◎ そう願うことを許して
最近僕の身体がおかしい。
突然熱くなって、苦しくなって…どうしようもなくなるのに、あの人はいない。
あの人がこの街を離れてどれぐらいたつだろうか、あの男はもうそろそろ帰ってくるだろうと言葉を濁す。
「…ディーノ」
僕はこの街を離れないと決めた、これはずっと前から。
僕が生まれた時から、自分で決めたこと。
あの人はそれで良いと言った、けれど帰ってこない。
いたりあとかいうところに行くと言っていた。
雪が降り、桜が咲いた、まだ…こない。
あの店に行ってもあの人の匂いがしない。
「どこに、居たらいいの?」
まともに巡回もできない位熱くなる身体、僕はしかたなくさっき考えた店へと足を向けていた。
いつものように入口を開けて中に入れば弱そうな男、猫の男は今は昼寝中らしい。
弱そうな男は綱吉といったのだったか、思い出して視線を向けただけでディーノの部屋へと向かう。
中に入れば微かな匂いがあって、安心する。
ほっとため息をつき、ベッドに寝転んだ。
冷たかったそれは自分の対緒いんで少しずつ暖かくなってすんっと息を吸い込めば抱きしめられている気分になって目を閉じる。
少し、ここで寝ていこう。そう決めて手足を縮めていた。
カタンという音で僕は目を覚ました。
階下が煩い、漏れて聞こえる声には聞き覚えがあった。
あのロシアンブルーのネコ。僕は身体を起こして、立ち上がるとトンファーを出して握る。
あの時の雪辱を晴らしてない。
「今の僕はイラついているんだ」
僕の獲物になってもらうと笑みを浮かべて、ドアを開けた。
階段を下りていけばそこには、あの時のネコと白い男がいた。
ネコは僕を見るなり、にやりと笑って自分のきていた上着を脱いで白い男に渡している。
「え、なに…骸クン!?」
「最近身体が鈍って仕方ない、少々手加減できないかもしれませんよ?」
「手加減?そんなの必要ないよ」
骸と呼ばれたネコは僕の武器を見て、柄の長い箒を手に取った。
それを見て、僕はますますイラつく。
そんなもので僕に勝てると思われていることが腹立つ。
「すみません、僕は武器を持たない主義なので」
「それでその選択かい?後悔させてあげるよっ!!」
僕は思いっきりトンファーを振りかぶり骸めがけて降ろした。
一発目は防がれて、もう片方の手も振りかぶれば、蹴りが入りこんできて僕は後退さって避ける。
すぐさま、箒が突かれてそれもよけるとそのまま横凪払いに。
トンファーで防ぐと次の瞬間に骸自身が僕の間合いに入りこんできて、順応できずに目を閉じた瞬間。
「ストップだ、二匹とも」
「骸クンも、ちょーっとおいたが過ぎるよ」
「なにするんですか、白蘭っ」
「ディーノ!?」
「俺がいない間に血まみれになるとか、勘弁してくれ」
ふわりと浮いて声をかけられたと思って声のした方を振り返ればそこにディーノがいた。
骸を見れば、向こうでも白蘭と呼ばれた白い男が動きを止めていた。
「そんなの僕の勝手でしょ?」
「大体向こうからふっかけて来たんですよ」
「そうだけど、骸クン…昨日あれだけしてこれだと…身体壊しちゃうよ?」
「恭弥も恭弥だ、相手の力を見極めろ…さっきのは無謀すぎだ」
はぁとため息を吐くディーノは少し疲れを見せている。
そうして、リボーンの向き直り傍観してんなよと咎めている。
むしろ、そうしてくれていた方が僕としては嬉しかったのだからリボーンは関係ない。
「ディーノ、これはお前が雲雀を放置するからだろ」
「俺のせいかよ」
「うーん、明らかに最近雲雀さんの機嫌悪かったので、俺もそう思います」
「ツナもかよ…」
二人に責められて何も言えずに、僕を抱きしめている。
いい加減離せとディーノの腕に爪をたてれば、ゆっくりと力を抜かれてようやく床に足をつけることができた。
骸をみれば何故か赤くなっていて、箒はしっかりと白蘭にとり上げられていた。
「ごめんね、骸クン容赦なくて」
「君は…僕に喧嘩売ってるの?」
「違うよ、牽制してるの」
白蘭の言っていることは意味がわからない。
僕が首を傾げれば骸はため息を吐いていた。
「そういえば、雲雀…お前、なんでここにきたんだ?」
「…ああ、忘れていたよ。会いに来たんだった」
「いや、それ忘れることなのか?」
リボーンに言われて当初の目的を思い出したと笑みを浮かべればディーノの腕を引く。
とりあえず、僕をここに居させたらまずいとでも思ったのかディーノは部屋に居ると一言言うなり僕を連れて部屋へともどった。
部屋のドアが閉まるなり僕は小さくため息を吐いて、久しぶりに会うディーノをじっと見上げる。
「どうかしたのか?会いに来るのは珍しいだろ」
「うん、どこに行ってたの?」
「イタリアだって、言っただろ?」
「そんなに、忙しいの?」
「まぁなぁ、お前がやったことの収拾をつけんの結構大変なんだ」
そういえば、最近まで溢れかえっていたネコやイヌがすっかりといなくなってしまっている。
ディーノはイヌやネコをイタリアの本部の方で預かるということにしたらしく、向こうで里親を探していると聞いた。
ディーノの手が僕の頭をくしゃくしゃと撫でて、喉をくすぐった。
気持ちよさに目を閉じるが、なんだかいつもと違う気がする。
気持ちいいのは確かなのだが、集中できなくて腰のあたりがもぞもぞする。
「あれ?恭弥、きもちよくないのか?」
「気持ちいよ…でも、なんか変…」
「俺がいない間に何かしたか?変なこととかあったか?」
ディーノは僕の身体を見ようとぺたぺたと手を当ててくる。
それがなんだが無性にくすぐったくて、手を払い落した。
「どうした、いつもならこれぐらい平気だろ?」
「っ…あつい、身体が…あつくなる」
普通のくすぐったさじゃないと首を振って僕は自分を抱きしめるような形で蹲る。
ディーノのいないときに感じたような熱さだが、明らかに違う。
呼吸するのも苦しくて、とっさに発作なのかと勘違いしそうになる。
僕はディーノ以外の人間に触られると発作を起こす、これは今でも治らなくて…けれど、結局僕に触れる人間なんかディーノしかいないから関係ない様なものだ。
けれど、ディーノでもこうなってしまうとわかったら怖くなる。ディーノのあの暖かい手に触れられなくなってしまったらと思うと…寂しい気持ちになるのだ。
「ディーノ…苦しい」
「恭弥、それって…もしかして、発情期?いや…でも時期外れか?ちょっと遅いのか」
「…は?」
僕を見てディーノは真剣に考えていて、何を考えているんだと怒りたくなる。
僕はしかたなく手を伸ばして、ぎゅっと抱きついた。
「どうにか、してよ」
「ばか、そんなこというなっ」
「僕はっ、ディーノを待ってたんだ」
言うなり僕はディーノに抱きしめられていた。ぎゅっといつもより強い力で抱きしめてきて、やっとだとディーノは呟いた。
なにがやったのなのだ。
なにが…僕が顔をあげればディーノは僕をじっと見つめて啼きそうな顔をしていた。
「な、に…」
「やっと、お前は俺を受け入れてくれた」
「なんで…そんな、かお」
「嬉しいんだよ」
僕が手を伸ばしたら、ディーノは僕の肩に顔を埋めて耳にすすり泣きの声が聞こえた。
そういえば、聞いたことがある。
ネコの発情期は恋を自覚した時からなるのだ、と。
前に発情期と言うものを知らなかった僕はディーノに問いかけた時にそう返事をきいたのだ。
『お前は、まだ恋を知らないんだな』
ディーノは少し寂しそうに呟いていたのを何故が鮮明に覚えていた。
それが、僕に来たということは僕は恋をしたということだ。
それは、一体誰に…?そんなの、考えなくてもわかっていたことだ。
この、男に…いつの間にか心を奪われていた…そういうことなのだろう。
「好きだ、恭弥…好きだ、好き」
「っ…や、やだ…」
「言わせろよ、好きだ…恭弥」
ぴくりと耳が反応する。
聞いたことのない甘い声、それが頭に入りこんできて脳髄を刺激する。
知らなかった感覚が芽吹くのを知る、
じんじんと胸が痛みだす、僕は苦しくて首を振った。
こんな風になるなんて知らなかった、逃げたい。
僕はディーノから逃げようともがけばようやく腕が解けて、後退されば壁に背を塞がれた。
そうして、覆いかぶさってきたディーノは僕の唇を塞いでいた。
「んっんんっ……ぷはっ…はっ…」
「鼻で息するんだ」
「できない、やだ…ディーノ」
「嫌か?お前は、俺を嫌いになるか?」
僕はこれ以上心を乱されるのが嫌で逃げ道を探せばディーノは僕をじっとみつめてそう問いかけてきた。
きらいになる…それは、ないと思う。
けれど、この何もかもぐちゃぐちゃにされる感覚が慣れなくて嫌なのだ。
「もっと、優しくしなよ」
「する、だから…今度はゆっくりな?」
ディーノの宥める声に僕は小さく頷いた。
そっと塞がれる唇、それは一瞬で離れて僕の反応を見ているらしい。
そうして、二度目に触れた唇はさっきより少し長い。
啄むように唇を食まれて、されるがままになっていたら口を開けと優しく言われた。
「ぁ…」
「そんなに大きくなくていい」
くすりと笑って再び触れそして僕の口に舌が入りこんできた。
歯を舐められて、だんだん中へと入ってくる。
僕がどうしたらいいのかわからずにいれば、ディーノの舌が僕のに触れた。
ぎゅっと手を握りしめたらそれをとって、指を絡ませられる。
それと同時に舌が絡まってきて、僕の呼吸が辛い。
「んんっ…」
「ん…」
離れたいと首を振ろうとしたら頬を撫でられて、落ち着けと言われているような気がした。
さっきディーノが言った言葉を思い出して、僕は鼻で息をした。
すると、少し楽になってそうしたらますますディーノの舌が触れてきてざらざらとした感触に背筋が痺れる。
散々吸われていると、もう耐えられず僕の足が折れた。
「っと…大丈夫か?…すまん、やりすぎた」
「…馬鹿っ!!」
キスを解いた途端いつもの口調で笑っているディーノに、僕は手を振り上げた。
すまんすまんと謝りつつも僕を抱きあげて、ベッドへと運ばれる。
「ゆっくりな、恭弥…これからも、ずっといてくれるか?」
「……あなたが、傍にいるならね」
一歩前進だなと笑うディーノがわからずに、もう寝ると僕は寝転がった。
「ねぇ、ここ」
「ん?」
「ディーノの匂い、すきだから」
ずっと離れていた分、少しぐらい素直になってやろうというのはせめてもの譲歩で、僕は顔が熱くなるのを感じながら、寄り添ってくるディーノの身体にしがみつくことで隠したのだった。
僕はあなただけがほしいって、そう言葉にしてもいいだろうか。
僕が、誰かを求めても…いいだろうか。
願うとしたら、それはただ一つだけ…。
END