◎ ジェラート
俺には色々苦手なものがある。
リボーンにはよくあり過ぎだと、怒られてしまうけど…リボーンは優しく教えてくれたり、手助けしてくれる。
そのたび嬉しくもあるが、やっぱり申し訳なさでいっぱいになってしまうのだ。
そして、今日も俺の苦手なものが露見してしまうのだった。
「うわっ……」
「…派手に転んだな」
つるっという擬音が似合うほど俺は綺麗に転んだ。
尻もちをつけば痛くもあるが、冷たい。
立ちあがろうとすれば足が滑りそうになる。
そう、俺達は今回収録した歌のPV撮影の為氷の上を滑っているのだ。
今回の歌は、二人の恋に翻弄されるヒロインを中心に撮影される。
デートに来た設定で、スケートリンクにヒロインと入ってそこから滑りを披露し、ヒロインを惚れさせるという流れだ。
その撮影中俺は派手に転んでいた。
ヒロインの女の子は苦笑いで、リボーンはというとまたかと呆れた顔をしている。
仕方ないだろ、俺は言ってしまえば歌以外何もできない男なんだ。
この声こそが武器と言っても過言ではない。
それなのに、このアイドル業界というのは歌えるだけでは世間を渡っていけないのだ。
「もう、俺には無理だよ。代役立てるとか…駄目?」
「無理だ」
「そうですね、二人の顔でも売っているのですから、綱吉君。練習です」
「ええ〜〜」
俺を差し置いてリボーンとマネージャーの芹沢さんが話している。
この二人が手を合わせると手がつけられないんだよ。
「じゃあ、先に梨恵さんの撮影をやって後撮りで二人ということでよろしいですか?」
「わかりました」
「ツナ、練習するぞ」
「…うん」
俺が嫌がる前にスタッフに声をかけてしまうなんて卑怯な…とリボーンを見つめるが、妥協は許さないとばかりに俺は両手を引かれて撮影には使われない方のリンクへと移動した。
リンクを全面貸し切りにしているため、ある意味では使わなければ損だ。
「立つことぐらいは、できるだろ?」
「ん…なん、とか」
二人きりの広いリンク…ちょっと幸せかもと思ったのは滑りそうになった足に霧散した。
いくらスケートがかっこいいからってできなきゃこうしてまぬけと思われるのだ。
なんとか立って見せれば両手を引かれる。
そして、すーっとリボーンは後ろへと下がり始め俺は前へと進む羽目になった。
「ちょっ、え…ちょっと待って…リボーンッ」
「何事も感覚で覚えるもんだ。少し滑れば感覚覚えるだろ?」
「無理っ、むーりー…リボーン、怖いっ」
もう進まないでくれと半ばパニックになりながら止まってと手を引くが、離されることはなく俺を運んで真ん中へと向かっていく。
あそこは無理だ、真ん中なんて俺の逃げ場がない。
「いっちゃやだっ…」
「子供みたいなだだを24にもなって捏ねるな」
「だって、だってっ…ひぃぃっ」
真ん中に行くにつれて、リボーンの手が離せなくなる。
ぎゅっと握りしめ、リボーンしか見えない。
でもそんなロマンチックな雰囲気ではない。だって、俺は怖くて怖くてしかたない。
「ツナ、冷静になってみろ」
「ん……どう冷静になれって!?」
「しー…」
俺がやけになって叫ぶが、リボーンが小さく音を出して、俺はつい口を閉ざしてしまう。
俺はリボーンの声が好きだ。
俺の声では絶対出しえない音を出してくれる。
これがきっかけで俺達は一緒になれたんだけどね。
静かになれば、滑る音だけが聞こえてきて何をする気なんだとリボーンを見つめるとリボーンはじっと俺を見つめていた。
「…な…なに…」
「落ちついたか?お前、ちゃんと自分でも足動かしてるってわかってるか?」
「で、でも…」
暗にこれなら大丈夫だろうと言われているようで、こんなところで手なんか離さないで欲しいとぎゅっと握りしめるがするすると手が滑りぬけていき、そのうち指先だけになって最後にはするりと抜けてしまった。
俺はリボーンに掴まるために自分から滑ってリボーンを追いかけた。
けれど、リボーンは俺と一定の距離をとったまま滑るのを止めることなく逃げ続けている。
「ま、まって…リボーン」
「ツナ…綱吉…はやくこい」
呼ばれるままに自分から滑る、もう少し、もう少し
精いっぱい伸ばした手がようやくリボーンを捕まえて止まり方を知らない俺はリボーンの胸へと飛び込んだ。
「捕まえた…」
「ほら、ツナ…見ろよ」
「ん?」
リボーン言われて顔を上げ周りを見れば、さっきいたと思われるリンクの真ん中より端まで来ていた。
知らず知らずのうちにリボーンに滑らされていたのだ。
俺は安堵のため息をついて、リボーンの背中に手を回した。
「どこにも、行かないで」
「行くわけねぇだろ。ツナ、離さないと見られる」
「ん……わかった」
優しく頭を撫でられて、スタッフや他の人が撮影に夢中なのをいいことにくっつくが見られたらやばいので大人しく離れる。
「ツナ、俺の支えなしで滑ってみろ」
「…できる、できるよ」
「よし、これでPVはなんとかできそうだな」
リボーンに言われるまま自分で滑れば意外にも今度は転ぶことなく滑る。
自分で滑れていることに驚きがながらも、一人で反対側へといけることができた。
俺は嬉しくて、リボーンの手をブンブンと振りまわしていた。
二人の仲がいいのは俺が最初に派遣された時から知っていることだった。
PVの撮影を二人がいないところから撮り始めるのを見ていたが、暇になってリボーンの方へと視線を移していた。
あの二人はこちらから見ていても時々見惚れてしまうほどだ。
人気が出ないわけがない、このヒロイン役の梨恵さんだって二人が好きだと評判なのだ。
リボーンが手を引いて強制的に滑らされるのをくすくすと笑いながら見ていたが、そのうちだんだんと綱吉自身が滑っているのを見ると、リボーンは説得上手だなと感心してしまう。
なんとなく、彼の話しには納得できてしまうのだ。
「あ…滑れてる」
リボーンが綱吉の手を離して滑っているのを見れば良くあの短期間で滑れるようにしたなと二人の信頼の厚さに笑みを浮かべる。
が、最後綱吉がリボーンに抱きついたのを見て心臓が止まりそうになった。
「仲が…よすぎる、んじゃないのか?」
二人で笑い合うのを見れば、嫌な予感が募り始める。
アイドルは恋愛禁止、もちろん男同士なんてもってのほかだ。
それに俺はまだ決定的なものは見ていない。
大丈夫、ただ綱吉が過度に接触しただけだ。
俺は見なかったことにして、梨恵の撮影の方へと視線を戻したのだ。
そして、二人が戻ってきて撮影の方に参加リボーンの指導のお陰でまともにすべれるようになった綱吉に称賛の声をあげて、PVの完成に胸を躍らせたのだった。
「んー、疲れた…滑るだけでこんなに疲れるなんて」
「でも楽しかっただろ?」
「うん、スケートは撮影が終わってもやりたかったな」
「なら、今度は二人で行くか?」
「本当っ!?いくっ」
二人して俺の部屋に帰ってくれば、綱吉は冷蔵庫から牛乳を出してコップ一杯を飲み干す。
俺は適当にソファに座れば、テレビをつけた。
PV撮影のスタッフと飲んできたので、食事の心配はない。
綱吉はコップを流しへと置くなり俺の方へと歩いてきた。
窓の外を見れば月明かりがとても綺麗だった。
最近寒いから空気が澄んでいるのだろうと納得してこちらへと歩いてきた綱吉の柔腰を抱き寄せる。
「わぁ…」
「なんだ?」
「そういう気分?」
「ああ…そうだな、お前があんなところで可愛いことするからだぞ」
「別に可愛いことなんて、してな…あっ…ひぁっ」
俺は座った状態で腰に抱きつくような体勢になり、シャツの裾を鼻先で押し上げ晒された肌に吸いつくなり上から綺麗な声が聞こえる。
「ちょっ、リボーン…カーテン閉めてないっ」
「ああ…見えるな…お前の身体見られるのは嫌だしな」
綱吉の焦った声に視線を動かして俺は綱吉から名残惜しげに離れると、カーテンを引いた。
見られてはたまらない。
見られる職業の俺達は人一倍視線には敏感だ。
綱吉の方へと戻れば今度は正面から抱きしめてキスをした。
「んっ…んふっ…あんっ…」
抱きしめている手をシャツの中にもぐりこませ筋を撫でれば反らせて喘ぎ声を漏らす。
感じやすい身体だと、最初に思った。
それに、俺の好きな高音…綱吉は俺の理想だ。
もっと聞いていたい、と手を前に持ってくると突起をくりくりといじる。
「ぁっ…やっ、はあっ…んん…かんじ、る…」
「感じさせてんだ、乱れろよ」
「明日…あっ、ラジオ…っ」
「ああ、お前の声でないと困るな」
喘ぎすぎでつい声が掠れてしまうなんて最近よくあるのだ。
普通のバラエティなどの仕事ならあまりその場の雰囲気でながせてしまうが、ラジオでは訳が違う。
音だけだからよくわかるのだ。
「しかたない、今日は優しくしてやる。声は抑えるなよ」
「んっんっ…ああっ…やあぁっ」
綱吉の場合声を抑えると喉に変な力が入ってしまい、余計潰してしまう原因になりかねない。
ソファに押し倒して服を脱がし突起をいじり倒す。
そのたび、綱吉は身体を跳ねさせて感じる。
そのうち、綱吉の手が俺の腰を抱こうとしてくる。
それは合図だ。
もう、きて…という。
俺は服を脱ぎ散らかし、近くに常備してあるローションを手にとれば秘部に塗り込んだ。
クチッ、クチュッと卑猥な音を立てながら慣らしていく。
「ああぅ…りぼーん、はぁぁっ…あぁんっ」
「ツナ、もういいか…?」
「んっ…きて…」
両手を伸ばしてくるツナに抱きつかせて両足を抱えて自身を挿入する。
いつも無理のない程度に入れているため、もう慣れて俺が入ると中が歓迎するように締めつけてくる。
気持ちいなと耳元で吐息を漏らせば、途端中が反応する。
「はっぁ…だめ、みみ…」
「かんじるんだったな、舐められたいか?」
「やあぁっ、だめぇっ…なめな、でっ…」
耳を舐めるたび感じてキュウキュウと締めつけてくる。
その締めつけが絶妙で、俺は抽挿を激しくし綱吉を追い上げる。
「あっ、イくぅっ…」
「今日は、これで勘弁してやる…イけ…」
「ああぁっ、あぁぁっ!!」
綱吉の手をギュッと握りながら抱きしめて前立腺を突きあげれば易々と白濁を放った。
締めつけられて、俺も中に放てば二人で息を整えるためにキスを繰り返した。
遊ぶように綱吉の舌を吸えば甘い声を漏らしてしばし余韻に浸る。
「ん……べっど…」
「わかった、連れてってやる」
今日も一緒に寝ることになりそうだと思わず笑みを溢して自身を抜いて綱吉を抱き上げると寝室に運ぶ。
元から住んでいる場所が近かったためにこうしてすぐ会える。
どうして一緒に住まないのかというとそれは、ばれるのを防ぐためだ。
いつまでこんなことを続けるのか、見通しのつかない状態ではあるが、今はこうするしかない。
でも、俺達は満足できている。
これで満足しておくべきなんだ。
眠そうにする綱吉にもう一度キスをして、俺は事後処理を始める。
きっとそのうち、綱吉は眠ってしまうだろう。
でも、俺はそんな綱吉の寝顔が愛しいと思っている。
寝顔を魅せるようになったのだって、最近になってから。
人見知りするのはまだ慣れないが、ようやく俺が受け入れられた証拠だろうと嬉しくなったのだ。
「おやすみ、ツナ」
「ん…おやすみ…りぼーん」
俺のところで寝るようになってからこいつの癖がわかった。
寝るときいつも枕の裾を握りしめるのだ。
それがいつか俺に伸ばされるのを待っている。
俺の手を握って、全部俺にあずけてしまうこいつを…。