◎ 秘密の恋
「ツナ、サビのとこのフリ微妙に違ってたぞ」
「えっ、嘘…目立った?」
「いや、大丈夫だ。俺がそれに合わせた」
「ありがとう、緊張したせいかな」
「お前はその上がり症をさっさと克服しろ」
あはは…と乾いた笑いを浮かべる。
二人の控室、そこは誰もいなくて訪ねてくるのは番組の共演者たち。
俺達は世に言う芸能人というやつだ。
そこそこ名の知れた歌手としてこの業界の荒波にもまれている。
「あはは、じゃねぇだろ。その上がり症治さねぇとトークもまともにできねぇじゃねぇか」
「…ごめん」
相方のリボーンに少しキツく言われて苦笑いを浮かべる。
歌唱力で言えば上手いと言われる俺達だが、ひとたびトーク番組に出ると俺はまったく喋れなくなるのだ。
それに、歌い慣れた歌でさえファンのいる前でだと間違いが多くなったりフリを間違えたりが多くなってしまう。
これは生まれながら、人前に出るのが苦手だったのがそのまま大きくなったため克服しようと得意な歌を武器に芸能界へと入ったが今になっても治る気配はない。
治せと言われて治るのだったら苦労はしていない。
正直、足を引っ張っているのは俺だ。
リボーンは足手まといなんていらないという質だし、内心いついらないと言われるかとびくびくしている。
「まぁ、いいけどな。普通にレコーディングしてるときは一発なんだから」
「ん…歌だけは…好きだから」
持ち前の歌唱力、それだけが俺の武器であり支えだった。
これがなくなってしまったら、きっと俺はどうにもならなくなる。
「失礼します。次はEスタジオにてPV撮影があります」
「はーい」
「いくぞ、ツナ」
マネージャーが入ってくれば移動準備ができたのだろう今日の残りのスケジュールを一通り説明するとそのまま部屋をでる。
待ち構えているファンを潜り抜けながら車に乗り込みスタジオへと向かう。
「なんか、緊張しなくなる魔法とかあったらいいのに」
「そういうのは、基本思い込みだろ?」
「掌に人って書いてやるやつ?あれとかやってみても駄目だったんだ」
何か、良い方法はないのかとリボーンをみる。
ふっと移した視線。
そこにみた、乱れた髪を整える姿。
俺は慌てて視線を外す。
ヤバい、大きく胸が高鳴って心臓が張り裂けそうになる。
俺は、リボーンが好きだ。
ホモじゃない、ホモだったらどれだけよかったことか…。
俺は、リボーンが好きだった。
出逢った最初から、好きで居続けている。
緊張するのも、実はリボーンと視線が絡まったりちょっとしたしぐさにときめいてしまっているからだ。
治さなければと思っている。
でも、それは…俺にリボーンを諦めろと言うぐらい過酷だ。
こんな気持ちなくなってしまえばいいと、思ったことは何度もある。
結論を言おう…無理だ。
人間の感情というものは特殊で、好きと思い始めてしまったら周りが見えなくなる。
相手に一直線になってしまうのだ。
多少余裕はあるかもしれないが、好きな人に対して尽くしたい、愛されたい、愛したいと思うのは一緒。
俺が歌を上手く歌えるのも、最初のころリボーンに上手くて綺麗だと言われたからだったりする。
それ以来、喉には気をつけてるし歌の予習も欠かさずやる。高校の時のダメさ加減を見れば一体どうしたんだと友人に思われるほどだ。
それほどまで、リボーンは俺を変えた。
そう、思うほど緊張して俺には失敗が増えていく。
お前をきっと幻滅させてしまっているに違いないんだ。
「そんなの、簡単じゃねぇか」
「簡単って?」
「要は思い込みだろ?気にならなくなるぐらいのインパクトがあって、お前がしっかりやるようになる」
「…そうなの?」
「そうだぞ、よし…俺がひと肌脱いでやる。目を閉じろ」
自分の思考に落ちていれば、いきなり話かけられて意識を浮上させる。
でも、リボーンの言っている意味がわからなくて首を傾げればいいから早くしろと急かされて慌てて目を閉じる。
暫くして、ふにっと唇に何かがふれる感触がして何かと目を開ければリボーンが乱暴に髪を撫でてくる。
「んっ…なに?」
「これで良い。騙されたと思ってやってみろ」
言われるがままPV撮影に臨めばあら不思議、あれほど困っていいたダメツナっぷりがすっかりなりを潜めてしまった。
それ以来、リボーンから施されるおまじないのお陰でドジを踏むことはなくなった。
が、
最近気づいてしまったのだ。
リボーンが目を閉じている間にしていること。
「あれは、絶対キスだ」
でも、どうして…。
リボーンも俺のことが好きなのか?
いや、でも…
そればかりが頭を渦巻いてこの頃ようやく落ち着いていたダメっぷりがまたぶり返し始めて来たのだ。
「どうしよう…明日は初の野外ライブなのに…」
一人の部屋で明日のことを思い出してはバクバクと心臓が響くのを抑えることに必死で寝ることができないでいる。
ようやく人気が出てきてファンが盛り上げてくれてこれからというときに、またこんなことでどうする。
と想いはするのだが、失敗を考えてしまうと自然と身体が竦んでしまう。
もう、どうしようもない…。
そう思った俺は決意して夜だが念のため少し顔を隠してリボーンの住んでいるマンションへと向かったのだ。
「……りぼーん」
『どうしたんだ?こんな夜にきやがって、ちゃんと寝ろ』
「お願い、あのおまじない…して」
インターフォン越しに泣きつくと呆れた声が聞こえる。
けれど、ここまで来たのだ部屋の中に入れてくれたって良いと思う。
寝るに寝れないことを説明するとカチャンと音がして鍵が解除される。
俺は嬉しくて中に入るとリボーンがさっそくホットミルクを作ってくれていた。
「で?なんでおまじないなんだ?この頃はなくてもよかっただろ?」
「駄目なんだ…緊張して…眠れない」
コトリと置かれた暖かいそれを一口飲むと仄かにはちみつの香りがする。
前に俺が風邪をひいたときも作ってくれて、優しい味だと思ったことはよく覚えている。
リボーンの言葉に答えれば隣に座ってクシャリとこめかみを撫でられ顔をのぞかれる。
「…少し目が赤いな。寝不足か?」
「いつもはこの時間には寝てるし…」
赤くなる顔を隠すように呟けば髪から手を離して今度は普通に頭を撫でられる。
「仕方ねぇな…今日はこっちで寝ろ。帰ってる暇があるなら一緒に会場まで行くほうが早いだろうしな」
「…ん」
「…飲んだらベッドいくぞ。俺だって寝るとこだったんだ」
コクコクと飲み干せば、寝室へと促されて立ち上がる。
寝室へと行くと案の定、当然のごとく大きめなベッド一つしかない。
「俺、下で寝るよ」
「馬鹿、布団があるわけねぇだろ」
「じゃあ、ソファで…」
「いい加減、気づいてんだろ?」
一緒に寝るのだけはできないと背を向けようとすると肩を掴まれて引きとめられる。
なにを、ととっさに口にしていたらよかったのだろうか。
だが、俺にはそんなトボケるだけの余裕はなかった。
黙ったまま時間が止まったように固まった俺は、リボーンの言葉を待っていた。
こんなのは、男らしくないと思うのに…お前の言葉を待ってる。
「……ツナ」
「怖く、ない?」
「は?」
「それ以上言って、自分の望んでる答えが返ってくる保証もないのに…リボーンは怖くないのか?」
俺はそれが一番、怖いよ。
リボーンのことはすごく好き、けれど、それはこの相方としてのことだとしたら。
この関係を壊してまで押し通すほどの感情なのか…。
そう考えるだけで俺は、すごくこわかった。
リボーンは今その壁を壊そうとしてる。俺は嬉しいけど…後悔も、するかもしれない。
ちょっといきすぎた関係でも、良いんじゃないかと思い始めてるし…今なら後戻りだってできる。
「怖くねぇな。それより、お前が他の誰かのものになる方が…」
一番怖い…勢いよく引かれて胸の中へと囲われた。
抵抗はしない、できない。
俺の欲しい言葉、全部言って…そんなに俺を欲してくれている。
それなのに、どこに拒む要素があると言うのだろう。
「ごめん、俺が好きになったせいだ」
「ほんと、ダメツナだな。好きだっつってんだから、好きだって言い返せ」
次の瞬間には無理やり唇を奪われた。
呼吸もままならない暗い激しく貪られて、リボーンだと認識しての初めてのキスだった。
「ふっ…んっ…なに?」
「お前、俺を好きで何をするか知らないとはいわねぇよな?」
ベッドに押し倒されて胸を弄られていたけどリボーンの手が自身より奥へと伸びたところで俺は何をするんだろうと疑問を口にしようとしたら先に釘を刺された。
リボーンの言い方に知らなきゃいけないことなのかと不安になりながらふるふると首をふる。
「なら、大人しくしてろ…気持ち良くなりたいだろ?」
「んんっ…リボーンも気持ち良くなれる?」
「そうだな、お前がヨかったら良いんじゃねぇのか?」
くくくっと笑った顔を見れば何をするのかと不安になっていた身体は自然と力が抜けて、リボーンに身体を預ける準備をする。
何をされるのか、なんて女と経験のない俺がそんなの知っているはずもなくて。
けれど、リボーンがしてくれることに悪いことなんてないから平気だと思うと背中に手を回した。
「じゃあ、気持ち良くして」
「当たり前だ」
もうひとつキスを送られるとそのまま俺の足を大きく開いて下肢へと顔を埋めてしまった。
いったい何が起こるのだろうと待っていると変な場所にぬるっとした感触を覚えて鳥肌を立たせてしまう。
「やっ、ちょ…ああっ、やああぁ…なにしてっ、いやぁっ…なめるのっ、だめぇっ」
その刺激を与えているのが何かなんて、すぐにわかった。
かわったからこそ身を捩って顔を引きはがそうと手を伸ばした。
けれど、頭に手を掛けたところでいきなり舌が秘部へと忍び込んでくればその抵抗も碌にできなくなってはしたなく喘ぎ腰を揺らし始めてしまう。
「やらしいな、素質あったかもしれねぇなぁ?」
「いやっ、いや…いわな、でぇっ…はあんっ、ああっ…指、怖いっ」
指が入ってこようとするのを拒むように締めつける。
もともとそんな場所舐めちゃいけないと思うんだ。
そう思うのに喘ぐ声が止まらない。
どうしようもなくなってしまうと、ゆっくりと中を割り開いてくる指の感触一本を根元まで入れるとクチュクチュとかき回し始める。
そして、その指が偶然にも俺の感じる場所をひっかいてきたからビクンッと腰が波打ちどうしようもない愉悦に身体を震わせると、そうそうに指が引き抜かれてローションをこれでもかというぐらい垂らされた。
「男は慣らさないと硬いからな…お前は、ゆっくり深呼吸してろ」
「んっ…んっ…」
怖いことを言われて必死になって呼吸をしていると笑われて、その一瞬気が抜けた時を逃さず自身を捻じ込んできた。
痛みに顔を歪めて、それに耐える。
「ツナ…好きって言え」
「っ…すき……すき…すきぃっ…すき、リボーン」
目を開けてリボーンを見ると、珍しく俺と同じくらい必死な顔をしているから、思わず愛おしさ溢れて、背中にしがみつきながらリボーンの求めるままに言葉を返した。
越えてしまえば、一線なんて簡単だった。
怯えていたのは、きっと俺だけ。
「ねぇ、リボーン」
「なんだよ?」
「明日のライブでさ」
「………」
「皆の前で愛してるって言ってもいい?」
「それは、二人だけの時にしろ」
END
For 朔様
こんな感じで良かったでしょうか?満足いただけなかったら書きなおさせてくださいっ。
リクエスト有難うございました。