◎ 果てしなく広がる虹
白んできた部屋に影二つ。
一つは先程まで骸と眠っていた白蘭、もうひとつはリボーンだ。
「じゃあ、手はず通りに」
「ああ、ヘマすんなよ」
「僕がするとでも?」
「失敗は許されねぇ」
「もちろん」
最初に動いたのは白蘭だ。
ドアを開けて出ていく。眠っている骸の部屋にそっと入って安らかに眠る彼へと優しいキスを落とした。
「また、あとで」
今しばしお別れだと囁いて部屋の自分が入ってきた窓に手をかければそこから出ていく。
リボーンのところに届いたメールには今日の受け渡しの日時が記されていた。
白蘭の計画も同時に進んでいて、準備をしなければならない。
全ては、リボーンと白蘭お互いのため。朝日が眩しくなる前にと白蘭は店を後にしたのだった。
「ねぇ」
「ダメだ」
「ねぇ」
「ダメったらだめだ」
「まだ僕何も言ってないよ」
朝ツナがいないので俺が朝食を作っていた。
だが、作っていく傍から恭弥が俺の服を引く。
せっかく作ってやったハンバーグが冷めるのも聞かず恭弥はねぇを繰り返す。
けれど、その問いかけに俺は答えてはいけない気がした。
すごく…直観だけども。
「何も言わなくても、わかるもんなんだよ」
「じゃあ、何を言おうとしてたのか当てて見せてよ」
それが当たった時が怖いんじゃないかと泣きそうになる。
どうしてこいつは一筋縄じゃいかないのだろうか。
ハンバーグでころっとはぐらかされてくれないものか…。
「恭弥、リボーンには隠れてろって言われただろ。なんで今日になってそう駄々こねるようなこと言うんだよ」
「まだ何も言ってないって言ってるだろ」
「言わなくてもわかるんだよ、せっかく隠しておいたトンファーまでもってきやがって…」
戦いたい、そう言いたいのだろう。
まだ傷も完治していない、恭弥一人に何ができるのか…そう言い聞かせたところでこのネコは引くことも知らないのだ。
「そう、あなたが聞きわけないなら僕一人で行くよ」
「ちょっ、聞きわけないのは誰だよっ」
背を向けて離れて行こうとするのを俺は肩を掴んで引き留めた。
ヤバい、これは本当に離したら出ていってしまいそうだ。
「リボーン、なんかいってやってくれよっ」
「そんなに行きたいのか?」
「なに、連れてってくれるの?」
「まだタイミングが悪ぃ、行くなら午後になったらにしろ」
「リボーン、お前まで何言って」
引き留めてくれるかと思った恩師の一言に俺は面食らった。
どうして俺の話しを聞いてくれないのか。
「ディーノ、お前が行って加勢すれば問題ないだろ」
ニヤリと笑って言われた一言に俺は頭を抱えたくなる。
俺に戦い方を教えたのはこの悪魔の様な男。
そして、この獣医やらなにやらの道へと導いてくれたのもこの男だ。
「ホント、俺の人生振りまわされっぱなしだな」
「俺の代わりに素敵にふりまわしてくれるネコが見つかってよかったなぁ、ディーノ」
「…まじかよ」
どうなんだと恭弥の目が訴えてくる。
じっと見つめてくる目に俺は耐えられた試しがない。
「わかった、リボーンの言った通りに…午後からな」
「わかればいいよ」
ほんと、どっちが飼い主なんだか…。
目覚めると昨日あれほど安心させてくれた温もりがなくなっていた。
握ったままだった服は手の中に。
だが、不思議と不安な気持ちはなくディーノの作った食事を渡されてそれを食べていた。
部屋の外では雲雀恭弥が騒がしい。
僕はそろそろここをでていくのだから、そっちに構うこともない。
「ここに綱吉くんが戻ってくれば、何の問題もない」
僕があそこに戻って、そしたら白蘭がどうにかしてくれる。
してほしい。
僕があれだけ心を渡したのだ…いや奪われたと言った方が妥当かもしれない。
「ご丁寧に服を残して…代わりに何を着ていったのでしょうか」
握ったままになっていた服はきっと僕が離れなかったからだろう。
我ながら恥ずかしくなる。
それか、こうして辱めるためにおいていったのか…。
「本当に、質が悪いですよ」
そうして呟いた声は小さく、不安に揺れていたことなど知らないふり。
やがて外は静かになり、リボーンが入ってきた。
「今日の取引時間が決まった。パーカー着て耳を隠しておけ。あと尻尾もな」
「わかりました」
それは表通りを歩くからだろうか。
リボーンが部屋を出ていったあと服を着替えて準備する。
身の回りで欲しい物はなかったかと確認して、ここには何も持ってきてなかったことに気づく。
元から僕はなにもなかった。
綱吉から与えられたボールに猫じゃらしとか…欲しいけれど、いらないものだ。
時間になれば僕は立ち上がる、ドアをあけたらリボーンがいて僕はそれについていく。
「僕を犠牲にするのですから、綱吉くんは絶対に取り返してください」
「犠牲?バカ言うなよ。お前のせいで巻き込まれてんだ、思いしれ」
頭をクシャリと撫でられて慰めなのか八つ当たりなのかわけのわからないことを言われた。
僕には理解の範疇を越えていて首を傾げていると行くぞと急かされる。
そうして歩いてきたのは細い道だ。
路地へと入っていき、反対側からは綱吉が研究員に連れられて歩いてくる。
両手を拘束されて、それでも顔などに痣が見受けられないことからなにもされていないのだとわかった。
安心したと同時に緊張が走る。
「約束の品だ、そっちを先によこせ」
「同時だ、俺がツナの腕を掴まないと安心できないからな」
カチャリと音がして銃口を頭につけられる。
それは向こうも同じで、綱吉のこめかみに銃口が突きつけられた。
「良いか、骸。一度しかないチャンスだ。俺が合図したら車道に向かって出ろ」
「……」
潜めたリボーンの言葉に僕は小さくうなずいた。
一度しかないチャンス、ダメもとで掴んでみるのも運だめしにはいいかもしれない。
ゆっくりと僕と綱吉の身体が近づく。そうして、研究員の手が僕の腕を掴み、リボーンが綱吉の腕を掴んだ。
それと同時に好感が成立した。
ゆっくりと銃口を向けあったまま、僕は離されていく。
そしたら、どこからかバイクの音が聞こえた。
それはこちらに走ってきていて、マフラーが煩く鳴いている。
だんだんと近づくそれに、なんだか胸が騒ぐ…傍に止められていた車に乗せるためにドアが開いた。
「今だっ!!」
「っ、余計な真似を!!」
リボーンの声が聞こえて二発の銃声が鳴り響いた。
一発は研究員の腕を掠める。
力が抜けた隙に僕は車道に向かって走り出た。
それと同時に、さっきからけたたましいほどの音を立てているバイクが来て僕は手を伸ばしていた。
「迎えに来たよ、ネコちゃん」
「っ…」
ぎゅっと抱きしめられて、後ろに横座りになるとそのまま走り出す。
ヘルメットをかぶっていたがその声は白蘭のものだ。
後ろからあっけにとられた研究員が追ってくるのを見て、角を曲がったところでバイクが止まった。
「はい、ここからは俺の仕事だから骸クンはこっちから逃げて」
「あなたは、どこに」
「良いから早く、追いつかれちゃう」
「白蘭さんロスです」
僕だけが降ろされドアが開いた中を見れば正一とスパナがいた。
早く早くと押されるまま車へと押し込まれてドアが閉まると同時に白蘭は元の道へと戻り研究員が追いかけるのを気にせず走っていく。
「な、なんで…僕はまた」
「大丈夫です、あの…安心して。あの人は戻ってきますから」
混乱するままに呟けば正一から優しい言葉がかけられた。
そうして走り出す車の中、僕は一瞬だけ見えたあの自然な笑顔が頭から離れなかった。
銃声が鳴り響くと同時に俺は頭をぐいっと押されていた。
近くにリボーンの帽子が落ちて、えっと思った瞬間俺は顔をあげてリボーンを見る。
「大丈夫!?」
「掠めただけだ」
「ちくしょうっ、手を組んでいたとは…」
「しらねぇな、タイミング良くあいつが通りかかったんだろ」
研究員がぶつぶつというのも気にすることなく、車に乗り込みバイクを追っていくのを俺は呆然と眺めていた。
「え…こんなにあっけなくていいの!?」
「いいんだろ、そもそも俺達は撒きこまれてんだ。これ以上何かあった方が困るだろうが」
俺が戻ってきたというのにリボーンはいつもの調子で近くに落ちた帽子を拾い、頭に被った。
耳を隠すように……耳?
「耳っ!!」
「ぁあ?」
「なんで、ネコ耳っ!!」
俺はあんまりの自然なネタばらしに慌てた。
リボーンの帽子をとり上げてぴんと立った耳を良く見る。
真っ黒で、ネコの耳だ。
「人間じゃ、無かった…」
「そうだ、俺はネコだぞ。まぁ人間だって言ったことはねぇがな」
にやりと笑って威張るリボーンを殴りたくなる。
言わなかった、というか隠してたんじゃないか。
尻尾もあるのかと尻を触ればしっかりと尻尾の感触が。
「なにそれ…なにこれ…え、えええぇっ!?」
「お前が勝手に勘違いしたんだ、俺にはまったく非はない」
「そんな、じゃあ…リボーンは俺の猫だったの!?」
「ああ…厳密に言えば、猫の記憶を持っている…だけだがな」
帽子を返せともったままのそれをとり上げると被り直して店へと足を向けている。
俺も一緒に歩きながら詳しく話せとリボーンのスーツを引いた。
「お前の予想通りだ。お前の猫で生まれ変わり、そして俺はお前に会う前からお前を知っていた」
「なんで、黙ってたんだよ」
ネコであるということ、自分を知っていたということを何で隠す必要があったのか。
それをリボーンに問いかければ苦笑を浮かべた。
店に着くと中は静まり返っていて、誰もいないのかと思えば獄寺が顔を出してくる。
「綱吉さんっ!!」
「わぁ、獄寺くん」
「ツナ、おかえり」
「山本…ただいま」
二匹に熱烈な歓迎を受けて、暫くつきあわされることになった。
もう会えないかと思った、ディーノのご飯はまずくてもう食べたくない。
散々文句を言いながら俺は二匹を安心させてやり、リボーンはそれを黙って見ていたがいつの間にかいなくなっていた。
あの話しを無かったことにされたくはない。
「あのさ、ちょっと俺リボーンに用事があるから」
「おう、また構ってな」
山本は獄寺を掴んで引き留めてくれて、俺はそれに笑みを浮かべると二階へと上がった。
全部、聞かなくてはならない。
別に、何があるわけでもないんだ…。
俺はリボーンの部屋のドアを開けて中に入った。
バイクを走らせること二十分ほどになるか、僕は時計を確認してはぁとため息を吐いた。
近くには炎上する車、そして無線の音を拾うと研究所でも今被害が出ていると慌てた声が聞こえる。
「なーんか、思わぬ助っ人も来てくれてる感じかな?」
こっちは全部片付いた。
僕はケータイを取り出すと正一を呼び出す。
少しして繋がった電話ははっきりとした声が聞こえた。
「あ、正チャン。骸クンは?…そう、うん…もう終わったから帰るって伝えてくれる。ああ、ついでに愛してるよ僕のエンジェルって……切れた」
これは暗に自分で伝えろという正一の気遣いなのだろうか。
明らかに違う方向に考えつつ、僕は再びバイクにまたがると人気のない港を後にしたのだった。
骸を狙ってくる奴等も掃除できていいことづくめだ、これでまた変なのが芽を出さなければ骸と二人でいれる。
「これで、ようやく僕のものだ」
骸の小さいときから恋していたと言ったらきっと変な目で見られてしまうかもしれない。
けれど哀しきかな、本当のことだ。
研究員としてあそこにいて、あんなに綺麗なネコは初めてみたのだ。
あの子にだけ酷くしたのは自分のものだと周りに思い知らせるため。
あの環境では生易しいと他の奴らに手を出される可能性があった、けれど結局僕より高い立場の人間に抱かれていたというから僕はそこにいるのを止めたんだ。
僕のモノに手を出す奴等は許さない、だから情報を流した。
誰かこの情報に魅かれて骸を盗んでくれるやつを。
そこに引っ掛かったのがリボーンだった、僕の思惑通り骸を盗んで。だから、僕は研究所を止めた。
正一とスパナも一緒にしたのは二人は元から僕についてきてくれたから。
あの二人は今後も世話になるだろう。
最初は骸を諦めさせるような脅しを計画したのだ、リボーンに連絡をとりその計画を練っていたのだが、綱吉の方が先に連れ去られてしまった。
結果、こんな形に落ち着いたがひやひやされられた半面あんなに必死に手を伸ばしてくれる骸が見れて得した気分になっているのだ。
「僕って案外、簡単な男だったのかも」
そこに骸限定で、とつくのだが今はそんな思考もいらない。
正一とスパナが先に返っているだろうマンションに着けばアジトにしていた部屋の隣へと僕ははいる。
「ただいま、骸クン」
「白蘭っ…」
ぱたぱたと走ってくる骸を見てつい頬が緩む。
それと同時に物凄い勢いでビンタされた。
「いったぁ…なに、僕何かした!?」
「心配するでしょうっ、何してるんですかあなたと言う男はっ」
まくしたてる骸の言葉を聞いていればがばっと胸の辺りに抱きつかれた。
そうして顔を埋めてじっと動かなくなる。
「ごめん、ちょっと心配させちゃったかな?」
「ちょっとどころではないです、僕を心配させて楽しんですか…そうやって僕をからかうんですか」
「そんなことないよ、骸クン…顔上げて」
顔を埋めたままぶつぶつと文句を垂れる骸に笑みは苦笑に変わった。
そっと頬を包み込んで顔を上げさせると真っ赤になった瞳と目が合う。
「好きだよ、これで僕のものになってくれる?僕だけの、猫になってくれる?」
「ばかですね、僕にはなにもありませんよ。あなたのものにならなかったら、誰のものになるというのですか」
骸から背伸びをしてキスをしてくれた。
触れるだけのそれは子供っぽくてつい笑ってしまうのに、離れる気にはなれなくてぎゅっと強く抱きしめた。
「うん…ぼくのだ、むくろくん…あいしてる…」
「何泣いてるんですか、案外僕より子供ですね。 白蘭」
くすくすと笑って隠していた涙を見つけられてしまえばぺろりと舐められる。
その優しい感触にまた泣いてしまって、自分がどうしようもなく甘えてしまうのを知る。
もう離したくないんだと、抱きしめただけ優しい唇が僕の顔を撫でてきてどうしようもなくなった。
「ところで、ディーノさんと雲雀さんは?」
「ああ、研究所に行ってぶっ壊しに」
「は?」
「ひと暴れしてくるってよ」
部屋に入って促されるままベッドに座った。
なんだかんだいってこのベッドで二人って言うのが落ち着いたり…。
リボーンと話すときはいつもこの状態だったかからか、安心しんするんだよなぁ…。
「そうかぁって、納得するわけないだろ」
「好きにやらせとけ、ディーノはあれで結構強い」
「で、洗いざらい話してくれよ」
もう話を逸らすのは止めだとリボーンを見れば耳をぴくぴくと揺らしている。
帽子に穴があいてしまっているし、部屋なので被る必要はないととり上げたためだ。
「まず、俺がここにきた理由はただのディーノの付添だ。というか、お目付役ってのがしっくりくるか。アイツはマフィアのボスで人型動物の研究がてら獣医を目指している」
「マフィアなのに?」
「マフィアだからだ、人型動物がどんな目に合っているか…それを目の当たりにしたんだ、あいつにとってはいても立ってもいられない事態だったんだ」
昔話のように思い出してはポツリポツリと語るリボーンの言葉に耳を傾けていた。
そうして、粗方リボーンがここに居た理由はわかったのだが、何故リボーンは猫であることを隠していたのかそこら辺はよくわからない。
「なんで、これ隠してたの?」
「触るな、くすぐったいんだぞ、これでも」
耳を引っ張れば手を叩かれた。
触られたくないというのも理由の一つに入ってそうだなと感じつつ、リボーンを促した。
「…いきなり、出てこられても困るだろ」
「なにが?」
「お前、俺の第一印象最悪だっただろ、そんな相手が実は小さいころお前を庇って死んだ猫の生まれ変わりだって言われて信じるか?ついでに、その記憶を受け継いでずっと考えていたら好きになってました、とか普通受け入れるか!?」
「……無理」
「だろうが、だからこれでいいんだ」
いまさらっと重大発言聞いたけど、それはスルーするべきか否か…。
…え、いや…
「あの、今好きって言った?」
「ああ、好きだ」
「ほんとなんだ…」
「もう隠す必要ねぇからな」
「隠す必要…?」
「お前も、俺を好きだろ?」
リボーンに言われて目をぱちくりとさせた。
しばしの沈黙。
「ええぇぇえ!?なんで、何でっ!?」
「なんだ、まだ無自覚だったのか?」
早まったかなと頭をかくリボーンにどうしたらいいかわからなくなる。
なんで、俺がリボーンを好き!?
確かに普通の感情じゃないかもしれないと思ったけど…好き、なんだ。
良くわからずその言葉を反芻すると顎に手をかけられて一瞬だけ唇が塞がれた。
それがリボーンの唇だと気づくまで二秒。
「なに、いきなり…っ」
「わからないなら、教え込んでやろうと思ってな」
リボーンは俺をベッドに仰向けにして押し倒すと今度は深く口づけられた。
忍び込んできた舌におっかなびっくりで反応するが嫌悪感はない。
そして、咥内を散々舐め荒して離されたころには息が上がっていた。
「嫌か?」
「…じゃない…」
「ん?」
「嫌、じゃない…」
素直に答えれば今度は啄むようにキスをして手が服の上を撫でている。
性的な感触に身体が震えて、漏れそうになる喘ぎを押し殺した。
「ねぇ、するの?」
「嫌なら抵抗してみろ」
そう言って服の中に手を入れてくる。
少し強引、なのに抵抗するとすぐに離れてしまうだろうことはなんでか、わかった。
だから俺は手を出さなかった。
思ったより優しい手つきが、俺がちょっとでも震えるたびに安心させるためかキスをしてくる唇とかが俺を少しずつ溶かしていく。
「っ…く…ふっ…」
「どうした?」
「怖かった、俺…リボーンのとこ帰ってこれて…よかった」
いきなり実感して、涙腺が壊れたように涙が流れた。
あんな暗い場所にいて、ずっと緊張して…骸は白蘭が連れていって、ちょっと心配だったけれどあの嬉しそうな骸の顔を見たらどうでもよくなった。
安心できる場所ができたってことだと思うから。
だから、なにもかもの心配がなくなったとたんのできごとで自分でもどうしたらいいのかわからなくなった。
「当たり前だろ、俺がどんな想いで…お前を助けたと思ってんだ」
死んだらゆるさねぇぞと抱きしめてくるリボーンの腕に改めて安堵すると、自分からキスを強請った。
唇を差し出すと応えるようにキスを返されて、そのまま服を脱がされた。
リボーンも服を脱いで揺れる尻尾が現れた時にはネコなんだなぁと実感して手を伸ばそうとしたら止められ、指を絡ませて握られてしまった。
「ずるい…」
「しらねぇな」
そうして、片手で足を開かれて濡れたものを垂らされ秘部に触れてくる。
結局男同士と言うとそこを使うしかないわけで、緊張で固まれば力を抜けと笑われた。
「今からそれで、俺のが入れられるのか?」
「いれる…の?」
「嫌ならしない」
「嫌じゃない、いやじゃないから…して」
告白の前に身体を繋げるなんて即物的だと思うかもしれないけれど、なんだろうかリボーンがいちいち優しいから何でも許してしまいたくなるのだ。
いつもあんなに傲岸不遜なのに…。
そのうち指が入りこんできて中を慣らしていく。
「あっ…のね…ねぇ…んんっ…」
「なんだ?」
「すきって…いって」
「さっき言った」
「もっと、ちゃんと」
言わないと入れたらダメだと笑う。
いつもの強気な態度がどこかへといってしまったようになかなか好きと口にしない。
そのくせ、中を弄る指は段々と増えて、ある場所を押されるとどうしようもなく感じてしまってどうしようもなくなる。
早く聞きたいと思うのに、なかなか言わない。
「いじ、わるっ…」
「ツナ…お前が言ったら、いってやるよ」
仕返しのように言われて俺は唇を噛みしめた。
そんなこと言われて、言えるわけないじゃないか。
まだ、ほら…気付いたばかりだ…っていうか気付く前にリボーンに性的な目的で触られていたのだが、これいかに。
そのうち、キュンキュンと中が疼きだす。
いつのまにかそこが感じるようにさせられていてなんだこれはとリボーンを見たら、優しげな視線があって、慌てて顔を逸らす。
なんでそんな顔するんだよ…。
つい、かっこいいとか思ってしまってから中の指が抜けていった。
「あっ…もう、やだ…欲しい、なんで抜くんだよ」
「ツナ…」
「すき、好きだって…もうっ…あっあぁあぁぁっ!?」
言った途端いきなり痛いぐらいの衝撃を受けて変な声が口から出ていた。
恥ずかしいほどの声に自分の口をふさごうと空いた手を持って行こうとしたが、その手も指を絡ませてベッドに抑えつけられた。
そのまま馴染むのを待つようにゆらゆらと揺らされて、そんな小さな刺激でも感じてしまう。
「あっあぁっ…やだ、こえ…へん…ひあぁっ」
「だいじょうぶだ、お前の声は可愛いぞ」
「かわいくなっ…ふあぁん…やだって…ああっ」
手を離してくれと抵抗するのにそれだけはダメだとずっと握られたまま、ゆらゆらとしていた動きがだんだん大胆なものへと変化する。
それがいつの間にか腰を打ちつけるように動きだして、中全体を擦られる感覚に身悶えた。
何もかも初めて味わうもので、何が何だか分からなくなってしまう。
そのうち、身体の奥からせり上がってくるほどのものを感じて俺はリボーンの手をぎゅっと握りしめた。
「もう…イく…ねぇっ、りぼーん…いくっ…」
でちゃう、とわけのわからない感覚に泣きだせば涙をぺろぺろと舐められる。
「好きだ、ツナ…お前が、好きだ」
「ふぁっ…ああっ、なに…もぉ…おれも、すき…ぃ…」
ラストスパートをかけてスピードが上がり俺は腰を揺らして感じ、一瞬頭が真っ白になって全力疾走したあとのように呼吸が乱れた。
一気に身体が弛緩してリボーンの手を握っていたそこからも力が緩んだ。
中が濡れた感覚がして、リボーンが出したのだと知ってなんかじんわりと胸が熱くなる。
あの時の猫が会いに来てくれたとか…それが、好きな人って…。
いや、猫が好きでリボーンも好き…なのか。
はっきりしない頭で考えているとますますわからなくなる。
「もう…いいや、俺はリボーンが好き…それでいい」
「なんだ、まだ不満か?」
「ううん、子供の頃の気持ちなんてわかんないやって、思って」
リボーンの手が俺の頬を撫でて労わるようにキスをする。
耳に触れればぴくっと揺れて、右目はと触ろうとしたら手を掴まれた。
「見えないの?」
「あのときは完全にダメだったが、今は若干見える。まぁぼやけてだけどな」
「ふぅん……また戻ってきてくれて、ありがとう…あのときは、助けられなくて、ごめんね」
「もう過ぎたことだろ」
俺は首を振って笑みを浮かべた。
過ぎたことでも忘れてはいけないんだ、俺を助けてくれた大切な存在。
今も昔も、ずっと可愛いままだ。
「いや、今は…かっこいい、かな」
「なんだよ」
「うん…すき…」
にへらっと笑ってやれば、リボーンもつられて笑う。
答えの代わりにキスをされて、猫に舐められたような優しい感触に俺は心が温かくなった。
もう、ホント信じられない。
そう思ったのが俺の感想だった。
なんというか恭弥に引っ張られるまま研究所までやってきて見ればずんずんと中に進んでいってしまって、そしたらいつの間にか周りが炎に焼かれていて、そしてちゃっかりと人型動物なんか連れて来ちゃって、気づいたら研究所が焼けていた。
そう、目の前で焼けていた。
「あーあ、もうなにやってんだよ」
「なかなか楽しめたね」
「そーですか、そりゃよかった」
ぺろりと返り血を舐める恭弥についかっこいいなどと思う俺の思考は大体おかしくなってしまっているのかもしれない。
もう日が暮れている。
早く帰らなくては…。
「こいつら、どうするかな」
「連れて帰るに決まってるでしょ?」
「いや、お前この人数結構あるぞ。あの屋敷でもぎりぎり…」
「僕群れは嫌いだよ」
「自分勝手だな、おい」
恭弥の言動と行動はやっぱり理解できない。
これが本当に猫だったら理解不能だっただろう。
小さいネコやイヌからはぺたぺたと触られていてそれを平気でそうさせているのだ。
「部下にでもするつもりか?」
「…それもいいかもね」
「嘘だって、本気にするなよ」
とりあえず、入るかどうか考える前に帰るかと歩き出す。
このままここに居てもどうしようもない。
「よし、帰るぞー保護してやるから俺に着いてこーい」
動物たちは不思議に思いながらも恭弥が俺の後についてきているからか戸惑いながらも従ってくれた。
怪我は殴られたような虐待痕しかないみたいだし、帰ったら一人一人見てやろうと俺はため息を吐いた。
研究員はもう一人残らず死んでしまっているだろう。
ツナも戻ってきていて、骸は白蘭とか言う青年が連れていったと思われる。
となると、とても帰りづらい…けれど、それを承知してくれているだろうか。
「あー、帰りたくねぇ」
「どうして?」
きょとんと首をかしげた恭弥。
なんだかひと暴れして満足したような晴れ晴れとしたような顔だ。
最近はずっと部屋に居たからこんな顔は久しぶりに見てつい抱きしめたくなるのを抑えて、理由を話してやろうか迷う。
「いや、なんでもねぇ」
結局話すことはできず、へたれ認定でもなんでもしてくれという自暴自棄な気分で肩を落とすのだ。
「恭弥ぁ、俺とイタリアきてくれるか?」
「この街を僕が離れるとでも思っているの?」
「……すまん」
「しかたないから、あの屋敷でなら…待っていてあげるよ」
ため息交じりに言われた言葉に俺ははっと顔をあげれば不敵に笑う顔がそこにあった。
ああっ、もうこいつはなんでこうもかっこいいのか。
「恭弥、お前ほんと男前だな」
「僕は僕だよ」
なんでそんなことを言われているのか半分ぐらい理解できていないだろうが構わなかった。
俺達はこれぐらいの距離の方がきっとお互いのためには丁度いい。
抱きしめたくなる代わりにぎゅっと手を握ってやれば、ゆっくりと握り返されて近くなる心を知る。
それはすこしずつ近づいて…いつか形になったらいい。
END