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 シックスせんす

目の前には珈琲を飲むリボーンがいる。
優雅だと眺めていればついっと視線が上がって目があった。
思わず逸らしてしまうと、くすくすと笑われる。
ますます恥ずかしくなれば、俯いて逃げたくなるがリボーンの目の前…そんなことはできない。

「それにしても、なんで…一緒にご飯…とか」
「腹減ってたから、ダメだったか?」
「いや、別に俺用事ないから良いけど…」

ならよかったと安心したように珈琲を飲んでサンドイッチに手をつけるリボーンに俺はどぎまぎとする。
だって、目の前に居る。
本当に手を伸ばせば届いてしまう場所に居る。
なんでこんな事態になったのか、時間は遡ること二時間ほど前のことだ。
偶然講義が同じで、そのときは斉藤もいたのだが、午後から用事あるからと先に帰ってしまった。
俺はと言うと午後も講義があったし一人で昼食かと思っただが、いつも先に行ってしまう燐な偶然その場に居合わせ、だったら一緒に飯でも食うかと誘われたのだ。
まだよく話せてもいないのに、よく俺もついてきたなと思う。
リボーンは完全な無言ではなく、俺に話しかけてきてくれた。
俺はと言うとこんなことは初めてだったため緊張しっぱなしと言うか、どうしたらいいのかわからずにいた。
どんなつもりで俺を昼食に誘ったのかも不明だ。
リボーンと骸は付き合っているという噂が流れているのに。
骸はと言えば、今日もきていない。
このままでは単位が危ないというのに…だ。

「骸は…もうこないのかな?」
「気になるか?」
「ちょっと…だけ」

あんなことがあって骸の方を気にするなんて白蘭の話を聞かなければ有り得なかったことだ。
けれど、やっぱりこのままじゃいけないと思うし、心配だし。
確かにリボーンは欲しいと思ったけれど、それで骸がどうこうなってしまうのは納得いかない。

「骸は、あいつのおかげで寝てるな、ずっと」
「あいつって白蘭?」
「なんで知ってる?…ああ、そうか、あいつが話したか」

俺が思い当たることを言えばリボーンが驚いた顔で見てきたがあの時の状況を思い出したのだろう。
納得したように頷いて、どこまで知ってるんだという目で見てきた。
これは話していいことなのだろうか…いや、でも白蘭からいろんなことを聞かされたのだから話してもいいはずだ。
俺はこの微妙な関係に巻きこまれてしまったのだから。
そうして、白蘭から聞かされたことをしっかりと話せば、全部話したのかとため息を吐いていた。

「あいつも綱吉を巻きこんでどうするつもりなんだ…」
「あ、俺の…名前…」
「…すまん、ずっと気になってたからな」
「俺も…リボーンの名前知ってたから」

そう言えば自己紹介もできていなかったと苦笑をして、自分たちのことに情けなさが募る。
だって、自分のことを差し置いて白蘭と骸のことが気になるなんて。
いや、そっちが片付かないことにはなにも進まないと思っているからだろうか。

「お前のこと教えてくれるか、綱吉」
「え…俺の、こと?…何もないよ、沢田綱吉。勉強とか運動とか別にできるわけでもないし、やりたいことを探してるとこ」
「俺はリボーンだ、幼なじみの骸の世話を暇つぶしにやいてる。まぁ俺の方が一年多いから勉強はできる方だな」
「それってただ覚えてるだけだろ」

俺がリボーンの言葉にクスクスと笑えばそうとも言うなと笑っていた。
こんなにも穏やかな時間は最近ではあまりなくなったなと思う。
みんな就職のことで忙しくしていて、俺ものんびりはできないけれど、でも落ち着きがない生活はだんだんと心を蝕んでいつの間にか喜びもわからなくなってしまいそうで怖くて、だからこそ、こういう穏やかな時間が必要なのかもしれないと思う。

「綱吉も食うか?」
「くれるの?じゃあ、頂きます」

なんだかちょっと打ち解けた…というか、もとよりあまり壁なんかなかった気がするけれど…気がして俺は差し出されたタマゴサンドを受け取った。
一口食べると美味しくて、素直にそれを伝えたら、ならよかったとリボーンは笑顔を向けてくれた。
そうして、俺が頼んだパフェがくればあまそうだとリボーンは眺めていた。
甘いものはあまり好きじゃないようだ。
疲れをとるには一番早いのになと思いつつ、生クリームを口に運んだ。
ほのかな甘みに舌鼓を打ち、食べていると視線を感じる。
なんだかリボーンがじっとこちらを気にしているような気がして…なんだろうか、と顔をあげれば俺の持っているスプーンを見ていた。

「食べたいならあげるよ?」
「いや、綱吉が食べればいい」
「ふぅん?」

欲しそうにしていたのに違うのかとまた食べ始めながら思ったが、口にはしないことにした。
そうして、食べ終われば講義に行くこともせず向かい合ったまま動こうとはしなかった。
離れてしまうのは、なんだか嫌で…リボーンは行かないと、というわけでもなく時々ケータイをいじりながらも居続けてくれている。
どうして、こんなにも気になるのだろうか。
ちょっとぐらいしか話せていないというのに、こんなにもリボーンから目が離せなくなっている。
そしたら、唐突にリボーンが口を開いた。

「あのな、白蘭のこと協力してくれるのか?」
「ああ、うん……まぁ」

どうして協力してくれる気になったのか、までは聞かずその話題を振りたかったらしい。
俺は頷いてリボーンを見る。
このままではいけないと思っているのはリボーンも同じなようだ。

「でも、このままじゃ二人は話すこともできないよ」
「わかってる、だがなかなか出てきてくれない」
「どうにか連れ出せればいいのに」

二人してうーんと唸ってとりあえず骸だけでも出てきてくれればいいと思った。
そうすれば、どうにかして白蘭を引き合わせることは可能だろう。

「リボーンどうにかできない?」
「どうにかって簡単に言うな、あの臆病ものはこうと決めたら梃子でもうごかねぇからな…やるとなったら時間かかるぞ」
「いいよ、まだ時間あるし…白蘭からも連絡ない」

有効法ではないが手はあるとリボーンは笑った。
ちょいちょいと手招きされて、俺は耳を貸せと言われているのかと思って、身体を乗り上げる。
すると、ちゅっと頬にキスをされた。

「!!?!!!?!?!?」
「くくっ、面白い反応だ」
「いきなり、なに」
「骸は俺に執着してる。きっぱりとこの関係は止めようと言ったが、まだ半信半疑だ」

その関係とやらは多分付き合っているということなのだろうということは察せた。
骸はそれに納得していないということかと頷く。

「だから、俺達は付き合うことにしてしまえばいい」
「……は?」
「付き合って、骸に自慢する。嫉妬を煽って綱吉のところに乗り込ませればいい」
「え…それって」
「お前が囮だ」

心底楽しそうな顔でこわいことを言わないでほしいと思う。
確かにその案は良いかもしれない。
けれど、俺の心臓が保たないと思う、二重の意味で。

「…自慢と言うのは、具体的にどういう?」
「知りたいか?」

にやりと笑ってリボーンは問いかけてくる。
聞かない方が身のためだと警報が鳴る。
自分の中の危険予測が音を立てるが、半分期待している自分がいた。
そして、俺はその欲に溺れたのだ。
リボーンの問いかけにこくりと、頷いた。

「まぁ、証拠になるようなもの。キス画像なんてのはどうだ」
「………いやいやいやいや、良く考えて。男二人で入れるプリクラなんてないよ」
「誰が、プリクラでキス画像をとるって言った」
「だって、それしか方法なくない?」

どちらにしろなんでキスをすることになるのか俺はそこまで突っ込む勇気がなかった。
首を傾げて言うのに、リボーンは楽しそうだ。
そんなにキスをするということが楽しいことなのだろうか。
俺はリボーンを意識してしまって緊張しまくりなのに。

「あるだろ、身近なところに」

そういいながら、リボーンはケータイを差し出した。
まさかと思っていた事態に俺は頭がついていかない。もしかすると、もしかしてしまうのか。
俺はこういう時の次の言葉を予想する。
というか、予想できてしまった…本当なら拒否しなくてはならない。遊びで付き合うとか、そんなことは…自分が傷つくだけだ。
それなのに、俺は好奇心に逆らえなかった。

「どこでとるの?」
「俺の部屋だ、くるか?」
「うん…」

緊張でうまく喋れない。
そんな願ってもないことに俺は、混乱した。
けれど、これが最後かもしれない。鎌をかけるためにすることだ。
本気で付き合えるとは思っていない、だったら…遊びでもいいじゃないか。
俺はリボーンに腕を引かれるようにして喫茶店を出たのだった。
そこで初めて気付いたのだ。俺は、リボーンを好きなのかもしれないと。

いや、薄々思っていてそれを無視していた。
思い返したら俺はリボーンしか見えてなかったのだと、思う。







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