◎ カントゥチーニ
次の日、起きたら一人だった。
いつもはリボーンが起こしてくれたり書き置きしていってくれるのに、今日は何もなかった。
忙しかったのかなと差して気にすることもなく、俺は服を着替えて自分で朝食をつくり、メールを確認した。
芹沢さんのスケジュールを読んで、まだ出るまで時間があるなと考えれば適当にテレビを付けた。
そして、俺は見てしまったんだ…ドルチェ、リボーンの熱愛報道を。
「なに…これ……?」
目の前に映るは、女がリボーンにしな垂れかかってどこかのマンションへとはいるところの写真。
なんで、こんなものがあるのだろう…リボーンは俺のものだったはずなのに、リボーンに女なんていなかったはずなのに…どうして、なにが起こっているのか俺には瞬時に理解することができなかった。
番組のコメンテーターが話している。
女関係がなくて、心配していたが思いすごしだったようだとか、ファンの嘆きが、とかいろいろ言っていたが俺の耳には何も入ってこなかった。
何でこんなことになっているのか、最近はずっと一緒にいることが多かったからこんなことないと思っていたのに…。
いや、そう思っていたのは俺だけで…本当は。
「もう、男じゃ満足できないっていってくれればいいのに…」
俺と付き合っていたのはただの気紛れで、本当は女の様な柔らかい身体がよくて、見れば胸も大きい。
男にはなしえない体つき、俺の方が遊びだったのなんて明白だろ。
「ああ、どうしよ…今日、ライブだったんだ…」
緊張しそうで、怖くて、リボーンに会うのも、怖くなってしまった。
何でこんなことになったのか、浮気するならバレないようにしてほしかった。
俺はそんなに強固な心臓なんて持ってないし、第一平気な顔で会うことなんてもってのほかだ。
それに、昼からは二人でバラエティ番組へと出演しなくてはならない。
そう考えれば、俺はリボーンに会わない日なんてないんだと思った。
逃げたくても逃げられない、それはリボーンも同じはずなのに俺の方が逃げたくて、別れを告げられるのが怖くて、身体が知らずに冷えていく。
俺はとっさにケータイをとって電話をかけていた。
『もしもし?』
「せ、芹沢さっ…」
『どうしたんですか?綱吉くん?』
「リボーンが…いま、テレビで」
『ああ、僕も見ました。それに関しては、リボーンさんが納得してるので事はあまり騒がれずに済みそうですよ。ファンの子たちには申し訳ないですが、リボーンさんは否定していないので事務所としてはこのまま美男美女カップルで売って行くそうです』
よかったですね、そう続いた言葉が俺にとどめを刺していた。
芹沢さんの言葉が遠くで響いている。
何も頭に入ってこなくて、わかったとだけ呟くのが精一杯で俺は現実から目をそむけるように電話を切っていた。
芹沢さんなら、リボーンとの仲を否定してくれると勝手に考えていた。
どうしてかは、わからないけど…俺達をずっと見てきているからだと思う。
「もう、どうしたらいいのか…わかんないよ」
俺は綱吉が起きる前に部屋を出た。
逃げることでこれから起こることが、変えられるわけではないことは確かなのに。
それに、綱吉と関係を持つことはこれ以降できない。
俺の隣には、今まさにニュースで取り上げられているだろう女がいた。
「リボーンさんと一緒になれてうれしいです」
「…俺もだ、バレたついでに今日はどこか行くか?」
「仕事があるんじゃないんですか?」
「ああ、気にするな…ツナが何とかしてくれる、それに見せつけてやるのが一番だと思わないか?」
慣れた作り笑い、それに女は喜んで街へと俺の腕を抱きながら歩いて行く。
当然、サボる気なんてない。
俺が誰より大事なのはこいつじゃなく綱吉だからだ。
女が好きそうなアクセサリーショップに行き、少し早い昼食をとってまわりの視線を少し気にしながら、時間が迫ってくれば俺は人気の少ない公園へと女を連れて行った。
「静かなところ」
「ああ、そうだな…内緒話をするには、もってこいだと思わないか?」
「なぁに?内緒話って?」
意味深な言葉でこれからの話しをぼかしてやると期待したのか楽しそうな笑みを浮かべて近くのベンチに座った。
まったく、つけあがると女はこれだから嫌いだ。
まぁ、元から俺には女なんて気にならない、綱吉が一番だからだ。
きっと綱吉は今ごろ落ち込んでいるだろう。
それを早く慰めてやりたいと思うのに、たかが写真一枚で何もできなくなっている臆病な自分にどうしようもなく腹が立つ。
「うちの社長を脅して、何がしたい?」
「…なんのこと?」
「あの写真、お前が社長に見せたんじゃないのか?あんなのを撮られるのもおかしいと思うが雑誌の掲載情報が発売前にわかるはずねぇからな。それに、弱みという一番他に知られたくない内容なら、尚更な」
こちらの弱みにつけ込んで自分の要望を通そうとする、面倒なことをしてくれたものだ。
お陰でこっちは綱吉に幻滅されるわ、会えなくなるわ、ファンには泣かれるわ、痛いところだらけだ。
「…そんなの、なんの確証もないでしょう?」
「確証ならある、今日朝からうちのマネージャーが走って雑誌会社に確認しに行ったんだぞ。ネガはいらないから写真だけくれと言われたと言っていたなぁ」
「っ…口止め、したんですけど…割っちゃったんですか」
「こっちには金があるんだ、観念しな」
「好きだったのよ、仕方ないでしょう?少しぐらい、こうやって幸せ噛みしめたって良いじゃない」
追い詰めれば女は簡単に口を割って、悔しそうに呟いていた。
同情しないでもない言葉、だが俺からしてみれば甘えるなと言いたい。
そんなに弱みを握って無理やり得た幸せなど嬉しくもなんともないはずなんだ。
それが、今わからないというなら頭を冷やせ。
言いたい言葉が溢れるが、結局それを口にすることはなく俺はベンチを立ちあがった。
「そんなことをすれば、俺はお前のことを嫌うぞ。まぁ、もう嫌ってるがな…仕事なんだ、もうお前の茶番に付き合ってられねぇよ」
「っ……」
冷たい言葉だと思ったが、ここまでしないとわかってはくれないだろう。
これでいい、俺はぶれない…綱吉以外あり得ない。
俺はそのまま女を置いて、公園をあとにした。
時間がなくて電話でマネージャーを呼べば、もう僕をこき使わないでくださいっと怒られてしまった。
楽屋でゆっくりしている暇がなくて、入れば俺一人だけだった。
多分綱吉はもうスタジオに入って出演者のところへと足を運んでいるのだろう。
いつもは俺がすることだ、人前が緊張する綱吉はあまり一緒になったことのない出演者とも上手く話すことができなかったため、俺と一緒に行き俺が話したのだ。
俺は急いで着替えると、そのころにはもう時間が差し迫っていた。
マネージャーに急かされながら、スタジオのそでに行くとようやく今日初めて綱吉と顔を合わせることができた。
「よお」
「…ん」
言葉少なげで、返事をすれば綱吉は一瞬泣きそうに顔をゆがませたが次の瞬間にはもう、普通の時の顔になっていた。
それでも、いつもとすこし違う雰囲気に落ち込んでいるのだと知れる。
こんな思いをさせている自分に腹が立つが、今はもう時間がない。
俺はこれから来る、司会者の質問攻めを覚悟しなければならない。
柄にもなく緊張しているのがわかる、この緊張が隣へと伝わらなければいいと思いながら綱吉を見やれば、俯いたまま小さくなにかを呟いていた。
耳を澄まして聞いていれば、それは最近作った曲で綱吉がいたく気に入っていたものだった。
これを歌っている時は比較的歌に集中しているせいかあまり緊張していないように見えていた。
それを自分でわかっているのだろう、だが俺はどれで納得できなかった。
もっと、俺を頼れ。縋って、泣いて、傍にいてほしいって言え。
なんとも自分勝手なことを考えながら俺は綱吉の肩を掴むと、裏方作業で忙しそうにしているスタッフがこちらを見ていないことをいいことに、俺はその場で綱吉に口付けていた。
綱吉も驚いた顔をしたが、長く触れ合わせたままでいればおずおずと俺の服のそでを掴んできて、俺は改めてこの事態がどれほど寂しいことだったのかを自覚したのだった。