◎ 傷ついた、あれは…
「ん〜……あ、もうこんな時間か」
仕事がひと段落すれば大きく伸びをして時間を見れば深夜の一時を回っているのを見て時間に追われているわけでもないのに夜更かししてしまったとシャワーを浴びた。
リボーンはと言うとあれからここにはきていない。
隣の音を聞く限り帰ってきてはいるみたいだが、一度立ち寄るだけですぐにどこかへと行ってしまいしっかり寝ているのかも不明だ。
「っていうか、ストーカーじゃあるまいし」
なんだか把握しすぎな自分に突っ込みを入れつつ、玄関の方に行くとそっと聞き耳を立ててしまう。
今日はまだ帰ってきていない。
帰ってこないつもりなのだろうか…忙しいみたいだし、どこかで寝泊まりしているのかもしれない。
ふあっ、と欠伸をして寝ようと寝室へ行きかけた足が止まった。
がたっと大きな音がして、それがゴミ箱の倒れた音だと思いだすが一体誰が…と不思議に思う。
その人物はふらふらとしているようで足音がおぼつかない、酔っ払いかとウンザリするがその足音が隣のリボーンの部屋で停まったのを聞いてチェーンを外していた。
キィ、静かに開こうと思っても自然になってしまうその音に向こうも気づいたようだ。
「つな、よし……っ…来るな…」
「リボーン、どうしたんだよ」
驚いたように見てくるリボーンの姿の方が衝撃的だった。
頭から血を流して、腹部辺りも血まみれでリボーンの手には拳銃が握られていた。
俺は慌てて駆け寄ると抱き起こそうと手を差し伸べるが振り払われる。
「お前は、何考えてんだ…大人しく中に入ってろ…俺はほっておけ」
「無理に決まってるだろ…大人しくするのはリボーンだ。手当てするから」
事情なんか知らなかった。
なんで拳銃なんか平気で持っているのかとか、なんでそんなに血まみれなんだとか、きっと聞かなければいけないことはたくさんあっただろう。
けれど、こんな怖い顔のリボーンは見たことなくて、その瞳に少しの恐怖を見つけてしまったら振り払われても手を出さなくてはいけない気がした。
俺は再びリボーンの腕を掴むと自分の肩に回させた。
誰かが階段から登って来る音がして、引きずるようにしてリボーンを俺の部屋に入れるとチェーンを掛けて鍵を閉めた。
それだけじゃ安心できなくて家中の鍵を締めて回った。
それから荒い呼吸を繰り返すリボーンを俺のベッドへと運んだ。
服を脱がせば銃痕と思われるものが腹部を掠めていて、貫通したりしているわけではないことが分かり安堵のため息をつく。
念のため頭も見れば、そこも掠めていただけだった。
そのかわりに、青あざがいたるところにあって骨をやられていないか心配だった。
痛がるもの聞かず消毒をしてガーゼで止血しテーピングする。
頭の方は包帯を巻いた。
医者じゃないから上手い手当の仕方なんて知らないが、とりあえずは大丈夫だろうかとようやく肩を撫で下ろした。
「リボーン…なにか、食べる?」
食べていたかもわからないが、手当てをしている間一言も発しなかったリボーンに問いかけた。
しばらく天井を見ていたが、頭を動かして俺を見ると食う、と短く呟いた。
「わかった、食べやすいものにするから…ちょっと待ってて、ドア開けておくから」
ドアを開けたままにすればリボーンの言葉を聞いてやれると思って、そのままキッチンへと向かった。
お粥にしようかと考えて風邪じゃないんだからと思いなおすも、それしか思い浮かばなくてたまご粥を作った。
「綱吉、何も聞かないのか…?」
「ん、聞いても…わからないと、思うから……それに、もう少し落ち着いたらの方がいいと思うんだ」
粥を持っていけば唐突に聞かれた、俺は首を振って作り笑顔を浮かべた。
本当はとても知りたい。けれど、知りたくなかった。
これを知ってしまったらリボーンはどこかに行ってしまいそうで…そんな顔をしていた。
だから、俺は粥をすくってふーふーと吹くとリボーンの口元へと運ぶ。
「自分で食える」
「恥ずかしくないから、大人しく食えよ」
冗談を交えて話を逸らしたつもりだが、リボーンは正直に口を開けたので少し驚きながらも口に粥を運んでやる。
「…美味いな」
「これでも、家事はちゃんとできるんだよ…締め切り近くなきゃな」
しかたねぇやつ、と笑うリボーンを見てそれはお前だと言いそうになって口を閉ざした。
蒸し返すのは良くない。
他愛もない話をしながら食事を与え、食べさせ終えると今日はソファにでも寝るしかないなと毛布をもって移動しようとした時、腕を掴まれた。
「どこで寝る気だ?」
「どこって、ソファ?」
「お前のベッドだろ…ここで寝ろ」
「だって、お前寝てる」
「いいから…」
一緒に寝たら何かされそうだと、身構えるもリボーンは少しずれて俺を入れる気のようだ。
抱いて抱かれる立場なのに、こんなに近くに居たら意識してしまうじゃないかと恨めしそうな視線を送るもそれには追求することなく待っている。
仕方なく一つため息をついて、リボーンの隣へと身を滑り込ませると腕が身体に絡みついてくる。
「ちょっ…」
「動くな、俺の傷が開いたらどうする」
卑怯だと言いたくて口を開きかけるが、その腕が縋るように抱きしめる感触にそんな気は失せてしまった。
別にほだされたとかじゃない…決して。
あれから、二週間が経とうとしていた。
「あっ…リボーンッ…やめろって、包帯…っん」
「包帯プレイがしたいんだろ?」
「ちがっ、うあっ…やあっ」
傷が塞がってきて、ベッドに居ることにもどかしさを覚えるころだ。
俺が仕事をする傍ら何をするでもなく本を読みふけっていたが、この頃はその暇つぶしの本もなくなってしまって手持ち無沙汰を感じて来たころからかこの悪戯が始まった。
包帯を代えるとき傷口に消毒をするのだが、その時に限って耳たぶを触ったり胸の突起を摘まんできたりと明らかなセクハラ行為に俺は看病に嫌気がさしてきた。
それなのに、身体は反応してしまう。
テーブルに広げた救急セットも用はなくなってしまって、流されるままソファに押し倒された。
こんな昼間から、と思うのに止まらない。
それもそのはず、リボーンはいつも悪戯するだけで包帯を巻き終わればすぐに離れてしまいかれこれ一ヵ月は身体を重ねていない。
煽られるだけ煽られてお預けをくらわされていたのだ。
あれほど毎日と言っていいほど抱かれ続けていた身体は、もうすでにこの後の刺激に高ぶってきている。
今日こそは抱いてくれる気配に思わず目を閉じる。
すると唇が柔らかく触れてきて、口を開けろと唇を噛まれて舌でなぞられる。
それにゆっくりと応えるように舌をそっと触れ合わせると、途端にねっとりと絡みついてきて吸われた。
「ふっ…んっんんっ…ふぁっ…」
それだけの刺激なのに腰が抜けそうになって微かなる抵抗も無になる。
腕に力も入らず、俺の肌を這いまわる掌に身を委ねるとキュッと突起を摘ままれてビクンッと身体が跳ねる。
「そんなに、待ってたのか?」
「っ…待ってな、ああっ…やめっ…ひぅっ」
嘘つけ、と耳たぶを噛まれてまた身体が跳ねた。
歯止めがきかなくなる寸前の様な胸が忙しなくて、じっとしていられない。
どうにか繋ぎとめていたくて、リボーンの服を強く握った。
「止めろと言う割には、誘ってるようにしか見えねぇな…」
「っ……ちがう」
違わない、本当はずっと待っていた。
リボーンの触る手を。
あの暖かい手が俺の肌を撫でるだけでそこから溶けてしまうような快感を得られる。
それが気持ちいいのだ。
けれど、そんな風に言われて素直になれるはずもない。
だが、リボーンはそんな俺をわかっているようだった。
それを示すようにリボーンの手は淫猥に蠢いて俺を煽る。
「はあっ…うっ……はっ、あああっ…そこ、しな…でっ」
「好きな癖に…」
ろくな抵抗もできなくなった俺に笑みを浮かべると、リボーンは身体をずらして下肢へと顔を埋めようとするから慌てて髪を引っ張った。
痛みに顔を歪めるがそんなの関係ないと、そのまま先端へと口づける。
その刺激に髪を掴む手が緩めば一気に咥内へと招かれていた。
「ぁあぁあぁっ、やめっ…イっちゃう…イく、からぁ…ああっ、リボーン、リボーンッ…」
もう止めてと叫ぼうもリボーンは俺のそこを強く吸い、袋を揉んだ。
解放が競り上がってくる感覚に首を振り、ぱさぱさと髪が虚しくソファを打った。
「ひぃっ…あああぁぁぁあっ!!」
一層強く吸われて、俺はあっけなくリボーンの口の中へと白濁を放っていた。
だが、俺は放心状態でしばらく状況が呑み込めなかった。
ごくりと飲みほした音がすれば、耐えられず涙をあふれさせた。
「お前、飲まれたぐらいで泣くな」
「だ、だって…汚い…そんなの、のんでお腹…壊したら、どうするんだよ」
「ばか、んなことなんねぇよ。精液はたんぱく質だ、とりあえず栄養にはなるんじゃねぇのか?」
涙を拭われて、リボーンからしてみれば慰めているつもりなのだろう…けれど、少し笑ってしまうと鼻を摘ままれた。
「いひゃい…」
「だったら笑うな……感じてろ」
「あっ…ああんっ……はぁっ」
途端にリボーンの纏う空気が変化して、秘部へと指を滑らせた。
唾液で濡れた指は一回イったことにより程よく力の抜けたそこへ入ってきた。
指一本だと言うのにいつもより感じて、自分じゃなくなるような心もとない感じにリボーンの背中に腕を回す。
一本目はクチュクチュとわざと音を響かせて中を濡らし、二本目を入れると途端に広げる動きに変化した。
リボーンを入れてもらえることに喜びを感じて、その愛撫に甘い声を漏らす。
「んっ…ぅあっ…もっと…ね、もっと…ほしっ…ああっ」
「煽るな、今入れてやる」
待ち切れずに腰を揺らして強請ると、焦ったような声になってリボーンも欲しいと思ってくれたのだろうかと少し嬉しくなる。
ソファから落ちたら痛いので正面から挿入された。
硬くて熱いリボーンのそれは、俺の好きな場所をまんべんなく擦ってきて身体を震わせて身悶えた。
たまらなく、気持ちいい…リボーンを見つめるとキスを求める。
そんな、甘い時間を堪能していた時だった。
いきなり玄関の開く音がして、最初はリボーンの部屋のものかと思った…が、それは違った。
「先生、原稿とりに……きまし、た……」
「えっ」
「……」
一瞬何が起こったのかわからなくて、いち早く状況を把握したのは部屋に入ってきた藤崎さんだった。
バッと後ろを向けば、どうしようか迷っている様子だった。
「原稿は…あとで、ファックス…します」
「あの、その方は……一体、先生は…何を…?」
「見てわかんねぇのか?セックスしてんだ、邪魔すんな…さっさと消えろ」
「ひっ…こんな、ことって…最悪だ」
藤崎さんはそれだけ呟くと、バタバタと走ってものの数秒で部屋から出ていった。
嵐の様なそれに、俺はリボーンに回していた腕をだらりと垂らした。
一番知られたくない、相手だった。
俺の身体は、快楽でもなく震えて前後不覚になる。
どうしたらいいかわからなかった。
これから、どうすればいいのかも、わからない。
「あ…あぁ……」
「綱吉、おい…大丈夫か…?」
「ど、しよ…も、…おわりだ…はっ、はっ、はっ」
呼吸が上手くできない、過去のことが頭いっぱいにフラッシュバックする。
毎日のように浴びせられた罵声、嘲笑、恐怖。
リボーンの手が伸びてきて俺の目元を覆う。
「寝ろ……俺がついてるから」
やけに優しい声が頭に響いて、抵抗することなく俺は意識を手放した。
もう、こんなのは嫌だ。
次に起きた時は…全部夢であってほしいと切に願った。