◎ アフォガート
きゃーっと黄色い声が鳴り響くステージの上、俺達はマイクを持って歌う。
俺はそれを心地いいと思うが、隣にいるやつが心配でそれどころじゃないのももう慣れた。
ステージに昇る前にキスをするのも恒例になってきている。
だが、全部それで綱吉の緊張が解れるわけではない、ふとした瞬間に歌えなくなられては困るのだ。
ただ、今回は音楽番組の収録なのでしゃべることはあまりない俺は安心して綱吉と視線を交わしながら踊っていく。
カメラに視線を向けるのも忘れない。
全部を歌いきると、暗転して俺達はそでにはける。
「うー、緊張した…」
「今日はまあまあだな」
「リボーンだって、間違えそうになってたくせに…」
「間違えそうになってただけで、間違えてはない」
ふふんと言い返しながらも司会の待つ席へと向かう。
トークの方は主に俺がするので心配はない。
もともとこいつにそういうものを求めてはいけないのだ。
「なんだか、二人ってツナさんの方が喋る印象ですが、リボーンさんの方が話してくれますよね」
「あはは、そんなことないですよ」
「でも、それってなんか護られてるみたいですよね」
まさにその通りだが、ここで肯定すると少しおかしいのでそんなことはないといい切り否定しておく。
この司会者突っ込むとこもなんか鋭いというか、扱いが面倒になってきたな。
「お前はどうなんだよ?」
「あ、え?俺…?」
「答えてやれよ」
「あ、俺は別に護られてるとかじゃなくて、単に口下手で…」
「やっぱり、まもられてるんだぁ」
綱吉にどうにか言いわけをさせようと話しを振るが、完璧に俺任せにしていたらしくパニックに陥った挙句、避けてほしかった言葉を口にした。
何やってんだと睨むも頭の中は何も浮かばないらしく首を振っていて、テンションの高くなった司会の相手をさせられたのだった。
「ったく、あそこで素直に答えるなよ」
「だって、俺だってパニックになってたのに…俺、緊張の限界だったんだよっ」
番組が終わり、楽屋に入れば今日のことについて話す。
といっても、さっきの発言に対して俺が言及するだけなのだが。
ここで甘やかしてはいけない、こんなのを繰り返していたら付き合っていると言わなくてもそういう話しになって物好きな雑誌記者なんかが寄ってくる羽目になるのだから。
「このままトークできなくていいわけないのもわかってんだろ?」
「わかってるけど……普通にしてても緊張しなくなっただけでもすごい進歩だよ」
「そうだけど、それでもお前はこの世界の人並みでもないんだぞ?わかってんのか?」
「わかってるよっ、わかってるけど無理なことだってあるんだ…」
綱吉が言葉を荒上げ刺激しすぎたかとつい言葉を閉ざす。
綱吉だって頑張っているのはわかっているのだ、だがそれはレベルの低い場所で俺としてはもう少し欲張りたいところなのだ。
泣きそうになってしまっている綱吉を宥めるように頭を撫でれば手を振り払われてしまう。
仕方ないなと諦めて服を着替えてしまうと帰り支度を始める。
綱吉は、もう出るだけの状態だ。
「先に出ろ、どうせ煩いだろうからな」
「わかった、先に行ってる」
不機嫌になってしまった綱吉に苦笑を浮かべながらあとで機嫌を直すために沢山甘やかしてやろうと心に決めて綱吉が出た後、少し時間をおいて自分も楽屋を出た。
テレビ局からでようとすれば多くのファンに囲まれる前に警備員が道を作ってくれる。
それに会釈をして車まで通り抜ければ、マネージャーがいた。
「綱吉はどうした?」
「もう自宅へ帰しました。でも、リボーンさんは社長からの呼び出しでこのまま事務所へ向かってもらいます」
「社長?まぁいいけど…なんの話しだ?」
「…それが……ちょっとここでは言いづらいので、ついてからで」
マネージャーが話しを渋るなんて珍しいと感じながら俺は車に揺られつつ事務所へと向かった。
誰もいない事務所の廊下を歩く。
もう遅い時間だし、ここにいる人間もいないだろう。
社長室のドアをノックして中に入る。
すると待ち構えていたように手を振りながら張り付けたような笑みを浮かべた。
「やぁ、リボーン待ってたよ」
「何の用ですか」
「これ…何かわかる?」
社長が手にしている写真がよくわからなくてそれを受け取って見れば、俺は顔をこわばらせた。
それは綱吉を俺が抱き寄せている写真で、どう弁解しようとしても明らかな雰囲気でわかってしまうようなものだった。
「っ…どこでっ」
「じゅじゅって雑誌知ってる?あれに載せられるとこだったよ。俺が見つけて差し替えておいたからよかったけど、これが流れたらどうするつもりだったのかな?こーんな綱吉くんの無防備な顔、何もないなんて、言えないよね?」
「……これはっ、俺が一方的に好きなだけだ、あいつは関係ない」
「そうなの?知らなかった…てっきり、この様子だと付き合ってるかと思ってたけど…違うならいいか…ということにはならないよ?」
社長の容赦ない言葉に俺は焦る。
このまま悪い方向へと進んでしまえばドルチェは解散させられかねない。
社長は俺の言葉を聞き逃さないとばかりに張り付けた笑みのまま腕を組む。
「何をさせたいんだ?」
「まぁ関係がないなら好都合かな。もう、綱吉とプライベートでは会わないこと。ついでに差し替えた写真は君の見合い相手にもなるからこれからはその子との交流を深めてあげて」
「なっ、なんだよそれっ!!」
「あれ?リボーンは綱吉一番だと思ってたのに、付き合ってる女の子とかいたの?」
「…いねぇけどっ」
「じゃあ問題ないよ。今日からだから、わかった?」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。今日からは、無理だ。綱吉に今日行くって言ってるんだ」
社長の一方的な言葉に思わす俺は待ったをかけるが、うーんと悩む素振りをみせた。
こいつは昔から何考えてるかわからなくて 、それでも俺達の良いようにしてきたから少しは寛容なのかもしれないと思いこんでいた。
だが、それは完全に思い違いだったのだ。
「でも良いでしょ?そんなに綱吉だって気にしないよ」
「アイツ落ち込んでて、それを慰めたかったんだ。今日ぐらいは良いだろ?」
「…うーん、仕方ないなぁ。じゃあ今日だけだよ?明日から接触してたらリボーンにはペナルティで個人的な活動もしてもらうから。はい、これ…よかったね、この子はリボーンのことすごく好きで結婚してもいいって」
必死で掛け合って、今日だけは接触することを許された。
とりあえず、いきなり会うのを禁止にされなくてよかった…。
この子だからねと渡された写真は結構前のもので、倒れこんできた彼女を支えたという一場面だった。
こんなところをとられていたのかと感じながら適当に頷いていた。
綱吉以外は、どうでもよかった。
女だろうが、パパラッチだろうが、アイツが悲しむ顔を見ないでいられるのなら少しぐらいの苦痛耐えてやるよ。
「もう…終わりか」
「うん、時間とってごめんね。じゃあ、明日からよろしく」
ひらひらと手を振る社長を見ることなく俺は事務所を後にした。
車に乗り込めば、それまで一緒にいたマネージャーも乗り込んできて俯きながら隣に座った。
あんな話しでさぞショックを受けたことだろう。
俺は運転手に綱吉の家に向かうように言い、走り出して暫くすると芹沢は口を開いた。
「あの、僕…知ってましたよ。きっと、付き合ってるんだろうって薄々ですけど」
「付き合ってねぇって言ってるだろ」
「僕の前では否定しないでください、社長には言いませんから…それに、一緒にいるときの二人の雰囲気が否定させませんよ」
「…っ……勝手にしろ」
「僕もできれば二人を応援したかったんですが、それも無理みたいです。社長から言われてしまいました、僕は綱吉君がリボーンさんに会いに行かないように見張っていろと」
「あいつも疑われてるんじゃねぇか」
「はい、元から信用してませんよ。あの人のことですから」
芹沢の言葉には驚いたが、こちらの応援をしてくれるということにはつい嬉しさが溢れてしまう。
きっと俺達を見守ってくれるのは芹沢しかいないんだと思う。
俺達が組んだ時から一緒に育って来たようなもので、見守られているとは感じていたのだ。
「でもね、伝言なら伝えることはできますから…遠慮なく僕のこと使って下さいね」
「…ありがとな、芹沢さん」
「いえ、二人の活躍は僕も嬉しいので、あの綺麗なハモりが聞けなくなるのは僕だけじゃなくファンも悲しみますよ」
にへらと笑う芹沢の言葉には嘘がない、俺はそこが好きだった。
俺達を信じていてくれている。
見守っていると言った方が正しいのかもしれない、芹沢の前では俺達は安心できていたのだ。
綱吉の住んでいるマンションに着けば、明日のスケジュールを聞いて別れた。
綱吉の部屋の前までくれば俺は一度深呼吸をした。
大丈夫だ、こいつにはあんなものみせられていないはずだ。
そうなれば、いつ調子を崩しかねないアイツを甘く見ているということになる。
綱吉の存在は社長の中でも一目置くほどの大きく、なくしたくない人材だということはわかっている。
だから、今回の話しも俺だけ呼び出していたのだ。
インターホンをならして綱吉が出てくるのを待つ。
早くこい、はやく…。
知らず急くような思いを胸にドアが開くのを待った。
「リボーン、おかえり」
「ただいま」
綱吉がチェーンを外して俺を迎えれば押し込むようにして中に入り、後ろ手にドアが閉まったと同時に綱吉を抱きしめた。
「な、なに?どうしたんだよ?」
「何でもない、ちょっと静かにしろ」
いきなりのことに綱吉は驚いていたがおずおずと背中に手が回される。
俺は案外あの言葉にショックを受けていたのだと思う。
こんなにも、今綱吉の感触が欲しくて仕方ない。
「ご飯は?」
「いい、お前を食わせろ」
「ばか……いいけど…んぅっ」
了承を得た途端噛みつくように口付けた。
抵抗もなく俺を受け入れ舌を絡ませてくるそれにますます愛しさが溢れ掻き抱いた。
玄関の傘立てが倒れるのも構わず壁に押し付け、服をはぎ取る。
「リボーン、ちょっ…待って、さすがにここじゃ…」
「ベッドか?」
「うん…ベッドなら、何してもいいから…」
連れて行ってと言われて綱吉を抱きあげ寝室に運ぶ。
ベッドに下ろして残りの服を脱がし自分も裸になる。
暫く抱きしめて感触を確かめ、秘部へと指を忍ばせた。
「あっ…いきなり…?」
「嫌か?」
「いやじゃ、ないけど…恥ずかしい」
いつもとろけて思考があやふやなまま挿入しているからか綱吉は戸惑いを隠せない様子だった。
だが、本気の抵抗をしないならと無理やり足を開かせて突起を舐めて甘噛みしながら秘部を慣らす。
「なんか、今日余裕ない?」
「そんなことねぇぞ?」
「なら、いいけど…リボーン、好き…」
「ああ、俺もだ…あいしてる」
愛してる、そう何度も呟きながら慣らすのも大概に挿入を始めた。
最初から感じる場所を突き上げていきなり追い上げる。
あれだけ自分に余裕を取り繕ってきたがこいつの前だと駄目だ。
何もかもがさらけ出されてしまう、ただあのことだけは何があっても言えなかった。
心の中で何度もごめんと謝り、今日だけは朝まで離せないと思った。
きっと明日から俺にはあらゆる難関がしかけられることだろう。
それを強がって乗り切るには、まだ自信がない。
せめて、お前だけは笑っていてほしい。
綱吉の笑顔が守れるなら、俺はなんだってやってやれる。