◎ 絡みだした流れる雲
ディーノに案内された部屋は見晴らしのいい場所だった。
外の様子がよく見える。
そして、外からもこの部屋はよく見えるのだ。
隣の部屋はちゃんとした個室になっているが基本はこの部屋で過ごさないといけないらしい。
ペットショップなんだからそこの主旨は守ってもらいたいらしい。
僕がどんな身の上でここにきているのかわかっているのだろうか。
大きな窓は防弾防音、こちらから鍵を開けない限り外との接触はできない。
薄暗い部屋、冷たい石畳みの壁。遠くから聞こえる苦しげな叫び声、その全部が僕の思考を奪っていた。
それなのに、ここは静かすぎる。
あのときはどうやって日々過ごしていくかを必死で考えていたのに、一気に環境が変わったせいでまだ戸惑っていた。
差し込むことのなかった月明かりが僕を照らしている。
あの時にはなかった光、僕はその月明かりから逃げるように背を向けて寝ていた。
「どこでも、寝れるようになったと…思ったんですがね」
閉じていた瞳をあければ嫌なくらいの月明かりが部屋を照らしていた。
布団をかぶっても睡魔がくることのない感覚にため息をついた。
耳を立てて、寝静まっている雰囲気を感じ取る。
この世界に自分だけが取り残された気分だ。
いや、元から取り残されているのか…人型のネコと言っても珍しい品種で、人でなければ猫でもない。どこにも、属することのない半端モノ。
「ちょっと、散歩でもしにいきましょうか」
思考がどんどん暗い方向へと流れていくのを止められず、気分転換にと窓の鍵に手をかけて外に出た。
まずは周りを把握するところからだ、と思い少しの好奇心を滲ませて尻尾を振った。
深夜を過ぎているころなため、人間の気配は全くない。
この道はもともと人が少ない通りなのだろうかと辺りを見回した。
そこには大きな建物が見えた、僕には読むことはできないがそれは白蘭が通う学校と言うものなのだろうと感じた。
白蘭は何かにつけて自分のことを話したがった。それはただの自慢だったり日常の話しだったりいろいろだ。
僕にはまったく関係ない話なのに、毎日毎日、煩いぐらい話しかけてくる。
お陰で白蘭の周り以外の研究員が僕に何かしてくるということはあまりなかった。
白蘭がなんでそんなことをしていたのか、生きてきた人生のほとんどを牢屋出過ごしてきた僕にはそれがどういうことなのかもわからない。
「にゃー」
「…こんばんは、こっちにくるな…とは、一体どういうことなんでしょうねぇ」
僕が歩く道に一匹の猫が立ちふさがるように出てきた。
僕はネコの血が混ざっているからか、猫のいいたいことがわかる。
話している内容はわからないが、感情がわかると言った方がいいだろうか。
もちろん、話すことも少しなら可能だったりする。
行くなと言われたら、行きたくなる。
僕は猫の忠告を無視して先へと向かう。
そこには公園があり、猫が集っていた。そして、その中心に僕と同じネコがいたのだ。
「誰?僕のテリトリーに入ってくるのは」
「ほう、猫に守られていたのはか弱いネコというわけですか」
にやりと笑みを浮かべて、そのネコを見た。
短気な性格らしく、立ち上がると僕の前に歩み出てくる。
「ねぇ、誰がか弱いって?君こそ、ここらへんでみたい顔だね。僕が咬み殺してあげるよ」
「咬み殺す、ちゃちな言葉ですね。返り討ちにしてあげますよ」
ネコがトンファーを構えてきて、僕は近くに落ちていた鉄の棒を拾った。
少し重さがあるが、扱えないわけじゃない。
ネコに向けて構えた。
「そんなもので、僕に対抗できると思ってるの?」
「さぁ、どうでしょう?」
周りに居た猫が逃げていくが気にも留めず、走り込んできた相手のトンファーを受け止める。
硬い音が周りに響く、すかさずもう片方のトンファーが空を切って迫ってくるのを足で薙ぎ払う。
だが、押し込んでくる力が強い。見かけによらず鍛えているらしく力は僕には敵わないものの並の人間なら一発だろう。
だが、勝てない相手ではない。確実に僕の方が上だ。
長い牢屋生活だったが、脱獄しようと使った体力がある。真正面に突っ込んでくる相手をいなしながら確実に攻撃をしていく。
まずは腕、トンファーを握れなくしてしまおう。
その次は足…もう歩けないようにしてあげましょう。
自分が感じるままに相手の手足を動かなくさせて相手が這いつくばったところでハッと我に返る。
「また、やりすぎてしまいました…」
「くっ…はぁっ、はっ、はっ…かはっ…」
「君なら、そのぐらいの怪我なんともないのでしょう。楽しかったですよ」
思わず自己嫌悪するが、相手はそのぐらいでは死なないと思いなおすと僕はその場を立ち去った。
辺りが白んできている、いつの間にか時間が経っていたのかもしれない。
早く戻らないと、あの人間が心配する。
僕はふらふらとした足取りでペットショップに戻るとベッドに戻った。
あれほど寝付けなかったのに、横になったとたん睡魔が襲ってきて、僕はいつの間にか深く眠り始めたのだった。
「ん……うわっ…」
朝目が覚めると目の前に顔があって驚き、慌てて自分の口を塞いだ。
そう言えば昨日はベッドに入らせてもらったのだと思いだせはそっと口から手を離した。
ばくばくと鳴っている心臓を落ちつけて、目の前の顔をまじまじと眺める。
辛うじて起こしてしまうことは避けられ、安堵のため息をついた。
俺はそっとベッドを抜け出し、自分の部屋に戻る。
「うー…まだ眠いなぁ」
服を着替えながら俺は眠気を振り切るように洗面所に行くと顔を洗った。
無事俺はここで働くことが許されたのだ、今日からがんばろうと自分に言い聞かせる。
まずはどうしようかと店の方へと顔をのぞかせたらディーノがいた。
「おはようございます、ディーノさん」
「よっ。これから教えてくからな、とりあえずこいつらに朝食の準備な」
「今日からはツナが作ってくれるって言ってたから腹空かせて待ってたんだぜ?」
「こいつの作るもんはホントにまずいんで」
あらかじめ俺が作ると言っておいたのか山本と獄寺が口々にディーノの悪口を言っている。
「わかったから、少し待って。ディーノさんリボーンの朝食は?」
「それは俺が作るから、あとよろしく」
ディーノは悪口を言われ慣れてしまったのか、笑みを浮かべて上に戻っていった。
人型動物ようにと冷蔵庫が用意されているのでそこを開けて材料を取り出し、簡単な朝食をつくってやった。
三人分つくったのだが、骸は起きてくる気配がない。
呼びに行かせるのもこの二人では少しためらう。なにしろ、昨日は獄寺の一言ででていってしまったらしいから。
とりあえず、部屋の入口に置いておくことにして俺は上に戻ろうとした。
「おい、ツナ何してんだ。早く俺のも作れ」
「は?ディーノさんが作るんじゃないの?」
「こいつに任せるだけ材料の無駄だ早くしろ」
リボーンのあんまりの言われようにディーノは何か言い返さないかと待っていれば、あははと苦笑しているだけだった。
俺が来る前どんな生活してたんだよ…。
確実にディーノが作っていたものを食べていたにもかかわらず俺に頼りっ放しってどういうことなんだ。
呆れながらも、待っている二人に作って結局自分はまたトーストだけを持ち学校へと向かった。
あれ、バイトって朝昼晩の食事つきだった…よな…。
もうすでに語弊が生じているとため息をつきながらも、この生活に馴染めそうでよかったと安堵したのだった。
日差しが入りこんでくる。
僕が目を覚ましたのは陽が高く上る時間だった。もう午後は過ぎているのだろうか。
ご飯をすっかり食べ損ねたとドアを開けてみればそこにはしっかりと一人分の食事が用意されていた。
「丁寧なことで…」
丁度腹が減っていてしかたなくと自分に言い訳すると租借した。
食べてみたら冷めていても美味しくて思わず口元が緩んでしまう。
空腹が満たされた後、僕は何もすることなくぼうっと外を見ていた。
外からも隣からも音が聞こえないということは出かけているか、昼寝の最中なのだろうか。
日当たりが良いのでふぁっと欠伸が出る。
そこに、見知った姿を見つけて眠気が引っ込んだ。
僕は思わず逃げ腰になるのを必死で繋ぎとめた。
ここで逃げたら何かに負けてしまうようで嫌だった、そこにいたのは白蘭だ。
僕がじっと視線を送っていたら気付いたらしくこちらに近づいてくる。
白蘭は肉ったらしくなるような笑顔のまま、しばらく見つめ合うようにしてそこにいた。
「………」
「は?」
窓をコツコツと叩いて僕を指さしてきた。何が言いたいのか分からずに首を傾げるも外の音をこのガラスは通さないのだと首を振った。
無駄なことなのだから、意味がない…と。
だが、白蘭はあきらめるどころか鞄の中からノートとペンを出すと何かを書いてそれを僕に見せてきた。
『元気?』
「言わなくても、見ればわかるでしょう?」
『元気そうで何よりだよ』
こいつ、読唇術使えるのか…。白蘭はメモを使っているにもかかわらず僕は口で会話した。
それなのに白蘭はちゃんと返事をしてくる。
なんとも食えない奴だ。
「どうしてこんなところにいるんですか、今は学校とやらの時間でしょう」
『今日は早かったんだよ。そんなに警戒しないでよ』
「あなたは、何をするかわかりませんからね。また僕を捕えるつもりなんでしょう」
『今日はたまたま通りかかっただけ、別にどうこうしようってのはないから。また、くるよ』
「金輪際、顔も会わせたくない」
結局白蘭の笑顔を崩すこともできず、ひらひらと手を振ってどこかへと歩き去って行った。
僕はちいさくため息を吐いて、そこへと丸くなった。
「ほら、もう見つかってしまった。奴らが来るのも時間の問題でしょう」
白蘭に見つかってしまったということはつまり、研究所の人間に僕がここにいることが知られてしまうということ、時間の問題だ。
「でも、もうここから出られそうにありませんね」
あの栗毛の青年の作るご飯がおいしいと感じてしまったのだ。
ここは思いのほか、僕に心地よすぎた。
部屋の外から、ただいまぁと声が聞こえてきたのに笑みを浮かべた。
白蘭が来てから二週間が経とうとしていた。
僕はこの環境に慣れて、最近では綱吉と遊んでもらうことが多かった。
今日は早く帰ってきたからと僕はボールを手にとった。
「相手してください」
「…いいけど、またバスケ?」
「はいっ、これは楽しいです」
何よりボールが転がるのがたまらなくそそられて…。
本当はボールの取り合いだと聞いたのだが、ネコの僕相手ではそれができなくて綱吉は不服そうなのだ。
途端猫の鳴き声が聞こえ始めた。それは一匹二匹という少ないものじゃなく多くの猫が鳴いている声だ。
「恭弥が来たか」
「恭弥って?」
「ここらを統率しているネコだぞ。骸はあったことねぇか?」
「さぁ、知りませんね」
リボーンが綱吉に説明をしている。
ボールは投げられることなく綱吉の手に収まっていて、少しつまらない。
「トンファー持ってるからな、安易に近づくなよ。襲ってくる」
「襲うって…良く捕まらないな…」
「それだけ強いんだ」
トンファー…あのネコのことだろうか。
夜叩きのめしたネコを思い浮かべればふふっと笑みを浮かべた。
元気になってなによりだ、また喧嘩でもふっかけに行きたい。
一向に始められない遊びに顔をあげれば綱吉はリボーンの方を向いている。
リボーンはと言うと何気なしに銃の手入れをしているのだ。
拳銃なんてもの、子供がいる前でよく出せる…綱吉はそれを不思議そうに眺めている。
普通なら目にかかることなどできないもの、それがそこにあるだけで非日常だ。
リボーンは少し変わっているのだ、僕と一緒の同類…と言った方が正しい。
綱吉には隠しているようだが、ばれるのも時間の問題だろう。
「早くしてください、綱吉」
「わかったよ…ったく」
そう言いながらボールをついている。
それをじっと見ながらボールを奪うとそれを転がして遊ぶ。
ついそれに夢中になっていたら、外から音が聞こえた。
そちらに顔を向けるといきなりディーノが入ってきたのだ。
「どうしたんですか!?」
「獄寺がやられた、俺はかすり傷だ。山本も少し怪我してる」
肩に腕をかけられて運ばれてきた獄寺は打撲痕だらけだった。
ディーノも山本もそれに同じく。明らかに武器がトンファーだとわかれば、僕が近づくのを綱吉が抑える。
「なにするんですか」
「骸は中、お前いつも喧嘩ふっかけるから今日は奥いってろって」
「邪魔になるといつもそうやって僕を追いやるんですから…」
ため息をついて仕方ないと部屋に入ればドアがぱたりと閉められる。
外からは騒がしい声がして、忙しそうな雰囲気に日向ぼっこでもしようと窓の近くへと寄った。
そしたら、コンコンと音がする。
顔をあげたらそこに白蘭がいた。
この前声が届かないことを覚えていたのだろう、手には手帳が握られていて暢気に手を振っていた。
「まったく、今日は何しに来たんですか」
『骸クンとデートしようかと思ってv』
呆れたように言ってやれば相変わらず口の動きで言葉を読んだのか、笑顔のまま手帳にペンを滑らせて見せてくる。
「バカじゃないですか、そもそも男同士でデートとは言えません」
『いいじゃん、ここ開けれるの骸クンだけなんだから。お・ね・が・い』
気持ち悪いことを言うなと言えば猫なで声が聞こえてきそうな調子の文面に少し殴りたくなってきた。
だが、それも本人に直接会わないとできないことで…。
ただの気紛れなのだ、そう自分に言い聞かせていた。
ただ、この馬鹿な男に一発ぶち込むだけなのだと小さくため息をつきつつ、窓に掛けられている鍵をあけて僕はそのまま部屋を抜け出し一発白蘭に拳を振りかざす。
だが、その拳は手帳を握っていた手に止められて表情を伺えばいつもの生意気な笑顔だ。
「ムカつきますね、その余裕」
「久しぶりだな、骸クンの声聞くの」
主旨違いなことを言われて、人の話しを聞かないのは相変わらずかと視線を逸らせば少し歩こうかと促される。
仕方なく僕は耳と尻尾をしまって歩きだした。あるだけで目立つのだ。
目的もなくただ、思うままに足を進めた。
「あのさ、信じないかもしれないけど…あの研究所捨てたから」
「…は?」
歩きだして少し経った頃、白蘭は唐突に口を開いた。いつもこの男は突然言っている意味が掴めない。
僕の反応を読んでいたのかクスリと声が聞こえる。
どんな顔をしているのかと顔を覗き込むと困ったような顔があって目が離せなくなる。
「あそこに居るのは、止めたんだ。だから、安心して…僕が君を見つけたからって、あいつらに見つかっているわけじゃないから」
「…本当、なんですか?どうせ、嘘なんでしょう?しょうもない嘘をついても何の得もないですよ」
あの牢獄で受けた仕打ちを思い出す、信じろと騙されたことも逃がしてあげてもいいよと思わせぶりなことを言われたこともある。
どれが本当なのかわからないのだ、同じ笑顔を浮かべて、同じことを言う。
バカじゃないかと嘲笑うかのように言ってやれば、白蘭は珍しく表情を失くして自分の行いを悔いているようにも見えた。
けれど、僕はそんな想いなどわからない。
「そんなことを言うために僕を呼びだしたのなら帰ります。もう、僕はここにいる意味がなくなりましたから」
「待って、信じてくれなくていいから…これからも、時々こうして一緒に居てくれる?」
身を翻したところで腕を掴まれた。
そんなに一緒に居ることを気に入ったのかと苦笑が浮かぶ。大体白蘭とまともに話している時点であの時の僕からは考えられない。
以前は自分勝手で言うことを聞かないと手酷く鞭を振っていたというのに、今の態度を見れば百八十度違っている。
どうせ、僕にはいる場所などないのだ。
こうして出歩いていても、気づいている人間などいないだろう。
だったら、この男の嘘に付き合ってやるもの悪くはない。
「そこまで言うのなら、いいですよ。することがなくて、暇なんです」
「なら、よかった。また来るから、話し相手になってよ」
僕はただの暇つぶし、白蘭をからかってやろうと思っただけのことだった。
掴んでいた白蘭の手が落ちていく様に、近くにいたと思った存在は途端遠くなっていって僕は思わず振り向いていた。
「ん?どうかした?」
「っ…なんでも、ありません」
そこにはいつもの気に食わない笑顔に戻った白蘭がいて、なぜ僕は今白蘭が消えてしまいそうだと感じたのかわからなくなっていた。
僕はそれを振り切るように元来た道を戻りだした。
「骸クン、助けるから」
背中に小さな声が届いて、どういうことだと振り返ればそこにはもう誰もいなかった。
何も、なかったかのように。
「はぁ…」
「どうしたんだ、ボス?」
「ん?今日は骸クンに会ってきたよ」
研究所を止めて隠れ蓑にしたマンションへ戻るとスパナが話しかけてきた。
研究所から出るにあたって協力を得た一人だ。
「骸って、あの六道骸か?」
「そうだよ、相変わらず元気そうだった。ちょっと、前より丸くなったかな」
「白蘭さん、あいつらが骸の居場所を突き止めました」
あんな初々しい態度を見せてくれると思っていなかったのが正直な感想だ。
スパナに答えていると正一が新たな情報を報告してきた。
この子も協力者で、三人でこのマンションに暮らしている。
「とうとう見つかっちゃったか。少しでも長く隠せるようにハッキングして情報を壊しておいて」
「わかりました」
「でも、時間の問題だ。直接注意を促した方が早い」
僕はリビングのソファに座れば、常備してあるマシュマロに手を伸ばした。
素早く判断すると指示を出して、正一はそれに返事をするなりパソコンへと向かった。
スパナが隣へ座っていつものように自作の飴を舐めながら言われた言葉に、僕は苦笑を浮かべるしかなかった。
「それを考えて会ってきたんだけどね。見事に玉砕だよ、仕方ないから…明日、綱吉クンに会って伝えてきてくれる?」
「まぁ、あんなことして信じろと言われてもな」
「だよね」
スパナは僕の言ったことに頷いて、正一のことが気になるのか立ちあがると背中を見守っていた。
僕の壮大な計画を実行するかはまだ、決めていない。
このまま、奴らを食い止められれば必要ないことだ。
けれど、強行突破で来ようものなら考えがある。
でも、まだ協力者が足りない。そのためにも僕はあのペットショップに通わなくてはならないんだ。
「ふぅ…」
俺はため息を吐いた。
寝静まった部屋を眺めて俺は二階へとあがる。
結局山本を庇ったらしい獄寺が一番の重症だったのだが全部が打撲で済んでいるだけましだった。
ディーノも必死で組あっている二人を引きはがして連れ帰ってきたのだという。
驚いたが大したことなくてよかったと思う。
ふぁと欠伸をして向かうのはリボーンの部屋。
あれ以来なんだか一人で寝るのが怖くなってしまい、寝るときだけリボーンの部屋だ。
ノックをして入ればいつものようにパジャマにナイトキャップ姿で本を読んでいる
隣に入りこんでリボーンを眺めた。
本は英字の羅列で、英語じゃないことが分かればどこかの言葉なのだろう。
「あのさ」
「ん?」
「なんでリボーンはナイトキャップかぶってるの?」
「寝るときに欠かさないからだ」
「いつも帽子じゃないか」
いつも疑問に思っていたがリボーンは帽子をとらない、風呂場ではとっているしきっと服を着替える時もとってる。
けれど、必ず俺がいない場所だ。
俺を避けているわけじゃなく、骸や山本、獄寺までみたことがないと聞いた。
ディーノにはまだ聞いてもないのだけど…。
「帽子とってよ」
「嫌だ、さっさと寝ろ」
リボーンの手が伸びてきて俺を枕に押し付ける。
苦しいともがけはすぐにその手は離れていったけれど、結局ナイトキャップをとることはなかった。
「はげるよ…?」
「はげねぇよ」
うとうととしてくる思考に身をゆだねながら言った一言もあっさりと蹴散らされて、リボーンは何を隠しているんだろう…と考えようとするのに頭はまとまらないまま、俺は眠りに落ちていった。
完全に眠った気配を知って、安堵する。
「ったく、もう少し天然かと思ったんだがな」
静かに眠る綱吉を見てふっと視線が和らぐ、バレてはいけないと思うのに早く自分に気づいてほしいと思う。
自分の中に浮かぶ矛盾にどうしようもなくなる。
パタンと本を閉じて、自分も寝ようと布団をひきあげた。
綱吉が寒くないようにと肩までしっかりとかけてやる。
こんな風に近くにいれるなんて思わなかった、最初こそ警戒されるかと思ったがそんなそぶりもなく自分の隣で最近はずっと眠っている。
俺は起きないのを確認して、ぺろりと頬を舐めた。
愛しい気持ちは、あの時からずっと…。
目を閉じていれば誰かが部屋を出た気配を知る。
また厄介事が増える予感に、最近は退屈しないなと笑みを浮かべた。