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 黄菖蒲の想い

私は、私が幸せでいたいと思う。
けど、それと同時におとーさんには私と同じぐらい…いや、それ以上に幸せになってほしいとも思う。
だから、私はおとーさんの幸せを誰よりも願っているの。

「みけさん、おとーさんを幸せにするには…どうすればいいのかな」
「にゃぁん」

保育園によく遊びに来る三毛猫のみけさん。
柵の外に私を見つめて座っているのをみつければ、そう問いかけていた。
返事をしてくれるんだけど、私にはネコ語を理解することはできず首を傾げる。
あの嵐の日、リボーンさんの家にいて緊張した。
けれど、とても優しくて暖かくて、それはまるでおかーさんと一緒にいた時見たい。
私は確信した。おとーさんとリボーンさんはすきあってるんだって。
一緒に寝たら、やっぱり心臓の音が一緒だった。
二人に挟まれて寝るのはとても気持ち良くて、幸せな気分になった。

「おとーさんとおとーさんじゃ…ダメなのかな」

みけさんは尻尾をふり、ふり、とのんびりあくびなんかしていて私は首を傾げた。
おかーさんじゃなきゃ、いけないなんて言われたことないし。
おとーさんが好きならそれでいいと思う。
それに、リボーンさんはとても優しくて怖い顔をしていると思うけど…でも、何も怖くない。
おとーさんのこと見ていてくれてるのも、わかるし…どうして、二人は一緒にいないんだろう。
考えていると、みけさんは立ち上がって道路の方へと走っていってしまった。

「あー、いっちゃった…」
「沙菜ちゃん、どうしたの。こんなところで」
「せんせー、みけさんがいたから…」
「みけさんは他のおうちにいっちゃったのかな、もうそろそろお昼寝の時間だから戻ろう」
「うんっ」

せんせいに手を繋がれて私はそこから離れた。
昼寝をして、少し絵を描いて遊んでいるといつもどおりの時間におとーさんはやってきて私を呼ぶ。

「先生にばいばいして」
「ばいばーい」
「はい、さようなら」

おとーさんに手を繋がれて私は隣を歩いた。
見上げると、少し疲れた横顔。本当は知ってる。
おとーさんは無理してるんだって。
いつも遅く帰って来たおとーさん、今はすごく早い時間なのに迎えにきてくれてる。
でも、沙菜が寝た後こっそりお仕事してるんだ。
沙菜が無理しないでって言っても、おとーさんは大丈夫だよって言ってくれる。
それじゃ、ダメ。おとーさんがちゃんと疲れたって、休みたいって言える人が近くにいないと。

「おとーさん、お花屋さんにこう。さなね、コウにぃに会いたい」
「リボーンのとこか…いいよ、行こう」

少し前はなんかいくと変だったけど、嵐の日からは仲直りしたみたい。
進路変更した道を歩きながら、花屋について中に入るとコウにぃに私は駆け寄った。

「コウにぃ」
「沙菜ちゃん、こんばんは。今日もきたんだね」
「うん、お花みたくて」
「沙菜ちゃんは本当に花が好きだね、将来は花屋さんかな?」
「いいかもっ、私が花屋さんになったらおとーさんとリボーンさん一緒にいれるかな」
「ん?」
「あのね、内緒なの…おとーさんとリボーンさんが一緒になるの」

コウにぃはそれを聞いて少し驚いた顔をしたけれど、そのあと花を一本持ってきて私に渡してきた。
黄色くて、少し大きい。

「黄菖蒲っていって、花言葉は信じる者の幸福。信じていればきっと叶うよ」

信じる者の幸福…それを聞いて、私はその花を見つめた。
何でも願いを叶えてくれるとは思ってないけれど、この花に願いを込めてみるのもいいかもしれない。

「ありがとう、コウにぃ」
「うん、沙菜ちゃんの願いがかなうといいな」
「…ん」

私はそっと声が聞こえず静まりかえった奥の部屋を見た。
奥で何をしているのか、私にはわからないけれど私が傍にいるよりおとーさんには今リボーンさんが必要なんだ。
おとーさんは気付いていないかもしれないけれど、本当はリボーンさんのことずっと考えてるんでしょ?
沙菜のこと、考えてるふりしてるけど…ちゃんと、私はわかってるのよ。

「コウにぃ」
「ん?」
「私、おとーさんにも幸せになってほしいんだ」
「今でも十分幸せだと思うけど?」
「でも、まだたりないの」

私だけじゃ、足りないの。
コウにぃをみたら、頭をぽんぽんと撫でられた。

「沙菜ちゃんは、おとーさんのことちゃんと見てあげてるんだな。一人になるかもしれないって思わないの?」
「ううん、リボーンさんはさなからおとーさんとらないもん」

おとーさんとっちゃうなら私はおとーさんと一緒になってほしいなんて思ってない。

「沙菜、もういいか?」
「うんっ」

奥からおとーさんが出てきて私に声をかけてくる。
私は頷いて、コウにぃにばいばいと手を振るとおとーさんと手を繋いで家に帰った。
帰るとおとーさんはご飯を作って、その間私はお手伝いをしながら時間をつぶす。
ご飯を食べて、お風呂に入ったら私を先に寝かせるの。

「沙菜、もう寝る時間だ」
「はぁい」

目を擦って、自分の部屋に入る。
ここからはおとーさんの時間。私に隠れてそっと仕事をする。

「私は、邪魔じゃないのかな」

多分、おとーさんを動けなくさせていると思う。
私はおとーさんにいてもらいたいけどどうしても居て貰わなきゃダメじゃない。
もやもやしたものを抱えてベッドに入ったのだが、心配事があったからなのか私は途中でトイレに行きたくなって起きてしまった。
そっと、部屋のドアを開けるとリビングの方からはパソコンのぱちぱちとした音が聞こえて、まだおとーさんが起きているのを知る。
私は部屋を出ると、明るくなった部屋に目を擦って入った。

「沙菜、どうしたんだ?」
「おといれー」
「ひとりで行けるか?」
「ん…」

こくりと頷いて、トイレに向かう。
用を足すと少し目がさえて、私はおとーさんの元へといく。

「おとーさんまだお仕事なの?」
「うん、まだ終わらないけど大丈夫だから沙菜はもう寝なさい」
「や…ここでねる」

おとーさんの膝の上に登っておとーさんの身体に抱きついた。

「こらこら、こわくなっちゃったか?」
「違うってば」

暗い廊下は少し怖いけど、平気だもんと顔を上げる。
優しく頭を撫でる手が気持ち良くて私はおとーさんの胸にこてんと頭をくっつけた。
暖かい身体はそれだけで私を安心させて、でも私だけじゃだめだと持ち帰ってすぐに花瓶に挿された黄菖蒲を見て思う。

「あのね、おとーさんはさなと同じぐらい幸せにならなきゃダメなの…」
「沙菜?」
「だからね、リボーンさんのこと…すきになってもいいよ」
「さな…」
「さなのこと、捨てないでくれるならおとーさんはリボーンさんのことすきになってもいいの。おとーさんが二人いたら、さな…うれしいよ」

おとーさんの体温が心地よくて、だんだんと自分が何を言っているかよくわからなくなってくる。
けれど、おとーさんの心臓の音が早くなっていくのがわかる。
いやなのかなと顔をあげたら泣きそうな顔があって、沙菜は悪いことを言っちゃったのかなと不安になって、手を伸ばした。

「ごめんね、おとーさん…泣いちゃやだよ」
「謝るのは、俺の方だろ。沙菜…すきだよ」
「うん、私も好きだよ…おとーさん」

好きだから、幸せになってほしいと思うんだよ。
おとーさんなら、わかるでしょ?
ぎゅっと握った服はしわくちゃで、こんなに私のために働いてくれるとおーさんをどうしたら、解放してあげれるんだろう。

「だいすき、おとーさん」

暖かさにゆっくりと瞼が落ちて、もっといってあげなきゃいけない言葉があるはずなのにちゃんといえたのかわからないまま、眠ってしまった。




朝起きると、私はベッドの上で思わずとび起きてしまった。

「さなー、起きろー…って、起きてたのか珍しい」
「沙菜だって、ちゃんと起きれるもんっ」

ちょうどおとーさんが顔を出してきたけれど、なんにも変化はなかった。
昨日のは夢なのかと首を傾げながら服を着替えると、朝ごはんの匂いにつられて部屋を出る。

「今日も可愛いね」
「おとーさんはかっこいいよ」

えへへと笑って、椅子に座ると綺麗に半熟に焼けた目玉焼きにフォークを手に取った。

「沙菜」
「なに?」
「今日、リボーンのところいってもいいかな」
「…うんっ」

おとーさんの照れたような言葉に、私は頷いて少し安堵したようなおとーさんに、わくわくと高鳴る胸を抑えた。
今日は何か素敵なことがあるみたいだ。
信じていれば叶うってほんとうだった、私は願いをかなえてくれた黄菖蒲をちょん、と指先でつついたのだった。




続く







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