パロ | ナノ

 ずっと想われていたい

夜九時を回った。
そろそろネットが混んでくるころ合いだ。
俺は時間を確認して動画をアップした。
それと同時にケータイがなる。ケータイを確認するとそこにはリボーンの動画がアップされたとの表示。
俺は急いで接続したがもう百再生を越えていた。

「うえ、なにこれ」

くそっと毒づきながらも音楽を再生する。
それは俺と同じ曲だけど全然違う、一言でいえばかっこいい。
歌詞はもちろんメロディだって一緒なのにここまで変えてこれるのかと感心した。
もうコメントが反映されていてかっこいいとかGJとか歌詞が可愛いのに似合ってるとか言われている。
なんだ、かっこかわいいとか新たな路線開拓か。

「負ける気がする…っていうか、負けた気しかしない」

俺はリボーンと秘かな勝負をしている。
俺の作った曲と、リボーンが歌った曲一週間でどれだけ伸びるのか。
それは歌い手と製作者じゃレベルが違うし、まず最初にリボーンの知名度と言ったら…。
なのに俺がこの勝負に踏み切ったのは、勝った方に今度ケーキ驕るという賞品がついたからだ。
しかも、そのケーキの店がここらへんじゃ有名な美味しいところなのだ。リボーンもあの店のケーキは好きだからというぐらいで、ちょっと高くて学生の身分では少し財布がきついのが難点だ。
だからこそ、今回驕りという言葉に食いついた。
絶対勝ってやると意気込んだのだが、このできを見てしまえばどうにも…。

「はぁ…負け確定とか…ほんと悲しくなる」

ミックスもうまい具合にできていて、俺だったら一発でマイリス行きだ。というか、もうマイリスに入れてた…。
気づいたら入ってるとかどれだけリボーン厨だよとへこみたくなるが構わない。

「だって、俺リボーンファンだもん」

最近生放送でリボーンの話題を出すと秘かに囁かれるようになった単語で豪語してみる。
初見さんがきたときもツナはリボーンファンだから仕方ないと常連さんは教えているし、それが一番いい形なんだと納得した。
もちろん、こんな恋人関係なんて人に行って回れることでもないし、けれど、少し主張したい俺は生放送でリボーンと一緒にやることもあってか俺の方がアプローチかけられていると知られているらしく俺の通称はリボーンファン、リボーン厨、となっている。
まぁ、その通りだから否定もしなければ表立って肯定もしない。
ひっそりと俺はリボーンの近くに居させてもらえばいい。

「さて、俺はレポートに戻ろうかな」

これ以上見ていても胃が痛くなるだけだと気づけば俺は参考資料を開いた。
面倒だと思うけれどやってしまわないとまたこの前みたいにリボーンに泣きつくことになる。
俺ばかり面倒見られるのは悔しいたまにはリボーンの弱音とか聞いてみたいと思いつつも俺はレポートに手をつけ始めたのだった。




「さっそくあがってるな」

俺がアップしたのと同時のアップ。
ツナの音楽を聴いてやっぱり優しい音を作ると感心する。
俺がミックスしている時にも思ったが、ツナの曲には不思議な魅力があると思う。
誰しも一度は聞いてみたくなる心地のいいメロディ女性に歌ってもらいたいと言っていただけあって淡い色が似合いそうなもので、それに合わせてイラストも描かれている。
それにしても、最近この絵師にこだわってるな。
綺麗なイラストを描くと思うのだが、どうにももやもやとした気持ちが胸にくすぶる。
つまらない嫉妬心だと思うが、折り合いが付けにくい。
こういうことをしていれば自然と交流が増えていくものだ。
そして、自分の気に入った人にはつい次もとお願いしたくなる気持ちもわかる。

「…はぁ、最近心狭くなってねぇか…?」

イラスト一枚に何をしているんだと思うのだが、嫉妬してしまうものは仕方ない。
自分の曲は着々と伸びを見せているがツナも負けてはいない。
大体、俺に負けるだどうのと言っていたが俺の方こそ分が悪い。
原作を越える歌い手は早々いないものだ。
期間を一週間に設定したのにも理由がある。
俺の曲は最初こそ勢いがあるがだんだんと緩やかになっていく。
ツナの曲は原曲というだけあって、最初は出遅れたとしてもしっかりと数字をとるのだ。
一週間あればはっきりするだろう、俺は負ける。
どんなに良い声で歌おうと、ツナの曲には劣ってしまう。
それをわかってもらうためにしかけた勝負でもあった。

『無理だよ、止めようよそういうのっ』
『無理じゃねぇ、一週間あればわかる』
『リボーンは良いかもしれないけど、俺は絶対無理っ』
『無理じゃねぇって何度言ったらわかるんだよ』
『何度言われたってわからないよ』

なかなかうんと言わないツナに俺は頭を悩ませた。
こいつを頷かせるには…。

『ったく、わかったならあのケーキ屋のケーキ一個驕るってのはどうだ』
『ケーキ……欲しい』
『あそこの高いもんなぁ?おごりだぞ?』

最近甘いものが好きだと知った俺は十分に情報を活用させてもらう。
ほらほらと言っていれば悩んでいる雰囲気もうひと押しか。

『うぅ…卑怯だぞ』
『なんとでも、やるのか?やらないのか?』
『……』
『なら、俺が今度生放送でケーキ食べる枠してやるよ』
『なっ、見せびらかすのかよっ』
『俺の勝手だろ?』

散々ごねて、結局言質をとった。
そうしてこの勝負が現実になったのだ。
勝負は見えているというもの、それをなぜああも卑屈になることがあるのだろうか。

「もう少し自分に自信を持ってみろ」

愛されている自信もまた然り。
時々ツナの方が先に好きになったなどと言っているが、そんなことはない。
これは俺だけの秘密だが、と口元を釣り上げる。
なにはともあれ、一週間後が楽しみだと思う。
あいつの驚いた顔を間近で見るのもいいな。
胸を躍らせながら俺は久しぶりに自分の生放送でもするかと放送画面を立ち上げたのだった。




そして、約束の一週間後。
俺達は二人で生放送をしていた。
俺のコミュニティーで行われる定期的な配信だ。
俺は直で話してリボーンはスカイプ通話を繋げている。

「いい?」
『早くしろよ』

俺は二窓して自分の曲とリボーンの曲を表示させた。
コメントはwktk、はやく、と急かしてくる。
リスナーにこの勝負のことを言ったのは今さっきだ。
皆は大人しく待っているようだ。
そうして二つ一緒に再生数をみる。

「俺の勝ちだ」
『ほらな』

コメントからはおおおお、888888と沢山の言葉が流れていきリボーンも健闘っと励ます声もあげられた。
なんというか、拍子抜けだった。どうして俺の方が、と驚いたままでいると当たり前だろとリボーンが言ってくる。

『この曲を作ってるのはツナなんだから、普通に考えてツナだろ』
「だって、リボーンのもいい歌だよ、俺惚れたもん」
『お前な…』

告白来た、ファンwww、つっくん一途だもんねww、と囁かれるが俺の気持ちが本気なことぐらいリボーンはわかっているだろう。

『惚れたのはわかった、それは色目だ』
「うるさいなぁ、いいだろ」

おk、ツナだから許される、と流れていくのを見ればほらぁと言ってやる。
リボーンはなんだか苦笑いを浮かべてそうだ。
ここまでしっかりと主張しても許されるって良い環境だよなぁと一人嬉しくなった。
そして、ふっと思った。

「ケーキ、そうだケーキ驕りだっ」
『今さらか、さっきから言わないと思ったら忘れてやがった』

なにそれ、ケーキ?、うるさいよツナ、口々に言われて俺はしっかりと説明してやる。
結果を急ぐあまりすっかり頭から抜け落ちていた。
商品のケーキ驕り。

「今度、期待してる」
『調子のいい奴、まぁその時はケーキ食べる枠でもするか』
「またそれかよ」

いいね、食べる枠顔だし?、どっちの家に集まるの?流れる質問に答えつつ俺はうきうきと胸を躍らせる。

「顔だしはしませーん、カメラは俺の家にないし」
『俺の方にはあるぞ』
「えっ、まじ?」
『まぁ、言わなかったけどな』

リボーンの申し出にコメントが湧きだった、リボーンさんって顔だししてたっけ?、いつか顔だしするためだね把握、ツナが乗り込めばいいよ、と好き勝手言っている。
実を言うといったことはない。

「それって行ってもいいってこと?」
『そういや、来たことなかったな』
「あ…やば、時間だ。じゃあ、皆またね」

行こうというところまで来て時間がもう無いことに気づいた俺はそのまま枠を閉じる。
名残惜しそうなことを言っていた人もいるが、二人きりで話したいからこれでいい。
生放送をやるのもいいけれど、二人で話した方が断然いい。
皆には悪いけれど…。

「で、いってもいいの?」
『いつもツナの家だからお前が来たいならくればいい』
「じゃあ、いく」

初めて行くリボーンの部屋はどんな風になっているのだろうと俺は胸を躍らせながら日程を決めた。
最近はあまり忙しくないということも相まって会うのは今週末になった。

「楽しみ」
『なら、部屋片付けとかないとな』
「エロ本とかある?」
『ツナの写真ならあるな』
「嘘っ!?」
「うそ」

さらっといわれた言葉に声をあらあげればこれまたさらっとばらされて脱力した。
今の嘘に何の含みがあったのだろうか。

「しょうもない嘘つくなよ」
『まぁ、今度会ったときにでもお前の匂いベッドにつけていってくれても構わないからな』
「変態」
『男は誰しも好きなやつの匂いってのには敏感だぞ』

楽しそうに言われて、少し同意してしまいそうになる。
確かにリボーンと寝た後のベッドというのは名残惜しいけれど嬉しくなったりする。

「っ…」
『何想像してんだ?』
「してないよっ」
『うろたえっぷりが嘘だって言ってるぞ』
「……ばか」
『じゃあな、ツナ…会うの楽しみにしてるぞ』
「うん」

通話を切るときは少し寂しいけれど、すぐに会えると思えばそんな寂しさも吹っ飛んでしまう。
最後にすきだ、と囁かれて顔を赤らめているうちに通話が切れた。

「あれ、絶対謀ってるよな」

いつもリボーンは通話を切るときに俺の一番欲しい言葉をくれる。
こんなではいつまでもリボーンファンと言われ続けるだろう。
他を見る暇もない。
それぐらいに、俺はリボーンしか見てない。
次はあった時に、しっかりと俺の気持ちも伝えてあげよう。
想われたい気持ちも想い続けたい気持ちも、全部あなたにあげたいから。
そのまま俺はそっとパソコンを閉じた。




END

あやねさまへ
歌い手×ボカロPのその後の話ということで、デート編の続きを書いてみましたがこれでよろしかったでしょうか?
でも、これだけでも読めるようにはなっていると思います。
甘味が少なかったらすみませんっ。
納得いただけなかったらあやねさまのみ苦情を言えますので、遠慮なくどうぞ←
このたびはリクエスト有難うございました。






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