パロ | ナノ

 待ち望んだ雀色

久しぶりに会った綱吉は、前よりずっと大人っぽくなって、一瞬わからなかったほどだ。
といっても、会ったのは綱吉が小学校の入りたてのころだったから当たり前と言ってしまえばそうなのかもしれない。
あの日を境に綱吉に会ったこともなかった。
姉さんからのメールもどうせ碌でもないことだろうと開くこともしなかったため綱吉が来た時には驚いた。
姉さんも事情は知っているのにと、傷を確認すれば姉さんがここに連れてきた訳が分かった。
綱吉は覚えていなかったんだ。
何もかも、俺と会ったことも何があったのかも、あの傷も。
俺はそれに甘えた。
結局高校はここから近いのだし、部屋を提供するぐらいよかったのだ。
だが、綱吉は俺に気を使うみたいで逐一俺の世話を焼く、嫌ではなかった。
それは、心地いいぐらいに自然と馴染んできてけれど、俺は焦った。
このままではまた繰り返す。
恐れた俺がした行動は、綱吉から距離をとること。
少しずつ、距離をわからないようにして線引きをした。
幸い綱吉は忙しさで気づいていなかった、これでいい。
どうせ高校を卒業したらこの生活はなくなるのだから。
あと一年半、それぐらい容易い。
俺だけが、我慢すれば何もなく終わっていくのだ。

その日も俺は仕事で朝からばたついて出勤した。
綱吉の表情が少しすぐれないことが分かったが、笑顔だったからあまり心配はいらないだろう。
本当にヤバかったら、あいつは笑っていられないからな。
去年の冬に一回そんなことがあって無理はするなと怒ったことがある。
それで反省したようなことを言っていたから無理はしないだろうが…。
今日も遅く帰ると伝えてきたし、しっかり寝れば大丈夫だろう。
そんな浅はかな気持ちで仕事を続けていた。

「よぉ、リボーン」
「なんだ、カキ」
「カキってくだものじゃねぇっつの、垣だって。まったく、最近やけに真剣に仕事してるじゃん?」
「は?俺はいつも真面目に仕事してるぞ」

打ち込むことに集中していたら、珈琲を片手に垣修平が声をかけてきた。
同僚で、俺よりは劣るがそこそこできる男である。
俺は茶化すような物言いの垣に言い返せば、うっそだぁとパソコンを覗きこまれる。
社内書類なので別に隠す必要もない。

「ほんの一年前まではクールで無駄な仕事はしませんーって顔してたくせに、よく言う」
「……」
「そこらへん、おにーさんに話してみようか?」
「話すことはない」
「そんな堅いこと言うなって、今日は俺がおごっちゃう」

ポンポンと肩を叩かれてせがまれる。
話すと言っても、ただこいつが飲みたいだけだ。
前に付き合ったら深夜まで付き合わされて大変な目に会った。
が、今ならそれもいいか。
おごられると言うならそれでいい、少し食べて誤魔化して帰れば綱吉のご飯も食べれるだろう。
日に日に腕を上げる食事には、俺は感心していた。
高校を卒業したて大学に行くなり就職するなりして一人暮らしも良いだろうな。
あれだけしっかりとしていれば、お金をためて自立も難しくはないだろう。

「まぁ、最近行ってなかったからな」
「お?珍しくノリ気?」
「珍しくってなんだ、行くのか止めるのか、どっちだ?」
「行く行く、じゃあ決まりな。定時にあがれる…よな、俺もガンバローっと」

俺の中を確認して、焦ったように自分の席に戻るのを見て仕事溜めてんじゃねぇぞとヤジを飛ばしながら、今日も逃げる口実ができたと俺はため息とともに仕事に集中した。





「今日は卵の特売、たくさん買っちゃった」

これで暫くは卵に困らないなと嬉しくなりながら家路についていた。
学校が終わるなり俺は飛び出して、スーパーへと走っていたのだ。
今日もリボーンさんは遅くなると言っていたけれど、ほくほくとした達成感が俺の胸を温めていた。
帰ってくれば先に勉強をやってしまう。
いつもの日常だ。
けれど、しんっと静まり返った部屋で思うことは昨日思っていたこと。
本当は今日聞きたかった。
なんで最近遅いのかって、けれど聞けなかった。
恋人ができたんだと言われるのが、怖くて。
そんなことになれば、俺は出ていかなければいけなくなる。

「あーっ、もう…そんなに鬱々とするなら、聞けばいいじゃんっ」

くしゃくしゃと頭を書いて、白紙のままのノートを睨む。
これ以上悩んだって、沈むだけだ。
だったら、はっきり言ってもらえばいい…本当はすごく嫌だけれど、覚悟を決めよう。
俺はそう思うと勉強に取り掛かった。
夕飯は少し遅めにしよう。
今日はリボーンさんが帰ってくるまで寝ないんだから。




夕飯を作って、一人食べた。
けれど、まだお風呂に入っていない。
お風呂に入るとリボーンさんが帰ってくる前に寝てしまいそうだから。
それに、すぐに出ていけってことになったら、のためでもある。
だが、いくら待ってもリボーンさんは帰ってこなかった。
時間はもう十一時を過ぎていて、少し遅くになるにしても遅すぎだ。
今日は帰ってこないのかもしれない…。
でも、待つって決めたし…もしかして、今日は恋人のところに行ってるのかな…?
だから、最近ずっと遅かったの?
俺が邪魔だから、そっちに行くしかないの…?
俺は落ちつかずにテレビをつけた。
内容など頭に入ってくるわけもない、ただそれを見て心を落ち着けようと思ったのだ。
けれど、そんなことできなかった。
一々時間が気になるし、ただ俺は膝を抱えて待つばかり。
こんなことしたら、怒られるよなぁ。
いつも早く寝ろと言ってから、リボーンさんは出勤していく。
それは俺が思われているからだと思っていたけれど、本当なのかな。

「リボーンさん、早く帰ってきて…俺に答えをくれよ…」

こんなにも不安で仕方ない。
それでも時間は無情に過ぎていった。
零時を回り、俺は睡魔でうとうとしてきた。
このまま帰ってこないかもしれないのに、どうしてこんなにも待っているんだ。
自分にそう言って寝ようとした、けれど、足が動かない。
帰ってこないわけじゃないのに、こんなにも今日話せないことが俺を不安がらせる。
そうして、玄関から音がした。
ドアの開く音が聞こえて、俺はつい夢中で玄関に走っていた。

「リボーンさんっ」
「綱吉、まだ起きてたのか?」

俺を見て、驚いたように目を見開いたリボーンさん。
そこからはお酒の匂いがして、飲んできたことが知れる。
じゃあ、今日ご飯はいらなかったんじゃないか…。
俺は一気に心が冷えていくのを知った。

「なんでこんな時間まで起きてるんだ」
「あ、の…ごめん、なさい」
「早く寝ろと言っただろ」

リボーンさんの言葉に俺は何も言えなくなった。
俺は知らずに視界が滲んできて、止めようと思ったのに俯いていたため床にポツリと滴が落ちが落ちた。
それを皮切りに止まらなくて、雨のように零れてくる。

「何泣いてんだ」
「っ…ご、ごめんなさっ」

慌てて腕で顔を拭うもなかなか止まらずに、俺は一歩一歩と後退さる。
すると、リボーンさんがため息をついて、靴を脱いでいて、俺は邪魔なんだと思った。
もう、聞くまでもなく避けられていたんだ。
こんな風に泣くのも面倒で仕方なくて、こんな面倒なもの預からなければよかったと思われているのだろう。

「お、俺やっぱりここに居たらまずいんだよね。彼女とか、連れてこれないし…俺、リボーンさんの邪魔だったの気づかなくて…ごめんなさい」
「は?」
「おれ、すぐ…出てくから」

俺はすぐに部屋に引き返した、とりあえず財布と携帯は持って行こうとそれだけひっつかんで玄関まで行こうとすれば腕を掴まれた。

「放してっ」
「いつ、俺がお前のことを邪魔だって言った!?」
「だ、だって…いつも帰り遅いじゃないか」
「それは、忙しいからだって言っただろ」
「俺と顔を合わせるの嫌なんだろ?」
「だから、誰がそんなこと言ったんだよ」

そんなの聞かなくてもわかる。
ものわかりの悪い子供じゃないんだ、俺だって他人の顔色ぐらいわかるつもりで、それでリボーンさんがそう思ってるって、ちゃんと理解した。
なんで引き留めるんだ、そう思って顔をあげれば必死な顔のリボーンさんと目があった。
どうでも、良いんだろ。
なんでそんな顔してるんだろう…。

「聞かなくても、わかるよ」
「わかった、なら…聞いたら俺の言葉を信じるか?」
「え?」
「聞かなくてもわかるなら、俺がここで本当のことを言えば信じるのか?」

リボーンさんの言葉に、俺は一瞬訳がわからなくて多分、言わなくてもわかることをわざわざ言ってくれるんだ。
なんで、そこまで追い打ちをかけるんだろう。
そう思ったらまた涙が出てきて拭おうとしたら指先でリボーンさんに先に拭われた。

「信じるのかって聞いてるだろ」
「…ん、わかった…」

それでも言う気なんだと、真剣な表情のリボーンさんの言葉に俺は頷いていた。
もう、何が来ても出ていく準備はできているんだから。

「じゃあ、椅子に座れ」

リボーンさんに促されるまま俺は食事を用意した反対側に座る。
向かい側に座って、リボーンさんは食事に手をつけ始める。
そうして、うまいなと呟いた。

「お前の飯、いつも美味いぞ」
「う、うん…」
「別に、俺はお前にいてほしくないと言うわけじゃない」
「……」
「ただ、最近本当に忙しかったんだ。でも、少しお前を避けていたのもあった」
「どうして?」
「お前は優しいから、我儘言いたくなるんだ」

リボーンから言われた言葉に首をかしげる。
我儘ってどういうことなんだろう。

「俺はこの通り大人だ、お前に頼ってもいれないだろ?」
「なに、それ」
「これでも、年上ってプライド持ってるんだ」
「そんな、の…」

だから、心配掛けてごめんな。
そう言われて、頭の上にぽんっと手が置かれる。
くしゃくしゃと撫でて笑顔を見せてくれた。

「本当に…?俺は、ここにいてもいいの?」
「良いって言ってんだろ?それに、俺はこれを毎日待ってるんだからな。今更、いなくなられたら、困る」

リボーンさんの言葉に俺は安心した。
必要だって言ってもらえてよかった。
よかった…。
俺はほっと胸をなでおろすとそんなに思い詰めていたのかと驚かれた。

「そうだよ、俺…やっぱり鬱陶しいのかってずっと…」
「思い込み過ぎだ、まぁ今回は俺も悪かった。今度からは、ちゃんと帰るようにする。温かいうちに食べれた方が、飯も美味いしな」

そこですっかり冷めてしまっている食事を思い出して温めると言ってもお腹すいてるからいいと言われてしまった。
居酒屋行ったのにお腹すいているのかと聞けば食べなかったからなと即答された。
なんだろう、なんか眠くなってきた。
それはきっと昨日まで考えていた鬱々としていたものが払拭されたからだと気づけば、起きてるのもままならなくなった。

「眠いのか?」
「ん…」
「ベッドに行け、夜更かしして起きれなくても知らないぞ?」
「いつも俺が起こすのに…?」
「いつも助かってる」

調子のいいことをと唇を尖らせれば、ほらと急かされる。
仕方なく早々に風呂へと入った。

「邪魔じゃないって…言ってくれた」

ただそれが嬉しくて、どうして自分がそう思っていたのか。
その気持ちはいつの間にか睡魔によって消されていた…。







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