーン以外、いらなかった。
リボーン以外の世界なんて、今でも考えられない。
俺は俯いて、首を振った。

「冗談、きつい」
「冗談なんかじゃ、ありません。俺は、あのときからあなたが好きでした。リボーンさんといるときのあなたは本当に魅力的で、それが俺に向けられればと…思っていました」
「むりだよ。俺は、今でもリボーンしか頭にないんだ」

ここまできたのも、リボーンがいたから。
正直、こうして獄寺くんとここにいることも自分に違和感があるほどだ。
そんな自分にあきれるけれど、もうあのボスとヒットマンという関係はなくなった。
俺たちを縛るものは、何一つないはずだったのに。

「俺は、あいつしか、だめなんだ」
「だったら、賭けをしましょう」
「賭け…?」
「クリスマスまでに、リボーンさんを惚れさせられなければ俺のものになってください」
「そんな…」
「リボーンさん以外考えれないんでしょう?だったら、白黒つけてください」

獄寺くんの言葉に迷って、でも迷っている暇もないと思いなおす。
どちらにしろ、俺はリボーンをあきらめられないのだ。
何らかの形で俺はリボーンに会いたくなるだろう。
ここで、獄寺くんという機会を逃してしまっていいのか。
とっさに思ったことは利用することだった。この賭けに乗れば確実に動きやすくなるだろう。
それは、獄寺くんもわかっているようだった。
自分をおとりに、俺の逃げ道をなくそうとしている。

「わかった、やる」
「じゃあ、交渉成立…ですね」

ぎゅっと手を握られて、こんなにも手の大きさが違うのかと実感した。
中学生という俺の身体は、見る人が見れば小学生とも見間違えるぐらいに幼かった。
身体も、未発達で早くしろとおもうけれどそこは流れに任せることにしている。
リボーンは、もう大人で恋人も作ろうとすれば作れる…。

「おい、いつまで待たせる気だ、ばか寺」
「はいっ、すみません」
「つか、早く届けてこいその迷子」
「はは、ちょっと話したら楽しくて」

今はもう少し離れているべきなのかと、ぐいぐい背中を押して引き離そうとする獄寺くんに連れられて、俺は大学から出ることができた。
獄寺くんは別れ際にアドレスを教えてくれて、会いたくなったらメールくださいと笑った。
それは、リボーンにだろうか…それとも。

「クリスマス…か」

十月の終わり、時間もなく追い詰められていると感じるのに、これが最後のチャンスとばかりに俺の胸を掻き立てる。
これで無理ならあきらめろ、それこそ無理なんだよ。
だから、俺はこれから死に物狂いでリボーンにアプローチしなければならないのだ。
俺は大きく息を吸って、決意したように空を見上げた。



続く






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