パロ | ナノ

 答案用紙の心

リボーンの意味深な言葉を聞いてから一週間が経とうとしていた。
俺はいまだにゲームが終わらなくて、最近ようやく弟離れしようと思っていたことを思い出した。
でも、なぜだろうか…日に日にリボーンのことしか考えられなくなっていっている気がする。

「つなー?」
「ん?…えっ、な、なに?」
「なにじゃねぇよ、移動教室」

高梨に話しかけられていることにも気付かずにぼうっとしていた俺は、なんだと問いかけると家庭科の教科書を持って顎をしゃくってきた。
俺は慌てて支度をすると二人だけとなった教室から飛び出してなんとか授業に間に合った。

「ごめん、高梨」
「いいって、最近何悩んでるのかわかんないけど、無理すんなよ?」

隣の席に座って苦笑しながら高梨が耳打ちしてきた。
俺はそれにうんと返して、班でみそ汁を作る実習をしたのだった。




「いてて…」
「馬鹿だな、よそ見してるからだぜ?」
「そんな、事は…」
「あるだろ?事情は聞かないけどさ、家でもそんな調子だったらリボーンは気づくんじゃないのか?」
「…たぶん、気づいてる…」

けど、何も言わない。
まるで俺が何かに気づくのを待っているようで、リボーンはいつもどおりに接してきた。
先程の授業で見事に指を切ってしまい、絆創膏を貼ったそこからはまだ血が出ているようでじんわりと滲んでくる。
こんなにリボーンを意識したことなんてなかったのに。
一緒にいるのが当たり前で、大切な弟でそれ以上でもそれ以下でもなかったはずなのに。

「痛いのか?」
「…痛いかも…」
「黴菌入ったのかな、保健室行ってくるか?」
「へ?…あ、いや…違う…大丈夫」
「もう、ホントに大丈夫なのかよ」

無意識に呟いていたことに気づいて口を掌で覆って首を振る。
痛いのは、指じゃないんだ…。
もっと別の場所、それに保健室に行ったぐらいじゃ治らない気がする。

「心配してくれてありがとう、高梨」
「いいけど、別に俺は何もできないみたいだし」
「近くにいてくれるだけで、十分だよ」

拗ねたように言う高梨に苦笑を浮かべながら、指をそっとおろした。
今は何もみたくない。
自分が混乱するだけなら、今は見ない方がいい。




ぱんっ、頬を殴られて痛いなと最初に思った。
その後に目の前では泣きだす寸前の美菜子の顔。
でも、俺は何も思わない。
何も思えなかった。

「最低」
「なんとでも」
「お兄さんの代わりにするなんて、ホントどうかしてる。あんた頭おかしいんじゃないのっ!?」

癇癪を起したヒステリックな女とはきっとこんな感じなんだと思う。
美菜子の言葉に否定はしなかった。
本当のことだ。
俺は、兄である綱吉のことが好きだ。
多分、一番最初会ってからずっと、俺は綱吉のことを想っていた。
綱吉はつゆほども思ってないだろう。
俺のことを弟として本当に大事にしてくれていた。
それを、俺は利用しようとしている。
卑怯と言われようが、最低な男と言われようが構わない。
俺は綱吉だけを手に入れたかった。
この容姿のお陰か俺は女子に囲まれるようになっていた。
綱吉の代わりに、なればいいと…思っていた。
でも、女は敏感だ。自分以外に誰かを想っているなんてすぐにばれた。
で、この惨状だ。
俺は美菜子のことを好きになろうと努力はした。
けれど、一緒にいればいるほど綱吉を思い出して声を聞けば聞くほどアイツの声が頭の中響いていた。
そのたび俺は思い知らされて、こうなってしまった。

「そんなの、わかってる」
「っ…なによ…こんなに、好きなのに。そうやって適当に相手されるのが一番傷つくのよっ」

最後にはぼろぼろと涙を溢しながら顔を掌で覆った。
本当に俺を好きでいてくれたのだと思うと、少しばかり同情の念が芽生えるもそれ以上手を出すことはしないまま俺は美菜子の前をあとにした。

「適当に何か、してないのにな」

一人呟いた言葉は誰が聞くでもなく、音となって消えていた。
もう放課後の校舎を夕日が照らしていた。




中学は高校より早く授業が終わる。
家に帰れば、鞄を置いて母親の部屋へと向かった。
かちゃりと静かに開ければ、昼寝中で気持ちよさそうに眠っていた。
日々家事に追われているのだ、綱吉が返ってくるまでは静かにしておこうと静かにドアを閉めた。
再び自分の部屋に戻ってベッドに寝転がる。
まだ時間がある、少し眠ろうか…。
今日のはさすがに、堪えていた。
いくら俺が綱吉以外に興味がなくても、男同士の関係をああも真正面から否定されて丈夫でいれる神経は持ち合わせていない。

「綱吉…」

あのときの言葉の意味を必死に理解しようとしているのが、わかる。
真剣に、だけどまだだ。
あの顔は、まだ俺を好きだって自覚していない。
もう少し刺激を与えてやれたらいいのだろうか。
どうすればいい…?
あいつは、どうすれば、俺の方を見てくれるのだろう。
早くあの細腰を抱きたい。
全部暴いて、泣いて縋る姿がみたい。

「…ちっ……」

思春期の身体、思い描く度に発情したように身体が熱くなる。
俺は舌打ちすると、もう一度時間を確認した。
あいつが帰ってくるまで一時間はある。
それに途中で帰ってきても階段の足音で気がつける。
俺は、即座に判断してベルトを緩めるとチャックを開けて前だけくつろげ、自身を握ると目を閉じて想像する。
綱吉を組み敷いて、はしたなく足を広げる姿を。
後ろを和らげて入れば極上の心地がするんだろう。
それだけで扱いている自身から先走りが溢れた。
それを塗り広げるようにしながら全体的に大きく擦り上げ熱いため息を溢す。

『あぅ、リボーン…きもちい、もっとして…』
『やあっ、そこ…しちゃだめぇっ…』
「つな…つなよし…はっ……」

脳内に響く感じた声は、完全なる妄想でしかないのだがそれは明確に俺のそこを感じさせて、小さく漏らした声は誰も聞いているはずもなく、静かに吐精し手の平についた白濁を素早くティッシュで拭きとってゴミ箱に捨てる。
イったあとの倦怠感に任せ、服を整え目を閉じた。
綱吉が帰ってくればこの部屋に入ってくるだろう。
それまでは、少し眠ろう…。




「ただいまぁ」
「おかえり、つっくん。今から夕飯の支度するから」
「うん、待ってる」

いくら考え事をしているからといっても両親に迷惑はかけられない。
家のドアを開ければ元気な声を出した。
すぐに母さんが出迎えてくれて俺はそのまま二階へと駆け上がった。
鞄を自分の部屋に投げ入れればすぐにリボーンの部屋のドアを開けた。

「リボーン…っと、寝てる」

ベッドに寝転がっている姿を見れば、起きるのを待って改めて出直そうと思ったが、不意に頬に赤い痕を見つけてしまうとつい足を止めて静かに中へ入った。
物音を立てないように入って横向きに寝ているリボーンの目の前までくるとしゃがんで視線を同じにした。
すると、頬の痕がよくみえてビンタされたような痕だなと眺めながら手を伸ばしてそっとその痕に触れる。

「んっ…」

声をあげられ、つい手を離してやり過ごす。
こんな内緒で俺は何をしようというのか。
自分でもわからなくなりがら検分するように見つめた。
男に殴られたならもっとくっきりと痕がつくだろう。
なのに、この控えめなあとならば最近できたと言っていた彼女がつけたものだろうか。

「お前に、こんな乱暴するの…?」

小さく呟いて触れるか触れないかのところで優しく撫でるように手を動かした。
かっこいいと思うのに、俺の自慢の弟なのに…。

「そんな子なら、別れちゃえばいいのに…そしたら…」

そしたら…?
今俺は何を言おうとしていたんだろう、慌てて手で口を塞ぐと立ちあがろうとしたところにんーっと唸ってリボーンが目を覚ました。
逃げ道を失ってしまった俺は、どうしようと慌てふためいていると眠気まなこのリボーンは手を伸ばして俺の手を握ってきた。

「あにき…」
「ど、どうした?」
「もっと、こっち」

一目で寝ボケているのがわかり、俺は不思議の思いながらもリボーンの言うままに身体を近づけた。
すると、リボーンの腕が背中に回ってきてぎゅっと抱きしめられていた。

「っ…りぼっ…」
「煩い、少し…こうしてろ」

リボーンの声を聞くなり、なんだかショックを受けているんだろうということはわかったので、大人しく抱きつかれていることにした。
それに、こうやって抱きしめられるのはなんだか嫌になれない。
むしろ、心地いいとさえ思ってしまう。
どうしたんだろう、俺は。
前はこんなこと考えもしなかったのに…。

「リボーン、ほっぺ痛い?」
「いたい…」
「じゃあ、撫でてあげる」

いつもは偉そうで、かっこいいリボーン。
だけど、俺にしか見せない弱いところは俺だけのものだ。
リボーンの頬を優しく撫でれば柔らかな笑顔を見せてくる。
可愛くて仕方ない。

「これ、どうしたの?」
「…なんでもねぇよ」
「本当に?」
「本当に…」
「でも、殴られたんだろ?」
「殴り返した」
「嘘、リボーンは女の子相手にそんなことしない」

俺はもうわかっているんだといえば、諦めたようにため息を吐いた。
だんだん頭も覚醒してきているらしく背中に回っていた腕から力が抜ける。

「なんでここにいるんだよ」
「ゲームしようと思ったらお前が寝てたから」
「寝顔でも見てたのか?」
「……そんな、つもりは」

今度はリボーンに質問攻めにあい、つい口籠る。
別にやましいことなんて何もないはずなのに…。
すっかり元気を取り戻したリボーンを見てもういいかと離れようとすれば腕を掴んでいる手は離れなくてリボーンを見つめる。

「俺もう少し寝たい、一緒に寝ないか?」
「子供じゃあるまいし…」
「前は、お前がこうやって手を握っててくれただろ?」
「覚えてたのかよ」
「忘れるわけねぇだろ?」

ほらと手を引かれるまま俺はリボーンのベッドに乗り上げた。
一緒に寝転がるとさすがに大人サイズの二人ではベッドが小さくもっと近くにと寄り添ったせいで顔が近い。
俺は頬が熱くなるのを感じてリボーンの胸へと顔を埋めた。
そのままリボーンの腕が俺を引き寄せてきて、ベッドで二人寝るなんて恋人みたいだと、微かに思った。
殴った彼女はどうなったのだろうか…。
別れたのかな、もしかしてまだ、付き合っているのか…。
そう思うと、とても眠れる気分じゃなかった。
それなのに、リボーンの手は優しく俺の背中を撫でてきて、どんな顔をしているのか見た気もしたがここで顔を上げてはいけない気がしてじっとその温もりを感じていた。
そのうち、意識が混濁してくる。
もうすぐ夕飯なのにと思うも、小さく欠伸をもらせば最近寝不足気味だったからかあっというまに寝れてしまったんだ。

この気持ちは、゛弟゛だからじゃないのかな…
だったら、何なんだろう
この気持ちに名を付けるとしたら…なんと呼べばいいのだろう…。







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