パロ | ナノ

 不安な感情を押し殺して

「できた…」

リボーンに言われて、自分にしては一番早い、一ヵ月で作り上げた。
まぁ、歌わせないだけ早く仕上がったのだが…とりあえずメロディを歌詞なしで鼻歌のように歌わせてある。
今回はリボーンに歌ってもらうと言うことでキーを低めで設定した。
歌わせているボカロの声も低い。
これに歌詞をつけて、アップする。
でも、これでどうなるかなんて俺達にはわからない。
大体あれから生放送にはきてくれるが、個人的な話しは一切ない状態だ。
そんな複雑な想いも影響してしまったのか、今まで作った中で少しバラードな感じに仕上がった。
俺はスカイプのチャット画面を開けば、リボーンがログインしているのを確認して音源を張り付け送りつけた。
そのあとに、できました、とだけそっけない言葉を送った。

「はや…」

おくったあとすぐに返事が来てパソコンの前にいたのかと返事をもらえたことに少し嬉しくなりながらそれの返事を打った。
すると、少し話さないかと誘われて…リボーンのあんな言葉を聞いた後で緊張する。
でも、曲を聞いた感想とかも聞いてみたい。
自分の複雑な気持ちを天秤にかけたのち、いいよと送っていた。

『もしもし?』
「も、しもし」

そうして、かかってきた着信に通話ボタンを押せばリボーンの声が聞こえた。
俺はやっぱり普通のようにはできなくてちょっと噛んだ。

『今聞いた』
「どう、だった?」
『良い曲だな、これを壊さないように歌う』
「あのっ、もし…これで上位に入ったら…なんて…ないですよね」
『ああ、なにかあった方がいいか…』

嫌な予感を覚えて問いかければそれはいいなと何か考え始めた。
もしかして、今言わない方がよかったのかな…。
墓穴を掘ったような気がして俺は冷や汗を流す。
なにもない方がいいなんて…言ったら怒られるのだろうか。
むしろ、そんなことをして何が楽しいのだろう。

「でも、そんなことしても…」
『よし、決めた』
「え…?」
『これが一位になったら、俺と会ってくれるか?』

何の意味もないと言おうとした言葉を遮り、リボーンはとんでもないことを口走った。
会うって…会うのかっ!?
えっ、嘘だと誰か言ってくれっ。

「やだっ」
『なんだ、年齢誤魔化してんのか?』
「そんなんじゃないけど…」
『なら、いいだろ?』
「無理だよ、だって俺ただのオタクだもんっ」

リボーンの気軽に言う言葉が俺には重すぎた。
だって、俺は学校でも細々と過ごすしかできないほどに人見知りだ。
服だってかっこいいものじゃないし。
自分のことには何一つこだわったことなどない。
そんな俺が、気軽にリボーンと会うなんて…無理に決まってる。

『あのなぁ、そんなのわかってる』
「わかってないよ、リボーンは人前に出られるかもしれないけど…俺は、俺は…そんなの無理」
『俺でも駄目なのか…?』
「ぅえ?」
『ツナ、お前は俺の声を好きだと言った。そんなに好きだと思ってくれているのに、会うのは無理なのか…?』
「……」

そりゃ、何度聞いてもリボーンの声は好きだ。でも、それを思うと自分のみすぼらしさに情けなくなってくる。
それでも、リボーンは引くつもりはないのか俺の言葉を待っている。
俺が何を言ってもそれを受け入れない限り、通話を切ってくれることはないだろう。

「わかった…でも、アップしてから一週間以内に一位になったら…だから」
『それなら、楽勝だぞ。ぜったい入ってやるよ』
「…楽しみにしてる」

そんなの無理だ。
今はただでさえ順位戦争が激しいと言うのに、それで一位なんていくらリボーンでも俺の曲だから無理だ。
時間がかかって一位はあるかもしれない、でも一週間以内なんて…できるわけがない。
それなのに、リボーンは余裕の声で言ってみせじゃあ歌詞を考えるからと早々に通話を切ってしまった。
なんだか、俺はとんでもないことをいってしまったのかもしれない。
そんな、会うとか…今の自分は本当に無理だ。
もう少し、心の準備をしたい。
そんな想いとは裏腹に、リボーンの歌がアップされたのは通話をしてから二週間が経ったころだった。
俺はどんな仕上がりになったのかとさっそく見にネットにつないだ。
流れてきた自分の曲に優しげに問いかけるような声で歌がうたわれている。
いつもはどこかノリの良い曲を目指していたせいかかっこいいものだったのだが、今回は本当に優しさがにじみ出るような声でついうっとりと聞きいってしまうほど。
コメントも今回はすごく落ち着いてる大人びた曲だと言われていて、でも歌詞を考えたのはリボーンだ。
俺が思いつかないような思考で、リズムで、まるでそこにいるかのような囁き声。
なんで、こんなにも切ない恋曲ができるのだろう。
どうして…こんな風に歌ってくれるのだろう。
それだけで、俺には大きすぎるほどの喜びがあるのに…。
投稿者コメントの欄には一番好きな人へ、想いをこめて…と綴られていた。
自惚れてもいいのだろうか…。
こんな俺でも、リボーンは好きでいてくれるのだろうか…。
でも、これが一位になるとはまだ決まっていない。
まだコメントも少なく、そんなにすぐに順位に食い込むことなんてできないだろう。

「今日から一週間…」




俺はできるだけリボーンのことは考えたくなくて新たな曲作りに励むことにした。
なにもしないでいると考えてしまうからそれも振り払いたかった。

「うーん、良いのが…できないなぁ」

何度音を組み合わせても納得いかない。
自分の思ったとおりの歌ができない。
スランプ、とは考えたくなかったが…ここまで何も思い描けないことも珍しかった。
そんなとき、唐突に着信が鳴った。
そういえば、スカイプを切り忘れていたと相手を確認して俺は戸惑った。
リボーンからだったのだ、
俺は急いでヘッドフォンをつけると通話ボタンを押した。

「もしもし?」
『ランキング、見たか?』
「は?」
『まだなのか、なら今すぐみろ』

いきなりリボーンの嬉しそうな声が聞こえてきて混乱する。
この前まで何のモーションもなかったのにと考えながらランキングを見た。
すると、リボーンの曲が一位に表示されていたのだ。

「なっ…」
『見たな?これが本気だ、俺とお前の最高傑作だろ?』

いつ最高傑作とか言った。
こんなにたくさんのコメントが流れて、二人合い過ぎる。とかツナの神調教wwとか言いたい放題のコメントに加えて時々見える批判のコメントも見受けられる。
それなのに、なんでこんなに自信満々に言えるのか。
確かに、一位になれたのは嬉しいがリボーンがこんなこと言われるのは…やっぱり良い気はしない。
それに、リボーンが専属につくなんて嫌だ、と言っている人もいる。
だからこそ、やっぱり俺はリボーンに近づいてはいけないのだ。

「みたけど…俺はやっぱり…」
『まだ、何か言うつもりか?俺がここまで言ってんだろ、それに交換条件も出した。俺がここまで来るのに、どれだけ練習したかわかるか?音源持っていつもお前のこと考えて、ツナはどんな想いでこれを作ってたのかって考えて、これにぴったりの歌詞つけて…俺がどれだけお前に会いたいか…わかるか?他の奴らなんて気にすんな。俺はお前を見てんだよ』

一気にまくし立てられて驚いた。
そんなにも俺のことを思っていたなんて…正直そんなに思われているなんて幻想だと思っていた。
だって、いつも正直に感情を表に出すリボーンが俺の前だとなんだか余裕がないように見えたから。
それを俺に悟られないようにしていたのかなとか…。

「だって…俺…ほんとに、人に合わせられるような…人間じゃない」
『自分のことだけ言ってるけど、俺だってそうだぞ。こうやって話していても初めて会うんだ緊張するに決まってんだろ』
「…わかった…やくそく、だし…いつにする…?」
『どこ住み?』

聞かれて答えれば意外に近いことに気がついた。
だったら今週末にでも気が変わらないうちに会おうと言うことになり、あっさりと予定が決まった。
本当に会ってしまうのだ。




来ないでほしいと思えば思うほど、時間と言うのは早く過ぎて行くものだと思うのは俺の気のせいだろうか。
週末なんてあっという間で俺は今自分の箪笥と向き合っている。

「何着て行こう…というか、人前に出ても見劣りしない服がない…」

学生の身分で服を買うと言うことはできなくて、今あるものを着て行かなければならない。
なんとかマシな服を着るぐらいしかなくて結局時間ぎりぎりまで悩んでしまった。
つーか、初デートの彼女じゃあるまいしこんなこと考えるなよっ。
自分に恥ずかしくなりながら電車を乗りついで決めた待ち合わせ場所に行くとリボーンを待つ。
そう言えば、目印とかなんにも決めてなかった。

「これじゃお互い会ってもわからないじゃんっ」
「ツナか?」
「へぇ!?」

いきなり声をかけられて振り返ればなんだかかっこいい人がいた。
っていうか、名前っ。

「そう…だけど…もしかして、リボーン?」
「よかった、目印決めてなかったから違ったらどうしようかと思ったぞ」

自分だって会うの不安だって言ってたのに、リボーンは十分かっこいい。
今時の服装だ。
それに比べたら俺なんて…なんかおたくっぽくないだろうか…。

「は、はじめまして」
「初めまして、やっぱりかわいいな」
「はっ!?」
「男に可愛いは変か?でも、そう思ったんだからしかたないだろ」
「いや、そんな感想をもたれること自体おかしい」
「そうか?とりあえず、カラオケでも行くか」
「えぇっ」
「どこか行きたいところあるのか?」
「いや、ないけど」

まぁ、どこに行こうとか全く考えてなかったからありがたいが、なぜカラオケなのか。
でも、目の前でリボーンの歌声が聴けるのは嬉しいかもしれない。
自然に手を握られて近くのカラオケに向かう。
なんだろ、妙に緊張する。
そもそも、ネットで知り合った人と会うなんて初めてだからこんなに親しくできるなんて初めて知った。

「二時間ぐらいでいいか?」
「うん…」

受付で時間を決めると部屋へと向かう。
二人で中に入るとさっそくリボーンは曲を入れ始める。

「なにか歌える曲はあるか?」
「えーと、有名なのなら」
「じゃあ、これだな」
「あのさ、リボーンは俺に会ってカラオケ行きたかったのか?」
「ツナが俺の声を好きだと言ったんじゃねぇか」

あ、それでここなんだ。
でも、なんで俺も歌うことになっているんだろ?

「俺も、歌うの?」
「俺だって、お前の歌声好きなんだ。聞かせてくれたっていいだろ」

へぇぁっ、とか変な声が出たような気がする。
リボーンは笑っていて、恥ずかしい。
俺の声なんて、ちょっと音痴だし…聞かせるって言ったって声量もないからリボーンの声にかき消されそうだ。
そう思っていたのに、あろうことかリボーンが選んだのはバラード曲でマイクの音量を上げて行く。

「なにしてんのっ」
「ツナの声聞くために決まってんだろ、生放送じゃねぇから抑えないでだせよ」

抑えてるってわかったのか。
生放送をやるときはどうしても家になってしまうし、近所迷惑を考えてできるだけ抑えて歌っていた。
やっぱりいつも歌っている人はわかるんだなぁと感心しながらも曲が始まって歌えよと根を押されリボーンが歌うならとマイクを握った。
リボーンもマイクを口に持ってきているしと思って歌いだせばリボーンは口を開いただけで俺の声だけが響いていた。
えっ、と思ってリボーンを見ればにやにやと笑っていて慌てて咎める。

「リボーンッ」
「いいだろ、歌えよ」

一緒に歌うような口ぶりだったからまさか騙されるとは思ってなかった。
意外にも意地悪なのかもしれない。
一番を歌いきれば二番はリボーンだと視線を送った。
くつくつと笑いながら歌ってもらえて、やっぱり良い歌声だと惚れぼれしてしまう。

「ほかに歌いたい曲いれとけよ」
「なんで、俺が」
「俺は今歌ってるからな」

じっと見られるのは恥ずかしかったのか、そう言われて慌てる。
そんな持ち歌とかないし、とりあえずリボーンも歌えそうな曲を選曲していれた。



楽しい時間はあっというまに終わってしまって、カラオケをでるころにはなんだか心寂しい気分になっていた。
「ツナ、今度一緒に歌うってのはどうだ?」
「どこで?」
「あの動画サイト」
「へぇ…って、えぇっ」
「お前その驚き方どうにかならないのか?」

楽しそうに笑いながら言われてそんなのどうにもなるわけないと喚きたくなった。
そもそも、リボーンが毎回俺の想像以上のことをいってくるからだ。
一緒に歌うって、無理だろ。
だって俺は曲を作る方専門で、歌なんてなんの魅力もない。

「だって、俺歌なんて…歌えない」
「歌ってただろ」
「でも、リボーンみたいにできないよ」
「なら、コミュニティー限定でやればいい」
「なんでそこまでするの」
「俺が、お前を放したくないから」
「え…」
「これで終わりになんかさせてやるか」

腕を掴まれて振り返れば必死なリボーンがそこにいた。
そんなに俺といたいのか、と思ったがリボーンはリボーンで俺を気に入ってくれているんだったと思いだした。
つい、余裕をなくしているリボーンが楽しくて俺は笑顔を浮かべた。

「終わりになんかしない、俺だって今日楽しかったから。リボーンの言葉が嬉しかった。
会いたくなかったのはこんな自分がリボーンに釣り合わないと思ったから…でも、会っても嫌じゃなかったし…また会ってくれたら嬉しい」
「ツナ、俺が好きっていったの覚えてるか?」
「…お、覚えてるよ」

その話を蒸し返されるとは思ってなくてつい、言い淀むが少し暗くなった道で掴んでいた手を下に滑らせ、手を握ってきた。

「あれは今も継続だからな」
「……それって、そういう意味?リボーンって、ホモだったの?」
「ツナだけだ、お前が男だろうが女だろうが、好きだと思ったんだから仕方ないだろ」

まぁ、好きになるのに性別なんて関係ないと思うが会っても気持ちはかわらなかったと聞けば嫌悪じゃなく嬉しく思う自分がいるから、困った。
俺だって女の子が好きだと思っていたのに、リボーンの声はかっこよくて会っても嫌になんかならなかった。
俺はそれを言うのが恥ずかしくてリボーンの手を握ることで返事をした。

「ツナ、これから俺専属になってくれるか?全部独占するつもりじゃない、俺の為に時々曲を作ってくれるだけでいい」
「うん、いいよ…俺の曲でよかったら…使って」

やっぱりあの言葉に返事をすることはできなくて、リボーンのだしてくれた助け舟にたよるしかない。
ごめん、もう少し…俺に正確な答えを出す時間をちょうだい。
リボーンの言葉に応えられるぐらいの自信をつけたら…きっと、いえるから。
だって、もう離れるのが寂しくなるぐらいリボーンの心に捕らわれている。

「お前の答えが決まったら、すぐに言えよ」
「なんで?」
「会いに行くから」
「う……わ、かった」

そんなかっこいい顔で、声で、言わないでくれ。
顔が熱くなる。
そうして、初めての接触は終わったのだ。




それからというもの、特に俺達の関係に変化はないのだが生放送にはよく来てくれるようになったし時々凸してきてくれて一緒に生放送をやるときもある。
なんだかんだ、リボーンにいろいろ許されて絆されていっている気がするのだが、俺のコミュニティーに入ってくれる人たちからはリボーンはツナの嫁だからよし、とか嫁の面倒はよく見ておかなきゃねといわれるのでこっちにリボーンが来てくれる間は平和で良いと思う。
なんだか、俺の気持ちより聞いてくれている人たちから公認されているのだけれど…もしかしたら、リボーンは俺じゃなく周りから固めようとか思っているのだろうか…。
それは、それで、怖い気がする。
俺がそれに気づくのもきっともう少し先の話だろう。

「ねぇ、リボーン…次はどんな曲が良い?」
『そうだな、とびっきりエロい奴』
「ばか、そんなのできるわけないじゃん…経験ないんだから」
『俺が教えてやるよ』
「もう、ほんと…ばか」




END


説明をば
凸…突撃という意味…だと思われ←
  スカイプで生放送へ参加することができる。

そのほか、わかりにくい単語があれば言ってくれれば説明付け足します。






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