パロ | ナノ

 計算尽くの恋

俺には兄弟がいる。
本当は一人っ子だったが、母が再婚したときに兄弟ができた。
二つ下の、男の子。
名はリボーン。俺の弟。
初めて会った時、じっと見つめてくる瞳が綺麗だと思った。

「初めまして、俺はつなよし」
「りぼーん、よろしく」

握った手は俺よりも少し小さくて、俺は可愛い弟を護ってあげたいと誓うように思った。
二人とも仲良くねと頭を撫でられて、両親は幸せそうに笑っていた。
そして、それは七年経った今も変わらない。

「隆さんいってらっしゃい」
「いってきます、朱実ちゃん」

んーっとキスをしている両親の横を通り抜けて俺は鞄を持ってドアを開けた。
まったく、少しは冷めろよな…と思うもこんな二人は羨ましいとも思う。
結局俺とリボーン以外に子供はできることはなかったけれど、二人はそれなりに幸せそうだ。

「つっくん、いってらっしゃい」
「はいはい、いってきます」
「母さんいってきます」
「あら、リーくんも行くの?気をつけてね」
「二人とも、気をつけていってきなさい」
「「はーい」」

そんな両親にかこまれて俺達はすくすくと育っていた。
リボーンは中学二年、俺は高校一年だ。
父さんは反対方向だから家の前で別れて、俺とリボーンは並んで歩く。

「お前、もう少し遅くても遅刻しないだろ」
「いいだろ、兄貴が何もないところで転ばないか見ものだからな」
「っ…転ばないもんっ」
「へぇ、まぁ転ばなきゃいいけどな」

俺は生意気なことを言うリボーンを見上げた。
俺が中学のころまでは身長は同じぐらいだったが、リボーンが中学に入ったと同じくらいから一気に伸びてあっという間に抜かされ今では結構な差が生まれていた。
まぁ、両親が違うのだからしかたないことだとは思うがこれは理不尽だ。
中学を卒業する時には逆転兄弟などと茶化されていたしまつ。

「そんなドジじゃないし」
「ダメツナでもか?」
「うるさいっ、どうせ俺は何もできないダメツナだよっ」

それに何故か俺とリボーンは正反対だった。
俺は運動も勉強も駄目と言われるダメツナだけれど、リボーンは勉強の成績も運動も抜群でクラスの中でもトップクラスらしい。
こうも違いがはっきりしていると頑張る気もなくす。
今では逆転兄弟なんて言われ慣れたし、それにこんな兄なのにリボーンは離れようとしないんだ。
こんなに頼りない兄なのに、どうして離れないんだろう。

「うわっ…」
「…っと、だから言っただろ」

考え事をしていたら案の定マンホールの蓋の窪みに躓いて転びそうになるが、リボーンが腰に手を回して支えてくれたので転ばすに済んだ。
くすくすと後ろで笑われて、ついムッと唇を尖らせてしまう。

「ちょっと考え事してただけ」
「ほう、そんなに夢中になるほどか?好きな子でもできたか?」
「すっ…ちがうよ、別にいいだろっ。ほら、お前はそっち」

むしろ、リボーンのことしか考えてないと思えば言うのをなぜか憚られてリボーンの手を離させ背中を押して中学校への道へと追いやる。

「じゃあ、もう転ぶなよ兄貴」
「転ばないって、じゃあな」

中学になってからかちょっと生意気になったなと思うが、それでも俺の言うことは聞いてくれるし困っていたら助けてくれるし、できた弟だなと思う。
あんなに恰好よくなって、中学じゃモテてしかたないんだろうなと思うと少し寂しくもなる。
ちょっと前まで、兄ちゃんと着いて回ってきて可愛かったのに…時間が経つのはあっという間だ。

「好きな子…かぁ」

好きな子、高校にもなれば恋人も作らなければならないのだろうか。
でも、不思議と俺にはリボーンがいるからと思った。
兄弟なのだし、多分リボーンには恋人がいるし…なんで俺がこんなにも固執するのか…正直理解できない。
でも、いまのところ気になっている女の子とかはいないし帰ればリボーンがいて一緒にゲームをしてくれたりする今の生活が楽しい。



学校につけば鞄を置いて自分の席に座る。
最近遅刻ばかりだったからこんなにゆっくりした朝は久しぶりだ。

「よお、ツナ」
「おはよう高梨」
「今日も弟君と一緒だったんだって?」
「なんで知ってるんだよ?」

弟君と言われてぎくりとする。
俺はあまりリボーンと居るところを見られたくない。

「ああ、橋島が見たんだって」
「綱吉くん、弟君っ紹介して…お願いっ」
「えー、やだよ。あいつ今彼女いるみたいだから飽きためた方がいいよ」
「なんだ、そうなの?綱吉くんと登校してるからてっきりフリーかと思ったのに…」

高梨から目撃したやつのことを聞けばリボーンを狙ってる子の名前で苦笑を浮かべた。
しかも、俺達の会話を聞いたらしく急いでこちらにくる橋島に逃げたくなる。
目の前で手を合わせられ、俺はリボーンに彼女なんているもかもわからず嘘をついていた。
だって、リボーンが他の子といるなんてなんか嫌だし。

「知らないよ、あいつがくっついてくるだけだって」
「なんか、昔からお前ら仲いいよな」
「普通じゃないの?」
「普通だけど、ツナの家って特殊だからここまで仲いいのは意外かも」
「ふーん、そうなんだ」

橋島は小学校から同じだから俺達の家の事情を知っている一人だ。
もちろん、リボーンとの面識もあるし俺よりもリボーンと気があっていた。

「だって、いくら兄弟って言っても血がつながってないし他人だぜ?これが女の子だったら俺はそっこー自分のものにするけど」
「馬鹿じゃないのか、幼すぎて他人だって言うのもあまりわかってなかったと思うし、父さんと母さんはらぶらぶだし」
「仲いいよなぁ、つくづく感心しちゃうぜ」
「ああもべったりだと、プライベートがなくてちょっと困る時もあるけど」

家族で仲がいいのは悪いことだと思わないが、リボーンが四六時中と言っていいほど近くにいるせいで溜まったときとか困っているのも正直なところだ。
リボーンはどうしているのだろうか…ちょっと気になるけれど他人の性生活なんて知りたくない。

「なんだ、ツナ溜まってるのか?いいAV貸してやるぜ?」
「そんなの持って言ったらリボーンに見つかって笑われるからいい」
「リボーンリボーンって、ツナも結構弟依存だよな」
「そう?そんなことないと思うけど…」

高梨に言われて、よくよく自分の行動を振りかえって見る。
言われてみれば、俺も俺でリボーンからあまり離れていたことがない気がする。
女の子にイラついて離れたくなくて、そんなのヒステリックな女のようじゃないか。

「なんか、気持ち悪くなってきた」
「は?大丈夫かよ」
「大丈夫だけど…ちょっと距離おこうかな…」
「だな、弟離れもそろそろ必要だぜ?おにーちゃん」

からかわれて高梨を睨みつけるが、まったく気にした様子もない。
まぁ、こいつは昔からこんなやつだ。
チャイムが鳴りホームルームが始まりいつもの授業が始まる。




長い授業を終えて帰宅部の俺はすぐに学校を出た。
今日は行き詰ってたゲーム見てくれるって言ってたから早く帰ってリボーンに教えてもらおう。

「って、違う違う…俺は今日から弟離れなんだからゲームは自分でやらなきゃ…」

でも、正直自分一人でクリアできるかと言えば、無理そうだ。

「…今日だけ、今日だけ…明日からは、弟離れしよう」

一人呟きながら家路を急ぐ、心の底ではとても楽しみにしているのだがなぜかそれを表に出すのは憚られた。
兄弟で仲がいいのはいいことだと言われ続けていたせいか、変だと言われて首を傾げるしかなかった。
だって、リボーンは嫌な顔一つしていないし…。
でもこれも中学までだろうか…反抗期だってそろそろだし、そうなってしまえば俺達の関係なんて簡単に崩れてしまうのだろうか。

「でも、反抗期ってホント無性にイライラするんだよな」

自分も訳もなく母親や父親に当たり散らし迷惑をかけた時もある。
経験したことだから、リボーンもああなってしまうのかと思うとちょっと心配でもある。
…そういえば、俺がいらついたときとかリボーンはずっとそばにいてくれたんだった。
いくらうざいあっちいけと言っても離れずに、何を話すこともなくゲームをやっていた。

「なんか、リボーンの近くって居心地いいんだよな」

多分これ以上のものはないだろうというぐらい、安心感を与えてくれる。
この安心感を手放すというのは…ちょっとどころか、すごく無理な気がする。
弟離れと考えただけでここまで悩むくらいだ。

「なんだよ、これじゃ俺がリボーンから離れたくないみたいじゃん」

俺がリボーンと一緒にいるのはリボーンが近くにいるからだ。
断じて、俺がリボーンと一緒にいたいとかじゃない。
そうこう考えているうちに家に着き、ただいまーと中に入るが誰も返事も聞こえてこない。
二階にあがって俺の部屋より先にリボーンの部屋に入る。

「リボーン、今日ゲーム見てくれるんだろ?」
「結局進めなかったのかよ」
「…悪いかよ、今持ってくる」

笑いながら言われてむかっとするが約束を覚えていてくれたらしくて俺は急いで自分の部屋に入ればゲームをもって再びリボーンの部屋に戻る。
電源をつけてタイトルロゴが現れる。

「アレ持ってるか?…もってねぇじゃねぇか。あれないとここ通れないんだぞ?」
「嘘っ、ああこれか。どうやってとるの?」
「そこから左、ずっと…その家、じいさんの話しかけると貰える」

携帯ゲームだからリボーンが至近距離で覗き込んできて、リボーンの言うとおりに道を進んで行けばリボーンの言ったとおりの家があり、じいさんがいて俺はその一人話しかけてようやく次へとすすめた。

「ありがと、なんかいけそう」
「そうだな、そこからなら大丈夫そうだな」
「母さんは?」
「買い物」
「ふぅーん」

じゃあ二人きりなんだと考えながらゲームを操作し、なんとか中ボスぐらいまで辿りつく。
そうだ、この際だ今日一日気になっていたことを聞いてしまおうか。
リボーンなら答えてくれる、俺は妙な自信にかられて何気なく口をひらいた。

「あのさ、リボーンって今付き合ってる子とかいるのか?」
「あ?ああ、いるな…美菜子って言ったか?」
「なんでそんなに曖昧なんだよ、好きだから付き合ってるんじゃないのか?」

リボーンの答えを聞いてやっぱりと思うと同時にどうでもよさげに言われた言葉に安堵している自分がいた。
これでは女の子が可哀想だと思うのに、なんでか俺はリボーンがそれでよかったと思ったのだ。

「まぁ、好きだろうけど…まだわからねぇから」
「へ?」
「お前以外、大切だと思えない」

リボーンの声のトーンが落ちてなんだと顔をあげればとんでもないことを言われた。
なんで今そんなことを言うのか、とか大切ってどういう意味の大切なのかとか…聞きたいことは沢山あった。
けれど、玄関から突然つっくん、リーくんお米運ぶの手伝ってーと母親に呼ばれればリボーンの雰囲気は元に戻って、俺も現実に引き戻されてしまうと二人で返事を返し階段を下りた。
リボーンはそれ以降何も言わずに、俺も訳がわからなかったがリボーンが何も言わないならとその会話をなかったことにした。
今はまだ、知らないふりをしても許されるのだと…リボーンの背中が言っているような気がした……。







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