パロ | ナノ

 不安定なコンパス

ぱたぱた、ぱたぱた、忙しない足音が響く。
それに母さんは苦笑してテーブルにサラダを並べた。

「りーくん、つっくんはすぐ帰ってくるわよ?」
「わかってる…」

声をかけられるも、すぐに返事を返し再びぱたぱたと部屋を行ったり来たり。
母さんはそのうちため息を吐いて料理を作る方に集中した。
俺は窓を見てまたため息。
ここ二日綱吉に会っていない。
それは、恐るべき学校行事の仕業だった。

「チッ…修学旅行なんて…」
「りーくん、あなたも行ったでしょう?いまさら、つっくんを心配するなんて何かあったの?」
「なんでもない」

俺が行った時はまさか兄貴と付き合うことになるなんて思ってなかったし、こっちが行く側だったから別に気にならなかった。
けれど、こんな付き合いたてのときにこんな行事がなくたっていいだろう。
いや、この際付き合いたてとか関係ない。
なんで綱吉を修学旅行なんてものに参加させたんだ。
二泊三日のその旅行から綱吉が帰ってくるのは明日。
念のため一緒に行動するグループのメンバーを聞いたらその中に高梨の野郎の名前が入っていた。
俺は何度も念を押した。
アイツには近づくな、触れるな、触れさせるな。
言う度綱吉ははいはい、わかったわかったとそればかり。
そんなときまで俺を弟扱いしやがって。
いっそ痕でもつけてやろうかと思ったが、それでは皆で風呂に入れなくなるじゃないかと言われ、妥協した。
本当ならそんな裸なんて見せなくていいと言って無理やりにでも痕をつけてやりたかったが、そんなことをすれば綱吉が口を聞いてくれなくなること必須。
口を聞かないまま旅行に行って帰ってくるまで耐えられるかと言えば無理だ。
だから、俺は我慢した。
我慢してぎりぎりまで弟という立場を利用してくっついていた。
けれど、出て行くぎりぎりで言われた衝撃的な一言に俺は落ちつかなくなった。

『あ、寝るときは高梨と一緒の部屋だよ?じゃあ、行ってきます』

さりげなさと装ったつりだろうが、いわないでいようと思ったのが丸わかりだった。
俺が高梨を目の敵にしているのを知っているからだろう。
そんなこといわれて、安心して眠れるわけがない。

「くそっ…」
「りーくん、ご飯。くそとか言わないの、つっくん帰るまでもう少し待ちなさい」
「はぁい」

母さんにたしなめられて仕方なく頷いた。
気持ち的には今すぐにでも綱吉に電話して……。

「電話かっ」
「やめなさい…りーくんいい加減にしないと母さん怒るよ?」
「はい、ごめんなさい」

綱吉の母さんは綱吉が似たのか笑顔で怒る。
それがすごく恐いのだ。
綱吉の比ではない。
俺は素直に謝りテーブルにつくとご飯を食べ始めたのだった。




その日の夜。
俺は家の電話の子機を握りしめていた。
中学生の俺には携帯電話はもたせてもらえず、電話の子機を使うことが多かった。
綱吉のケータイ番号もしっかりと覚えている。
両親が寝静まったのを確認すると俺はぴっぴっぴとボタンを押した。
当然、綱吉のところだ。
数回コールののち繋がった。

『もしもし?』
「もしもし」
『リボーン、なんでお前が』
「……わるいかよ」

驚いている綱吉の声、それに乗じて騒がしい場所から場所を移したのだろう、静かになった。
少し自分が待ちきれない子供みたいだと思ってしまって恥ずかしくて拗ねたような口調になる。

『ううん、俺も丁度リボーンの声聞きたくなってたところ』
「本当かよ」
『本当だよ、まさか電話してくるなんておもってなかったけど』

くすくすと笑われるけれど、こうして電話できていることで頭がいっぱいだ。
自分がこれほど惚れこんでいるなんて初めて知った。
こんな少し離れてだけなのに、こんなにも待ちきれないなんて、まるっきり子供じゃないか。

「子供だと思ってんだろ」
『俺も、子供だよ』
「高梨に何もされてねぇだろうな」
『されてないよ、何にもないから』

まだ気にしていたのかと笑われて俺はそれどころじゃなかったんだと唸るように言えばますます笑いだす。
なんでそんなに綱吉は平気なんだよ。

「兄貴こそ、俺に浮気されるとか思わないのかよ」
『思うよ、離れてて寂しいよ。けど、リボーンが俺のことばかり考えてるから、安心した。大好きだよ』
「こんなときばっか素直になりやがって」

突然の告白に俺は驚いて苦し紛れに絞りだせばリボーンは?と聞かれる。
そんな風に強請られるとこっちが言いにくいじゃないか。
俺の方が好きなんだぞ。

「あいしてるっ」
『…うん、明日帰るから…待ってて』

もう少しだからね、と言われて宥められた。
さっきまでの焦る気持ちが自然となくなって電話を切るころには落ちついていた。

「…ちくしょう、なんで電話して俺が慰められてんだよ」

こんなにも俺は子供だったのを思い知らされて子機を置くとベッドに顔を埋めた。
だいたい、なんでアイツはあんなに落ちついてるんだ。
帰ってきたら隅々まで調べてやる。
いつの間に俺がこんなに立場が弱くなったんだろう。
っていうか、綱吉が俺を受け入れたからか…。
綱吉は戸惑いながらもこの関係を少しずつ受け入れてくれた。
本当ならこんなのありえない、否定されてもしかたない、けれど俺を選んで理解してくれた。
だからか、綱吉はすごく兄貴らしく恋人らしい。
最近では俺の方が押されている気がする。
けれど、そういうつもりなら俺は遠慮しない。
こうなったら、弟という立場を最大限に使ってやろうじゃないか。




次の日になり、俺は中学校を終わるなり速攻で帰ってきた。
綱吉が帰ってくるのはもう少し後だが、待ち切れなかったのだ。
母さんは綱吉を迎えに行くとか言って学校に行っている。

「早く帰ってこい」

はやく、確かめさせろ。
そうして部屋で待っていると家の外に車の止まる音が聞こえた。
俺はそのまま待ち続けた。
安易に会いに行ったらそれだけ待ってたと綱吉を頭に乗せてしまう。
そう思ったら、部屋から出られなかった。
そして、待ち続けるとばたばたと足音を響かせて階段を上ってくる音。
ばんっと開いてそこには三日ぶりの綱吉の顔があった。

「ただいま」
「おかえり」

挨拶だけすると綱吉はまた下に戻っていった。
母さんと何やらお土産の行方を話しているらしい。
なんだ、俺の相手しろよ。
俺を確認しに来ただけだと知ればなんだか納得いかずに階段を下りた。

「りーくん、お土産何にする?」
「リボーン、ちょっと待ってて。母さんあとはよろしく」
「え、どうするのよ」
「適当に親戚に配っておいてよ、俺リボーンとゲームするから」
「もう、そうやってなんでも投げ出すんだから」

俺に気づいた綱吉は母さんに全てを押し付けると俺の手を引いて上に戻った。
なんなんだ、俺を振りまわして楽しいのかよ。
ゲームと言っていたが今綱吉が進めているゲームはない。
完全に口実だとわかってしまえば一緒に行く部屋は決まっていて、俺の部屋に入るなり俺は綱吉にキスをした。

「んっ…がっつくなって」
「しるか…」

何度も啄んでいると抵抗を見せたが、舌を差し込むと柔らかく絡みついてくる。
それは待っていたと言わんばかりのふれあいだった。
お互いに吸って、水音を立ててキスをした。
ひとしきり堪能すると綱吉は俺のベッドに寝転がった。
なんだか目が眠そうに細められている。

「ごめん、構ってやりたいけど…俺昨日寝れなかったんだ」

ここきてとベッドをボスボス叩かれて仕方な俺は綱吉の隣へ横になると腕枕をしてやる。

「なんで寝てねぇんだ」
「電話してるのばれちゃって、相手は誰だって皆に言われて弟だって言ったんだけど聞いてもらえなくて…ずっと……」

ふぁっと欠伸をして俺にすり寄る綱吉。
綱吉の背中に手を回して腰を抱く。
できることなら一刻も早く身体を暴いて確認したかったが、今日は許してやろう。
一番先に来て俺の顔を見た瞬間のあの安堵した顔を見てしまえば、つい…許してやりたくなる。

「こういうとき弟って立場が便利だな」
「俺的には恋人っていいたいけど、それ言ったら家に恋人きてるのか、電話しろって煩くなるから…ごめんね」
「そこまでしなくていい」

そこまで言って兄の立場を危うくしたいわけじゃないんだ。
俺はただ、ここにいてこの腕に収まっていてくれるだけで…嬉しくなれる。
簡単だって言われてもいい、一番近くにいることが一番簡単で一番難しいことだろう?
この部屋でこの空間だけは、俺達の世界だ。
ふたりだけの場所だ。
子供なんだからそのぐらいの我儘許されるだろう。
温かい体温、離れてそれが必要なんだって思った。
兄弟だからいつも一緒にいるけれど、離れたら駄目なのは…俺の方なのかもしれない。




END






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