◎ ななころびやおき
緊張します。
目の前にはリボーンの顔があって、目を見れない。
俺たちはあの流れからリボーンの部屋へと移動してきて、早速とろうという雰囲気。
といっても、手に持つのはケータイでどうにか一回で済ませたいところ。
だって、俺は何回でもしていいけれど…リボーンは俺なんかとキスしても楽しくないだろうし…。
今回は骸と白蘭のため、そう自分に言い聞かせて正座している足をギュッと握る。
「緊張してんのか?」
「あたりまえだろ、男の人とキスとか」
大体俺はこれがファーストキスだ、なんてことは言えないけれども…。
気まずいのは仕方ないだろうとリボーンを見るとそれもそうかと笑われた。
「リボーンは…あ、そうか骸…」
「そうだな…骸としてる」
リボーンの当然の様な言葉に胸が痛んだ。
骸と付き合ってなかったとは言えそういう関係はあったのかと思うと少し不純だなとか感じるが、好きになってしまえば関係ないものだとわかってしまった。
だって、付き合ってくれる可能性ができただけで嬉しい…。
「嫌か?」
「そういうわけじゃないけど…慣れてるんだな、とか」
「さぁ、どうだろうな」
試してみるか?とひそやかな声で言われて、遊びだとわかっているのにどきりとした。
ケータイを用意して、顔を近づけてくる。
目は閉じた方が良いのだろうかととりあえず目を閉じて待ってみる。
するとちょんっと触れた唇とシャッター音にびっくりする。
「っ…」
「よく撮れてる、見るか?」
「い、い、いいっ」
「そーか、なら解散」
からかうような言葉に俺はぶんぶんと首を振った。
そんなものみてしまったら羞恥でどうにかなってしまいそうだ。
そうして、続けられた言葉に案外あっさりしているんだなと思った。
まぁこれ以上いても何を話せばいいかわからなくなるし。
これぐらいあっさりしている方が良いのかもしれないと俺は立ち上がった。
「明日は骸が学校に来るだろ」
「なら、白蘭に連絡とっておくね」
「ああ、時間は朝から注意だな。くれぐれも殺されないようにな」
「なにも、そこまで…ガンバル」
リボーンの言葉に冗談じゃないと言いかけるが、本当に冗談ではすまなそうになって深くため息をついた。
でも、リボーンも近くに居るはずだからそこまでにはならないと思うが…。
「いざとなれば、俺がお前を守るぞ」
「骸は?」
「なるようになる」
そんなアバウトなと思うけれど、リボーンが骸の心配より俺を選んでくれた方が嬉しい。
嬉しくて、どうにかなりそうだ。
俺は笑って、リボーンの部屋を出たのだった。
そうして帰って、いつものように過ごす。
思い出すのも恥ずかしいと思うあの記憶は忘れるには難しい。
綱吉が帰った後、俺はベッドに座った。
あんなにも簡単にキスができるとは思っていなかっただけに驚いたが、ケータイの写真を見て嘘じゃないことが分かる。
「マジでキスさせてんじゃねぇよ」
まったく、俺じゃなかったらあいつはどうしたんだろう、などと考えるのはやっぱり考え過ぎだろうか。
呆れつつため息を吐いてメールを作成する。
綱吉は俺のものになったぞ、と。
「我ながら自分の首絞めてるな…」
嘘で付き合っていることにするなんて、綱吉の唇に目が眩んでいってしまった言葉だ。
もっと普通に関係を築いて、信頼して、そうしてからの告白が一般的というものだろう。
骸にかき回されているなと感じて、頭を抱えたくなってきた。
いや、余裕をなくしているのは俺の方か。
「くそっ…」
写真を送付して送りつけた。
あとはどうにでもなればいい。大体俺と綱吉がなんであいつらの関係修復に手を貸さないといけないのか。
まったくもって、理解できない。
そうして送ってすぐにメールが入るが無視をする。
電話が来てはいけないと思って電源を切った。
「明日、学校で会えるだろうが」
いつまでも引きこもってないで早く学校にこい、そういう意味を込めて俺は放置を決めこんだ。
大学につけば周りを見る。
何もないらしい。
自分の部屋に帰った後俺は白蘭に連絡を取った。
とりあえず、朝から講義があるからこっちに来るのは少し遅れるらしい。
なので、早朝から何かあっては困るのだ。
そして、リボーンもいない。
今日は俺だけが講義の予定が入っていて、斉藤もいないのだ。
というか、斉藤は斉藤でちゃっかり彼女を作っているらしい。
「俺ばかりなんだか報われてないんだけど…気のせい?」
むっとしながらも講義が始まれば一安心だ。
途中で入ってくる生徒はいないから俺は安心して講義を受けられる。
昨日はあまり眠れていない、ふぁっと欠伸を手で隠しながら黒板の文字をノートへと書き写していく。
それにしても、骸は今まで何をしていたのだろうか。
部屋にこもっているって言っても、あんな長い間…一人で、何を考えているんだろう。
骸の心のよりどころまでとろうとは思ってない、ただリボーンがこっちを向いてくれたら嬉しいと思うだけ。
リボーンだって、骸を気にしないことなんてできないだろう。
今回のことが何よりの証拠だ。
考え事をしていたら、あっという間に授業が終わっていた。
次は空けてるから時間をつぶさないとと思って、教室を出たら目の前に骸がいた。
「げっ…」
「おはようございます、沢田綱吉」
「あ、おはよう…久しぶりだな」
「そうですね、とりあえず…顔、貸してもらえませんか」
一瞬後退ろうとした俺の腕を掴んで笑顔で言ってくる。
逃げれない状況で顔貸せとか、強制的だろうっと突っ込みたくなるのを必死で抑えて、リボーンがいないことに気づいた。
そして、白蘭からの連絡もさっきみたかぎり着ていないことは確かだった。
これ、やばいよね…俺、やばいよねっ!?
死亡フラグだと泣きそうになるが、その言葉が却下されることはないようだ。
「どこに、行けば…?」
「使ってない教室に決まってるでしょう?」
ですよねー、なんて思いながらも腕を引かれる。
仕方なく骸の後ろを歩きながら背中を見つめた。
本当に来るとは思ってなかったし、いつもと何にも変わらないような感じでよかったと安堵した。
そうして、空き教室へと入るとドアを閉められる。
「では、聞かせてもらいましょうか。リボーンと付き合ってると?」
「え、それは…その…」
「付き合っているからキスをした、違いますか?では、何故?僕に見せつけるためなら遊びでキスしたなんて言わないですよね?」
次々と投げかけられる言葉に俺は混乱する。
遊びで舌と言った時にはどんな言葉を浴びせられるのか。
俺はなんて言ったらいいのだろう。
「はっきりいってください。僕はリボーンの近くに居るのをやめました。それは、君との時間を大切にしてほしいと思ったから、僕なりの気遣いを君はわからなかったとでも言うのですか」
「うそ…」
「は?もしかして、本当に?ばかなんですか?」
骸の言葉に顔をあげれば信じられないという顔をしていた。
なんだか俺が責められている気がする、いや責められているんだけども…。
むしろ、なんで骸がそんなことを想っていてくれているのかそこが謎だ。
俺は嬉しいけれど、リボーンは…どうなんだろう。
「まったく、リボーンは君のことが好きなんですよ。それで僕はこんなにも振りまわされているというのに、こうやって心の整理もつけて…やろうと…し、て?」
「なにそれ」
「………は?」
骸の言葉に拍子抜けしたのは俺の方だった、俺のことが好きだったってなんで。
信じられない目で骸を見れば言葉を止めた。
本気で知らないとは思ってなかったらしい。
それもそうだ、付き合っているという嘘を吐いて骸に写真を送りつけたのだから。
ということは、もしかしてリボーンが俺を好きだっていうのは嘘なのか?
骸にまで嘘ついたのかな?
なら、俺はここで俺も好きだって言うべきだったのか?
「まさか、本気で僕をからかっただけとは思ってませんでしたよ」
「いや、それは…あの、ちが…」
「僕のリボーンをそんな遊び半分で付き合わないでもらいたい」
「なんだよ、それは骸だってだろ」
「はい?」
「リボーンと寝たんだろ?それなのに、付き合ってなかったって…それはセフレと何が違うんだよ。それに無理やりリボーンを閉じ込めて留年させてるし、それなのに骸が好きなのはリボーンじゃない、それは俺より酷いことなんじゃないのかよっ」
「っ…僕のしてることは、悪くないっ。僕はっんん」
「はーい、ストップだって。何回僕に止めに入らせる気?」
言い争いが白熱してきて周りが見えなくなってきた頃、後ろから伸びてきた手によって言葉は遮られた。
そっと教室に入ってきた白蘭は骸の口を塞いで抱きしめていた。
冷たい目が俺を見つめてくる。
それは、多分骸をこれ以上傷つけるなと言いたいのだろう。
「ホントに、ようやく捕まえたよ」
「んっ…白蘭っ、離してくださいっ」
「だめ、僕のだから…もう、君は僕のだ。綱吉君にメールしたんだけど、なかなか返事が来なかったから探したよ」
俺はハッとしてケータイを確認すれば先程のものと思われるメールが来ていた。
あんなことがあっては気付くはずがないと思いながらもこの事態の収束に溜め息を一つ吐いた。
すると、ばたばたと足音がする。
入口を見ていたらリボーンが顔をだした。
「綱吉、無事か」
「まぁ、なんとか」
「僕が来たからもう収まったよ」
「白蘭…」
「協力ありがとう、二人ってもう付き合ってるんでしょ?仲良くね」
「え?ちょっ!?」
「白蘭っ、離しなさいっ…リボーン」
白蘭の言葉に俺は驚いて、声をあげるが白蘭は骸を抱き抱えると歩き出した。
にっこりと意味深な笑みを浮かべて。
骸は最後までリボーンに助けを求めていたが、リボーンは骸に手を伸ばすことはしなかった。
なにもかもわかっているだけに、あとは二人の問題だからだ。
そうして、残された俺達にも…大きな問題が残された。
リボーンが好きと言っていた俺と、リボーンが好きと思っている俺。
どこまでもひっかきまわしていくのだ、あの二人は。