◎ 寄り添う鈴蘭
おかしい。
俺は沙菜を連れていつものように花屋に来てのんびりと過ごしながら思った。
付き合って、キスもして…そしたら、一般的にやる事は一つじゃないのか。
男女の付き合いがそうであるから、男同士もそういうものだと思っていた。
というか、そもそも付き合ってるんだよな?俺達。
俺は一週間前の出来事は夢だったのかと思うぐらい何もなく平和な毎日に疑問を抱きつつあった。
そりゃ、俺は子持ちだし男だし、けどリボーンはちゃんと俺の好きだという気持ちは受け取ってくれたのだと思っている。
そうでなくては、こうして疲れたからと理由をつけて凭れかかったり指先を絡ませたりしないわけで…。
「リボーン」
「ん?」
「…なんでもない」
なんて言っていいかわからず言葉を濁した。
こういう時は普通に誘っていいのか。
何か合図があるのか、なんなんだろう。それか、俺に何か至らないところがあったのだろうか。
ちなみに、沙菜はというと伊勢谷と一緒にいる。
俺とリボーンがこうなってからというものなぜか沙菜の面倒を見ることに目覚めた伊勢谷は沙菜によく構うようになった。
ここでぐらいリボーンと一緒というのが嬉しくて、ついそれに甘えてしまう。
沙菜は、寂しくないだろうか。俺ばかり幸せになっていないだろうか。
時々ふっとそう思うことがあって、気が逸れる。自分で選んだことだが、俺ばかりが好きなんじゃないかと思ってしまうとなんだか居たたまれない。
こっちが馬鹿らしくなってしまってやめようかとまで思ってしまう。
もちろん、ここまでしてでもリボーンのことが好きだったのは本当だ。
けれど、俺は沙菜を育てる身でもある。自分の感情のままに突っ走って沙菜を心配させたくない。
「何か言いたいことがあるんだろ」
「え…?」
「言えよ、俺といるのにはもう飽きたか?」
「いや…そういうんじゃ…」
まさに今思っていたことを言葉にされて焦る。俺は慌てて否定したが、そう思ってしまったことは変えられない。
「俺は、綱吉のことが嫌いになったわけじゃねぇぞ」
「じゃあ…」
「ただ、お前は沙菜がいる。俺一人が綱吉のことをどうこうして困るのは沙菜もだ。それをお前は一人で背負えるか?俺はどうしても、沙菜の親になってやることはできねぇ。そりゃ、形式上は無理でも父親として過ごすことはできるが、何かあった時には綱吉しか助けることはできないだろ」
リボーンはそっと俺にしか聞こえない声で話し始めて、いいたいことがようやくわかった。
俺が不安に思うのをわかっていたんだ。
関係を続けていくことはできる。
でも、リボーンはただ勢い任せで好きだって言うような人じゃなかった。
ちゃんと俺のことも考えて、答えを出してくれている。
「今度はお前がちゃんと見極める時じゃないのか?」
「なに、を…?」
「俺が、本当に相応しいのか」
リボーンの言葉に俺は信じられない気持ちで見た。
相応しいも何も、俺はリボーンを選んだ。
それなのに、その答えではいけないというのか。
「文句でもある顔だな」
「当たり前だ」
「でも、迷ってるんだろ?」
「…迷ってない」
「すぐに返事できないのが迷ってるって言うんだ」
強がりでさえも良しとしてくれないらしい。
俺はそれにムッとして、リボーンの手を握る指先に力を込めた。
「っ…」
「俺は、そんな簡単に人生を決めるようなことはしない」
疑われていると知ると悲しくなって、悔しさから絞り出すような声がでた。
これまでも、悩んできたんだ。
そりゃ、一度は失敗してしまったかもしれないけど…もう間違いたくない。
「リボーンは、俺と一緒にいることが間違いだと思う?」
「綱吉…」
「俺は、この気持ちに偽りはない。不安になることはあるけど、この気持ちをなかったことにはしたくない」
やめようと思うことはあるかもしれないが、それは本当の気持ではない。
俺は、こうしてリボーンと一緒にいたくて告白したんだから。
もし、それ以上はないというなら期待しないから、離れないという約束が欲しいと思った。
「我儘でごめん、俺は不安で仕方ないんだよ…もう何が正解か自分でわかってない、リボーンが好きだってそれだけ」
それだけなんだよ、と泣きそうになりながら言えば頭をくしゃりと撫でられた。
ぐいっと引き寄せられて耳にチュッとキスをされ、俺はびっくりして耳を覆った。
けれど、その手を取られて、俺はなんだとリボーンを見る。
「泣くな、俺も好きだ。疑って悪かった」
だから、そんなに警戒するなと言われて溢れそうになる涙が止まるわけもない。
妻と別れる時ですら、泣いたことはなかったのに。
どうしてこんなにも簡単に泣いてしまうのかと恥ずかしく思いながら涙を拭っていれば、リボーンの指が俺の頬を拭ってくる。
「今日、お前の家泊ってもいいか?」
「えっ…」
「駄目ならまた後日だ」
リボーンから言われた言葉に、俺は驚きのあまり涙が止まった。
けれど、俺が諦めたのに日をずらそうとするリボーンに俺は首を振った。
明日は、休日だ。空けることはできるだろう。
「いい、大丈夫…きて、欲しい」
「俺はお前に悩む時間は与えたぞ。今日お前の家にいってやっぱなしは聞かないからな」
「うん、言わない…来てほしかったから」
ずっと求めていたのだと暗に告げるように言えば、そうかと短い言葉が返ってきて、顔を覗き込むと少し嬉しそうで、途端羞恥が一気に襲ってきた。
「っ…」
「なに照れてんだよ」
「う…いや、なんか…リボーンも俺のことちゃんと好きだったんだなって思ったら」
「おっ、まえ…も、大概疑り深いじゃねぇか」
「そ、れは…いろいろと…」
もう何も言わないでくれと、お互いに恥ずかしくなってしまって相手とは反対側に視線を逸らした。
「おとーさん、お外暗くなったよぉ」
「あ、本当だ。そろそろ帰ろうか、沙菜」
「おい、店閉めたらいく」
「うん、待ってる」
沙菜がこちらに走ってきたので絡ませていた指先をそっと離した。
足に抱きついてくる沙菜を抱きあげて、立ち上がった俺に声をかけられて笑って頷く。
店をでて伊勢谷にもばいばいと沙菜は手を振れば、家に帰る道すがらリボーンさん来るの?と聞いてきた。
「うん、今日泊るんだって。俺の部屋に寝るから、沙菜は一人で寝れる?」
「うんっ、寝れるよ」
一人にしてごめんなと頭を撫でると、リボーンさんと仲良くしなきゃだめだよと諭されてしまった。
「仲良くしてるだろ?」
「うん、でも沙菜がいないとすぐ喧嘩するから心配だよ」
「しないって、ちょっと意見が食い違ったりするけど、それはいい喧嘩だよ」
「そうなの?」
「うん、嫌いで喧嘩してるんじゃないから」
子供はよくみてるなぁと沙菜の前ではあまり言い争うのはやめようと苦笑する。
家につけば、ご飯を作っている間に沙菜にお風呂に入ってもらい、準備できるころにはリボーンが来て、三人でテーブルを囲んで夕食を食べた。
俺が片づけをしている間、沙菜の面倒をリボーンは見ていた。
お互いの顔を見るのが少し恥ずかしくて、沙菜を間に挟んでいたのだが、沙菜はしっかりわかっていたらしい。
「沙菜、そろそろ寝ような」
「はぁい。さながいなくても二人は喧嘩しちゃ、めっ、よ」
人差し指を立てて口の前に持っていっていった言葉に、俺とリボーンは顔を見合わせて笑ってからはぁいと返事をして沙菜を部屋に見送った。
「子供はよく見てんだな」
「そうだよ、沙菜の前では少し控えないと…」
「綱吉」
俺は、風呂に入ろうかどうしようか迷えば名前を呼ばれて手を引かれた。
リボーンを見ると、真剣な目で見つめられて動けなくなる。
ゆっくりと近づく唇に俺は目を閉じた。
「ん…ふ…はっ…」
「なら、仲良いところでも見せつけるか?」
「…ばか」
リボーンは悪戯っぽ顔で笑って、恥ずかしさのあまり目を逸らしながら呟いた。
そうして、そっと寝室へと誘われた。
俺は躊躇うことなくリボーンの後をついて、寝室に入る。
「あ、の…でも、俺男同士のやり方とか知らないんだけど…」
「だろうと思って、必要なものは持ってきた」
そう言ってポケットから出されたローションの子袋とゴムに飛び上がりそうになった。
「お前、こんなん持ちながら沙菜と遊んでたの!?」
「ああ、仕方ないだろ」
「仕方なくてもっ、もし落ちでもしてたらどう説明するつもりだったんだよっ」
「そんなの、おとーさんと仲良くするためのもんだって言うに決まって…」
「ばかやろうっ」
どうしてそういうところは気を配れないのか、俺は泣きそうになりながら喚くと手を引かれて、俺の視界は一転して天井が広がっていた。
「つべこべ言ってんな、本当のこと言わなくてどうすんだよ」
「本当のことって、限度ってもんが…んんー」
ベッドに転がされていることに気づいたのは一拍遅く、もう黙れとキスで唇を塞がれた。
咥内へと入ってくる舌に翻弄されながら必死に答えていると、服がどんどん脱がされる。
舌が擦り合わされて、流れ込む唾液を飲み込まされ、唇が離れた時にはすっかり俺の服がなくなっていた。
「リボーンは?」
「脱ぐに決まってるだろ」
バサリと脱ぎ捨てられた服から現れた筋肉に、俺は自分との差を感じてしまった。
花屋の仕事は意外に重労働で適度についた筋肉がカッコイイと思ってしまう。
「何逸らしてんだ」
「いや、なんでもない…うあっ」
「なんでもないわけねぇだろ?触る前から勃たせてるとは、意外と変態なんだな」
「ちがうってっ、かっこいいなっておもっただけで…あっ」
「ばかだな」
結局自分から言う羽目になってしまい、リボーンに笑われた。
つん、と自身の先端に指先を触れさせてきて小さく震える。
「抱くぞ、本当にいいな?」
「ん…いい、ってば」
何度も確認しないでくれと思いながら、身体の力を抜いた。
ローションの袋を空けて、足の間に垂らされる。
胸に舌を這わされて、下の入り口には優しく触れて塗りこめてくる。
違和感と気持ちよさが両方与えられてどっちに集中すればいいかわからない。
「ねぇ、ね…」
「なんだ?」
「どっちに感じればいい…?」
「んなの、こっちに決まってるだろ?」
「ひっ、ああっ…」
今度はもう片方の手で自身を握られて俺はシーツを握りしめた。
そっちにもローションが塗られていて自分で扱くのより何倍も気持ちが良かった。
かくっかくっと腰が揺れてしまうのが止められなくて、わけがわからなくなってくる。
「あー、あー、だめっ…よすぎ、ひっ」
「お前、先走り多くないか?まぁ、いいか」
ローションか先走りかわからねぇとわざと聞かせるように水音を立てられてますます感じてしまう。
ただでさえ最近忙しくてご無沙汰だったため、限界はすぐにきた。
首をふって、いく、と言えば促すように先端を抉られて腰を跳ねさせリボーンの手に吐き出していた。
「たくさん出したな」
「うぁ、まだ?」
「まだもなにも、いれるのはこれからだぞ」
もう準備できないのかとリボーンを見れば、俺の出したものを秘部に擦りつけて指が挿入された。
あまりのことに、痛みでさっきの快感が飛んだ。
「っ…たい」
「我慢しろ、すぐによくする」
宥めるようにキスをしてきたリボーンに応えるように舌を伸ばした。
最初は痛いかもしれないが、すぐになれるといわれ、ゆっくりと後ろを解してくるリボーンに身を委ね続けた。
時間をかけて、指を三本入れるころには痛みにも圧迫感にも慣れてきた。
それに、痛みだけじゃなくざわざわとしたものも感じてきて、俺はもういいと首を振る。
「もう、いいから」
「ったく、痛くてもしらねぇぞ」
「だいじょうぶ」
このままにしておくとなにか得体のしれない感覚が襲って来そうで、逃げるように指を抜いてもらった。
が、そこに宛がわれた熱いものに俺は腰を引いた。
「いくらなんでも、それは入らない」
「はいる」
「入らない」
「入る」
「むりだって」
「無理じゃねぇ、時間かけたんだ。お前がやりたがってたことは、こういうことだったはずだろ?」
「…それは」
「ここで、怖気づいて止めるのか?」
リボーンに言われた一言に、抵抗するのを止めた。
「すき…リボーン、俺…好きだ」
「ああ、俺も好きだぞ」
確かめるように好きだと言った。
まっすぐ見つめた視線はしっかりと絡んで、同じようにリボーンも囁いてくる。
指をしっかりと絡ませた。ローションがぬめったけどそんなの気にならなくて、再び宛がわれた熱に今度はちゃんとそのままでいた。
力をいれて入りこんでくる熱を俺は受け入れる。
「ぅ…く、はぁ…あっ」
「ゆっくり、息しろ」
リボーンも苦しそうにしていたが、ある一点を擦った時に変化が訪れた。
「ふぁぁっ、あっ…ちょ、まって…それ」
「あ?…待つかよ」
自分でもわけのわからない感覚に怯えてストップをかけたのだが、リボーンはニヤリと笑うとそこを重点的に擦り上げてきた。
目の前に星が散って、ちかちかと点滅した。
やばい、と身体が警報音を出すのに腰が浮き上がる。
「だ、やぁあっ…あっ…りぼーん、りぼーん」
「気持ちいいんだろ?気にすんな、俺に全部預けろ」
とびっきりよくしてやる、と耳元で囁かれ、途端にズンッと奥を突き上げられた。
さっきまで俺に合わせて慎重に進めてくれていたが、もう大丈夫だと判断したのだろう。
俺を抱きしめて腰を打ちつけられて、苦しいはずなのに奥の腹のあたりがじくじくと快感を植えつけてきて、恐怖もあったはずなのに背中に手を回して縋っていた。
「もっ、だめ…いくっ、いくぅ」
「いけ、つな」
押し寄せてくる快楽に抗うこともできず、リボーンは最奥を突き上げ俺は身体を痙攣させリボーンと俺の腹に吐き出し、リボーンも俺の奥へ注いでいた。
整わない呼吸で、新しく知ってしまった快楽に病みつきになりそうだと、身震いした。
「どうした?嫌だったのか?」
「ん?」
「ちゃんと、見えてるか?」
「ん、きもちよかった…俺こんなの、初めて」
こんなに気持ち良くなったのは、リボーンが初めてなのかもしれないと言えばくしゃりと髪を撫でられ、ばか、と笑われた。
心なしか安心したような顔をしたのは、リボーンも不安だったのだろうか。
俺はそっとリボーンに寄り添った。
今日はこのまま寝てしまいたいと思うのに、リボーンはちょっと待てと身体を起こしてしまう。
「どうしたんだよ?」
「風呂に入るぞ。中に出したからな掻きだしてやる」
リボーンの言葉に一瞬何を言っているのかわからなかったが、だんだんと理解して一気に羞恥に見舞われた。
「ばっ…一人でできるっ」
「ほう?ならいいけどな、ほら早くひとりで入ってこい」
そういってべたべたな身体を引き起こされて、言われるがままに風呂場にいった俺は掻きだすことができず、情けなくもリボーンに助けを求めるような真似をしたのだった。
「リボーンさん、またおとーさんと喧嘩したでしょ?」
「ん?なんでだ?」
「おとーさん疲れた顔してるもん」
昨日初めて身体を繋げて、俺は幸せな時間を過ごしたのだが沙菜は目ざとかった。
女にはどこかそういうセンサーみたいなものが備わっているんじゃないかと思わせる反応速度に俺はただただ驚かされた。
「喧嘩はしてねぇぞ。綱吉は嬉しそうにしてるだろ?」
「…うーん、うん…でも…なんでだろう」
「沙菜はそのうちわかるようになる、まだわからなくていいんだ」
くしゃりと綱吉に似ている髪質の髪へと指を回りつかせて撫でれば気持ちよさそうに大人しく撫でられる。
「そっか、うん…わかった」
「よし、いい子だ」
なんだかんだ、綱吉に似ているところがあると思う俺は沙菜のことがすごく好きだ。
恋愛感情は湧かないが…。
可愛いと思うし、自分の子供として育ててくれと言われたらそれでもいいと思えるぐらいには。
「リボーン、仕事行かなくていいのかよ?」
「そうだな、そろそろいくか」
花の競には早朝にいってきて、一度こちらに顔を出した。
綱吉の顔を見ておかなければと思ったのだ。
少し疲れをみたが、体調もあまり悪くなさそうだから、一安心か。
俺はソファから立ち上がると、絵をかいている沙菜にまたなと言って玄関に向かった。
「あ、いってらっしゃい」
「いってきます…じゃあな」
「うん」
俺を追いかけてきた綱吉に俺は笑みを向けて、引き寄せるとちゅっとキスをした。
「ちょっ…」
「良いだろ。それに、両親が仲良くしてんのは子供にとっていい影響があるらしいしな」
「…え」
「また、くるぞ」
自分で言っておいて恥ずかしくなれば、驚く綱吉の言葉を聞く前に家をでた。
きっと今頃混乱しているに違いないが、それも追々わからせてやればいい。
そうして、ゆっくりとあの二人だけの家族に入れたら…と願う。
END