◎ とろけさせる君の言葉
音を連ねていく作業。
何度も繰り返して、だんだん大きくしていく。
そんな地道な作業が俺は好きだった。
けれど、なんだか嫌な予感はしていたのだ。
なんだか上手く音が作れない。
曲が生まれない。
頭にあるはずの感覚が今はどこを探してもなくて俺は戸惑っていた。
あまりそう言うものになった覚えはなくて俺はどうしたらいいのかわからなかった。
それが、深夜の出来事。
俺は諦めてその日は早々に寝ることにしたのだった。
「はぁ…できない…」
俺はパソコンの画面を見ながら溜め息を吐いた。
音が全く想像できない、なにも浮かんでこない。
認めたくないが、スランプなのかもしれない。
早くしないとリボーンとの約束が…。
「一曲作ってくれって言われてたのに…」
明日にはつくって渡さなければならない約束で、俺はどうしようもない気持ちに揺れていた。
まだ最初のメロディの辺りを作っているところだ。
先はまだまだ長い。
それなのに指が、頭が、全然機能してくれない。
「どうしたらいいんだろう…とりあえず、相談してみよう…」
このまま期限に送れずにいたらいけない気がする。
スカイプを立ち上げるとリボーンを確認した。
オンラインにしてあるようで俺はさっそくチャットを飛ばした。
“話したいことがあるんだけど、時間いい?”
少しして返事が来た。
“良いぞ、どうかしたか?”
俺は少し安心してマイクを繋げてヘッドフォンをする。
最近俺が忙しくてまともにリボーンと話せてもいなかったと思いだせば久しぶりの通話ですこし緊張する。
『もしもし?』
「リボーン…」
いつもの調子で出たリボーンに俺は縋るような声を出してしまう。
『どうかしたのか?疲れた声してるぞ?』
「ん、んー…あの…曲ができなくて…」
心配そうなリボーンの声にやっぱり俺はこの声が好きなんだなぁと唐突に感じた。
だって、声聞いただけでなんか身体の芯がふにゃりと解けたようになって自分の部屋にいると言うのに緊張していたのを知る。
そして、自分が感じるよりも案外するりと口から零れたのは今俺が置かれている状況だった。
『忙しくてそっちまで手が回らないか?』
「ちがうよ、時間はあるんだ…けど、何にも思いつけなくて…」
テスト前とは言え、自分に時間がないとは言えない。
両立できないほど追い詰められているわけではないのだ。
それに俺自体もまだ余裕がある。
『スランプみたいなもんか?』
「…認めたくないけど…」
『ツナ、今自分の置かれてる状況全部言え。学校のことも、全部だ』
「全部って…テストでしょ、課題が少しと、リボーンの曲と、自分でやろうと思ってる曲と…それぐらいかな?」
『ついでに、毎日の食事、洗濯いろんなことに手を回し過ぎだ。これからテストが終わるまではネット禁止』
「はっ!?なにそれっ」
『少しどころか、それは追い詰められてんだ。疲れて当たり前だっていってんだよ』
「そんなこと、ないよ…」
突然のリボーンの言葉に俺は耳を疑った。
なんでそんなことを言うのか俺は信じられない気持ちで寂しそうな声を出した。
だって、ネット禁止ってことはリボーンとも会話することもできないってことじゃないか。
「俺、リボーンの声聞けないのやだよ」
『聞きたいなら勉強に専念しろ、終わったら会おう』
「それ、ずるい…」
『テスト終わる日教えろ』
「…にしゅうかんご…」
『じゃあ、週末な?俺の放送に来たら、お仕置きだぞ』
「酷いっ」
『なんとでもいえ、ツナのためを思ってだ』
とんでもない仕打ちと、最高のご褒美を天秤に掛けさせられた。
こんな風になるなんて…。
こんなことならリボーンに相談しなければよかった、と思う反面曲作りはひとまず考えるなと言われて安心した部分もある。
実際追い詰められていたんだなぁと考えなおしながら、ならせめて今だけはリボーンの声を堪能させてくれと頼んだ。
『仕方ねぇな』
「あのね、あのね、すきっていって」
『どこの女だ』
「いいじゃん、録音するから」
かちかちと操作して録音機能を立ち上げる。
設定でちゃんとスカイプの音も録音できるようにしてあるためリボーンの声を録音しようと思ったのだ。
もう好きなだけ囁いてもらってとりためておこう。
『あのな…それじゃ、ただの変態だ』
「……俺、リボーンばかだって自覚あるよ?」
『はぁ…』
リボーンは呆れたようにため息をつくとご所望は?と聞いてくる。
俺は嬉しくて何個か希望のセリフをリクエストして言ってもらっていたのだが最後の一つは本当にダメな時に聞けと言われてヘッドフォンを外した状態で録音してリボーンの声集が完成した。
「ありがとう、なんだか乗り切れそう」
『そうかよ、終わるの待ってるからな。調子が戻るのも』
「うん…がんばるからね」
へへっと笑って通話を切れば途端に寂しくなるが、リボーンに言われたとおりにスカイプをオフラインに切り替えて、ワードを開いた。
最近ほぼ野放しにしてしまった課題から片づけなくては…。
俺は深呼吸をして作業に取り掛かったのだった。
それから怒涛のように日々が過ぎた。
課題を綺麗に終わらせて、テスト勉強も一夜漬けではなくちゃんと復習して当日に臨んだ。
寂しくなった時はリボーンの声を聞いた。
それだけで俺の頬は綻んで、本当に辛くなった時のためと言われた最後のトラックはやっぱり聞かなかった。
聞きたかったけど、なんかそれを聞いたら終わってしまう感じがして。
「おわったぁぁぁっ!!」
俺は学校の帰り道後ろを振り返って誰もいないのを確認すれば両手を広げて叫んだ。
近所迷惑も顧みない行動だが、もうこの達成感と言ったら…。
俺は嬉々として部屋に戻ると最後のトラックを聞くためにパソコンを立ち上げた。
いつも通いづめの動画サイトにアクセスしたかったがそんなの関係ない。
リボーンの声を聞きたくて再生した。
まずは俺の希望で「好きだ」、その次に「がんばれ」、「応援してる」のメッセージ、あと「おはよう」から「おやすみ」まで。「おつかれさま」に「明日もしっかりやれよ?」と激励。そして、最後。
俺にも聞くなと言われて離れていたのだ、一体何を言ってくれたんだろう。
『ツナ、愛してる』
「ひぁ……うわぁぁ…」
一気に頬に熱が上がるのを感じた。
吐息を混ぜて、渾身の一言は俺の性感を見事に刺激してくれた。
なんというか、こんなの聞いてたら勉強どころじゃなかった。
「ばかばかばかっ…なんだよ、これ…俺に勉強させる気だったのか!?」
熱くなった頬を覚ますために自分の頬を掌で覆った。
俺のことを変態といっておきながらそれに甘いお前はなんなんだ。
「リボーンのばかぁ…」
腰が重い、自慰なんてしないから当然溜まっていてそれでも自分で発散させることはできなくて歯がゆい。
俺はすぐにネットにつないだ。
スカイプを立ち上げてリボーンの了解も得ずに通話ボタンを押した。
「なんだよ、あれ」
『おつかれ、ツナ』
「…あ、お疲れ様」
『どうだった?テストの出来栄えは』
俺はあの録音したことをはなそうとしたのにやんわりとかわされた。
あれ?と思って首を傾げる。
「できたよ、ちゃんと勉強した」
『なら、次は俺の曲だな』
「うん…結局何もかんがえられてなくて、まだ時間かかりそう…」
『ツナの気になるところが終わったんだ、あとはさらさらいけるだろ?』
「まぁ、そうだろうと思うよ?」
何かおかしい。
俺は不審に思って動画サイトに繋げた。
ついでに生放送欄をチェックすると俺は固まった。
今リボーンは生放送をしていたのだ。
なんで切らなかったんだよっ!!
「ごめん、切る」
『は?ああ…気づいたのか』
「そーですよ、悪かったな邪魔して」
『あとでかける』
「ああ…」
できるだけそっけなく、いうとそのまま通話を切った。
どんな流れだったか、なんて恐れ多くて見に行けない。
だって、リボーンのリスナーさんすごく怖いんだもん。
なんか目がぎらぎらしてそうな…今時の言葉で言うなら肉食系ってやつだ、多分。
そして、暫くするとスカイプが鳴った。
リボーンからだと確認するとそれに出た。
「あのなぁ、生放送してるなら言えって」
『悪い、俺もお前の声聞きたかったんだ』
「なっ…」
唐突に切り返されて俺は言葉に詰まる。
そういえば、リボーンの待ってるんだっていってたな…。
耐えられないのは俺だけじゃないと知れば嬉しくて、もう早く会いたくてたまらなくなる。
「週末まで待てないって…言ったら、どうする?」
『…今から行く』
「本気かよ」
『ああ、一時間もあればいけるしな』
いや、俺が心配してるのは明日の学校とかそういうことなんだけど。
俺の心配なんぞ知らずにガサガサと音がする。
本当に来る気だと焦って自分の部屋を確認する。
少し汚れていて俺は慌てた。
「待っててもいい?」
『ああ、待ってろ』
「…うん」
断ることなんてできなくて熱を含ませて囁けば命令された。
リボーンも欲情したような声だったのは聞き間違えじゃなければいい。
とりあえず、俺は部屋を片付けることから始めようと考えた。
「うわぁ…」
「よく頑張ったな」
「ん、んぅ…」
来るなり、いきなり抱きしめられた。
頭を撫でてきて唇を塞がれた。
俺が待ったをかける暇もないぐらいの早業だった。
「りぼっ…まって、べっどぉ」
このまま玄関だけは止めてほしい。
いくら慣れてきたからといっても久しぶりの身体には結構負担だ。
俺は手を伸ばして背中を叩いた。
すると、いきなり抱きあげて寝室兼俺の作業部屋まで一直線だ。
「も、余裕なさすぎ」
「お前もだろ」
「俺は、いいんだもん…俺は、がんばったから」
ベッドに降ろされて服をまさぐられる。
ああ、余裕ないリボーンもいいかもしれないと必死な顔をしているリボーンを下から眺めて笑みを浮かべた。
「生で聴きたい」
「は?」
「あいしてるって、ききたい」
自分で言うのにも少し抵抗のある言葉に頬を赤らめながら強請ると口を閉ざして身体を撫でてくる。
俺は身体をあげたりしてリボーンが服を脱がすのを手伝った。
はぐらかすつもりかと思うが、指が俺の肌に触れるだけでびくっと感じた。
「んっ…ぁっ…」
「こっち、すごいことになってるな」
「だって、俺…一人でシないし…」
「シろよ」
「しないって、なに真剣な眼してるんだよ。俺…そういうところ、リボーンも変態だと思うな?」
「うっせぇ」
好奇心だろうがと言いながら目が諦めていない。
これ、嫌な予感がする。
俺の予感は結構当たったりするのだ。
そして、案の定リボーンは俺の自身を扱いてきた。
優しい掌に包まれると自然に腰が揺れてしまう。
「あっ、あぅっ…ふぅっ…」
「感じてるくせに」
聞こえるだろうと言われてくちゅくちゅと自身の先端からいやらしい水音が聞こえてくればいやいやと首を振る。
恥ずかしくて、けれどそのリボーンの声で感じる。
リボーンの声は俺の脳内を溶かして、思考すらもなくなっていく気がする。
「いやぁっ…やぁ、イく…っ」
「まだだぞ、俺もお前の中に入りたい」
「ん、きて…ほしい…」
ひくんと疼く秘部に早く指をちょうだいと舌ったらずな声で強請る。
もう舌も上手く回らなかった。
指を入れられてすぐに二本目を入れてきた。
そして、中を広げるように動かされて性感が高まる。
もう少し刺激があればイけるのに…。
手を伸ばしたのはほとんど無意識だった。
自分自身に触れて、先端を撫でる。
そのあと握って扱き始めた。
「自分でするのか?いやらしいな、ツナ」
「だって、だ、ってぇ…ぁぁっ、がまん、できなっ…あぁぅっ…」
だんだん扱く手が大胆になって、いつもリボーンがするように下から上に絞るようにして裏筋を撫でると堪らない愉悦が俺の背筋を駆け抜ける。
もう、イく…もう、でちゃいそう。
俺は吐き出すことしか頭になくて腰を揺らしながら夢中で自慰に耽っていた。
「ツナ、病みつきになるか?」
「ん、んっ…やばい…とまんな、い…ぁあっ、やぁぁっ…りぼーん、りぼーん」
かくかくと突き上げる動きをしたところでリボーンの指が俺の前立腺を擦り上げた。
それに俺は目を見開いて感じた。
けれど、そんな刺激じゃ足りない。
俺はもっとすごいのを知ってる。
「なか、おくに…おくに…」
「なんだ?はっきり言えよ…」
「そこ、リボーンの、指の入ってるとこ…りぼーんのアレで…ついて」
意地悪にもアレとはなんだ?と聞いてくる。
俺は恥ずかしくてそれで感じた。
もう、俺は本当に変態みたいだ。
リボーンの声に毒されて、感じさせられて、前後不覚に陥る。
「ねぇ…ねぇっ、ほしいよ…リボーンの、ほしい」
散々言うのをためらったけれど、結局指で攻め立てるのだけでは我慢できなかったのだ。
俺は一心不乱に幼児語の性器の名前を連呼した。
羞恥なんてのはあとから知ればいいとそれだけしか考えられずにリボーンを強請った。
「あー、ったく…これを全部録音しときゃよかったな」
失敗したと残念そうにいうなり中から指が引き抜かれる。
そのあと、熱いものをそこに宛がわれて背筋を逸らした。
普通なら、快楽の度合いは通り過ぎてしまうものだと思っていたのにリボーンのそれは突き上げられるたびに俺に快楽を呼び覚まさせ、勝手に腰が揺れる。
「つな、暴れるな…それと少し緩めろ」
「むりだも…あぁっ…なか、こすってる…あぅあぁっ、ひぃ…」
「話し、聞けって…」
このばかがというのにリボーンの手つきは優しく俺の腰を支えてきて、俺の手にリボーンの手が重ねられてまだ扱いてろと言わんばかりに一緒に擦ってくる。
もう駄目だと涙に歪むしかいでリボーンを見れば、ちゅっとキスをされて最奥を突き上げられた。
「ひぁあぁぁっ、やぁっ、やっあっ…イく、いくぅっ」
「イけ、褒美だ…」
我慢できて偉かったなとクシャリと頭を撫でられた後にがつんっと腰を送りこまれて俺は白濁を放ち、リボーンも俺の中へと注いできた。
イったまま戻らない感覚に戸惑いながらも俺の身体を抱きしめてリボーンは耳元で愛してると、囁いたのだった。
目を開ければ隣にリボーンがいてもぞもぞと服を探していた。
意識を失っていたのは一瞬だけだったらしい。
俺はリボーンの腰に腕を回した。
「起きたのか?」
「ん…ごめん、久しぶりで…」
「ああ、疲れたなら寝てろ…あとは、俺がやっとく」
風呂の準備をしてくると言うリボーンに、中に出されたんだったとなんだか少し恥ずかしくなった。
けれど、あとはリボーンがしてくれると言うなら任せてしまおうかと思った時、頭の中で心地よい音楽が流れ始める。
これはよく知った感覚だった。
「あ、ちょっとまって」
「どうした?」
こほこほとして少し喉に絡まった痰をやり過ごすとケータイを手に取った。
録音機能を起動して忘れないうちにとメロディを口づさんだ。
それを見ていたリボーンは俺がとり終わった後納得したように笑った。
「な、なんだよ?」
「ツナのスランプは欲求不満からだったんだな」
「なっ!?そんな…ことは…」
「ないって言いきれるのか?」
「……違わないけど…」
よくよく考えてみれば、調子が悪くなり始めたのはリボーンとあまり話せなくて忙しくなり始めた時だった。
会えないと言うことがキーワードだったとしたら…。
つくづくリボーンに身体を変えられたんだと感じて、複雑な気分だ。
「まぁ、できそうなら安心だな」
「うん…すぐつくるから」
「ああ、待ってる」
ちゅっと音を立てて口付けられて、シーツを身体に巻かれて風呂場に運ばれる。
作業も大事だけど、今はもう少しだけリボーンの温もりを堪能させて…。
その二日後にはしっかりとツナの新曲がリボーンの手元に送られたのだが、その話しはまたの機会に…。
END