パロ | ナノ

 受け入れるべき最期の時


燃え盛る炎、安全装置はすべて切ってあるから本来なら稼働するはずの消化シャワーでさえも今はなすすべもなく炎に呑まれている。
いくら、正しいと思っていても結局俺は自分の手を悪に染めていたのだ。
どうやっても、マフィアというものは恨まれる存在であり、消されるべき集団。

「もう、みんな逃げれたかな」

俺は逃げ道のなくなった執務室で小さくつぶやいた。
外には逃げてきたと思われる人影が見えるが、それもおぼろげでこの屋敷全体が炎に包まれていることを教えてくる。
熱い、秋の乾燥した時期に火を放ったから回りが早く炎に包まれたのもあっという間だった。
でも、これでいい。
この屋敷には俺とあと…もう一人。

「…ばかつなが」
「バカでいいよ」

体中を弾丸で貫かれ、もう動くことはおろか呼吸することもままならない男は、それでも俺をにらみながら恨み言をかすれ声でいう。
俺は隣に座って、その身体に身を預け血だらけのリボーンの手を握りしめた。
もう握り返すこともないその手は、指先がピクリと動いただけだ。

「ごめんな、俺のせいで…こんなになって」
「あ、やまる…な」
「ううん、今までいろんな言葉を飲んできたけど…もういいから。全部言うよ」

リボーンがこんなことになってしまったのは、俺の判断ミス。
甘い甘いといい続けたこの家庭教師の言葉通り、仲間の反逆とその内通者のおかげでこちらに乗り込まれて、リボーンは俺の盾になった。
もちろん、周りはもう生きていないその敵どもだ。
リボーンが撃たれた瞬間、俺はすべてをなぎ倒していた。
力はもちろんこちらの方が当然強かった。けれど、こちらの被害も大きかった。
大本は倒したのに、いろんな場所で殺し合いが行われて守護者には直ちにここから出ていくように命令した。
逆らった人もいたけれど、無理に押し切って外に出した。
そうして、俺はこの屋敷に火を放ったのだ。

「俺には、やっぱり無理だったんだ。非情になることも、みんなから頼れるようなボスになることも…全部」
「おれは、まちがってたってことか?」
「違う、俺が…俺が、リボーンだけのものになりたがったからだ」

この家庭教師という男に俺のすべては奪われた。
それなのに、ボスであれという。
立派になれという、リボーンに俺は心が苦しくなるばかりでリボーンの命を死に追いやろうとしたとき俺の頭をよぎったことは、すべてを失くしてしまえばいいという自己中心的な考え。

「俺は、リボーンだけがいればなにもいらなかったよ。だから、俺はもうなにもいらない」

この手にリボーンがいるのなら、もうそれ以上何も望まなくていい。
こんなに身勝手でごめんねと小さく言えば、リボーンの口からはもう音にならない空気が漏れて耳に吹きかかる。

「おこらないで、俺はリボーンがほしかっただけなんだよ…リボーンだけになっちゃったんだよ。ねぇ、リボーン俺ってホント自分勝手だよね」

だから、ごめんね。
もう届いているかもわからない呟きを繰り返すとリボーンはごほりとむせる。
火もまわってきて、あとは崩れるのを待つだけだ。

「お、まえは…っとに、バカツナだな…でも、そんなお前が…好きだ」
「リボーン…」
「まぁ、次があったら…こんどは、ちゃんと…あいしてやる」

リボーンの声にリボーンを見ると薄い唇が重なった。
血の味がする、最期のキスは今までしてきたものより拙くて物足りなかったけれど、一番幸せになれた瞬間だった。
こんなに素直になれたのは、久しぶりだ。
最近ずっとすれ違いばかりで、どんどん荒れていくばかりの毎日、正直もう終わってしまっていたのかと思っていた。

「ん…あいして」

震えた声に返事はなく、先に行ってしまうなんて寂しいなと苦笑した。
けれど、もうすぐそこにいけるから。
次は、マフィアなんて関係ない世界で出会えるといいな。
会えるかは、わからないけれど…。

「さよなら、また…あとで」

それを最後に俺は目を閉じた。




目を開けると、朝日が差し込んでいた。
まぶしすぎるそれに、カーテンひきわすれてたと手を伸ばすが、すぐになりだしたケータイのアラーム音に結局その手は下げられた。

「また、あの夢か…」

今見たことは実際にあったことだ、夢なんかじゃなく…本当のことで。
俺は、なぜか記憶を持ったまま生まれてきてしまったらしい。
あの頃遊びで骸に聞いたのだが、前世の記憶を持って生まれてきてしまうことはよくあることらしい。
けれど、その大半が子供の幼少期の時にすべて記憶を整理し忘れてしまうのだそうだ。
でも、俺は忘れる様子がないどころか年々いろんなことを思い出す。
あの日常ではいろんな人に囲まれていたこと。
ボスでありながら支えられ、助けられ…みんなも憎まれ口をたたきながらも楽しくしていたこと…。
思い出すのは全部楽しかったことで、近くにいてくれたリボーンのことだ。
中学生になった俺はリボーンを探し始めた。
出逢えるとは思っていない。まぁ、でもいたらうれしいぐらいだ。
この世界にいるのかもわからないし、リボーンが俺のように記憶を持っているのかもわからないから。
今の生活を大切にしているのなら、それでいいと思った。
でも、あんな夢を見てしまうと期待してしまう。
ここは、あんな悲惨なことも悲しいこともない世界。
平和で、みんなが笑っているそんな、世界。

「リボーン、お前は今どこにいるの…?」

ボスとヒットマン、そんな関係なのに恋人なんて公言もできなかった。
プライベート以外はほとんど仕事に関係あることばかりで。
たまの休みには、外に買い出しだと護衛代わりについてくるリボーンとデートまがいをしたぐらい。
まったく甘くなかった。
プライベートでもボスらしくいろとリボーンは言ったし、俺もそうするように自然と心がけていた。
身体の繋がりさえも、最後にしたのはあの日から半年以上も前のことだった。
キスも、久しぶりで…そこまで考えて視界がにじんでくるのを俺は何度も瞬きして鮮明にしようとしたが結局泣く羽目になってしまった。

「終わらせてしまって、ごめん。みんなも…ごめん」

どうしてあの日々を終わらせてしまおうとしたんだろう。
瀕死とはいえ、リボーンだって病院に担ぎ込めば助かったかもしれない。
俺は終わらせるタイミングを探していたんだ。
本当は、早く二人きりになりたくてリボーンを独占したくて…何よりも、優先したかった。
それがどうだ、こんな何もない平和で危機感もないような世界、リボーンはきっと退屈してしまう。
あの後どうなったのか、俺は知らないまま…この世界は、俺たちのいた世界から一世紀後の世界だった。
確実に生き延びていたとしても死んでいる。
誰に会うこともままならない中、リボーンを見つけようだなんて虫のいい話なんだ。

「ツナー」

階下から母さんの声がして、あわてて涙をぬぐった。
カレンダーをよく見れば今日は土曜日だ。間違ってアラームを止め忘れていたことに気づいて、はぁとため息を吐きつつ何?と返事をしながらドアを開けた。

「おとうさん、お弁当忘れちゃったみたいだから届けてくれる?」
「えー、俺やだ。大学なんて、俺が入ったら注目するもん」
「事務で一言言って入れば問題ないじゃない。まだやることあるのよ、お願い」

少しおっちょこちょいな母さんはいろんなことを忘れては思い出すたびに俺に被害がきた。
自分で行けよと思っても、母さんの頼みが断れないのが息子だと思う。
俺はしぶしぶ服を着替えて、階下に降りていくとテーブルの上にきっちりと弁当が置かれている。

「いってきます」
「いってらっしゃい」

掃除をしている母さんの背中に声をかけつつ玄関を出ると欠伸をしながら大学への道を歩いた。
父さんは大学で助教授をしており、忙しそうだがとても充実した日々を送っているのだと母さんは自慢げに話した。
俺はどうやら、母親がべたぼれな家庭に生まれるようだ。
まぁ、前例は一つしか知らないのだが…。

「っていうか、土曜日も大学はいかなきゃならないんだな…大変だ」

部活をやっていなければ休日を満喫できる中学生はとてもよかった。
前は、休みたくても休めず早く大人になりたいと思ったのに、だんだんと幼児返りしたくなる衝動に耐えていたのだ。
今その時期を過ごしているのだと自覚すると無性にうれしくなって、大学につくと俺は事務に向かい父親に弁当を届けに来たといえば、中に通してもらえ内線で呼びつけたのだが部屋まで来てくれと頼まれた。

「ごめんなさいね、助教授いま手が離せないみたいなの」
「いえ、大丈夫です。ありがとうございます」

ぺこりと頭を下げて、校内へと入った。
ちょうど授業が終わったのか生徒が廊下を歩いていた。
俺はそっと隠れるようにして人ごみをかき分けつつ父さんのいる部屋に向かう。
何とかたどり着いて、部屋に入るとパソコンと向き合ったままの父さんに声をかける。

「父さん、弁当」
「ああ、ありがとう。すまないな…これで、なにかかって食べなさい」
「いらないよ、俺おなかすいてないし。すぐ帰る」

お金を渡してこようとするのを手のひらを押し返して拒否するとすぐにドアに手をかけた。
父さんはお金を上げて機嫌を取ろうとするのでいけない。
お金はほしいが、そこまでしてここの購買で何か買おうとまでは思っていないのだ。

「そうか。ありがとう」
「どういたしまして」

頑張ってね、と一言かけてドアを閉めた。
今日は特にやることはないが、早く帰ってゲームがやりたいと自然と足取りが軽くなる。

「えー、リボーン次も一緒にでようよ」
「いやだ、俺は単位間に合ってんだよ。行くなら一人で行って来い」

そんな中飛び込んできた声に、俺は驚きながらも足を止めた。
よく知っている声。
けれど、初めて聞く…。
夢でしか、聞いたことがないから。俺は、恐る恐る奥の方から聞こえてきた廊下にそろりと顔を出した。
そこには、初めて目にするリボーンの姿があった。
すらりとした長身と、均整のとれた筋肉、声、どれをとってもその先にいる人物はリボーン本人だった。
俺は、息を呑みどくりと脈打つ心臓を押さえた。
冷静でいられない、早くどこか身を隠せるところに逃げなければ。
とっさに思ったことはそれだけで、俺ははじかれたようにその場から走りだし、立ち去った。

「リボーンが…いた。なにも、変わってなかった…リボーンだ」

俺は大学を出ると近くの公園のベンチに座っていた。
さっき見たことを思いだせば、嘘じゃないことを知る。
まさか、大学生でいるとは思っておらず俺より早く生まれてきていたのかと思う。
会いたい、会いたい…会いたい。
どうしたら会えるのか、また中に入れてもらえたら俺はリボーンを探すことだろう。
そして、今度こそ声をかけてみせる。
俺がいけば、お前はちゃんと認識してくれる…そうだろう、リボーン。




続く







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