◎ そっと傍に
店に入ればシェイカーを振る音が聞こえてきた。
カウンターにはいつもの常連客である水野と鴻上が座っていた。
鴻上は俺に気づくと誰でも落ちると豪語する笑顔を向けてくる。
「リボーンさん、こんばんは」
「よぉ」
「こんばんは」
いつものように席に座って三城が何になさいますか?と聞いてくる。
おすすめで、と困らせる一言をかえすと少し悩んだ末に何かを作り出したようだ。
こんな意地悪ができるのも最近になってきてからだった。
最初から三城は表情が読めなくて会話をするのも躊躇ったのだが、今では困った顔も楽しいものである。
「リボーンさんが三城さん苛めてるー」
「晶…それは、俺達がマスターをとってるからだからそんなに言ってやるな」
「そんな簡単に嫉妬されたら困るじゃん」
「まぁ、それもそうだけど…仕方ないだろ?大人は時に歯止めのきかない子供っぽいことをするものだから」
「二人とも、煽んないでくれる?」
俺の散々な言われように三城からは同情の眼差しを向けられて、居たたまれない。
さすがに、止めに入らないとと思ったのだろう綱吉の言葉に少し救われている。
笑顔でホワイト・レディを出すぐらいだから、相当頭に来ているのだろう。
ちなみに俺が入ってくるときに振っていたのはシーブリーズという軽いものは水野の前に出されていた。
鴻上の顔が引きつって水野の服を引いている。
あいつは酔いたいときに思いっきり酔うタイプで今日は普通に楽しく飲むつもりで来ていたのだろう。
ざまあみろ、と思いながらも俺の目の前に出されたカクテルに口をつける。
青リンゴの味がするカクテルに名前は何だったかと顔を上げた。
「ルジュアップルソーダ、です」
「ああ、それだ。さすがにあれだけの種類を覚えきるのには時間がかかる」
「好きなものだけ、知っていればいいのでは?」
「それもそうだが、いつもと同じじゃつまらないと思わないか?」
「…はぁ」
新しい味や、新しいものを好む体質なのはわかっている。
だから、俺の性生活は結構派手にやっていた。
忙しさから付き合いは長くなかったが、とっかえひっかえという単語をあてはめるぐらいには節操がなかったと思う。
けど、俺はそれをぱったりと止めた。
それは常連客を相手にするアイツのためだ。
不安定で、目が離せなくて、そして一途に愛情を向けてくる。
「俺には、一つにハマったら一直線に見えるんですが…」
「ああ、そりゃアイツにだけだ」
「惚気ありがとうございます」
もうこれ以上は主のことは言わないでくれと視線で言われて、小さく笑うと頷いた。
俺が仕事で忙しくしているため、あまり会えないがそのたび心配されたり気にしている奴らがいるため綱吉は元気にやっているらしい。
こうしてたまに顔を見せるが、営業中はまず近づけない。
わかっててやっているのだから、割って入ってもいいがその状況を少なからず楽しんでいるので俺は少し離れたところから見ていることに徹するのだ。
「リボーンさんは、大人になられましたよね」
「は?」
「余裕を感じます」
「まぁ、害はねぇのがわかってるからな」
あいつら二人はできているようで、仲の良さから俺が割り込むのも鴻上がだまってはいない。
だから、綱吉も無理にこちら側にきたりしない。
お互いの心地いい距離をはかってしまったのだ。
それは、ある意味成熟を意味していて、そして信頼の証でもあった。
綱吉は昔のトラウマから人に頼ること、甘えることをセーブしていた。
一人で抱えることが多く、俺もそれに悩まされたが少しずつ寄りかかるようになってきた綱吉は、だんだんとだんだんと俺を信じるようになった。
俺はずっと傍に居る存在だと認識したのだ。
それは俺にとって願ってもないことで、こんな店の中での距離などとるに足らない。
カクテルを飲み終わり、美味しかったと笑いかければありがとうございます、と三城は頭を下げた。
すると、さりげなく目の前に出されたのは白いカクテル。
綱吉が、飲んだら上にいってて、とそれだけ言うと水野と鴻上の方へと帰っていく。
飲んでみればレモンの香りと少しの甘みが美味しさを引き立たせる。
「これで最後にしろってか」
「マスター自慢の一杯ですから」
「それは言えてるな」
名前は、エックス・ワイ・ジー。最高のカクテルに付けられた名前はその名の通り美味しい。
俺と綱吉にとってのこのカクテルは、今日最後までしての合図でもある。
隠れた誘いに笑って、俺はそれを飲み干すと支払いをすませて上へとあがった。
シャワーを浴びて汗と疲れを癒し、出るころには綱吉が上に登ってきていた。
「リボーン」
「お前は入らないのか?」
「入る…あの、今日疲れたんだ…だから…」
俺の手を掴んで、少しいいにくそうに言葉を詰まらせる綱吉に何を言いたいのか察した俺は綱吉を連れて再び風呂場に向かった。
「あんな強いもん飲ませておいて、一緒に風呂はどうなるかわかってんのか?」
「あ、嫌なら早く出てくるよ」
「長居はできない。背中流すぐらいならやってやるぞ」
ニヤリと笑ってちゅっと音を立ててキスをする。
アルコールが回っている以上は逆上せやすくなっているからだ。
「それとも、風呂で全部終わらせるか?」
「ばか…いいよ、なら早く出てくるから…外で待ってて」
恥ずかしそうにして綱吉は外に出ているようにと指さした。
疲れると甘えてくる仕草は可愛くて、そっと風呂場を後にする。
寝室で綱吉を待っていれば本当に早く上がってきたのだろう。
髪は少し濡れたまま入ってきて、俺の目の前にベッドにあがって膝をついた。
無言の頭拭いてのポーズに俺はタオルを引いて綱吉の頭を拭いてやる。
そのまま抱きついてくるとすりすりとすり寄ってきて最近来れてなかったせいか甘え方がピークに来ている。
「なんだ、俺のところに来なかったのは照れ隠しか?」
「…だって、久しぶりじゃないか」
むっとした顔で見あげられて、それもそうだったなと笑う。
忙しさで最近来れてなかったから拗ねていないかと思っていたら、甘え不足に陥っていたらしい。
拗ねられるよりはマシだと綱吉の身体を抱きよせて足を跨がせ、自然と見降ろされるようになる態勢に俺は綱吉を見上げた。
ちゅっと可愛いキスをして、それが深くなるのはすぐだった。
求めるように舌が入ってきて咥内を隅々まで舐めていく。
唾液が流し込まれてそれを飲み下しユラユラと腰が揺れる様を見せつけられる。
こらえ性のない綱吉のことだから、一度は自分で処理したのかと思ったがこの様子だと我慢したらしい。
「りぼーん、さわって」
「我慢できてねーぞ、このまま保つか?」
「もたない…でも、がまんしたくないぃ…」
綱吉はイクと少し中が締まってしまう。
俺のものをいれるまではできるだけ耐えてほしいが、今日は無理そうだ。
まぁ、ローションをたっぷり使えば多少は滑って大丈夫になるので今日はそうすることにする。
キスだけで高ぶってくる身体を見てきているパジャマを脱がしていく。
下着を押し上げているそこを介抱してやればもう先走りを滴らせていたらしく糸を引いていた。
先端をくりくりと指先で弄れば、甘い声で喘いで肩に置かせた指先が俺の肌に食い込んだ。
「つなよし、俺の服も脱がせ」
「ん…でも、しながらだと…だめ」
「気持ち良くなろうな」
「や、りぼーん…だめ、やっやぁっ」
一層甘えた口調で首を振り自身を扱かれて綱吉は白濁を放った。
そして、綱吉は息を乱してでも俺の服を脱がしてくる。
自身を取り出せばそのままそこにへたりこんで、先端をぺろりと舐めた。
「こら、なにしやがる」
「だめ、うごかないで…味見」
「何する気だ」
「だから、あじみ…らって」
言いながら口を開けて入るところまでを咥えた。
全部は口に含めないが必死に舌を使って愛撫する。
綱吉のその技巧が俺は好きだった。
丁度いい刺激を送ってくるのだ。最初は加減がわからなくていまいちだったのだが、だんだんと俺の気持ちいいポイントを把握してきたのだろう。
綱吉の口淫はどこまでも気持ち良くて髪に指を絡ませた。
「はっ…つな…」
「ん、んんっ…ぷは、一度いく?」
「そのほうが、入りやすいか?」
「んー、どうだろ…りぼーんのも、おっきい」
飲みたいからちょうだいとそのまま言われてまた先端を咥え、吸い上げながら幹の部分を手で扱いた。
両方の刺激に俺は我慢できず、綱吉の咥内へと注ぎこんだ。
それを上手に飲んで、綱吉は再び身体を起こすと俺の足を跨ぎ、いつもの引き出しにしまっておいてあるローションを取り出すと俺の自身へとかけた。
「ふ…ぬるぬる」
「全部するのか?」
「ん、俺にさせて」
奥まで欲しいから、と耳に吹き込まれて俺は頷いた。
綱吉はそこに腰を落として、先端からゆっくりと咥えていく。
きついぐらいに締めつけてくるそこに堪らないと息を吐き出し、もっとと咥えこんできてぺたりと座ったかと思ったら今度は足を立てる。
そうするとより深くまでか咥えこんで、俺も綱吉も気持ち良くなるのだ。
「あっあぁっ…おく、きてる」
「もっと、気持ち良くしてやるよ」
「ふあぁっ、やっああっ…だめ、ダメ…それ、ぐりぐりするなよぉ」
腰を引き寄せて押し付けるようにするとダメだと首を振り嫌がるが、中はしめつけて腰も動いている。
気持ちいのならもっと感じろとばかりに綱吉の身体を押し倒して、水音が響き渡るぐらいに突き上げた。
そのたびに綱吉は喘ぎ声を上げて、シーツを掴んで引き寄せ先走りをあふれさせた。
「もう、イクか?こっち、どろどろだぞ?」
「ん、いく…いくいく、っきもちよくして…奥まで、おくに…だして」
言われるまま腰を振り、全体を擦り上げるように回した。
綱吉は背をのけぞらせて大きく痙攣して白濁を放ち、中の締め付けに俺も二度目の放埓を綱吉の中で迎えた。
全部をだしきるように腰を動かして吐き出す。
「あ…やばい、頭どうにかなりそう」
「痛いのか?」
「ちがう、気持ち良すぎただけ」
中から抜くと名残惜しそうにされて、再びいれたい気持ちを抑えつけると俺は綱吉を抱きしめた。
綱吉の腕も俺の背中に回ってきて、きゅっと力を込める。
「リボーン、りぼーんは…まだいれる?」
「明日休みをもぎ取ってきたからな。お前が起きてる時間は相手してやる」
「ん、うれしい…」
綱吉は幸せそうに笑みを浮かべて、キスを強請ってくる。
明日になれば、鴻上と水野のために普通の顔をするのだろう。
この甘ったれた綱吉を知っているのは俺しか知らない。
髪を撫でてやれば、ますます嬉しそうにする。
俺だけに甘えるこいつを、もうどこにもやりたくなくて閉じ込めたくなるがそれはダメだ。
こいつの場合、この店に縛り付けられていると言ったようなものだろうか。
だからこそ、誰の目にも触れないようにしたいが、それは嫌がるろうから止めておく。
そっと見守るように近くに、綱吉の安堵した顔が可愛くてしかたなかった。
腰を引き寄せて、熱が灯りそうになっているそこに擦りつけさせる。
今日は一回で終わらせるつもりはない。
普段あまり会えない代わりに近くにいるときは一段と気持ち良く、心地よくしてやろう。
綱吉にキスをして、不思議そうに見つめてくる瞳にそっと愛の言葉をおくったのだった。
END