◎ あざといお前は計算高い?
綱吉がバイトを始めた。俺も時々様子を見に定食屋へと行くが、全く問題なく働いている様子だ。
昼間は忙しく歩き回り、俺が帰るころには風呂に入ってのんびりとくつろいでいることが多い。
ただ、食事だけは一緒にとることにしているため、綱吉は俺が帰ってくるのを待っているのだが…。
「どうだ、少しは仕事に慣れたか?」
「うん…やってみるとすごく楽しくて、おばちゃんもすごく優しかった」
おやじさんは少し厳しいけれど、すごくいい人だね、と楽しそうに話しをするのを聞いているとなんだか和やかな気分になる。
こうして少し落ち着きがでてきた綱吉、これで俺も平穏な日々が戻ってくるかと思えばそうでもなかった。
その日の夜のことだった。
俺が風呂に入り、一緒に寝ることが当たり前になってきているのにも慣れてきたころのこと。
「リボーン身体で返させてください」
「だから、なんでそうなる。お前がバイト見つけて働くことで、了承しただろうが」
上半身裸の状態で綱吉はベッドの上に正座していたのだ。
俺は呆れたようにため息をついて絞り出すような声で言った。
綱吉がバイトを見つけて、家賃が払えるようになったがとりあえず溜めろと言ったのがいけなかったのか。
返すものがない、と定期的に関係を強要してきた。
いや、別に男同士に偏見があるとかではないが…それでは些か語弊があるかもしれない。
はっきり言えば、綱吉で勃たないことはない。
大体、最初が最初だ。咥えられても偏見があるなら勃起なんてしないだろう。
だからと言って安易に身体を繋げるようなことはしたくない。
気持ちも大事だろうし、俺をそこらへんのやつらと一緒にされるのも嫌だ。
そこら辺をこいつはわかっているのかどうか、未だにわからない。
「でも、俺…」
「何度言っても駄目だ」
泣きそうな顔で俺を見てくる。
それに弱いのを知ってやっているのか、どうなのか。
まったく、懲りない奴だ。
「なら、俺がフェラしてやる。これでいいだろ」
「よくないって、それ俺がもらってることになるじゃんっ」
こっちらばかりされるのは実のところ好きじゃない。
何においてもイーブンでいたい俺は綱吉のズボンを掴んだ。
慌てて腰を引こうとするのを俺は抱き寄せズボンを脱がせる。
何の兆しもない自身を掴むとそれを扱いた。
同じものなのに綱吉のは少し小ぶりだ。
とりあえず、どうしてやればいいのかわからず自分がするように扱いてやるが、反応はしない。
「ぅ…やめてよ、ねぇ…リボーン」
「咥えられるの嫌か?」
「…ちが、あの…俺」
嫌ではないなら問題ないだろう。
まだ兆すことのない自身を俺はひと思いに口に含んだ。
ボディソープの匂いがして意外と平気だった。
けれど、一向に勃たない。どうかしたのかと上目づかいで見てみると困った表情の綱吉。
仕方なく、俺は口を離してやるともういいと身体を引いてしまう。
「疲れてんのか?」
「ちがう…よ」
「お前、男が嫌いなのか?だったら俺に抱いてとか言ってくるんじゃねぇよ」
勘違いするじゃないかと身体を起こせば違うってば、と泣きそうな声で言う。
別に嫌なことを強要するわけじゃないのに、どうしてそんなに必死になる必要があるのか。
俺には分からず首を傾げる。
「何が違うんだ、はっきり言え」
「俺…EDなんだ」
「は?」
「心因性勃起不全」
目を恥ずかしげに伏せながら言われた言葉に俺は一瞬何を言っているのかわからなかった。
けれど、だんだんと理解していく。
つまり、勃たないのだと。
「それで、俺に抱かれようとしてたのか?」
「だって、別に受け側ならたたなくてもできるし…」
よくよく話を聞いてみれば、綱吉は一年ぐらい前からこの病気にかかってしまっていたらしい。
心因性なため薬などでは直すことは不可能。
勃たないことを不思議に思って病院に行ってみればそんなことを言われたが、通い続けるお金もないためそれで過ごしてきたらしい。
なんつー人生送ってんだ、こいつ。
「それで、抱かれていたのか?」
「…まぁ、別にそれでもいいっていう奴らばかりだったし、俺は寝れればそれでよかったし」
綱吉は開き直ったのか堂々とそんなことを言ってきて、俺は問答無用でそいつの頭を殴ってやった。
「いったい…なんで殴るんだよっ」
「当たり前だバカ、馬鹿だバカだと思ってたがこんなにバカだと思ってなかったぞ」
「いや、十分人をバカにしてる」
「お前に口応えはゆるさねぇ。なんでそこまで投げやりにできるのか俺にわかるように説明しろ」
どうしてそこまで自分を投げ出せるのか。
いや、これは投げ出すというより無頓着といった方がいいのだろうか。
「そんな風になって怖くないのか?勃たない理由が男と寝ることだって可能性だってあるじゃねぇか」
「…そんなの無理だもん」
だもん、とか素で言うな。
もう一発殴りたくなりながらも抑えて拳を握るにとどめた。
「俺はだって…むりだもん」
「…わかった、泣くな」
「怖いけど、それで済んだらこんな風になってない」
ぼろぼろと泣きだした綱吉をやりすぎたことを感じつつ頭を撫でてやる。
二十歳のくせにまったく大人になりきれていない。
心に傷を負って、そしてそれすらもなかったように振舞ってきたのだろうか。
簡単じゃないだろうに、どうしてこんなにも…。
「でも、本当に勃たないわけじゃないんだ」
「ん?」
「一人だったら勃つし…」
「つまり人にされるとダメなのか」
「うん、病院でもそうだった」
先生の手でも無理だったんだ、と自分の手を見つめながら言う綱吉。
自分でできるならそれでいいとか、そういう問題でもないとは思うが。
「なら、自分でやってみろ」
「は!?」
「仕方ないだろ、俺はその気になってるしお前も一緒でないとなんか納得いかないんだから」
「なにその変な理屈」
「いいから、とりあえず自分でやれ」
勃てばどうにでもなるかと思ったのもある。
それに自分だけ期待したようでそこも納得いかない。
ガキか俺は…。
自分も綱吉と似たり寄ったりだとため息を内心でつきながら綱吉の足を開かせた。
「恥ずかしいんですけど…」
「見ないとわからないだろ」
「みなくてもいい、よ」
恥ずかしそうにしたが、気持ちは高ぶっているようで自分で触ればしっかり反応を始めている。
ふるふると震える自身を俺はまじまじと見つめた。
くちゅくちゅと水音が響いて先走りを溢れさせている。綱吉の息も上がってきた。
「イくか?」
「リボーンも、する」
「結局お前にやらせてるな」
「これで、いいんだよ…だって、俺はリボーンにしたかったんだから」
綱吉が触りやすいように腰を寄せてやりながら俺はやはり少しばかりくすぶった思いを抱いてしまう。
綱吉は俺のものと自分のものを両手で握って扱いていく。
「つな…いくぞ」
「ん…きて、りぼーん」
自分で擦って喘ぐというのはなんともまぬけな光景だが、綱吉はそれで達することができた。
同時に達して、息を整えている綱吉の髪を優しく撫でた。
きっとこいつはまだ何か抱えているんだろう、実に面倒だ。
面倒だが、それがくせになってきているというのもある。
「保険証あるか?」
「ああ、作ってもらった」
「なら、明日にでも行って来い」
「どこに?」
「病院だ、病院」
言った途端さぁっと血の気が引いたような顔。
病院が苦手なんてそんなのはお前の顔見ればわかる。
この反応もわからなかったわけじゃない。
「いやだよ、無理こわいもんっ」
「いつまでもそれじゃあ困るだろ。別のなんか原因がある病気かもしれねぇんだからしっかりもう一回受診しろ」
まだ納得していない顔。
子供じゃないんだからぱっと言ってくればいいものを…。
「金が足りないなら貸してやる」
「足りるしっ…どうしても行かなきゃダメ?」
「俺は言っただろ、自分を大事にしろって。放置していいもんじゃねぇしな、俺とやりたいっていうなら、行って来い」
男でトラウマを持っているなら特別俺とやりたいなんて思うはずもないだろうと思ったが、綱吉は結局その言葉で決意した。
どうでもいいが、簡単過ぎじゃねぇか?
まぁいい、それでこいつが少しでもいい方向に傾くのなら。
まだまだ面倒はかかるだろうし、殴りたくなることも山ほどあるというのはよくわかった。
が、意外と一緒にいるのが疲れない奴だから…もう少し、一緒にいてやってもいいかもしれないな。