パロ | ナノ

 化学反応I

「みてみて、二人とも」
「なに?」
「なんだ?」

朝食を食べていると、母さんが楽しそうに一枚の写真を見せてきた。
俺はそれを見て思わず頬が熱くなった。

「なにこれっ」
「いつの間に撮ったんだよ…」
「いいでしょ、お母さんの宝物にしようと思って」
「止めてよ、返せってばっ」
「えー、いいじゃない。こうやって写真に撮るのも思い出なのに…まぁ、ネガは私がちゃんと保存してるけどね」

母さんの言葉を聞いて俺達ははぁっとため息をついた。
奪い返した写真に写っていたものは、先日リボーンと手を繋いで寝た時のものだった。
あのとき母さんがご飯だと呼びに来ただけだと思っていたのに、写真を撮られていたらしい。
俺はそっと制服のポケットにしまいこんだ。
部屋においてこようにも学校のある朝は時間がないのだ。

「もう、いいけど見せびらかさないでよ」
「わかったわよ、しっかりアルバムにしまっておくから。それは、つっくんの一枚にしてあげる。りーくんも欲しい?」
「そうだな、もらう」

何が嬉しくて兄弟一緒に寝ている写真なんか欲しいのか。
そう思うけれど、最近写真なんて撮っていないことに気がつく。
そう言う意味ではこんなものでも思い出になるのだろうと思ってしまう。
パンを食べて、時間を見れば、遅刻ギリギリだということに気づいて立ちあがる。

「いくっ」
「いってらっしゃい」
「いってきます」
「りーくんも、いってらっしゃい」

俺は鞄をひっつかんで玄関を飛び出した。
小走りで走っていれば、隣にリボーンもならんできた 。

「お前、遅刻しないだろ」
「一緒に行きたいんだからいいだろ」

いつものような会話をしながら分かれ道まで来るとそこでいつものように別れた。
俺はぎりぎり間に合い、教室へと滑り込んだ。

「はぁっ、はぁっ、はぁっ…」
「朝から御苦労」
「うるさい…俺だって、寝坊したいわけじゃないんだからな」
「ん?なんか落ちたぞ?」
「へ?…あっ、ちょっ…」

隣の席である高梨に嫌味を言われてウンザリ顔で返すが、高梨の言葉にふっと振り返れば朝母さんからひったくってきた写真が落ちていた、
俺は慌てて手を伸ばし、高梨から写真をとりかえそうとするが一歩遅く、写っている物をばっちりと見られてしまった。

「…仲がいいこと」
「これは、昼寝を撮られてっ」
「一緒に寝るなんて、ちょっと親しすぎじゃないか?」
「だから、この日は偶々っ」

もういいだろ、と写真を無理やり奪って生徒手帳に挟んで今度は落ちないようにしっかりしまった。
席に座り、入ってきた先生が話し出すのを隣の高梨の視線を無視しながら聞いていた。
まぁ、そりゃ少しおかしいかもしれないけど…なんというか、あのときのリボーンは不安そうで傍にいたいと思ったんだ。
長く一緒に居たときの勘という奴だろうか。
リボーンはそういうとき傍にいたがるから…。

「あのさ、ちょっと前は悩んでたみたいだったじゃないか」
「ああ、うん…」
「どんなのか、久しぶりにツナん家行ってもいい?」
「…いいけど」

ホームルームがダルく終わった後高梨が唐突に話してきた。
別に何があるわけでもないと簡単に了承したが、そういえばどうして高梨は来なくなったんだろう。
俺が小学校高学年になったあたりからぱったりと来なかったのだ。
まぁ、でもゲームとかリボーン以外とするのは久しぶりだから俺は軽い気持ちで頷いていたのだ。




俺は、綱吉が好きだ。
それはもうリボーンと言う弟が来る前から。
だが、これが認められない恋だと子供心でもわかっていた。
だから、言わなかったしこれでいいと思った。
けど、最近ツナの様子がおかしい、それはすぐにリボーンのせいだと気がついた。
何をしたんだ、なんでこいつがこんなに悩まなくてはならないのか。
あいつを困らせるのだけは許せない。
俺はツナの家に行くことリボーンに何をしたのか聞きに行こうとしていた。
ツナは何の不信感も持たずに頷いてくれて、その日の授業が終わるなりツナの家に向かった。

「久しぶりだね、そう言えばなんで家にこなくなったの?」
「あ、ああ…お前に弟ができたから、ちょっと控えてたらそれが定着したみたいだ」
「そうだったんだ、別に気を使わなくてもよかったのに」
「いや、仲良くなって欲しかったんだ」

上辺だけの気持ちを並べ立てて笑みを浮かべる。
本当は、違う。
リボーンに、綱吉には近づくなと言われたからだ。
多分、あいつはあのころぐらいから自覚しはじめたのだろう。
そして、気がついたのだ…俺がツナを好きだということに。
だから、あいつの目はいつも俺を睨んでいた。
自然とツナの家には近づかないようにして俺は学校でツナと一緒にいる時間だけでいいと思いこんだ。
そのおかげで、まだ彼女も作れていないが…ツナが幸せになるならそれもいいと思った。
でも、ツナがこんなに悩むならリボーンに何をやっているんだといいに行かなければならない。
そう思ってきたわけだけど…やっぱ、ちょっと緊張するなぁ。
久しぶりに顔を合わせることになる、弟クンに緊張しないわけがない。
ツナの背を抜いたというし…俺と同じぐらいか。
あの時は小さくて優しい気持ちで引き下がることができたが…今日は、わからない。

「仲良くなったよ、リボーンはいつも優しいから」
「ツナもだろ。アイツに甘すぎだ」
「そう…いう、わけじゃない…けど、なぁ」

ツナに優しくするなといっても無理だろう、ツナもリボーンが好きだから。
まぁ、鈍感なこいつらしく自分の気持ちには気づいてないようだが。
頬を掻いて照れくさそうに言う仕草に、俺がこいつの弟だったらと考えたことではあるが…それは、それできっと沢山の問題があるのだ。
歩いているうちにツナの家に着けば、中に招かれる。
靴を見れば、中学生の弟クンはもう帰ってきているらしい。

「ただいま」
「おじゃまします」
「あらぁ、高梨君。久しぶりねぇ、どうぞゆっくりしていってね」
「お久しぶりです、はいありがとうございます」
「つっくん、あとでお菓子取りに来てね」
「うんー」

最初に出迎えてくれたのはツナの母さんだ。
昔から変わらず、綺麗な人だ。
ツナに呼ばれるままに部屋に案内される。
そのとき、偶然かなんなのか部屋からリボーンが顔を出した。

「ただいま、リボーン」
「おかえり、兄貴……」
「こんにちは」
「ごゆっくり」

ツナには笑顔のくせに俺にはおもいっきり睨みきかせてきやがった…恐ぇ。
あんなに独占欲丸出しで、ツナとくっついた時のことを考えると本気で心配だ。
ああいう類の奴は大抵、自分の感情を押しつけるためにあらゆる手段を選びかねないからだ。
俺は張り付けた笑みのままツナの部屋に入った。
もう、顔を合わせた時から心臓に悪い。

「で、なんかする?ゲームあるけど」
「そうか、じゃあ対戦でもするか…なにがある?」
「えーと、これとこれと…対戦ならここらへんとか?」

ツナは楽しそうにゲームのディスクをディスクケースから俺に見せてくる。
楽しそうだ…少しぐらい、気がまぎれればいいんだけどな。

「ならこれ、俺得意」
「俺もそれ得意、勝負にはもってこいだ」
「だな」

本体にディスクをセットして始めようとしたところでツナは立ちあがってお菓子取ってくると部屋を出て行った。
すると、入れ違いになるようにリボーンが入ってきた。
さっそくきたのか…あのときから、かわってない。

「おい、近づくなって言っただろ」
「俺だって、こんな嫌ってるやつのいるところにわざわざきたりしない。どうせだったら、ツナを俺の家に呼ぶ」
「寝言は寝て言え」
「…はぁ、もう…生意気なのは結構だけどな、護りたいならもっとしっかりやれよ。あいつ最近変だぜ?お前何かしてんだろ」
「……あんたには関係ないだろ」
「関係ある、好きなんだから気になるし…」
「お菓子持ってき…た?」

意外にもツナはすぐに戻ってきた、最悪のタイミングだ。
なんでこんな修羅場ってるところに入ってくるのか。
こいつは、感覚までも鈍感なんだろうか。

「い、いや…これは大切な話をしてたんだ、な?」
「あ、ああ…ちょっと重要なはなしだったんだ」

とりあえず、ツナの話をしていたということは誤解だと思わせなくてはならないとっさにリボーンに視線で話しを合わせろと言えば、同意を示してきた。
だが、ツナは固まったように一瞬意識を飛ばしていたようだった。

「高梨って…リボーンのこと、好きだったんだ」
「「はっ!?」」

ちょっと待て、なんでそこでその誤解が生まれる!?
おかしいじゃないかっ、よりによってなんでこいつ!?
リボーンと一緒に変な声がでた。
けれど、ツナの表情はどこまでも真剣そのものだ。

「だって、今好きだから気になるって」
「えっ…ええっそこっ!?」
「ちが、それは…その」
「なんだよ、両想いなの?ならよかったじゃん、高梨がリボーンを好きだったなんて初耳だったけど…まぁ、そっかそう言うのって言うの憚られるもんね。付き合っちゃいなよ、リボーンの恰好よさは俺が保証するよ、…あ、俺邪魔者だ。大丈夫、俺今から外行くから二人とも仲良くね」

それじゃあと笑顔でお菓子をその場に置くなりツナは慌てて階段を下りていく。
そのうち玄関が締まる音がして、俺はその音で我に返った。

「なにやってんだよっ」
「それはこっちのセリフだっ」
「変な誤解しやがって、お前行ってこい。そんでついでに告白して連れ戻せ」
「はっ?そんなこと、できたらこんな事態になってねぇっつの」
「なにいってんだよ、恥ずかしがってることか!?」
「ちがっ、俺はアイツがもっと自覚持ってくれるのを待ってたんだ」
「…それで、変な揺さぶりかけてたのか?」

俺がリボーンを問い詰めれば無言…つまりは図星と。
俺達よりも大人びて見える顔立ち、背丈、考えても見れば俺達と同じように見られようと背伸びをしていただけなのかもしれない。
無意識の好きではなく、本当に好きだと認識されたかった。
そう考えれば、リボーンの考えていることも否定することはできない。
まぁ、あのツナに年下の彼氏は…ちょっと大変かもしれないな。
かといって、俺が手助けに行くという義理もない。
それにますます変な誤解を受けそうなので、今日のところは俺は帰らせていただきたいとこだ。

「…でも、このままにはできねぇだろうが。いいか、ツナがどこに行ったのか、わかるのはお前だけだ。それだけ、お前はツナを見てきたし、これで行って見つかったらツナはお前に見つかりたかった、つまりツナはお前が好きだってことだ。これで納得しろよ、ちゃんと教えてやれば自覚できる奴なのはお前もわかってんだろ」

ここまで鈍感にさせているのは、ただ男同士というだけではないだろう。
兄弟としての建て前も兄としてのプライドも、何もかもが否定させているんだ。
一筋縄ではいきそうにない関係だ、それでも二人はもう止まらないだろう。
ツナは無意識にリボーンを求め、リボーンは愛を欲しがってる。
欲しがる同士では、前に進むどころか歯車が違ってくる。
それをぴったり合わせるなら、どちらかが譲歩をしなければならないのだ。
今はまだ…ツナに譲ってやってほしいと思う。

「ちっ…」
「もう酷いこと言ったりしたりするなよ。不安なら、好きか直接聞いてやれ」
「あんたは、俺達が帰ってくる前に帰れ」
「わーってるよ。お邪魔虫は俺だからな」

やれやれ、本当に面倒がかかる兄弟だ。
先が思いやられるなと、部屋をでていくリボーンの背中を見送るなり、ゲームの電源を落とし、お菓子を一つ摘まむと鞄を持って俺も部屋を出た。







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