◎ 隠された消しゴム
日が暮れはじめた道を俺は歩いていた。
目的地は子供連れ日向ぼっこ好きの老人が集まる少し大きい公園。
リボーンがここに越してきて慣れたころからよく遊び場にしていたところでもある。
遊具も充実していてちょっとした森林もありその奥には時期になると蓮が咲き乱れる池がある。
近場の子供たちはここに集まって色々な遊びをするのだ。
けれど、俺達はいつも二人。
二人でできる遊びをした。
その中でもかくれんぼは頻繁にやっていた。
俺はまったく見つけられなかったが、リボーンはすぐに俺を見つけた。
どんなに難しいところに隠れようと、必ず見つけてくれたのだ。
俺はそれが嬉しかった、見つかるたび悔しかったけれど見つけてくれた時の喜びのほうがいつも勝っていて、見つかったのに笑うなとよく笑われたと思いだして自然と笑みを浮かべてしまう。
それなのに、本当は高梨のことが好きだったなんて…じゃあ、高梨が来なかった間ずっとリボーンは思い続けていたということなのだろうか。
いや、でも初対面の時からとは聞いてないし…。
一気に二つのものが遠のいてしまった感覚に気分が沈む。
俺はこれからどうすればいいんだろう。
高梨は少し距離があるからいいものの一番問題なのは、リボーンだ。
俺はあれだけリボーンを頼って、甘えて、どうやって距離を保てばいいのだろう。
もう、あいつから離れる方法を忘れてしまった。
こんなにも、俺はリボーンが必要だったんだ…こんなにも、傍にいてほしかったんだ。
「っ……なんだよ…これ…」
それじゃあ、まるで俺もリボーンを好きみたいだ。
途端、ぽつりと手の甲に水が降ってきて、立ち止まればそれは止めどなく落ちてきてそれが自分の瞳からだと気づけば慌てて服の袖口で目を拭う。
そんなの、今更わかったところで何もない…もう、何もかも手遅れなんだ。
俺は公園に入るなり散歩道を突き進んだ。
俺達が、かくれんぼをして唯一リボーンに見つからなかった場所がある。
あの時は、見つけてもらえなくてさみしくてリボーンが俺を呼んで泣きだしたところで俺は出ていき抱きしめ二人で泣いてしまった。
あのとき以来、俺はそこに隠れるのを止めた。
リボーンが泣いたのはあれきりで、それで良いと思った。
俺はお兄ちゃんで、弟であるリボーンの面倒を見てやらなければいけないと思っていたから。
「…でも、俺はもう見つからなくていい」
できれば夜十時ぐらいまで身を置ける場所がいい。
二人の姿を見たくないから。
幸い、この公園には街灯が多く夜ランニングをしたりペットを散歩しにきたりと人通りは昼ほどではないがある場所だ。
俺は、池のある道に出れば池の真ん中へと伸びる橋を歩いた。
小さな小屋があり、そこから池全体を眺めることができる。
だが、時期でない今はただの飾りでしかない。
ここがどうして見つからなかったかというと昼間は人が絶えないし大人の腰の高さまである囲いのお陰で子供だと立っていても見えない場合がある。
入口は一つで、背が高くなった俺でもしゃがんでしまえば姿を隠すことができる。
思えば、携帯も置いてきてしまった。
はぁ、とため息をついて入口の近くへとしゃがみ込みそこで目を閉じた。
久しぶりに泣くという行為をしたせいで目の周りが痛い。
「ばかだなぁ、なんで気づいちゃったんだよ」
このままリボーンを好きだなんて気づかなければよかった。
そしたら、俺は兄弟でいられたのに。
血が繋がらなくても大切な弟、それでよかったのに。
友達も弟も失って、俺はどうすればいいというのだ。
「普通の顔…できるかな」
またため息をついて、顔を伏せる。
少し寒いが一眠りしておけば時間も潰れるだろうか。
と、思ったら橋の方から人の足音が聞こえてきた。
カップルかと思ったが足音は一人分だ。
こんなところに何の用だろうか。
俺は息を殺して人が来る覚悟をしていた。
「見つけた…」
「……リボーン」
息をきらして走ってきたと思える声でそこにリボーンが立っていた。
なんでここがわかったのかと逃げようとしたら立ちあがる前に両手を壁に押し付けられて逃げられなくさせられた。
「なんだよ、高梨と一緒じゃないのか?」
「お前、あれ本気にしてんのか?」
「だ……だって…」
リボーンの本気の声を聞いて俺は思わず声を上ずらせた。
なんで俺が怒られなきゃならないんだ。
俺は何にも悪くないのに…。
ここが暗くてよかった、リボーンの表情はおろか俺の顔も見えていないだろうから。
「あの野郎は俺を好きなわけじゃねぇ、俺だってそうだ」
「じゃあ、なんであんなこと…」
「俺が、お前を見つけた理由なんでだと思う?」
リボーンは俺のことをもう兄貴ということはなく本気で怒っていることが知れた。
それなのに、俺を縋るように見つめてくるのだ。
なんでと聞かれても…わからない。
元より、俺の方が頭悪いのだから。
「わかん、ない…」
「お前が、ここに隠れて見つけられなかったから」
「覚えて…」
「覚えてるに決まってるだろ…お前を見つけられなかったの、あれ一回きりだったからな」
なんだそれ、そんな昔のこと覚えてるのなんて俺だけかと思ってたのに…。
なんで…それじゃ、リボーンが俺を梳きみたいだ。
「お前、俺に言いたいことあるだろ?」
「っ…な、ないよ」
「あるだろ?いえよ…」
「言わない…」
「言わないってことはあるんだな、ほら、言え」
リボーンの顔が近づいてきて逃げたいのに瞳に捕らわれる。
そもそも言えって言われても、今さっき自覚したばかりだし、兄弟なのに言えるはずがないではないか。
ふるふると無言で首をふるがだんだんと顔が近づいてくる。
その唇が欲しいと思ってしまったから、抗えない…。
駄目なのに…抵抗しなければ、いけないのに…。
「綱吉…」
「っ…」
名前を呼ばれて、動けなかった。
何でそんなに切ない声で呼ぶのだろう。
息が触れるほど近くなのに、俺はそっと目を閉じた。
途端に軽く触れる唇。
とくんと心臓が締めつけられて苦しくなった。
それなのに、嫌じゃない…むしろ、もっと欲しくてそう思ったのはリボーンも同じだったらしく一度離れた唇がもう一度触れて、今度は舌が俺の唇を撫でた。
それに俺は薄く唇を開くと舌が入ってきて走ってきたからかリボーンの舌は少しひんやりと冷たくて俺の舌を絡め取っていた。
「ん…ふぅ……」
初めての感覚に背筋が痺れる。
俺は掴まれている手を握りしめた。
もう、多分自分を隠すことなんてできない。
どうせ、俺には隠し通すなんてできないんだ。
咥内を散々舐めまわして離された時には俺とリボーンの間を銀糸が繋いで卑猥な光景に思わず視線を逸らした。
「言えよ…綱吉…」
「…す…………き……」
「続けて」
「もっ、やだ」
「綱吉、つなよし」
必死の想いで言ったにもかかわらずはっきり言えと言われてもう、これ以上は無理だと首を振るも耳に唇を寄せて名前を囁かれる。
綱吉、なんて呼んだことないくせに。
いつも、お兄ちゃんとか兄貴とかしか言わなかったのに…。
こんなときだけ、ずるいと唇にまた触れるだけのキスをされて泣きそうになる。
だったら、リボーンが言えばいいじゃないか…。
拗ねたように見つめ返すが、近くに顔を寄せられて初めてリボーンが切なそうな顔をしているのに気づいた。
なんでそんなにも不安そうなんだろう…。
俺は散々迷って、唇を何度も噛みしめてようやく口を開いた。
「す、き…りぼーんが、すき」
言えば言うほど感情が溢れてきて、涙も一緒に流れた。
感情が一気に振り切れて自分で止めることができない。
「俺もだ、ずっと…前から…好きだ」
「本当?」
「あれは綱吉が勝手に勘違いしたんだろ」
「勘違いするような会話してるから…っあ…ちょっと…」
ずっとなんていつからだと思いながら疑い深く首を傾げれば今度はリボーンがむくれる番だった。
俺のせいだと言わんばかりの言いざまにそれは違うと言おうとすればリボーンが俺の首筋を舐めてきて、片手を解放されるとリボーンの手は俺の服の中へと忍び込んできた。
わき腹を撫でてそのまま上に登ってきて胸を撫でられる。
ただ撫でられているだけなのに、イヤらしい気分になってくる。
「だめだって…リボーン」
「あとで全部話してやる」
俺が言いたいのはそうじゃないんだと感じながらもながされていることに気がつく。
こんな誰が来るともしれない場所だ、男同士で仲睦まじくという雰囲気でもない。
ちゅっちゅっと宥めるようにキスをされながら手が大胆になるが一つの足音が近づいてくとことに気づいた。
俺は思わず息を止めて、リボーンもやり過ごすために俺を抱きよせて隠すようにされる。
だが、幸い近くを通って行っただけみたいで足音はそのまま通り過ぎて行った。
俺達の熱は一気に冷めてしまい、お互いに顔を見合わせてはぁっとため息を吐いた。
「帰るか…」
「うん、そうだね」
駄目だといいつつ乗り気だった自分の激しく殴りつけたい。
この中途半端に高められた身体はどうしろというのだろう。
でも、きっとリボーンも同じ心境だと思う。
まぁ、勘だけど。
さりげなく手を握られてその場に立ちあがったところで不意打ちにキスをされる。
「んっ…」
「いただき」
「ばかっ、誰かに見られたらどうすんだよっ」
「暗いから顔までは見えねぇぞ」
なんだこいつ、いつもの増して生意気だ。
悔しくて握られた手を強く握り返すも柔らかい笑みが帰ってくるだけだった。
「むかつく…」
「そんな俺が好きなんだろ?」
「言ってろ…」
恥ずかしい、こんなにも甘いだなんて誰がわかっただろうか。
それ以上に嬉しくなってしまう自分がいるから、俺も大概だと思う。
明日から、両親にどんな顔して話せばいいのか、俺は今から悶々としておくべきなんだろうか……。