◎ それから、どうした
「うー……おわったぁ」
俺は大きな伸びをして机から離れた。
ここ数日ずっとすわったままの体勢だったからか腰や肩が堅く凝ってしまっている。
けれど、この大量の原稿を前に達成感が俺の心を占めていて充足感に溢れている。
そして、その原稿を編集部にファックスして確認のメールを受け取ればますます身体が軽くなっていく気がした。
「このまま、行きつけに行こうかな」
出歩くのも久しぶりになってしまうことに苦笑を洩らしながらいつものバーに足を向ける。
「こんにちは」
「あら、ツナヨシ久しぶりじゃない」
「ツナー、お前飲む気ない?」
店に顔を出せば俺に気づいたマスターが最初に声をかけてきてくれて、そのあとセイジがいつもの場所に座ってもう飲み始めていてすでに酔っているようだ。
「どうしたんだよ、なんかもうベロベロ…」
「酔ってないって、ツナ…聞いてくれよぉ、俺…ほら」
セイジの隣に座ってどうしてこんなに酔っているのかと聞こうとしたが楽しそうに自分の掌を俺の顔の目の前に見せて来た。
アップ過ぎて何なのか分からず少し顔を離せば薬指に指輪が光っていた。
「指輪だ」
「そう!!おそろいなんだ。いいだろー?」
セイジは少し前に恋人ができて、その時は最低、最悪、ヘタレののろまと言いたい放題言いまくるぐらいに頼りない男だと聞いていたのだがこの幸せそうな顔を見る限り俺が来ない間に色々あったようだ。
酔った勢いで俺の腕に自分の腕を絡ませて自慢してくる様はなんだか女子になったような気分だ。
よかったね、と頭を撫でてやると俺の目の前にカクテルが置かれた。
「それ以上、触れるな」
「り、リボーン…」
「いいじゃんか、こんな日ぐらい俺の幸せツナヨシにもわけてあげるのっ」
そう、リボーンはいろんな経緯があって今はここのバーテンダーをやっている。
俺の友達を紹介するつもりでここに案内したのが最初だった。
マスターが一目ぼれして、腕を確かめるためにシェーカーを振らせたら即採用だった。
今ではもう店にもなじんでいるのかマスターとも仲良くやっているようだ。
が、何故かセイジとはいつもこんな感じだ。
セイジはセイジでリボーンの反応が面白いのか、いらついた様子のリボーンに舌を出して俺の腕をギュッと抱きしめてくる。
まぁ、そう言うのは嫌いじゃないが…なんというか…この後のことを考えると俺の背中には大量の脂汗が…。
「いや、セイジ充分だから。もう、離れて?…っごほ…なんっ、これ…すごい強い」
「チェリーブロッサム、確かに…ツナヨシには強すぎるカクテルじゃないかしら?」
「………」
俺に出されていたカクテルを飲めばいつもとは違う喉を焼くような感覚のカクテルに思わずむせてしまう。
味はフルーツの様な気がするが、俺には強すぎる。
どういうつもりだとリボーンを見れば、ふんっと鼻を鳴らしてグラスを磨いている。
でも、なんだかわかってしまった。
わかってしまったから、これ以上言及できなくなってしまう。
「セイジ、ごめんね…俺はさ、もう幸せだよ」
「ツナ…」
「もう、あのころの俺とは違うの…わかってるだろ?」
「わかってるから、羨ましいんだろ」
俺がやさしく言い聞かせるように言えば、全くとさっきまでの酔っていた雰囲気はどこへやらスルリと腕を解いて座りなおせばテーブルに肘をついてマティーニのオリーブを摘まんで口に運ぶ。
「今度、セイジの彼氏も紹介してよ。見てみたいなぁ」
「いいよ、気が向いたら連れてくる」
にへらと笑ったセイジは、やっぱり今が一番幸せって顔をしていた。
まだ無愛想な顔をしているリボーンをみると、俺に用意されたカクテルを飲みほした。
一口目は思ってもみなかったアルコールにびっくりしただけでよく味わえば甘くておいしい。
「ツナヨシ、なんか食べてく?どうせ何も食べずにここにきたんでしょ?」
「あ、でも…」
「食べてけ、後で気失っても知らねぇぞ?」
マスターの言葉に遠慮しようとするが、すぐさまリボーンが口を挟んできてフルーツの盛り合わせを出してくる。
用意が良いなと感じるが、そう言うところにちょっと嫉妬する。
この姿にこのバーのどれだけの人間が惚れこんだことだろうか。
「わかったよ…」
少し頭がぼーっとしてきたが、もうどうでもよくなっていた。
はやく、リボーンに触れたい。
ただ、それだけが頭の中をぐるぐると渦巻いていた。
「んー、リボーン…冷たくて気持ちい」
「くっつくな、歩きにくいだろ」
「やだ、俺を酔わせたのはりぼーんじゃん、だからいいの」
「……はぁ」
俺はあれからもやもやを発散するように食べた。
そのおかげか空腹だったお腹は満腹になり、上がり時間になったリボーンと一緒にバーを出た。
セイジのように腕を絡ませて抱きつく。
歩きにくいと言いつつ、無理やり振り払おうとしない。
そこがまた優しいのだ。
「でもさ、でもね…リボーンは俺にだけ優しくすればいいのに…」
「は?どんな経緯でその話になるんだ」
「俺以外に、いい顔しないでよ」
「だから、なんでそんな話になるんだ」
リボーンが訳がわからないと首を傾げる。
そんなこと言っても、俺にはもう辻褄が合っちゃってるし…。
「リボーンがあんな顔するから、みんな見惚れてる」
「そんなの知るか。俺はお前しか見てないぞ?」
「わかってるよ、セイジに嫉妬とか…俺達はそう言うんじゃないっていうのに、わかってくれないのはその独占欲のせい?」
「そうだ、わかってるならあまりべたべたさせるな」
それは、無理だ。
そうでもしてリボーンの嫉妬を煽らないと愛されている感じがしない。
とくに、あのバーの中だといつも以上に、だ。
「それに、俺を放って仕事につきっきりなのは誰だ?」
「俺のは対人間じゃないもん」
「もん、ってなんだよ。可愛こぶるな」
「口動かすの、疲れた。おんぶして」
「だから、お前はどこで辻褄合わせてんだ」
そう言いながらちゃんと俺の目の前にしゃがんで背中を向けてくる。
俺は嬉しくなってギュッと抱きつけばそのままおんぶされた。
ゆっくりとした振動に今度は気持ち良くなって瞼が重くなってくる。
ああ、リボーンに触りたいのに…。
あれほど、触れたいと思った焦燥はいつの間には霧散し始めていて首筋に鼻を寄せてバーの匂いに混じってリボーンの香水が香る。
嗅ぎ慣れたそれは、俺を安心させてチュッとそのまま耳の下あたりにキスをする。
するとビクッと背筋を堅くさせたリボーンに気を良くして舌で筋をなぞって耳たぶに吸いついて水音を立てる。
「綱吉、煽るな」
「なめてるだけ…はつじょうする、リボーンがわるい」
「お前だって俺の反応見て反応させてんだろうが」
マンションにつけばリボーンは鍵を、俺をおぶさったまま器用に鍵を開けて中に入る。
リボーンに指摘されたとおり俺のそこは緩やかに熱を灯している。
そして、リボーンが歩く度その振動がそこに伝わってくるからじわりじわりと俺の息があがる。
「ん…んんっ…りぼーん、はっ…りぼーん…」
「呼ぶだけじゃどうしてほしいのかわかんねぇぞ?」
堪らないと耳元で囁けば意地悪な声が聞こえる。
寝室までくればようやくリボーンの背中を下ろされてベッドにあおむけになる。
もう俺は止まらない。
アルコールのせいもあるだろう、もう好きなだけ乱れたい気分だ。
「俺をぐちゃぐちゃにして」
「どういう風に?」
「舐めて、吸って…ぐしゅぐしゅして」
誘うように自分から服を脱いだ。
覆いかぶさってくるリボーンの自身を握るとズボンの上から扱く。
もうすでにそこは硬く、熱く、俺の中に入れたいと主張していた。
「ここ、舐めてもいい?」
「珍しいな、お前が自分からするなんて」
「そいう言う気分、なんだよ……はむっ…んんっ、ぅっ」
上体を起こせばリボーンをベッドに座らせてベルトを緩め、自身を取り出して咥えこむ。
雄の匂いにくらくらとしながら舌で竿を舐め喉奥で上手く締めつける。
すると上からくぐもった声が聞こえて感じていることが分かり、顔を上下に動かして扱き始める。
「っおい、イかせるつもりか?」
「っ…んぅっ…ふ…んんっ、んっ、んっ」
リボーンの余裕のない息遣いと声に自分も感じた。
口の中のものを愛撫しながら自然と自分のものに手が伸びる。
リボーンの視線を感じるも構わなかった。
むしろ、今日はとことん煽ってやりたくなったのだ。
俺だけを見て、俺だけに欲情して、俺だけに愛を囁いて、余裕のないお前を見せろよ。
いつも、俺ばかりが乱れて馬鹿みたいだ。
じゅるっと音を立てて吸いあげれば息を詰まらせて独特な匂いが鼻をつく。
先走りを溢さないように飲んで、もっとくれと一度口を離して完全に勃ちあがっているものの先端だけを含んで舌で尿道を刺激する。
苦い味が強くなる。
もうそろそろ、イくなと感じて自分を高めているそこから手を離してその奥、秘部へと手を伸ばした。
「ふぅっ…むっ、んっんんっ…」
「綱吉…エロいな、一人でしやがって…気持ちいいか?」
リボーンの言葉に頷いて、もうちょうだいと先端に歯を立てる。
甘噛みのそれは、リボーンが一番好きな刺激だ。
俺も好きだが、こうするといつも抑えた声が一層色っぽく聞こえるのだ。
「はっ……イくぞ、全部飲め……クッ!!」
口の中へと放たれたそれを躊躇いもなく飲み干して、顔をあげれば沢山のキスをしてくれる。
まずいだろうと思うのにそれを止めない。
「もう、イれてもいいか?」
「いいよ、来て…それ、で…かき回して」
キスの合間に囁かれて確認される。
秘部はもうとろけるぐらいに熱くてどろどろでリボーンを待っている。
だけど、今日はベッドに寝かされるわけじゃなくリボーンは胡坐をかいて、そのままだ。
俺はその意味を理解すると首に手を回して抱きつきリボーンの自身を自分で秘部にあてがった。
ゆっくり体重をかけて飲み込んでいく。
途中までくれば耐えられず足から力が抜けて座り込んでしまった。
「ああっ!!ひゃあああっ、だめぇ、あっ、ちから、はいんな…ああっ」
「そんなこと言って、腰回してるくせに…やらしいなぁ?」
「してな、してないよっ…あんっ、んんっ、しちゃやだぁっ」
腰に全く力が入らなくて泣きだせば内壁全部を擦り上げるようにしてくるリボーンに泣き叫んだ。
とにかく中が感じて仕方ない。
どうしたんだろうと不思議に思うが、それすらも考えることができずに腕に力を込めて刺激に耐えようとする。
だが、それも虚しく俺の先端からは先走りが大量に溢れてリボーンの腹を濡らす。
「綱吉…キス…」
「んっ…はんっ、んぅっ…ふっ…」
見上げてくるリボーンの唇に吸い寄せられるようにキスをする。
舌を絡めてお互いに吸い合い、勢いがよくて歯がガチリと音を立てるのも気にせず奪うように口づけあった。
ああ、ヤバイ…
中が自身を締めつけ、締めつけると自身が震えて中が刺激される。
快感が頭の中を占めて自分を見失いそうになって警告音が鳴るが、勝手に動く腰が止められない。
「もっ…だめっ、だめぇっ…ああっ…イくぅっ、ああぁあぁっ!!」
「はっ、綱吉…あいしてる……ふっ、ぅっ!!」
優しい愛の言葉が耳にじんわりと残って、俺は言い知れぬ充足感と仕事の疲れが一気に襲ってきて駄目だと思う間もなく意識を飛ばしていた。
次に目が覚めた時は綺麗に身体が洗われて、リボーンが俺を抱えて寝静まった真夜中のころだった。
深く眠っているためリボーンが目を覚ますことはなく、俺は暫く寝顔を見つめていた。
「ねぇ、リボーン…俺も愛してるよ。離れないでね」
俺の肩へと回されている手をとると薬指へと口づける。
正直、あの指輪が羨ましくもあった。
お揃いで、遠慮がちに指に嵌っていた指輪にはいろんな思いがこもっているのだろう。
俺は、リボーンを縛ることができる?
お前を束縛してもいい?
少しの不安が、踏み切るのを躊躇わせる。
柄にもないと言われるかもしれない、けれど、少しは夢を見てもいいだろうか…。
いつか、この指に指輪が嵌る日を心待ちに、俺はまた眼を閉じた。
END