◎ 唄声を聞かせて
「あの…」
「ん?なんだ、どうした?」
目の前であわただしく準備を続けるリボーンに俺は勇気を振り絞って、声をかけた。
そしたら、不思議そうに首を傾げられて先を言うのをためらった。
けれど、ここで言わないとこのままあらぬ方向へと流されてしまうっ。
「う、歌いたくないっ」
俺は勇気を総動員して言った。
言ってしまった。
けれど、リボーンは特に気にすることもなく作業を続ける。
ちょっと待って、歌いたくないっていった。
俺は主張したのにそれをへし折るかの如くの態度、どうしてそうなるんだっ!?
「リボーン、俺…やっぱり無理だよ」
「俺が入れてくれって頼んでるんだ。ダメなのか?」
いつもなんだかんだ強引にくるリボーンが俺に頼み込んでいる。
有り得ない光景ではある、けれどなんだか違う気がするんだ。
だって、俺は歌うために出来ていない。
声は出ないし、音程もちょっと取れなくて変だし…いわゆる音痴ってやつだ。
それなのに、リボーンが歌うCDに特典に入れるって…それってどういうことだ。
「むりだって、俺リボーンと一緒に歌うとは言えうまく歌う自信ない」
「大丈夫だ、ツナ…カラオケで聞いた限り、声が出てないだけで普通に歌えてる」
よし、と立ちあがったリボーンは俺の頭をぽんと叩いてくしゃくしゃと撫でてきた。
今回次のイベントに向けてCDを作るらしい。
それは俺の曲をもう一度アレンジして歌い直すというもので、アレンジは他の人に頼んであったらしく、今日あがってきたからと俺は再びリボーンの家に呼ばれたのだ。
そこで不思議に思うべきだったんだ、いつもデータを送ってきてくれるのに、なんで俺の家にこないかと誘われた意味を…。
そりゃあ、ちょっと欲目もあった。
けれど、こんなことになるんだったら来なかったらよかったなんて思う俺は、やっぱり引きこもりなんだなぁと思ってしまう。
あまり表に出したくない、それはいつも俺の中にあってだんだん有名になっていくリボーンの背中が遠くなっていく気がした。
俺はいつか、置いてきぼりにされてしまうのだろうか。
いらない、と捨てられてしまうのだろうか。
唐突に感じてしまった不安。
この先の、果てしないほどの時間に怯えた。
楽しそうに歌うリボーンは、歌がすごく好きなんだ。
それが、俺の曲を歌う時すごく輝いて聞こえるなんてきっと俺だけではないだろう。
そのために俺ができることなんて…。
「リボーン、歌わなきゃ…ダメなのかなぁ?」
「ツナ?」
「俺、本当に歌っていいの?こんな大事なものに…」
「無理させたか?」
俺が言い淀むとリボーンが俺の顔を覗き込んでまっすぐに見つめてきた。
無理というのは、しているけれど…でもリボーンを困らせたくない。
でも、首を振ることはできなかった。
「俺じゃ、台無しにしちゃうのかもしれない」
「あのな、お前は俺をどんな風に思ってるのか知らないが…俺は自分をそんなに完璧なんて思ったことはないぞ?」
緊張してるだけならリラックスしろと手を握られてあやす声が聞こえる。
防音室で、マイクが準備されて後は歌うだけにされている環境。
「楽しむのが一番だろ?楽しめないなら、止めにするか?」
「え…」
無理強いは嫌いだと苦笑を浮かべた。
ただ、ツナと歌えるのが楽しそうだったんだと少し照れたように言われた。
そこまで言われたら、なんだか拒否してしまうのが心苦しくなる。
別に歌うのが特別嫌なわけじゃない。
だって、俺は曲を作っているから。
音楽は嫌いじゃない、好きな方だ。
歌うのも、自分が音痴でなければ…したいと思う。
曲を作るのは、作っているのが楽しいから…いつかこんな歌を歌いたいと…思っているから。
「リボーンが…一緒なら、いい」
「歌ってくれるか?」
「…俺で、いいなら」
「お前がいい、ツナが…良いんだ」
リボーンの言葉に心が動かされた。
リボーンは本当に嬉しそうな顔をして笑って、もうその顔をみれたなら…それでいいのだと思った。
「この曲だ」
「ああ、バラードのやつ」
「一緒に歌うならこういう雰囲気のあるやつがいいだろ?」
「雰囲気って、雰囲気出してどうするんだよ」
男女ならまだしも男同士でそんなことしたら…。
そう思うのに、強くは言えない。
曲を用意して、ヘッドフォンを渡してくる。
両耳ふさごうとしたら声が聞こえなくなるから片耳でいいと言われて流れる曲に合わせて歌い出す。
歌詞には歌う箇所がちゃんと示されていてそれに合わせて歌った。
「はぁ…疲れた…」
「おつかれさま」
俺は防音室に置かれている小さめのソファに座って声を出しつかれてため息を吐いた。
間違えたら取り直しというということを失念していた俺は、うっかりした間違いで二回…声量が足りなくて三回、あとハモリが上手くいかなくて何回か…録り直しの回数が半端なく、結局納得できるものができなくて全部止めにした。
リボーンは無理しなくても一番いい奴を選べばいいといったのだが、やるからには俺が納得いくものを歌いたかった。
「ツナがこんなにこだわりだったとはな…まぁ、薄々は感じてたが」
「俺はそんなにこだわっていないと思うんだけどなぁ…リボーンと歌うならって思うと良いものが良いと思うだけで。気付いてたって、なんで?」
「曲を聴く度作りこまれてるって思ったのもある。それに、お前が作るものには隙がないとコロネロに言われてたからな」
「コロネロって、アレンジしてくれた人だよね?」
「ああ、完璧すぎてどこからイメージを変えていくか大変だったって言ってたぞ?」
リボーンは水を持ってきてくれて俺に渡してくれる。
笑顔で話してくれたコロネロというのはアレンジを担当してくれた人で、時々リボーンと仲良く生放送で会話してたりしているのを見かけていた。
今回のアレンジはすごく意外性のあるもので、俺の考えも変わって新しいイメージが湧いてきた。
ある意味、良い刺激を与えてくれる人だなと思っている。
「全部聞かせてもらったけど、すごく良いと思う。リボーンらしさもでてて、CD買うの楽しみ」
「お前には俺が渡すから買わなくていい」
「えー、嬉しいけど…特典付くし…買いたい」
言ったら笑われた。
笑うなんて酷い、リボーンのCDを委託する店でいろんな特典がつくと言われたから欲しいなと思ったのに。
「お前、ホント俺好きだな」
「好きだよ…今頃気づいたのかよ」
この声を、俺は一番好きだ。
俺を呼ぶ声が、俺のために歌う声が…切なく響いたり、甘く囁いたり、大声で笑ったり、深刻な声だったり、俺を元気づけるような声でも、全部好きなんだ。
俺は手を伸ばして唇に触れる。
ゆっくり滑らせて、喉を撫でた。
「好きだよ」
「しかたねぇやつ」
呆れた声なのに、それは艶を含んでいて。
それがどんな意味なのか、俺は知ってる。
俺にだけ聞かせてくれる、声だ。
近づく顔に、ゆっくりと目を閉じた。
重なる唇、何度も啄んで、触れ合っているのが唇だけなのに息が上がった。
リボーンが触るところが甘く痺れている。
ぴりぴりとして、助けを求めるようにリボーンの腕を掴んだ。
「ツナ、知ってるか?」
「ん?」
「防音室は声が洩れないようになってるんだぞ」
リボーンの言葉にそれは当り前だろうと思った。
だから、ここで好きなだけ声を出して歌を歌っているんだろう。
…ん?
リボーンの腕が俺の肩を押してソファに倒された。
好きなだけ…声を出して…
「ちょっ…こんな、作業部屋でっ!?」
「一々気付くの遅いな、もう手遅れだ」
ニヤリと笑って服をすっぽりと首から抜いた。
上半身が一気に剥かれるが、暖房が利いているため寒さは感じなかった。
けれど、このまま致されるのはいろんな意味で困る。
なんとなく、困る。
「リボーン、お願いだから…ここでは」
「もう無理だろ?」
「無理とか言わないでぇえっ」
あろうことか俺のあそこを掴んで揉みながらそんなこと言わないでほしい。
確かにリボーンと会う時間なんてなくて、たまに会って身体を求められたなら欲しいと感じちゃうけどっ。
俺は恥ずかしくて顔を隠そうと思ったのにリボーンに耳を食まれた揚句、甘くさせてくれと囁かれたら…硬く閉ざした腕も緩んでしまうというもの。
「んっ、あの…あのっ」
「なんだ?」
「やさしくして」
「それなら、簡単だな」
リボーンはとびっきり優しい声で言って自分も服を脱いだ。
俺と同じような環境にいるはずなのに、明らかにリボーンの身体がたくましいのはどうしてだろう。
男として、貧相な身体の俺は隠そうと身を捩る。
「隠そうとするな、俺には綺麗に見える」
「それは、リボーンだけだ」
「俺だけでいい」
手を伸ばして身体に触れるリボーンの手は声を出していたからか温かい。
突起を摘ままれてこねまわされる。
その小さい何の変哲のない場所はリボーンに触られるだけで尖るようになった。
自分でやってもなんともない、そこだけが不思議だと感じつつも自身を触るのも忘れない。
「んんっ…ひ…ぁあ」
「ちょっと触っただけなのに、もうこんなだな」
「あのなぁ、どれだけ間が空いてると思ってるんだよっ…ふぁ」
健全な男なのだ、それに加えてこうやって快楽をあじわされた身体をこらえることができると思うのだろうか。
ズボンに手をかけられて自身をとりだされる。
扱かれているうちに自然と腰が揺れ始めて、我慢できないとリボーンの腕をぎゅっと握る。
すると、察してくれたのかリボーンの指が秘部へと伸びた。
一本遠慮がちに入ってきたのに、二本目に増えるのは早かった。
「はぁっ…あぁっ、りぼ…んんっ」
「食いついてくるな、もう少しまて」
「も、だめだよぉ…イっちゃう…」
立て続けに感じるところを刺激されて、感じるたびにリボーンの腕に爪を立てた。
早く、はやく、と呟けばこらえろと唇を塞がれて、俺は舌を絡ませた。
ちゅくっと吸って、欲しいと訴える。
充分我慢させられて、解されたあとゆっくりとリボーンが入り込んできた。
ぬぐっと先端が入って息を詰めたら吐き出せと胸を撫でられる。
「ひっあぁあっ…はぁっ、りぼーん、りぼーん…」
「ツナ…つな…痛くないか?」
「ない、うごいてっ」
頬を撫でられてそれが心地いいと感じると同時に中をきゅっと締めつけた。
誘うように腰を揺らめかせたら、腰を掴まれてめちゃくちゃに突き上げられた。
声も抑えることはできなくて、恥ずかしいぐらいに部屋に響いていたけど気にならない位気持ち良くて、何も考えられない。
どこの音もなくて、まるで世界に二人きりになった気分だ。
「りぼーん、すき…全部、すき」
「俺もだ、ツナ…好きだ」
ばかみたいに好きを繰り返して、抱きあって温かいリボーンの身体を感じながら俺は自身を解放した。
中を締めつけ、すぐに熱いものが埋めてくる。
「はぁぁっ、あっ…あつ、い…」
「ツナ?」
「も、リボーンで…いっぱい」
体力のない人間には労わってほしいと思う時がある。
確か、この前も帰れなくなったんだよなぁと唐突に初めて来た時のことを思い出した。
あのときもすごかったが…防音室というもののお陰で今回は喉がやられた。
「すまん、無理させたな」
「もう、歌どころじゃないんだけど…」
「……」
「あ、明日には…戻ると思うから」
明日録り直そうと提案すると安心した笑顔を見せてくる。
なんか、俺良いようにされている気がするのは気のせいだろうか。
気のせいだと思いたい…まったく、毎回こんなではなんだからちが明かないんだからなと少し怒ったように言ってみても、結局は許してしまうのだ。
「CD、いいのができるといいね」
「そうだな」
ベッドの上、リボーンが再び運んできた水を飲みながらそれだけは失敗できないと笑顔を浮かべたのだった。
END
ちえりさまへ
歌い手×ボカロPパロ裏。
いかがでしたでしょうか。なんか前ふりがなかった…ような気がしますが…気がするだけです。←
気に入っていただけると嬉しいです。
書き直しも受け付けていますので、はい。
改めて、リクエスト有難うございましたっ。