◎ 近くに行ってもいい?
リボーンの住んでいるマンションのある駅に着いた。
今日はいつもより数倍緊張している。
だって、リボーンの部屋に入れるんだ。
話の流れから行くことになったあの日のあと、俺は今か今かと心待ちにしていた。
それと同時にリボーンの部屋を見れるということで緊張も募らせていた。
待ち合わせに銅像の前におちあった。
「リボーン」
「よぉ、ツナ」
すぐにわかって声をかければ笑顔で答えてくれる。
今日もかっこいい服を着て、すごく似合ってる。俺はというと、いつもよりちょっとしっかりした服を。
金欠で…というか、自分に似合う服もまだわかっていないのだ。
一緒に歩くとリボーンに視線が集まるのがわかる。
かっこいいもんなぁと隣を歩きながらとちらりと視線を向かわせればばっちりと合う。
「な、なに?」
「お前こそ、こっち見てただろ?」
「いや、なんでもないよ。で、どこいくんだったっけ?」
「まずはケーキだろ?いらないのか?」
「ほしいっ」
リボーンを見ていたなんて言ったら呆れられそうだ、俺は言葉を濁して話題を変えた。
当たり前のようにケーキと言われて思い出せば手を挙げて主張する。
俺はこれも楽しみにしていたのだ。
ケーキ、何を買ってもらおうか。
驕りといったのを律儀に守ってくれるらしいリボーンに今日は甘えることにする。
「今の季節だとモンブランかな?」
「イチゴのやつもそろそろ出るだろ、時季的に」
「そっか、イチゴもいいなぁ」
胸躍らせながら歩いて聞けば駅の近くにその店はある。
今日も人がいっぱいだなぁと思いつつ中に入ればショーケースを眺めて回る。
「リボーンは何にする?」
「俺はチョコだな」
「チョコかぁ」
ショコラ系も結構揃っていて色とりどりのケーキが目を楽しませる。
クリスマスも近いし、今がピークなのかなと思いつつ俺は一つを決めた。
「決まったのか?」
「あのレアチーズがいい」
「わかった、ちょっと待ってろ」
ベリーのレアチーズを指さすとさっそくリボーンはレジへと向かった。
二人分のケーキを買って、リボーンの部屋にいったら生放送をする予定だ。
ケーキ食べる枠、というなんともしょうもないタイトルでやることをリスナーさん達に公言してしまったからしかたない。
「まぁ、二人で食べても…ねぇ」
変に緊張して普通にできなさそうだし、と苦笑を浮かべつつ近くの椅子に座ってリボーンを待っているとぽんと頭に手を置かれた。
「行くぞ」
「うん」
短い言葉で俺は立ち上がってリボーンのあとについていく。
ここからは俺は知らない、リボーンの部屋に行くのは初めてで中を見るのも初めてだ。
何があるんだろう、どんなところで歌っているんだろう。
行く前から想像はつきなくて俺は自然と笑みを浮かべた。
「そんなに楽しみか?」
「たのしみ、リボーンの部屋だよ。俺が初めてだろ?」
「まぁ、この付き合いではツナが初めてだな」
学校の友達とかは仕方ないとしても俺が初めてということに感動を覚える。
リスナーであった自分が今こうしてリボーンの隣にいて、リボーンの部屋に行くのだ。
「俺だけの特権?」
「そうだな、ツナだけだ」
独占できる、それが嬉しい。
独占して許される関係ができたことが、すごいことだ。
そうして、五分ぐらい歩いたところでマンションに辿りついた。
俺はリボーンの後についていき、エレベーターに乗った。
「エレベーター付きとか、すご」
「五階まであるからな、物を運ぶ時はこれがないとやってられねぇぞ」
少しの振動でエレベーターが止まれば降りて一番端まで行くと鍵をとりだしドアを開けた。
中に入るように促されて、俺はおそるおそると中に入った。
「おじゃまします」
「どうぞ」
玄関から上がって奥の部屋を開ける。
するとそこは日当たり良く、ベッドが置いてあってあと本棚とテレビ。
すっきりとしたところで物がない印象を受けた。
「録音はどこでしてるの?」
「そこかよ」
「一番気になるところ」
テーブルにケーキを置いて食器をとりだそうとしているリボーンに声をかけた。
横の方にしっかりとしたドアを見つければ俺はそこを開いた。
そこは他の部屋と違い防音の部屋になっていることが分かった。
あきらかに壁が違うし、中に置いてあるものもマイクと机とパソコン…と作業に使うものだ。
「すごい…」
「ったく、ケーキは良いのか」
中に入っていく俺を追ってリボーンが入ってきた。
それを気にすることなく俺はマイクや機材の方が気になる。
作ってる側の俺から見れば不思議なものばかりで何に使うのかわからない。
パソコンと繋がれているからきっと出力とか入力とかのいろんな端子で必要なものなんだなと理解する。
「ここで歌うの?」
「ああ、ここなら多少叫んでも音漏れしないからな」
「なんかこういうの初めてみた」
「多分他の奴らもこういうの使ってる奴もいるんじゃないのか?」
「ふぅん…でも、見れて良かった」
新しい発見だとリボーンを振り返れば案外近くにいて、ちゅっと掠めるように唇を奪われた。
びっくりして固まっていれば、デスクトップのものとは別にノートパソコンを持って、俺の腕を掴むと部屋を出た。
「無防備にしてると食うぞ」
「っ…物珍しかったんだって」
テーブルにノートパソコンを置くと開いて立ちあげる。
近くの棚からカメラを出すと位置を調整してくっつける。
「カメラ…やるの?」
「やるためにうちにきたんだろ?」
「それは、そうだけど…」
この状況になって、俺はつい手を出してしまった。
リボーンは不思議そうに俺を見てきて、俺は少しむずむずと口を動かす。
「言いたいことがあるなら我慢すんな」
「リボーンを…見せたくない」
言いづらかったけれど、促されるまま言ってしまった。
リボーンは一瞬驚いたように俺をみて、それからならやめるかとカメラを外して元の場所に。
「良いの?」
「ツナが企画したことだろ、ツナのしたいようにすればいいし…俺も、お前を誰にも見せたくない」
近づく顔に逃げようという気は起きなかった。
重なる唇はしっかりと俺の唇を食んでいて、ちゅっちゅっと何度も啄んでくる。
薄く唇を開くと舌が入り込んできて、甘く絡んで身体を押し倒してきたところで腕がテーブルに当たって二人で我に返った。
今、なにしようとしてたっ!?
っていうか、流されそうだった。
「生放送、する…から」
「そう、だな…」
気まずくて視線を合わせられない。
なんだよ、二人して我慢もできないなんて…。
今はまだ昼で、リボーンの部屋で、陽も入ってきてるし…恥ずかしすぎる。
状況を考えろと自分に言い聞かせた。
パソコンを操作させてもらって、リボーンのアカウントで俺のコミュニティにアクセスする。
生放送の待ち時間にケーキをとりだしてケータイで二つのケーキを撮影する。
「何してんだ?」
「これを壁紙にしようと思って」
いつも黒背景じゃつまらないだろと笑えばそれもそうだなとパソコンに送ってマイクを二人の間におく。
生放送が始まると同時に背景を編集する。
コメントでもう、わこつーと来ている人がいる。
それがだんだんと多くなっていくのがわかる。
「すごいなぁ、昼間なのに結構きてる」
「休みだからじゃないのか?」
リボーンが喋ったとたんにリボーンさんがいる、リボーン一緒にいるの?と質問が流れた。
リボーンはそれに答えてやって、準備が終わると俺はリボーンの隣で姿勢を正した。
「準備できた」
「ごくろう」
これなに?、ケーキ?、食べる枠ってカメラじゃなかったっけ?と流れるのに俺は苦笑した。
どう返事をしようかと迷っているとリボーンはケーキを俺達の前に用意する。
「無視かよ」
「は?ツナが俺を独り占めしたいからカメラはなくなったんだろ?」
「ちょっ」
さらりと本当のことを言った途端になにそれ、独占欲丸出しとかww、つっくんの独り占めずるいー、などと一瞬にしてコメント数がすごいことに。
なんてこと言うんだとリボーンを見ればにやにやと笑っている。
「違う、リボーンの部屋にカメラなかったんだよ。本当だよ」
「何嘘言ってんだよ」
「そっちが嘘じゃん」
俺は、それは言わないでくれと必死に首を振りつつ訴えるのにリボーンは意地悪にも食ってかかってくる。
「もうっ、食べるんだろ…せっかく良い気分で買ってもらったのにまずくなる」
「俺におごってもらってまずくなることはないから安心しろ」
べりべりと周りのビニールをとりながら話していると画像のケーキ?とコメントが流れてそれに答えてやる。
「白い方が俺で、チョコがリボーン」
「食べさせあうか」
「何言ってんの」
リボーンは何故こうも生放送だと容赦ないのだろう。
少し抑えてくれたら俺もやりやすいのになぁと思うが、リボーンに振りまわされるリスナーたちの反応も見ていて楽しいものだ。
「ツナのケーキもうまそうだろ」
「じゃあ、とればいいじゃん」
言いながら俺は一口分をフォークですくう。
そして、自分で食べるじゃなくリボーンの口元へ。
「つまんないやつだな、食べさせあうぐらいどうってことないだろ」
「嫌じゃないけど、自分の食べたい量をとればいいじゃん」
話しながらリボーンは俺のフォークからケーキを租借した。
リスナーには見せられない密事。
リボーンも俺にと、一口すくって口元に持ってきてくれた。
文句を言うことなく食べればさすが美味しいと有名なだけある。
「美味しい」
「うまいな」
にっこりと笑いあってお互い感想を言い合う。
コメントからはそれはわかってるww、もっと感想詳しく、などと言われているが美味しい物は美味しいとしか言えない。
「味が気になったらみんな行こうね」
「いって食べたらわかるな」
買って食べれたら苦労しない、私買ってくる、などいろんなコメントが流れていきながら俺達はケーキを食べ終えてそれだけで切る。
三十分もやらずに終わったから少し物足りない気分だったがあれ以上はできない。
だって、さっきからずっとリボーンが俺の腰に手を回しているから。
「もうっ、なにしてんだよ」
「は?手回してるだけだろ」
「触るなって」
触られるとさっき中途半端にされたあのもやもやとした気持ちがまた溢れてくる、と言葉なく手を振り払った。
けれど、リボーンは懲りずにまた俺に手を伸ばしてきて、今度はわき腹を掴んできた。
「あはっ、ちょっと…やめろって…ははっ…あっ…」
「もうベッドだ」
くすぐりながら俺は逃げるように身体を伸びあがらせた。
背中に当たるのはベッドで俺は無我夢中で乗り上げるとリボーンは俺に覆いかぶさってきた。
にやりと笑われて誘導されたと知った時にはもう遅く、顎をとられて口づけられる。
さっきの甘くて柔らかい触れ合いだけじゃない、あきらかな欲情をにじませたそれに俺の身体が熱くなってきた。
「ばか…こんな、じかん…から」
「時間なんて関係あるのか?ここに来た時からいちいち逃げやがって」
ばれていたのかと視線を逸らせば、頬を掴まれて目を合わせられた。
なんでも見透かすようなその瞳に、俺は小さくため息を吐いて、力を抜いたのだった。
「帰れる、ようにして」
「さぁ、どうだろうな」
悪戯っぽい声が響いた後は、もう甘い海に溺れていった。
新しい君を知って、初めても、貰って…あとは、何が残っているだろう…。
END
ずきん様へ
歌い手×ボカロP、突撃リボーンの家、でしたっ。
突撃になってませんでしたね(笑)
いろいろなところに甘さを含ませてみました
なんか、なんだこいつら、な感じになってしまいましたが気に入ってもらえたら幸いです。
書き直し、受け付けてます←
改めてリクエストありがとうございましたっ。