◎ 淡い恋の藤色
あれから数日が経った。
リボーンさんから、いろんなことを教えてもらった。
主に今後の付き合い方が中心だった。
俺がわからないと言ったことを教えてくれて、だから誰にもそういうことを聞くんじゃないと言われた。
恥ずかしいことなのかと聞いたらそうじゃないらしい。
理由までは教えてくれなかった。
「だから、雑誌見せてもらわなくてもよくなっちゃった」
ごめんねと佐条に謝ればべつに必要なくなったならそれはそれでいいよと言ってくれた。
「こうして少しずつ綱吉も大人の階段登っていくのかぁ」
「…いや、そんなこと言われても…」
「大切にしてやるんだぞ?」
「うん、それはもちろん」
大切にしてやる…とはちょっと語弊があるが、俺はとりあえず頷いておいた。
この幸せな雰囲気を醸し出しているところで話しをややこしくするのも面倒だからだ。
「じゃあ、俺は今日部屋の掃除しなきゃだから」
「おう、じゃあな」
時間を見れば十位分話していたなと俺は慌てて手を振って教室をでる。
部屋が散らかってきたからそろそろ整理しなくちゃと思っていたのだ。
俺は帰ると夕食の時間までに片づけをしようと思い立った。
部屋の隅に埃を見つけてしまって、ついひぃっとなってしまったからだ。
リボーンさんにはいい気分で仕事に行って帰ってきてもらいたかった。
だから、今日は少しがんばってみようかなって。
「よし、掃除機かけまーす」
掛け声とともにスイッチを入れる。
まずは埃をとるところからだ。
それにあんまり遅いと近所迷惑になってしまうし、夕方がまだましな時間だろう。
俺の部屋をかけ、リボーンさんの部屋もかける。
最近よく入るようになった部屋はいつも片付いているが、それは散らかすほどこの部屋にいないと言うこともあった。
だから埃だけはどうしても溜まってしまう。
それを綺麗に吸い取ると、他に汚れている場所はないかと机の周りを見回した。
すると、机の棚に古臭いクッキー缶が置いてあるのに気付いた。
前から気になっていたもので、真新しい物ばかりのところに何年も前のものらしいそれが置いてあることに違和感を持っていたのだ。
なんとなくリボーンさんに聞くのは躊躇われた。
触るなと言われるかもしれないという不安で話しにも出すことをしなかった。
けれど、今は一人。
本当は開けてはいけないものなのかもしれないが、でも気になるんだ。
手にとって上に乗っている埃を払う。
硬くなってしまっている蓋を、少し力を込めて開けた。
その中には画用紙の様な紙が数枚と新聞についてくるよくある広告がしまわれていた。
「なんだ、これ」
幸いモトカノのものがためてあるわけでもないらしい。
俺はそこに安堵を覚えながらその紙を開いた。
そこには何やら子供の絵らしいものが描いてあった。
「誰の絵?」
首を傾げて悩む、
リボーンさんがこんなに大事にとってあるのだ。
きっとなにかあるのだろう。
もうひとつの広告の方を開いてみる。
すると、そこにはこういんとどけと覚えたての文字で書かれた紙が。
続く言葉にはずっと僕の近くにいることを誓って下さい…と。
「…え、僕って男じゃん…」
衝撃の事実に俺は混乱する。
その先にある言葉はクレヨンで描かれているためすれてわからなくなってしまっている。
名前の部分もわからない。
誰が書いたものだろうか。
それに、リボーンさんがこれを大事にとっておいてあるのも気になる。
「俺の他に…とか、じゃないよね」
だって、これは結構古い物でリボーンさんから男性の親しい人とか同僚の人以外あまり聞いたことない。
「ただいま、綱吉…帰ってるのか?」
「えっ!?」
俺は時間を確認した。
いつもより早い帰宅に俺は焦った。
なんでこんなときに早く帰ってきてしまうのだ。
俺は慌ててそれをしまおうとしたら派手にぶちまけてしまった。
それを聞きつけたリボーンさんは部屋に入ってきて俺は見つかってしまった。
「何してんだ?」
「掃除を…ごめん、なさい」
「また派手にやったな」
絶対怒られると思って謝ったのに仕方のない奴だと缶のさびが散らかったのを見て掃除機のかけなおしだなと笑う。
「あれ?怒らないの?」
「何を怒るんだ?」
「だって、それ」
俺はリボーンさんの持っている物を指さした。
それでもなお不思議そうな顔をしていて伝わらなかったのかと不安になる。
「……ああ、これか…お前は覚えてなかったな。そういえば」
俺の困惑を感じとってか考えてくれて今自分の持っている物だと気づけばくすくすと笑われた。
覚えてないって…どういうことだろうか。
そういえば、俺がここに来た時も母さんとそんなような会話をしていたことを思い出す。
俺は何を忘れているんだろうか…。
「これだ、これ」
「昔木から落ちて縫ったって聞いただけで…」
「そうだ、お前は大人しいのに時々突拍子もないことする奴で…まさか、また俺を好きになってくれるとは思ってなかったが」
「はっ!?…それは、どういう…」
「ずいぶん古くなってるしな、ここにはつなって書いてあったんだ」
リボーンさんは俺のこめかみについた傷に触れる。
そこは痛むことはなく忘れがちで痕として残ってはいるが俺自体あまり気にしていない。
そして、面白そうに言うなり名前の書いてありそうな部分を指さした。
「なんで俺は忘れたの?」
「まぁ、頭だったしな。傷から目覚めた前の記憶がなくなるってのはあっても変じゃないって聞いた」
運が悪くて仕方なかったことだったんだと宥めるように頭を撫でてくる。
でも、もうひとつ疑問がある。
なんで俺の書いたそんなものがここにあるのか、だ。
まるでリボーンさんの記憶がなかったかのように、リボーンさんに描いたものと思われるものがある。
「俺は、ここにくるまでリボーンさんのことあまり聞いたことがなかった」
「そりゃそうだろうなぁ、お前の母さんは俺にお前がべったりなのを気に入らなかったから」
「それって…」
「まぁ、母親だからな。大切なんだ」
こうなっちまったらもう仕方ないと思うがなぁと笑うリボーンさんに俺は顔が熱くなるのを感じた。
まさか、この恋が二度目の恋だったなんて自分でも驚きだ。
そう思うと、画用紙に描かれたこの二人の絵はそれこそ俺とリボーンさんなんだろう。
「あの、でも…それ、無かったことにしてもらっていい?」
「なんでだ?」
「これからは、俺が…リボーンさんのものだから」
昔のことなど大事にしまわないでほしい。
俺は俺でリボーンさんを好きになって、いるのになんか浮気された気分というか…なんというか複雑な心境だ。
「捨ててほしいのか?」
「いや、そう言うわけじゃないけど…俺を忘れないでほしい」
「忘れてないだろ?これは大事な思い出だ。見つかりやすいところに置いたのは悪かった。アルバムにでもしまうか」
「それはそれで恥ずかしい」
クローゼットでいいと言うと、ならそこにしようと綺麗に入れなおして蓋をするとしっかりとしまわれた。
ようやく落ち着いた俺は残りの掃除をしてしまうとさっそく夕食の準備にとりかかる。
「俺も手伝うか?」
「いや、大丈夫…すぐ作るから待ってて」
エプロンをして冷蔵庫から食材を出す。
それをリボーンさんはじっと見つめてくるのだ。
いつもは俺ひとりでやっているから他人の目があると何となく恥ずかしい。
「っ…」
「どうした?」
「なんでもない」
つい手が滑って手を切ってしまった。
少しだけだから絆創膏をする必要もない小さな切り傷。
とっさに隠そうとしたのに、リボーンさんは立ち上がってこちらに来る。
「なんでもないって」
「なんでもなくないだろ、怪我してんじゃねぇか」
「いや、だって…ひっ」
リボーンさんにキッチンの方を覗かれてしまえば隠そうとした指は見つかってしまい。
しかも、リボーンさんは俺の手をとるとそのまま口に含んだ。
ぬるりとした舌が指の腹を撫でて変な声が出る。
「ったく、今日は俺が作る。お前はそっち…いいな?」
「はい…」
血が止まったのを確認すると離された。
つい、感じてしまって俺は居づらくリボーンさんの言葉に甘えてソファへ歩いて行こうと横を抜けようとしたときに、あとでそっちの相手もしなきゃだから体力は温存しなくちゃなと囁かれてますます腰が重くなった。
意外にも自炊できないと思っていたリボーンさんが作ったものは簡単だが美味しい料理だった。
こんなにおいしいものができるのにどうしてコンビニ弁当とか食べてたんだと聞くと疲れたテンションじゃ毎日なんて作ってられねぇんだと言われてしまった。
確かに、手を抜きたくなるときもあるんだろうなぁなんて考えるつ食べ終われば俺が食器洗いをした。
そのあいだにリボーンさんは風呂に入って入れ換わりに俺も入った。
出てくるとベッドに引きずり込まれる。
「もう、あんな話しした後でこれとか…」
「なんだ、今日はしないでほしかったのか?」
「そうじゃないですけど……いや、そうでも、んっ」
「なんで言いなおす…ほしいなら、遠慮せずに可愛がられておけ」
素直に欲しいと言ってしまうのはなんだか気が引けて否定しようとすればちゅっとキスで塞がれた。
胸を弄られてそっちに気をとられている間に、足を開かされる。
最近覚えさせられた場所へと指が触れると俺はぎゅっと目を瞑った。
「恐いか?」
「いや、慣れないだけ…」
リボーンさんは優しくしてくれるからちゃんとそれをわかっている。
指を入れられて時々ローションを足されて濡らされていく。
ぬるぬると気持ち悪いぐらいになってくるとようやくリボーンさんは俺の中に入ってくるのだ。
目の前でゴムの袋が開封されて、それを装着する。
「それ、しなきゃ…いけないの?」
「それって?」
「ゴム…」
「ああ、その方がお前の負担が少ない。明日も学校だろ?」
クシャリと頭を撫でられて気遣われる。
そんなことしなくても、リボーンさんのしたいようにしてくれていいのにと思う。
それに、実を言うとこうやって抱くと言う行為に至るまでも時間がかかった。
俺ばかりをイかせるばかりだったことに俺がリボーンさんのモノを咥えようとしたことからだった。
なら、一緒にと言ってくれたのだ。
俺だって男で立派に性欲もある。
リボーンさんがしっかりと行為について教えてくれたから、どうやったら気持ち良くなるのかもわかってる。
手加減されているのもわかった。
「なら、なら今度は…休みの日…ちゃんとしてくれる?」
「…ったく、そんなこといって…あとで嫌になっても知らないぞ?」
なるわけがない、こんなに好きだって伝えてきてくれるのに。
俺は首を振って、リボーンさんの肩に手を回した。
ぎゅっと抱きついて好きだと繰り返す。
きっとまた好きになったのは、リボーンさんが変わらず俺を好きだからだ。
なんとなく、そう思う。
あのときの記憶は俺の中に戻ってくることはなくてわかることでもないけれど、リボーンさんは昔と変わらない気がした。
ずっと、俺を好きって思ってもらえているとしたら…すごくうれしいことだ。