◎ なんで、近くに居るの?
リボーンにホテルで抱かれて翌日、目が覚めると俺の身体はベッドに横たえられていた。
辺りを見回してもリボーンはいなくて、身体を起こそうとすれば鈍痛が腰を襲った。
そこで、俺は初めて知ったのだ。
あれほど気をつけていたのに、気を失っている間に俺の身体は綺麗に清められていたことに。
この身体は、俺のものなのに…子供じゃない。
最低限のことは自分でできる、どうしてそんなことをするのか。
「なんで…?お前は俺で楽しみたいだけだろ…」
ベッドに顔を埋めて小さく呟いて、自分の身体を抱きしめるように丸くなれば再び睡魔に襲われて抗うこともなく二度寝へと興じた。
あれから、数日が経った。
俺はいつもように仕事をしていて、あれ以来俺はホテルに缶詰めなんてことを考えなくなった。
というか、リボーンが変わったのだ。
いつも通り俺の部屋に来るが、特に何をするでもなく俺の漫画を読んでいる。
最初こそ恥ずかしいから読むなと言ったが聞く耳持たず今では言う気にもなれなくて、リボーンがそっちに集中しているからこれ幸いと仕事を進めている。
だが、なぜだろう…少し前までは俺を無理やり抱くなんて一緒にいればいつもだったのに…。
どういう心境の変化か、リボーンが俺を無理やり組み敷くことがなくなった。
抱かれるときだって、あのホテルの時から丁寧なぐらいに扱ってくる。
逆に何かありそうでちょっと怖かったりするのだが、俺にとっては悩みの種がなくなったので喜ばしいことだ。
「リボーン、それ…楽しいか?」
「いや、まったく」
「なら読むなよ」
「じゃあ、背中をじっと見てるぞ?」
「自分の部屋帰れよ」
下絵がひと段落つけば、じっと俺の本を読んでいるリボーンを振り向いた。
読み慣れていないのか、一冊本を読むのに結構時間がかかっているから良い暇つぶしになっているようだ。
俺の本以外にもあるのに何故か俺の本から手にとってずっと読んでいる。
今日も結構な時間まで仕事をしたと伸びをしながら軽口を叩けば、本を閉じて俺を見て来た。
「今日はもういいのか?」
「ん、まぁ…今はまだ余裕あるし」
リボーンがソファを立ち俺に近づいてくる。
くる、と思った瞬間にはリボーンの唇が俺の唇に触れていてそれから何度かキスを繰り返して手が服の裾から忍び込んできた。
俺は嫌がることもしないで、その愛撫を受け入れようとしていたそのとき、唐突に着信を知らせるベルが鳴り響いた。
これはこのところ良く聞く、リボーンの携帯の着信だ。
それを無視して手を動かしてくるから俺は腕をとって離す。
「電話、ちゃんと出ろよ」
「お前は小姑か」
「自分の仕事はしっかりやれって言ってるんだ」
鬱陶しそうに携帯を眺めた後しぶしぶと言った様子で出る姿はなんとも拗ねた子供のようだと思った。
離れてしまった手を少し名残惜しいと思うが、今日はおそらくこのまま何もなくなるだろう。
案の定リボーンは電話しながら隣の部屋へと帰っていった。
今更だが、リボーンはどんな仕事をしているのだろう。
出逢った頃から思っていたことだが、聞けばのらりくらりと逸らされてしまって結局ここにくるまで何もわからない。
ただ、俺の眠った夜に部屋を出ていっていることと昼間でも呼ばれればすぐに出ていってしまう。
時間を選ばない仕事なのだろうと思うが、あの顔と態度で仕事している姿が思い浮かばない。
あれじゃあ、ただのやくざだ。
「もしかして、本当に…?」
いや、でもなにもそういう素振りはまったくない。
ヤクザだとしたら、部下が沢山いて第一そこそこセキュリティーがしっかりしているところだと言ってもこんなところに住むヤクザがどこに居るだろう。
「そうだよな、あり得ない。ホストか、水商売関係の仕事なんだろう」
それだったら説明がつく、そんな犯罪に手を染めている人間がこんな売れない漫画家の弱みを握って男を抱くだなんて安いポルノじゃあるまいし、あり得ない。
そうだ、あるはずがない。
俺は自分で考えた最悪の事態に勝手に自己完結して机を片づけ始めた。
「とりあえず、寝よう」
そんなに気になるなら、明日にでもまた聞いてみればいいんだ。
きっとあいつなら、教えてくれる。
俺はシャワーを簡単に浴びてベッドにもぐりこんだ。
枕に顔を埋めれば、リボーンのつけている香水が微かに香った。
リボーンが香水をつけているなんて少し意外だったが、ほんの少し…抱かれないと気づかないほどに微かにつけていた。
そんなに薄くつけるぐらいだったらつけないのと同じじゃないかと思ったのだが、こうしてベッドに残っていると思いだしてしまって戸惑う。
確かに今のリボーンに抱かれるのは嫌いじゃないが、抱かれること自体俺は好きではない。
気持ちが良い、けれどそれで何かが有耶無耶にされている気分になる。
それに、俺は男だ。男が男を好きになるのも変だが男が抱かれるのに少し抵抗を覚えるのだ。
俺は少し特殊で、男性の包容力、聡明さに憧れてそれが恋に発展してしまったタイプだ。
だから、キスやハグは良しとしてもセックスにはいまだ慣れない。
まぁ、快楽を求めて抱かれることはあるが、あれは恋人ではなく一夜限りの相手と言う制約があるからだ。
後腐れない、そんな相手ならお互いに気持ち良くなるだけだから。
だけど、俺がリボーンに抱いている想いは何なんだろう。
こんな成り行きだとしか思えない関係で、俺は何を望んでいるのだろう。
「あー、寝れない……何なんだよ」
リボーンのことを考えるだけで目がさえる。
それに、この香水がいつも抱かれたときに香るせいで頭の中はさっき煽られそうになった身体に火が付き始める。
『ここ、こんなにしてるくせに…』
「うるさっ…」
耳元で囁かれているような感覚、本当に居たらどうしようと顔を上げるが部屋には一人で、心にもやもやとした気分になりつつそろそろと自身へと手を伸ばす。
自分でする前にいつもバーに行って相手を見つけるので、自慰なんて久しぶりだ。
なんで今日は行く気にならなかったのかわからないが、とにかく熱を逃がしたくて自身を握ればもう先端から先走りを溢れさせていて、つい手を離してしまう。
「っ…なんで」
こんなことになっているなんて知らなかった。
やらしいなといつも言うリボーンに違うと首を振り続けていたが、こんなんでは本当に淫乱になったようだ。
いやなのに、と泣きそうになりながら目を閉じる。
『綱吉…言われて感じてんのか?』
『先端好きだろ?…否定しても無駄だ、ここはこんなに震えてる』
くちゅくちゅと水音をたてて扱き始めれば、頭を侵食してくるのはリボーンの優しい低い声だ。
最近よくこんな声を出す。
嫌いじゃないから何も言わないけど、あんな声を出されたら女だったらイチコロだろう。
ほんと、なんで俺なんだろう。
考えるも、手はいつもリボーンがするように尿道を抉るような強い快感を与えて、痛みを訴えるとそのあと優しく竿を手のひら全体で扱く。
頭に響くそれもいつも煽る言葉で、イヤイヤと首を振るが自分の手なのに歯止めがきかずもっとと貪欲に弄って。
だが、所詮自分の手だからあの大きな手で扱かれるのとはわけが違う。
上手くできなくてもどかしさだけが募って腰が揺れる。
いつもだったら、焦れてくると秘部へと愛撫を移してくれる。
「はぅっ…あっ…リボーン、りぼーん…」
『どこに欲しい、言ってみろ』
そそのかすような声が聞こえて、言えなくて腰を揺らす。
わかっているのに、わからないふりをする。
そうやって、俺の羞恥を煽り高ぶらせてくる。
「でき…なっ…」
『なら、このままだぞ?』
「いやぁ……ほし、奥に…りぼーんの、ゆび」
言えば、リボーンはすぐに与えてくれる。
ご褒美みたいに、俺を甘やかしてくれる。
俺は恐る恐る指を自分の秘部に這わせて、一本中に滑り込ませた。
途端、待ち望んでいたそこはきつく絡みついて吸いあげるように蠢く。
俺はそれを無視するようにもっと奥へと入れて、内壁を押す。
リボーンがいつも刺激するそこを触れば自分の指でもビクリと身体が震える。
「あっ…うあっ、ああっ…やっああっ、しないっ、でっ…リボーン」」
『好きな癖になにいってんだ?』
まるで自分の指じゃないかのように中の指が淫猥に蠢いて感じる場所ばかりを突きあげ、半狂乱になって身悶える。
もう、イく…そう思った瞬間には自身から白濁が溢れて中が思いっきり吸いあげるように動いて締めつけた。
指を名残惜しげにする秘部から抜けば、荒い呼吸のまま暫くそうしていた。
だが、いつもだったらこのあとリボーンの熱いものを入れられているためぐるぐると熱が渦巻いている感覚がする。
「っ…足りない、リボーン…リボーン…」
枕を握りしめ、額を擦りつける。
こんなことになるぐらいだったら自慰なんてしなければよかった。
いつの間に、こんなにリボーンに溺れたんだろう。
どうして、あんなことされて脅されているのに…どうして…?
考えても答えなんて出なくて、俺は熱を求めた身体をそのままに現実逃避することで余計なことから逃げることにした。
すうっと闇に思考が溶けていく。
夢に逃げてしまえば、いいんだ。
いつも、酷いことをされた時にはそうしてきた。
大丈夫、きっとこんな関係にも終わりがくるんだから…。