◎ 四角関係
薄々気づいていたことだった。
敵視されていそうなのに、何もないなんて…そんなこと、有り得ない。
「いい加減、離れてくれませんか」
「な、なにが」
「僕のリボーンです、ここの噂はもう聞いているでしょう?」
俺は骸に空き教室へと連れ込まれて壁に追い詰められていた。
それは偶然だった。
俺は一人きりの講義で、それを狙っていたのかわからないが廊下を歩いていたら腕を掴まれ、ここへときていた。
リボーンと骸は付き合っている。
噂ではそうなっていた、けれどリボーンは俺を見てくるし、最近リボーンと骸は本当に付き合っているのかと疑問を抱きつつあった。
でも、骸がそう言うのなら本当なのだろう。
「だったら…リボーンを見ておけよ」
「は?」
「お前、リボーンのこと全然見てないじゃないか。俺ばっかり警戒してるの、わかってるのか?普通だったら、リボーンの手を引くところだろ」
「なっ」
疑問を抱いていたのはなにもリボーンが俺ばかりを見ているからじゃない。
普通だったらこっちを見て、好きだというのが普通だと思うのに骸はそれをしないのだ。
そればかりか、リボーンを放って俺にばかり気にしている。
それは、ただ遊び道具を返してもらいたくて泣きじゃくる子供の様だと思った。
「リボーンのこと、本当にみてるのか?」
「見てますよ。僕は、ずっとリボーンの隣に…」
「なら、なんでここに居るんだよ。なんで、傍に居てやらないんだよ。そんなことしてるから、俺は…俺は…」
友達になりたいと思っていた気持ちは、本当だ。
けれど、いつの間にだろうか…俺はあの優しい目に見てもらえることが嬉しくなっていた。
何かあれば気にしてくれて、講義もわかりにくいところはちょっと教えてくれたり、そんな優しいところを見せられたら…欲しくなってしまうじゃないか。
俺は骸の目を見ることができなくなって俯いてしまうと、ぎゅっと拳を握りしめた。
「あげません、リボーンは…僕のなんですから」
ふるふると首を振る。
リボーンは、ものなんかじゃない。
リボーンは、ちゃんと生きてる。物なんかじゃない。
「お前がそんなだからっ、俺が…告白しようって思うんだっ。告白されたくなかったら、リボーンの目を見て好きって言ってみろよっ」
「言えますよ、言えばいいんでしょう。そしたら、諦めるんですよね」
「ああ、諦めるよ。リボーンに好きって言って俺に見せつけてみせろよ」
何をバカなことを言っているんだと自分の中で誰かが叫ぶが、俺の口は止まらなかった。
でも、そうしてくれないと俺の諦めもつかないのだ。
あんな隙だらけで、リボーンは俺を見てきて…。
だから、そうやって付き離してみろよ、そう気持ちをこめて言えば骸は自信満々に言い返してきた。
言葉はもう取り返せない、けれどこれが本当の姿なのだと思えば痛くもなかった。
「僕はちゃんと、リボーンを好きで…」
「そおだったんだぁ」
「!?」
突然横から聞こえた声にそちらを見れば見知らぬ男がいた。
貼り付けたような笑顔で、こちらを見ている。
「びゃくらん…」
「骸くん、いい加減僕の話し聞いて」
「近づくなっ、僕はお前なんか知らないっ、僕はっ、しらない」
聞こえたのは頼りないほど怯えきった声だった。
目の前を見れば動揺を隠しきれない骸の姿があった。そして、その白蘭と呼ばれた男は教室へと入ってきたのだ。
普通に入っていただけでドアに鍵もかけていなかったし、ドアの近くでそんな話をしていたので通りかかった人間は気付いていただろう。
それにすら失念してしまうほど、俺達はお互いのために必死だったのだ。
「知らなくないよ。ねぇ、骸くん…きみは誤解してるんだって」
「止めてください、こないで…リボーン、りぼーん」
「呼んだって来ないよ、彼は今カフェで珈琲を飲んでいたからね」
白蘭は骸に詰め寄っていって、話しかけた。
声は極めて優しい、けれど骸は混乱しきっていて碧い髪を振り乱して抵抗していた。
抵抗と言っても口で叫ぶだけなのだが、どうしてあそこまで怯える必要があるのかと俺は不思議でならなかった。
そうして、白蘭が骸に手を伸ばした時だった。
骸はいやだっと叫んでそのまま教室を出ていってしまったのだ。
危ないところをすくわれた俺、けれど白蘭は伸ばしかけてそのままにした手をぎゅっと一度強く握ってポケットに入れた。
「ごめんね、話の邪魔して。っていうか、助けが欲しかったんだよね。うん、君は助けてないから」
「わかってます、骸とどういう関係なんですか」
「僕?ぼくはね、コイビト」
突然現れた白蘭がわからなくて問いかければ、にっこりと笑ってそう言われた。
けれど、白蘭の目は笑ってなかった。ただ深い闇を見せてきてその中に少しだけ寂しさを垣間見た。
僕は教室を飛び出して無我夢中で走りだしていた。
カフェに居ると言っていた言葉通り、リボーンはカフェに居たのをみて、皆が驚くのも構わずリボーンの腕を掴んだ。
「骸?」
「リボーン、りぼーん…りぼーん」
「どうした?何かあったのか?」
リボーンの問いかけにも応えることができず、何度もリボーンを呼んだ。
しかたなくため息を一つ溢すと、リボーンは席を立ちレジで会計を済ませると、僕をつれてそのまま大学を出てしまった。
どうして、なんて聞けずに引かれるまま歩いていれば僕の部屋にやってきた。
「開けろ」
「は、い…」
冷めてきた頭で鍵を開けるなり、リボーンは中に入った。
僕もつられて中に入れば、向かうは寝室だ。
慰めてくれるそれが嬉しくて、僕は自分からベッドに乗りあがり服を脱いだ。
「なんでそうなってる、理由を答えろ」
「白蘭が、いたんです」
「あいつか…で、逃げてきたのか」
「はい…」
「あいつ、大学違っただろ」
なんでここにいるんだと面倒そうな声でリボーンは言いながら僕の身体を開き早急に自身を握ってきた。
それに背を逸らしながらリボーンの腕を握る。
「わかり、ません…なんで、あそこに…いたのか…」
「今日は目隠しいいのか?」
「して、ください」
混乱してしまってまともに感じることもできなくなっているのがわかればリボーンは自分のネクタイを解いて聞いてきた。
頷くと優しくネクタイで目を隠された。
閉ざされた視界で浮かんでくるのはあの男の影だ。
いつも優しく、僕を愛撫してくれていた。
触り方も、リボーンと同じ…いや、僕がリボーンに教え込んだのは白蘭の触り方だったのだ。
こうして視界を閉ざして、声も聞かずにいるとまるで白蘭に抱かれているよう。
そう思うと、悲しくなって…リボーンの名を呟いていた。
「りぼ、ん…はっあぁっ…りぼーん、んんっ…ふぅっ、うあっ…ひぃん…」
「ったく、現実逃避もいい加減にしろ、よっ」
乱暴にローションをかけられたと思ったら、いきなり秘部へと熱棒が入りこんでくる。
身構えることもできなかった僕が戸惑っている間にずぶずぶと奥まで来てキツく締めつける。
「はくっ…ああっ、ふっ…」
「少し緩めろ」
「ふあっぁ、むり…ですっ」
「骸、ゆっくりな」
中で動きたそうにするのを締めつけてしまえばリボーンが耳元で囁いてきた。
それに首を振るのに、優しげな声で言われて、力が緩まる。
ひくっとしゃくりあげるのもリボーンは気にすることなく僕を突き上げてくる。
ネクタイは涙でぐちゃぐちゃになって、伸ばした手は縋るように、肩へと伸ばされていた。
白蘭は僕の元恋人だ。もう別れている。
いや、自然消滅だと思っている。
僕がこうなったことの原因は…白蘭だ。
本当に好きだった、ずっと好きでいるつもりだった。
けれど、高校三年の秋…すべてが崩れ去った。
「もっと、してくださいっ…リボーン」
「どうなってもしらねぇぞ」
「いい、いいです…僕は、誰にも…必要とされないんですから」
だったら全部壊しれてくれればいいのに、と自暴自棄になっていた。
そうでもしないと僕は本当に壊れてしまいそうで。
幼なじみのリボーンに相談したら、力になってやると言ってくれたのだ。
だから、この関係ができた。
何もかもなくなった僕は…リボーンに縋ることで自分を保つことにしたのだ。
捨てられた僕なんか、要らない。
あんな風に裏切った、白蘭を許さない。
「あっ、イく…イかせて」
「イけよ、骸」
「ふぁぁう、ああぁっ!!」
このまま何もかもなくなってしまえばいいと、何度思ったことか。
なんで、あそこに白蘭が現れたのだろう。
なんで、僕の居場所がばれたのだろう。
どうして、僕の目の間に現れたのだ。
「ひっく、リボーン…こわい、こわいんです…ぼくは、どうしたら…いいのですか」
「いい加減、俺に執着するのは止めることだ」
ネクタイを外され、外の光に目を瞬かせた。
だんだんと慣れてくる視界で、泣きっ放しの僕の涙をリボーンは乱暴に拭ってくる。
「どうしてですか」
「俺はあいつに惚れてる。これ以上続けるなら俺はあいつの名前を呼びながらするぞ?」
「それは、止めてください」
「最初っからお前とは同情だったんだ、呼ぶ名前がなかっただけだ。それにお前だって、俺に向けた想いなんてのはないだろ?それはただの八つ当たりだ」
誰に?とは聞けなかった。
リボーンの言っていることは当たっていて、でも離れるのは嫌だとリボーンに抱きついた。
放り出されるのは嫌で、僕のことを蔑にしないでと思った。
すると、リボーンの手が僕の背中を優しく撫でて、くしゃりと髪を梳いた。
「お前は、いつになっても仕方ない幼なじみだ」
「…恋人を、解消します」
「ああ、怖くなったら俺に連絡しろ」
今度は身体じゃない方法で、慰めてやるからと笑って言われてしまえば、もう頷くしかなかった。どんなに恋しくても、寂しくても…リボーンは大切な人だから。幸せになってもらいたいと…思うから…。綱吉との勝負は果たすことができなかった。